筆記



【シンイ二次】明日の風5

宿の横で馬を降りてつなぐと、もうウンスの声が聞こえてきた。
チュンソクはすぐに聞き分けて、笑みを浮かべると、チェ・ヨンの顔を見る。
うなずくと、そわそわと入り口に足を向けた。

宿の正面に回ると、向かいの飯屋にウンスの姿があった。
歩み寄ろうとして、チェ・ヨンがチュンソクの肩に手をかけて、止める。
ウンスは飯屋の長椅子に子どもを横たわらせ、胸を打診している。
あれだけ目立つことをするなと言っておいたのに、とつぶやくと、
チュンソクが心配そうに、チェ・ヨンとウンスを交互に見た。

「しかし」
チュンソクが、小さく指をさす。
「以前お持ちになられていた、あの天の道具はお使いではないようですね」

ウンスの横に広げられた布包みの中には、チェ・ヨンでも見慣れたものばかりだった。
そのまま眺めていると、母親に子の病状を説明しているが、あの素っ頓狂な
天界の言葉も口にせず、渡した薬もよく見る漢方であった。
安心はしたが、この一年の苦労がうかがえるようでもあり、
チェ・ヨンはじっと動かず見ていた。

そのとき、診察を終えたウンスが目を上げた。
喜ぶだろうと思っていたのに、表情を変えず、また手元に目を戻してしまう。
チェ・ヨンとチュンソクは少しばかり拍子抜けしたが、
そのままウンスのもとへ、歩み寄った。
ウンスの側に立って、声をかけようとしたその時、ウンスが下を向いたまま言った。

「うそつきっ」

チェ・ヨンの目が驚きで丸く見開かれる。
チェ・ヨンと並んで、にこにこと笑いながら近づいてきたチュンソクの目も、
これ以上ないほど丸くなった。
チュンソクが何か言いかけたがそれをさえぎってチェ・ヨンが前に出る。

「嘘つきとはなにごとですか!」

再会してからは声を荒げたことのなかったチェ・ヨンだが、
聞き捨てならないことを言われ、戸惑いで声が大きくなる。

「嘘つきじゃなかったら…大嘘つきの、えーと、大馬鹿野郎!」

ウンスは、怒りをあおるように言って、べーと舌を出す。
あっけにとられている男二人を置いて、広げていた包みをさっさと片付けると、
傷を手当てしていた飯屋の主人に声をかけて、さっさと宿屋の中に戻っていく。
ウンスが宿の階段を上がりだしてようやく、棒切れのように突っ立っていたチェ・ヨンが、
階段へ近づき数段を一跳びでまたいで、ウンスの腕をつかんだ。

「なぜそんなことを言われるか」
「だってあなた、本当のことを言わなかったでしょ」
「嘘など申した覚えはない!」

階段の途中で言い合う二人を、チュンソクはうろたえて見ている。

「危ないこと、しなかったって言ってたじゃないの!」

何のことかわからず、チェ・ヨンは戸惑いながら返答する。

「危ないことなど、しておりません」
「いーえ、聞いたわよ!」

ウンスはつかまれていない方の手で拳を握り、チェ・ヨンの腕を何度も叩くが、
チェ・ヨンは蚊にさされたほども意に介さない。
ぐい、と腕をつかまれたまま、ウンスは声をはりあげる。

「戦場で取り囲まれて、兵があなたに群がったそうじゃないの。
先頭でつっこんだんですってね。それのどこが危なくないっていうのよ」

ウンスの言う嘘つきの意味がわかったのか、
チェ・ヨンの顔から潮が引くように、怒りの色が薄れた。

「そういうの危ないって言うの! 飽きれちゃうわ!」
「嘘は、ついておりません」

チェ・ヨンはウンスの言うのを聞いて、落ち着いた口調で言った。

「なによ、 嘘つき! サイコ!」

久しぶりに聞くその呼び名に、チェ・ヨンは思わず笑いかけて、顔を引き締める。
ああ、もう、とつぶやくと、そのままウンスが振り回すもう一方の腕も、
素早くつかんで動けなくして、チェ・ヨンは顔を覗きこみながら、
言い聞かせるように言った。

