筆記



【シンイ二次】星天の屋根2

ウンスは、少々困惑していた。

あまり感情を表に出さない印象だったチュモが目の前で、
涙で頬が全部濡れるほど泣きながら、ウンスを恐ろしい形相で睨みつけている。
いや、睨みつけているのではなく、ただありえぬほど真剣に
話を聞いているのだとわかってはいたが、ウンスは目をそらしていた。

テマンもまた目を涙でいっぱいにして、キラキラと輝く瞳で
樹の上からこっちをじっと見つめている。
年嵩の二人の徴用兵は、さっきから鼻水を盛大にすすりあげているし、
ソクチェは途中からうつむいたまま顔を上げない。
ウダルチの若手二人のうち一人は、うう、うう、と絶えず小さな声を出しているし、
もう一人は木の陰に隠れて明らかに泣いていた。

チェ・ヨンはというと、話の途中からこちらに背を向けて寝転んでしまい、
一度もこちらを見ない。

むくつけき男十人が、目の前で悲嘆にくれているという光景は、
どうにも異様で、ウンスはこのまま話を続けていいものか、先程から迷っていた。
時折挟まれる合いの手というか、質問から推測するに、彼らはどうやら
フィクションとファンタジーの区別をしていないようだった。
本当にあった話として、ウンスの物語りに夢中になっている。

「それで、医仙さま、その女人はどうなるのですか!
まさかそいつを物陰から見るだけ見て、出立してしまうのではないでしょうな!」

口篭っていると、チュモが片膝を立てて今にもこちらに飛びかかってきそうな様子で
詰め寄るように先をうながす。

「え、ええ。じゃあ続けるわね」

ウンスがまた口を開くと、男たちがぐっと身を乗り出す。
怯えたような苦笑いを浮かべながら、ウンスは続けた。

「するとその隊長は降りてきて、娘をかき抱くの。
それから言うのよ」

ごくんと、唾をのむ音が聞こえそうだ。

「サランヘヨ…」

ウンスが情感たっぷりにそう言うと、男たちから、おお、と声が上がる。
しかしながら、なんとはなしに反応が悪い。
男たちはちらりちらりと周りの者の顔をうかがっている。

「で、そのサランヘヨというのはいかなる意味で」

徴用兵が尋ねると、他の者も、そうです、いかなる言葉ですか、と身を乗り出す。
ウンスはこくりと頷くと言う。

「言葉にできぬほど相手を想い、そばにいてもなお恋しい、
そういう気持ちを伝えるとき、天界ではサランヘヨ(愛しています)と言うのよ」

おおおお、とひときわ大きな歓声があがり、男たちは手を打ったり、
肩を叩き合ったりして喜んでいる。
チェ・ヨンまで起き上がってくるりとこちらを向くと、あぐらをかき、
一人何度かうなずいている。
やっぱり聞いているんじゃない、とウンスは肩をすくめた。

それからひとくさり話を語り終えると、兵たちは興奮冷めやらぬ様子で、
なかなか寝ようとはしなかった。
娘に懸想していて旅芸人とねんごろになったほうが娘は幸せになれたのじゃないか、
わしの娘ならそうさせたい、と力説する者やら、
女人が男装してそんなに化かせるものであろうか、俺なら決して騙されん、
と息巻く者やら、たいそう盛り上がっていた。

しかし夜も更けて、チェ・ヨンが休めと一声かけると、若い兵が不寝番に立ち、
残りはそれぞれに茂みやら樹上やらにこしらえていた筵を広げただけの寝床に
散っていった。





山ではまだ、根雪も消えぬ季節だ。
火を消すとあたりは急速に冷えてくる。

比較的大きな木の盛り上がった根の間に、うまく寝床を取ったチェ・ヨンの傍らで、
ウンスは心持ち平らかな場所と判断したところに筵を引き、
自分にだけ用意された綿入れをかぶって横になった。

新月の晩の山の中は、目を開けても閉じてもあまり変わらぬほど暗く、
上を見ると、まばらな葉を透かして、痛いような鋭い光で星がまたたいている。
丸まって、綿入れでつま先までをすっぽりくるんで、目だけを外に出して温まろうとするが、
冷えた地面に熱を吸い取られてうまくいかなかった。

はあ、と息を吐くと、薄白い息が暗闇の中に散り消える。
傾いた地面になんだか気分まで悪くなりそうだった。

「こちらへ」

チェ・ヨンの方から小さな声がして、何と思う間もなく、筵がずるりと引っ張られる。
慌てて身体を起こそうとして転がりそうになるのを、力強い腕が腰に回り抱きとめられた。

