筆記



【シンイ二次】星天の屋根1

天穴の地で再会のあと、都へと出立したチェ・ヨンとウンス、九名の兵の、
開京までの旅の情景の短めの話です。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「なにしてるの?」

ウンスは、二頭の馬の後ろ足を細綱で結び合わせている
テマンの横に腰をかがめて、手元を覗きこんだ。

「馬の脚を結んでいるんです」

テマンがそのままを答えると、ウンスは軽く肩を指でつつく。

「それは見ればわかるわよ、なぜ、結んでるか聞いたの」

テマンは、ああ、と合点がいった顔をしてもう一度答えた。

「こうして結んでおくと、う、馬が逃げないんです」

木につなげばいいんじゃないの? とウンスが不思議そうに言うと、
テマンはどう説明すればと頭をかき回しながら言葉を続けた。

「つないじまうと、ちょっとしか草を食えないでしょう。
は、腹がへっちまう。こうして二頭ずつ後ろ脚をつないでおけば、
少しずつ動きまわって、草は食えるけど、遠くまでは逃げられない。
わ、わかりますか?」

ウンスはなるほど、とうなずいた。

「雄同士だと喧嘩してしまいますから、こうして雄と雌をつないでやるんです」

医仙のは牝馬ですからチュモの馬とつないでおきましょう、とテマンが言うと、
急にチェ・ヨンがこちらを向いて、つかつかと歩み寄るやウンスの馬の手綱を
むんずと掴む。
それから無言のまま、自分の馬のところまで引いていくと、
しゃがんで素早く馬同士の脚をつないでしまった。

それから立ち上がって、ウンスの方を向き直ると、
ウンスは今度はソクチェのところに言って何やら話しかけている。
と思うと、え! と驚いた声がした。
いっせいに皆が振り向く。

「ここ? ここに泊まるの? ほんとに? ここに? 
歩いてここから移動するんじゃなくて?」

ウンスが驚くのは無理もない。
小さな山の中腹で、平らかな場所などひとつもない。
あまり樹勢のよくない木がのそりと集まって生えている中を、
獣道めいた申し訳程度の道が通っているだけの場所だ。
ソクチェは、眉を八の字に曲げて、心底すまなそうにウンスに詫びている。

この中郎将のオ・ソクチェという男、武官というよりは文官のように見える
やや頼りなげな外見で、その見た目の通り、武術は得手としなかった。
ただ目端がきいて策に詳しく戦いの風向きが読める。
もともとは鷹揚軍にいたのを、進軍にあたってアン・ジェが
チェ・ヨンの下につけたのだ。
医仙をこのような場所で眠らせることに困りきっているソクチェの側に、
チェ・ヨンが歩み寄って助け舟を出す。

「しかたがありません、明日には屋根の下で眠れるようにいたします」

明日も宿場のある町にはたどり着くことは難しいが、
人家のある場所を通るので、そこで一夜の寝床を乞うことはできるだろう。
道を急ぎたいのはやまやまだが、できる限りは壁と屋根のある場所に
ウンスの寝床を取るつもりで、道を決めた。
ただ、どうしても二日か三日は、野天で過ごすしかできない。

「こらえてください」

チェ・ヨンが言うと、別に嫌って言ってるわけじゃないわよ、大丈夫大丈夫
と言いながらもう興味は次に移っている。
危なっかしく斜面を歩きながらウンスは、
ねえ、テントじゃなくてええと天幕とか寝袋みたいなものはあるの? 
と水を汲みに行こうとしているテマンとチュモをつかまえて尋ねている。

水と聞いて、川に行くの? なら私も行きたい、
というのを邪魔になるからとチェ・ヨンが引き止めると、
邪魔なんかしないとむくれたが、皆野営の準備で忙しく、
ちらちらと様子をうかがうものの、ほおっておかれていた。





ご飯これだけなの、という言葉を、ウンスはやっとのことで飲みこんだ。
今日は出発したばかりなので、兵営で持たせてくれた饅頭や
塩辛く味付けした肉に菓子もある。
それでもこの倍はほしい、とウンスは思わずにいられなかった。

