筆記



【シンイ二次】金銀花1

「雨」「明日の風」「星天の屋根」に続く話です。
ドラマのラスト後、天穴の地から開京に向かったあとの話です。
10~12回程度の予定です。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「チョナ、こちらへ」

王妃は王が輿から降りて姿を現すと、花がほころぶように破顔し、
その唇は優美な三日月の形になった。

「こちらでございます」

紅梅色のチマの上に若草色に金糸と麹塵の糸で萌えいずる
若葉を刺繍した上衣を着て、髪に王の贈った髪飾りをさしている。
蝶をかたどった金細工の中央の、濁りのない明るい大きな翡翠が
上衣のみどりとそろえてあって、王妃自身が春の柳のように美しかった。

早い春がそこに訪れたような出で立ちの王妃を見て、王は思わず微笑んだ。
高麗に嫁いだ当時には気位が高く高慢とさえ見られたものも、
さすがに大国の公主であった気品である、と人を感心させるのみであり、
今はなりを潜めている。

王妃魯国公主は王との婚儀から五年の月日を経て、
むしろ年相応の若々しさを際立たせていた。

「こちらにご一緒すればよろしいか」

王がそう尋ねると、王妃はさも嬉しそうに、はい、と返事をする。
はい、と言いながら、ゆっくりと深くうなずくさまが、
溢れるように咲く牡丹の花びらのようで、王は目を細めた。
王妃は自分を見つめる王と目が会うと、
吸い込まれるようにしばらくじっと王の目を見つめていた。

ここは王都開京の南、朱雀に位置する松獄山。
朝晩は肌寒いが温まってきた風に、枝々の先には細く柔らかい緑の葉が芽吹きはじめている。
王妃のたっての頼みで、今日は王もともに遊山に出かけてきているのだった。



「これは、なかなか、に、はあ、ほねの、折れる…」

頂上の物見台へと続く階段を、王は一段ずつ上っていた。
王妃は手すりに手をかけて、一段ずつゆっくりと上っている。
普段ならば、見張りの兵が上るのがせいぜいの土だらけの段を上る二人の後から、
内官たちが一群になってついていく。

「あともう少しお上りになれば、景色がご覧になれます」

王付きの内官のドチが声を張り上げると、
そのようなことは、見ればわかる、と王が残り十数段を見ながら言った。

「チョナ…」

そのまま上ろうとした王を、息を切らせながら王妃が呼び止める。

「少しだけお待ちください」

すると、王は数歩を戻り、王妃の手をとった。
 
「余が引いてまいろう」

王がそう言うと、王妃の唇がまた優美な弧を描く。
王は王妃をいたわるように振り向きながら、王妃は、掴まれた手を頼りに、
手を繋いだ二人がゆっくりと階段を上りはじめると、
内官や武女子(ムガクシ)たちがいそいそと後に続き上ろうとした。

「待て」

横からすい、と手が伸びてそれを止める。
女性にしては低く、落ち着いた声が言った。

「こちらにて皆、しばし控えよ。後にゆっくりとお側まで行くのだ」

皇宮の女官を今も統括するチェ尚宮は、この五年の歳月を経て、
王と王妃の絶対の信頼を得ていた。
上がっていった王と王妃は、皆が立ち止まった場所からその屋根だけが見える
物見台に歩を進める。
しばらくして、眺めを喜び合う弾んだ声と二人の寄り添う衣擦れが、
内官たちにも漏れ聞こえてきた。

「チェ尚宮、また一段と冴えわたっておりますな」

ドチが小声で耳打ちすると、チェ尚宮はドチをジロリと見て、
ふん、と鼻を小さく鳴らす。

「長くお使えしておれば、この程度のこと」

そう言いながら、チェ尚宮は少しばかり口の端を上げた。





「チョナ、いかがでしょうか」

王妃が恐る恐る、そう聞いた。
王妃がそのようにものを言うことは少なかったので、
驚いたように王は眉を上げて、王妃を見た。

「よい眺めだ。ここで、絵を描いてみたいものだな。
筆と紙は内官たちが持ってきているであろう」

このような機会を得て、とても嬉しく思っておるが、
何を気にしておられるのだ、と王が尋ねると、王妃はほっとしたように微笑んだ。

「ここのところ毎日、夜遅くまで詰めておられます。
気晴らしにと思ってお誘いしたのですけれど、
逆に疲れておしまいになったかと気を揉んでおりました」

そのようなことあるものか、と王は力強く言うと、王妃の手を引いて、
遠く子男山を望む木柵に手を置いた。王妃の白い指を握り締めながら、
しばらく黙って遠くを見ている。
王妃は静かに王の次の言葉を待った。