そのまま持ち上げられて、大きな身体の上に乗せられる。
手をつくと、覚えのある胸板だ。
チェ・ヨンの腹の上に腰掛けているようだと気づいて、ウンスはすぐに降りようとした。

「そのまま」

寒いのでしょう、俺の身体を寝床にお休みください、とささやかれる。
でも、重いわ、と身体をかがめて、顔のあたりでささやきかえすと、
軽くて何も感じませぬ、とチェ・ヨンはウンスの首の後ろに手をかけて、
そのまま自分の胸にウンスの顔を引き寄せた。

逆らわずに胸に頬を押し当てると、チェ・ヨンは自分の脚を使って、
ひょいとウンスの脚を自分腿のあたりに乗せてしまった。
冷たい地面と違って、チェ・ヨンの身体は温かく柔らかく、ウンスはほう、とため息が出る。
チェ・ヨンは手探りで綿入れを見つけると、自分とウンスの上にふわりとかけて、
ウンスを包みこむ。

それから、少しだけ頭を起こすと、ウンスに言った。

「あと少しだけ上に」

ウンスが上にずりあがるとまた、もう少し、と言う。
ウンスが、このくらい?と尋ねると、そうです、と満足そうに言って、
唇をゆっくりと寄せる。
ウンスの唇は冷たくなっていたが、チェ・ヨンの唇は温かく、
合わせるうちにすぐに温まる。

何度か重ねて、チェ・ヨンは弄うように食んだりもしたが、名残惜しげに離すと、
ふう、と息をつき、このくらいで、とウンスにか自分にかつぶやいた。

それから、ウンスの寝やすいよう、もう一度自分の胸にウンスの頭を乗せて、
腕で囲むように抱きこんだ。
チェ・ヨンの心臓の鼓動が耳に響いて、ウンスはたちまち瞼が重くなる。

自分に回された腕が緩むことなく、ゆっくりと力だけが抜けていくのに微笑みながら、
ウンスは眠りに落ちた。




にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村
by kkkaaat | 2013-10-19 00:01 | 星天の屋根【シンイ二次】 | Comments(19)
Commented by くまみや at 2013-10-19 00:42 x
なんか 大人のお伽噺のようで、ベッドに入ってから読むと、穏やかに良く眠れそうです(笑)
すてきなお伽噺ありがとうございます。
Commented by yu-yu at 2013-10-19 00:47 x
あっ!一番乗りです!
前半と後半が対照的で、2話分読んだ気がします(笑)
特に後半はなんていうか…ヨンが…(照)
紳士的な優しさでしょうが、愛しさがだだ漏れですね。
大丈夫かな?周りの仲間に気付かれてないのかな(笑)

Commented at 2013-10-19 01:21 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 比古那 at 2013-10-19 01:37 x
睨むとは何事?読み飛ばしたかしら、と思えば真剣な顔の皆様。

集中してたんですね。

ヒソンさんのデビュー作品なんでしたっけ?
こうなると見てみたくなります。

さて、なんと大人な甘味でしょう。
お酒の入ったチョコレートのよう。

心臓の音、落ち着いたんでしょうね。

明日の朝、息を飲むのは誰なんでしょう♪

大護軍が先に起きるかなとも思いながら、好きな香りと温かさに包まれた二人が起きられるのか?と心配。

続きが楽しみです。
Commented by itukichikal at 2013-10-19 03:22 x
皆、純粋何ですね!きっとヨンも後ろ姿だったのは泣き顔を見せないため?なんて。

良いですね♪そんな固くて冷たい地面の上で寝るのになれてないのを分かっているので、自分の上に乗せるなんて。しかもキス出来る位置までウンスに動かせるなんてヨンったら~。廻りに近衛の仲間がいるのに何度もキスしちゃうなんて今までの隊長から信じられませんよね!手を握ったことも信じられないって言ってたくらいですから。実は皆はタヌキ寝入りしてバレてたりして。続きを楽しみにしています。
Commented by ちび at 2013-10-19 11:46 x
二人の様子が、頭から離れません。本当に素敵なヨンです。         映像がなくても、こちらのお話の中のヨン。ミンホ君以上の男に私の中では、変わっています。                                                                        小説の良さは、想像出来る事ですね~。満足です。(^◇^)        
Commented by グリーン at 2013-10-19 11:55 x
前半のウンスの話を聞いていないふりをして聞いているヨンに笑えました。ヨンはどう思って聞いていたのでしょうね。
ヨンの肉布団で眠るウンスはどんな夢を見るのかしら。
ヨンはもう部下達にウンスのことは堂々と見せつけるかのようにしていますね。
夜が明けてからの部下たちの反応が見ものです。