「あの、よろしかったらこれを…」

ソクチェが何を察したのか、自分の分からウンスに菓子を差し出したが、
さすがにそれは受け取れず、大丈夫よ、お腹いっぱいだから、
と空元気で答えた。

「宿が取れるときは、食事も腹いっぱい出してもらうようにしますから、
こらえてください」

こらえてください、こらえてください、ってさっきから私が不満だらけみたいだわ、
とウンスはチェ・ヨンを軽く睨みつけた。
口に出さないようにしているのに、周囲には筒抜けで情けない。
自分ばかりが不満を持っているようで、なんとなく居心地が悪くて、
もじもじと座り直した。

斜めに傾いた場所で足をつっかえ棒にして身体を支えるのは、
どうにも落ち着かず、休まらない。
同道の兵たちが、それぞれ思い思いの木や岩や地面の瘤をこれと定めて、
寄りかかったり、そこに尻をはめ込んだりして、
のんびりと過ごしているのを恨めしそうに眺めた。

これじゃあ私、役立たずの足でまといみたいだわ、と考えて、
その通りじゃないの、とウンスは我に返って大きなため息をつく。

「医仙、お疲れですか」

木の股に猿か猫のように身体を収めて居心地よさそうにしていたテマンが、
目ざとく見つけて、飛び降りてきた。

「ううん、そうなじゃいの。ただ、私、足でまといだな、って思って。
苦労かけるわね」

そう言うと、九人の兵がいっせいに首をふって、そんなことはない、
お気にめさるな、それが我らがつとめ、足でまといなどでは断じてありません、
と口々に言い募って、その真剣な様子にウンスは思わず微笑んだ。

「医仙さま」

わかったわ、わかったから、とウンスが皆を押しとどめていると、
いつもは寡黙なチュモが急に話し出す。

「あのう、それなら一つお願いしてもよろしいでしょうか」

なあに? とウンスが問い返す。
何を言い出すのかと、チェ・ヨンも寄りかかっていた木から
身体を起こしてうかがった。

「医仙さまがウダルチにいらしたときに、語ってくださったお話なのですが」

お話? ウンスは首をかしげる。

「春香という娘が出てくる…」

ああ! とウンスが声をあげ、パチンと手を叩いた。
迂達赤隊(ウダルチ)の兵舎にいたころ、現代で見たテレビドラマの話を
してあげると、皆たいそう喜んだものだった。

「あのように面白い話は聞いたことがございませんでした。
もしよろしければ、また何か面白いのを一つお聞かせ願えませんでしょうか」

それはいい、ぜひ聞かせていただきたい、と九人は口々に言う。
チェ・ヨンを見ると、かまわぬ、というように口の端を上げていた。
いや、意外にもこの人も聞きたいのかもしれない、とウンスは笑む。


「わかったわ、じゃあどの話にしようかしら…」





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by kkkaaat | 2013-10-17 20:35 | 星天の屋根【シンイ二次】 | Comments(15)
Commented by 比古那 at 2013-10-17 21:02 x
これは続きますよね?
1って書いてあるから続きますよね?

いひひ~、楽しみ~。

お待ちしてます♪
Commented at 2013-10-17 21:30 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2013-10-17 22:24 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by yu-yu at 2013-10-17 22:45 x
ウンスの馬と自分の馬の足を結ぶヨン…可愛すぎますね(笑)
なんだろう…知らない兵もいるのに勝手に想像して情景が浮かびます。
文章にない焚き火まで見えますよ(笑)
ウンスがどんな話をするのか楽しみです。
Commented by グリーン at 2013-10-17 23:13 x
小さな山の中腹で・・・情景が目に浮かいます。
この時代に少しは慣れたとはいえ、この状況はウンスにはきついでしょうね。

