筆記



【シンイ二次】雨2

「ゆえに」

王と王妃の前に立つチェ・ヨンの眼差しは、強い光が宿っていた。
チェ尚宮は意外な思いでそれを見ていた。
医仙を連れずに戻った甥がどれほどの失意の底にいるか、
鳩尾に鉛の塊を飲み込んだような重さを感じながら、報告の場に馳せ参じたからだ。

「医仙が天穴に逃れたのは確かでしょう。徳成府院君は天穴の前で、
己の内功で凍てつきこと切れておりました。
その死に際の面相、様相から天穴に入った医仙を追おうとして、
そこで力尽きたと思われます」

王と王妃が医仙が死んだわけではない、
という報告にわずかに緊張をほどき、目配せを交わす。
それでも硬い面持ちを崩さず、王が尋ねた。

「して、医仙はなぜ戻らぬ」

チェ・ヨンは眼差しを伏せたが、すぐにまた上げると言葉を続けた。

「戻らぬのではなく、戻れぬのだと」

王妃が思わず手で口を覆った。
「息を吹き返したとき、私の手の下にこのようなものがありました」
チェ・ヨンは苔むした薬瓶を王に手渡した。
これは、と王が目顔で聞く。

「以前、私に同じような瓶をくださりました。薬です。
その瓶の中にも薬が入っておりました。
土に半ば埋もれ、ずいぶんと時を経たもののように見受けられます」

視線が何もないどこかを見据え、ひたと止まる。
息を止め、しばらくしてはぁ、と吐き、言葉を吐き出す。

「あの方が…置いたのです。氷功をうけた私が使えるようにと」

王が合点がいかぬ、というふうに首をかしげる。
「しかしそなたは先ほど、医仙はそなたが気を失いかけたときに
キ・チョルに攫われていったと言ったではないか」
チェ・ヨンがどう説明したらいいか、と迷うにように頭をふる。

「なんと申し上げたらよいか。
医仙の言葉を借りれば、『昨日の世界』とでも言うのでしょうか。
私たちの親の親の親の親の時代。
そこに医仙はいるのだと、そして倒れた私がいつかこれを使えるようにと、
置いたのだと考えています」

「医仙が天穴を通って昔に行ってしまった、と言うのか」
王妃が思わずに口走る。
「そうです。医仙は薬瓶を一つしか持ってはいなかった。
このもう一つの薬瓶は、医仙が天界、いや『明日の世界』に一度戻った証でしょう。
薬を持って、医仙は…あの方は、引き返した」
チェ・ヨンは緩く目をつむる。
唇の上に微かに喜びが走ったのは気のせいか。

「けれど天穴はあの方を別の時に送った。そしていまもあの方は別の時にいる」

言葉の最後が、微かに震えた。



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by kkkaaat | 2013-09-28 22:01 | 雨【シンイ二次】 | Comments(2)
Commented by 九条友 at 2013-10-01 14:38 x
あああ~~~!!
ヨンの気持ちを考えると切なくなります・・・。

「もう忘れなくてもよいから」と思った矢先の出来事ですよね。
早く戻ってほしいです~
Commented by ミチ at 2013-10-01 17:03 x
>九条さん
本当にどれほどがっくりきているか。
ただウンスの自分を思う気持ちを慮って、あえて気丈にするんじゃないかな、と思いました。
このあと4年と思うと、ドラマの最後の笑顔にしみじみとよかったね〜という気持ちになります。
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