しみじみ思ったのですが、ネットでこのような素晴らしい小説が読めるのが凄く贅沢で幸せなことだと。。。

私、時代小説好きなんですよ。藤沢周平、最近ですと佐伯泰英氏の居眠り磐音シリーズは大好きで今までに発刊された全シリーズ持っています。
韓国の時代物はドラマでしか見たことはありませんがどれもシンイほど夢中にはなりませんでした。

ミチさんが描かれるこの物語、ドラマのシンイとは別の新たな物語としても楽しめますし、素晴らしいと思います。
これからがすごく楽しみです。
Commented by kkkaaat at 2013-10-20 01:15

>くまみやさん
昨晩はよく眠れましたでしょうか(笑)
ヨンの胸の上でなんかドキドキして逆に目が冴えちゃいそうですが、
さすがに一日馬上で揺られて疲労困憊だったでしょうから、
すぐに寝てしまったでしょうね。
こちらこそ、読んでいただきありがとうございます。
Commented by kkkaaat at 2013-10-20 01:19

>yu-yuさん
更新直後に読んでいただき、ありがとうございます!
ヨン…ね~(笑)
ドラマでも、いやもうちょっとさすがに隠してよ、という行動多かったですよね? 
冷静な顔で照れもせず、しれっとやってくれる男です。
皆の前で手をつないで連れていくシーン多すぎでした。
あ、たぶん、大丈夫じゃないです(笑)
Commented by kkkaaat at 2013-10-20 01:26
>鍵コメさん
こちらこそ、お読みいただきありがとうございます。
ドラマ見てどはまりする私たちと、話を聞いて本気にする兵たち、同レベルっぽいですよね(笑)
ドラマで二人で旅をするシーンいくつかありましたが、どれも心配事が多くて、幸せなシーンは少なめでしたね。ヨンが寄りかかって寝ちゃうシーンとか、もっといっぱい見たかったですよね~!
満足していただけたなら、書いた甲斐があります、嬉しいです。
Commented by kkkaaat at 2013-10-20 01:37
>比古那さん
集中しすぎですよね、チュモ怖い(笑)

大人な甘味、わあ~、すごく嬉しい言葉です。
甘いの書きたいのですが、あんまりべたべたさせるのも
照れくさく。ああでもたくさんベタベタさせたい(笑)

心臓の音、再度抱き寄せてすぐは早く打っていたのが、
徐々にゆっくりになっていったんだと思います。
ヨンにとってもよい入眠剤かと。

明日の朝、どうなるんでしょうか。
続き、あと一話お付き合いくださると嬉しいです。
Commented by kkkaaat at 2013-10-20 10:56

>itukichikalさん
ヨンもきっと顔を見られたくなくて、後ろを向いていたに違いないです。
意外と涙もろい!?

自制心も強そうですが、そうなったらなったで、もうあまり周囲とか気にしないタイプにみえます、ヨン。もう一回テジャンと呼んでください、とか言ってて、あまり照れとかないタイプ?? と思いました。
何事も正面突破ですよね(笑)
周囲は、まあ、まだ寝てないですよね…(笑)
Commented by kkkaaat at 2013-10-20 11:01
>ちびさん
素敵なヨンと言っていただけ、とても嬉しいです。
だって、ヨン、本当に素敵なんだもの~(笑)
ドラマあとの話なので、少しずつヨンもウンスも、ドラマとはまた違った、ドラマでは見えなかった部分を二次なりに描いていければなあ、と思ってます。
ほんと小説では自分の一番素敵な表情を当てはめて読んでいただけるので、それがいいところですよね!
Commented by kkkaaat at 2013-10-20 11:27
>グリーンさん
楽しみに読んでくださって、本当にありがとうございます!
ネットの小説は、私も本当に幸せだな~!! と実感してます。
どれも書き手さんの愛情というか情熱が伝わってきて、なんというか心がかきたてられるというか。やっぱ文は巧緻ではなく、愛だよね…! と思います。ネットの文章読むようになって、本買わなくなりました(笑)