9人の兵士に乞われてする春香のお話。
どんな話が聞けるのか、ほかならぬヨンが期待してそう。

開京までの道のりのお話。楽しみです。
Commented by くまみや at 2013-10-18 00:22 x
待ってましたぁ~
嬉しいです。新作
ヨンの 馬がらみの 嫉妬…笑えます。
結ばれたばかりですからね!ふたりも。
ウンスの、人を惹きつける魅力は凄いですね~(^m^)
ヨンが 次はどんな嫉妬を するか楽しみです。
Commented by kkkaaat at 2013-10-18 19:15
>比古那さん
その通りです! 1とあれば次は2が来なけりゃ!
まあ2か3で終わりですが(笑)
続き楽しみにしてくださって嬉しいです〜♪
Commented by kkkaaat at 2013-10-18 19:21
>鍵コメさん
はじめまして!楽しみにしてくださって、とても嬉しいです。
明日の風もお読みいただき、ありがとうございます!
ほんと、ドラマが終わって私はぽっかり穴があいたような気持ちになりました。そしてまずしたのが、「シンイ 二次」で検索でした(笑)
結局自分で書くところまで突っ走ってしまってますが、また二人に出会っていただけるよう、がんばりますね。
Commented by kkkaaat at 2013-10-18 19:30
>鍵コメさん
ウンスらしいと言っていただけると、本当に嬉しいというか、ほっとします。書いていると、私はヨンの気持ちでウンスを見ているらしくただひたすらに可愛くなってしまって、これはドラマのウンスではないっorz となることも多くて(-。-;
馬、大好きなんですよね。最近はもうぜんぜん乗ってませんが、昔に馬に乗って旅をしたことがあって、そのことを思い出して書いてます。
短いお話なので、できるだけ早くお見せできるように心がけますね。読んでくださって本当にありがとうございます。
Commented by kkkaaat at 2013-10-18 19:48
>yu-yuさん
焚き火たいてます(笑)
知らない兵も想像できると言っていただけてすごく喜んでます!
私はドラマに出ていない人物を描くのが不得意で、うまく肉付けできないと悩むというか、困りながら書いているので。
オ・ソクチェやチュモのように、1シーンでいいので出てきてくれれば、いくらでも妄想できるんですけどね(笑)
Commented by ちび at 2013-10-19 00:12 x
馬の話によく調べて~と、感心して読んでましたが、馬さんとは、お友達だったのですね。(納得)                              野営の状況も本当にリアルで、これも体験済み?なんて思ったり。   _                                          素晴らしいお話、又読める事に感謝です(^_-)-☆ 
Commented by kkkaaat at 2013-10-19 00:14
>グリーンさん
一年一人で過ごしたとはいえ、やはり慣れないものは慣れないでしょうね。
過去でも人家でお世話になっていたようですし。
このメンバーで字が読めるのはヨンとオ・ソクチェ、もし出自がよければ若い兵とチュモが少し読める程度でしょうから、物語は本当に娯楽だと思います。ウンス盛り上げ上手っぽいですしね(笑)
あと一話、続きますので、よろしければお付き合いくださいませ。
Commented by kkkaaat at 2013-10-19 00:20
>くまみやさん
待ってました、なんて言っていただけると調子に乗ります(笑)
>結ばれたばかりですからね!ふたりも。
誰がうまいことを言えと。噴き出しました(笑)
ウンスはドラマでも于達赤隊で大人気でしたもんね。
ヨンは独占欲を満たすためにはかなり手間暇惜しまない男ですよね!? ドラマでこまめに若手からウンスを引き離していて、ちょっと笑えました。これからはさらにヒートアップしそうな…。
Commented by kkkaaat at 2013-10-19 00:27
>ちびさん
馬と友達というより、しょうがないから乗せてやるか、的なお付き合いでした(笑)
馬の方が私よりはるかに強く賢く…!
馬旅のときはまさに野営でしたが、さすがにこれほどきつくはなく。
でもそんな体験が二次書きに役立つとは人生無駄なことはないと、実感しました!
こちらこそ、また読んでいただいて、本当にありがとうございます。
Commented by グリーン at 2014-01-21 15:58 x
皆さんも書かれていますがヨンの独占欲。
微笑ましいというか馬の足をつなぐ、こんな事にさえと思いますが
4年待ってようやく再会して初めてウンスを抱いた翌日ですもの。
ヨンのウンスに対する想いの深さがどれほどのものなのかこんな小さなことで分かりますね。
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