「だから、嘘をついてはおりませぬ。勝ちの目があったから戦ったまでのこと。
声望雷名のために命を捨てるようなこと、いっさいしておりません」

身体を揺すって逃げようとしてたウンスは、しばらくすると諦めたように動きを止めた。

「もう、そういうのが、いやなのよね」

ウンスは階段にそのままへたりこむ。
はあ、とため息をついて、上目遣いにチェ・ヨンを睨む。
腕をつかんだまま、チェ・ヨンもしゃがんだ。

「そういう、命がけが当然みたいなの慣れられないの。
っていうか慣れたくないし!」

チェ・ヨンは何も言わず、黙ってウンスの顔を見ていた。

「もう、ね、しかたがないのはわかる、わかるけど。
でもね、だからって私諦めないわよ!
人間の命は地球よりも重く尊い! これ、高麗で広めてやろうかしら」

手をつかんだまま、チェ・ヨンは言う。

「慣れていただかなくてよいのです」

慣れていただかなくてよいのです、と繰り返して、
文句を言い続けるウンスを思わずに抱き寄せようとして、
チェ・ヨンは階段の下に呆然とたたずむチュンソクに気づいた。
咳払いをしてウンスの手を離すと、立ち上がる。

「チュンソクがあなたに会いたいと。連れてまいりました」

チェ・ヨンから少し身体をずらして、階段の下に立つチュンソクの姿を見ると、
ウンスの顔がぱっと明るくなった。
駆け下りて、チュンソクの前に立つ。

「おなつかしゅうございます…」

搾り出すように、チュンソクが頭を下げる。
そして、顔を上げると言葉を続けた。

「お姿を見たときは男泣きしてしまいそうで困っておりましたが、
今ので涙も引っこみました」

お変わりないのですね、そう言いながら、チュンソクの声も顔も泣き笑いのようだった。
ウンスはばつが悪そうに肩をすくめながら、小さく鼻をすすりあげた。




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by kkkaaat | 2013-10-10 12:55 | 明日の風【シンイ二次】 | Comments(6)
Commented by 比古那 at 2013-10-10 22:28 x
「大嘘つきの…えーっと」
変なツボをつかれた気分です(笑)

考えちゃいましたね。怒り心頭で言葉にならないくらい腹をたててるのはよーく伝わりました。

そしてチュンソクはまたまたいいとこに居る。鬼が人に戻るところをよく目撃する人だ。羨ましいような、気の毒なような。

次が待ち遠しいです。
Commented by くまみや at 2013-10-10 22:51 x
そうだ そうだぁ~
もっと怒れ~ウンス!
テジャン 自信あるみたいだけど、結構 傷残ってるんだから。麗しい御顔が傷だらけは、困ります。
Commented by kkkaaat at 2013-10-11 17:04
>比古那さん
変あなツボ、すみません(笑)
ウンスは文章にするの、とても難しいですね。あのなんともいえない可愛らしさと度胸とあけっぴろげさが。
ウンスはチェ・ヨンの行動を受け容れたいと思ってると思うんですが、でもやはりすぐには納得できないのかな、と想像してます。

チュンソクは、そういう役回りですよね(笑)
本人的には、あまり目撃したくないと思ってそうですけどw

続き、今日にもアップする予定だったのですが、昨日から突然のPC不調で困ってます。明日着で新しいPCを注文したので、セッティングして、早くアップできればなあ、と思ってます。
Commented by kkkaaat at 2013-10-11 17:07
>くまみやさん
ウンス応援、ありがとうございます(笑)
ウンスは一生心配しどおしでしょうね〜。
ヨンはもう、戦うの普通、先頭に立つの普通、という人でしょうから、困ったもんです。イケメンだという自覚もなさそうですよね!!
Commented by めらこ at 2013-10-16 19:56 x
「私は心配すると怒るの」ってドラマでも言ってましたよね。

気のきく男になったとおもったけど、
チュソクのお邪魔虫・・・いやいや間の悪いのはやっぱり健在なんですね(笑)
ドラマのまんまで これまたすご~い!!
Commented by kkkaaat at 2013-10-18 00:10
>めらこさん
ウンス、率直ですよね。最後の方は体調のこともあって、だいぶ口をつぐむことを覚えた
みたいですけど、基本口から生まれたタイプの女性かと。
チュンソクは、「テージャン?」のあと二人がいい感じになったときに「テジャン!」と入ってきたインパクトがもう頭から抜けません(笑)
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二次小説。いまのところシンイとか。
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