ヨンは周囲の目とかほんと気にしませんよね。
無口な部分も必要がないから話さないだけで、必要なことはものすごくロマンチックなことも言うし、これは惚れますわ~。

私も時代小説は好きです! 池波正太郎が好きで、老後の楽しみにとってある鬼平以外は全部読みました(笑) 吉川英治も好きで、新平家とかは韓ドラの歴史ものとも通じる雰囲気があるような。
藤沢周平は数冊しか読んでいないのですが、「蝉しぐれ」はとてもよかったです。佐伯泰英は未読なので今度読んでみますね!
韓国の時代物小説はシンイの影響ですごく興味が出てきているので、何か読みたいんですよね。面白いのにあたったら、ご紹介しますので、グリーンさんも何か面白い本との出会いがあったら教えてくださいませ~。
Commented by グリーン at 2013-10-20 13:56 x
池波作品は読んでないんです。鬼平も剣客商売もドラマだけですが、とても好きです。吉川英治は十代の頃宮本武蔵を読んだきり読んでないです。佐伯泰英の「居眠り磐音」はおススメします。主人公の佐々木磐音は剣豪でイケメンです。陰謀で相思相愛の許婚の兄を斬り脱藩して江戸へ・・・面白いですよ。チェ・ヨンと通じるものがあります。夢中になりました。  熱く語ってしまいました。ごめんなさい。

ヨンは大胆ですね。眠ったとは言え、部下達がいるのに口づけするとは。夜の暗闇でも目は慣れていて見られているのじゃないでしょうか?
Commented by kkkaaat at 2013-10-20 23:29
>グリーンさん
ドラマも素敵ですよね~、剣客商売が一番好きです。「居眠り磐音」早速ポチリました。とても好みな匂いがしたので、むふふ!
熱く語っていただいてけっこうですよ! シンイをめぐって新しい本や楽しみと出会いたいなあ、と思ってます。

ヨンは大胆だと思います。というか、照れがないというか。部下の前でウンスに愛情を示すのにかなり躊躇ないですよね。率直すぎてこっちが照れます(笑)
新月の晩でも、意外とよく見えますよね…(/ω\*)
Commented by グリーン at 2014-01-04 13:58 x
>チェ・ヨンまで起き上がってくるりとこちらを向くと、あぐらをかき、
一人何度かうなずいている。

ここ好きなんです。ヨンが聞いてないようで聞いていてうなずいてるなんて想像しては一人笑っています。
天界語好きじゃないけどこの言葉だけは覚えているんですよねヨンは。

ヨンて本当に自分の気持ちに正直というか隠さないんですね。
惚れますね~
Commented by kkkaaat at 2014-01-04 22:50
>グリーンさん

他のコメントにもお返事したいのですが、まずはここだけでも、
と先にさせていただきますね。

なぜかと言うと、
>天界語好きじゃないけどこの言葉だけは覚えているんですよねヨンは。
ここ!
今コメント読んで、すごいほっとしてます。
伏線として書いておいたんですが、金銀花で、
――いつか星天の下で、話した物語の言葉を覚えていてくれたのだと、ウンスは胸がいっぱいになった、
みたいな一文を入れるか入れないか迷って、結局入れなくて、
後から「あー、でもやっぱり、なんでチェ・ヨンはこの言葉知ってるの?」
ってふと思う人いるよね…ってもやもやしてたんですよね(笑)

気づいてくださってる人がいるとわかって、一安心。
よかったよかった、本当にありがとうございます。

ね、こういうの、書き手は外に出したときから、どう思われても
諦めなきゃいけないんですが、やっぱりねえ、気にします(笑)
Commented by グリーン at 2014-01-05 00:38 x
ミチさん
ヨンて本当に真っすぐで誠実な男ですね。読めば読むほどチェ・ヨンと言う男に引かれます。

自分の精一杯の気持ちを込めて言った言葉「愛して、おります」
ヨンの気持ちを嬉しく受け止めて流すウンスの涙。

チェ・ヨンをウンスをここまで魅力的な人物に描かれるミチさんの手腕にただただ感嘆の声を上げるばかりです。
出会えて良かった!
<< 【シンイ二次】星天の屋根3 【シンイ二次】星天の屋根1 >>

二次小説。いまのところシンイとか。
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
最新の記事
カテゴリ
記事ランキング
最新のコメント
ミチさん、おはようござい..
by ミジャ at 08:01
ウンスノートから読んでし..
by 比古那 at 13:31
あー、やっとたどり着けま..
by 比古那 at 10:48
みちさん お元気でしょ..
by mm5210 at 12:59
更新を待ってるの
by やっちゃん at 07:58
ブックマーク
以前の記事
検索