「王妃よ、…許してほしい」

王の口から溢れ出た意外な言葉は、苦しげにしわがれていた。
はい、と時をおかずに王妃ははっきりと、迷いなく答えた。
王は苦笑を浮かべて、王妃に顔を向けた。

「まだ、中身を聞いておらぬではないか」

「このところ、夜もよく眠れぬご様子。
よくよくお考えになったことだとは、聞かずともわかること。
私はなんであろうとご一緒にまいります」

王妃よ、と声を高ぶらせながら、王は王妃を抱き寄せた。
許せよ、許せ、とつぶやくと、王妃は何も言わずに、じっと目を見開いたまま、
その腕に抱かれていた。しばらくの後、王はようやく口を開いた。

「十日の後、元の朝貢を求める遣使と平壌にて会うのだ。
今年の方物を決める手はずとなっておる。
余はこの度をもって、これを断るつもりである」

王妃が、はっと息を呑む音がした。

「高麗は冊封を、絶つ」

王の声は上ずっていたが、それでも固い意思が伝わってくる。
大きな戦になりましょうか、王妃はか細い声で尋ねた。
あるいは、いや、いずれは、と王が答えた。

「戦は…戦は避けられるものならば、避けたいが如何成るか。
幸いにも数日後にチェ・ヨンが戻る」

王妃は王の肩にもたれたまま、微かにうなずいた。

「チェ・ヨンと医仙が戻り次第、チェ・ヨンを連れてすぐに出発する。
慌ただしく、あのものにも医仙にも、苦労をかけるが…」

王は王妃の肩をつかみ、ゆっくりと抱擁をといて、見つめあった。
王妃の目は薄く涙をたたえていた。

「これより、そなたは父とも母とも姉妹とも、二度と会えぬように
なるやもしれん…すまぬ…」

王妃はこくり、とうなずいた。
遠い土地に嫁ぎ、会えぬはもとより覚悟の上ではあったが、
母親や弟妹とも敵となり文のやり取りも、
この成り行きによっては許されぬようになる。
気丈な王妃であっても、心がざわめいた。

それでも、奥の歯をぎゅうと噛み縛って、
王妃魯国公主は震える唇で、もう一度笑みを形作る。

「私は、高麗の王妃でございます」

濡れた目で気丈に微笑む王妃に、王もただ静かに微笑んだ。




※朝貢ちょうけん(宗主国の元に、方物(特産品)などをみつぎものとして差し出すこと)
※冊封さくほう(元に朝貢する代わりに、ひとつの属国として、存続を認められること)



次からチェ・ヨンとウンスも出てきます。
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村
by kkkaaat | 2013-10-23 22:12 | 金銀花【シンイ二次】 | Comments(14)
Commented by yu-yu at 2013-10-23 22:40 x
丁寧な描写で王妃様の姿が浮かびました。
仲睦まじいことで有名なお二人のこれからの人生を思うと切なくもなりますが…王妃様、甘えてもいいんですよ〜(泣)
「韓ドラ二次小説」バナーの上、"次からチェ・ヨンとウンスも出てきます。"って一行に失礼ながら、カワイイって思ってしまいました(笑)
Commented by kkkaaat at 2013-10-23 23:19
>yu-yuさん
さっそくお読みいただき、ありがとうございます!
王妃さま、ね~、超愛情深い方なのに、相手にはあまり求めないクールさがまた愛しいです。実は最初の五話くらい、このカップル目当てで見ていました。
それと、だってですね、私だったら、え、なに、こっちのカップルの話を10回!? こちとらチェ・ヨンとウンスを読みにきてるのよって思うわ、と思いまして(笑) 
メインカップル影も形もないのは申し訳なく(´Д`;)ヾ
どうしても黙っていられず言い訳入れました(笑) 
Commented by くまみや at 2013-10-23 23:30 x
次から でてきます(^m^)

って、心配してませんよ~(笑)信じてますから…

王と王妃のストーリーも素敵で、一層 華を添えてくれますね!
ドラマのはじめの方で 勘違いでチェヨン隊長に嫉妬する王でしたね…
Commented by ちび at 2013-10-23 23:54 x
素敵なご夫婦ですね。最初は、お互いに意地の張り合いで、(色々と、複雑な思いで)気を揉みました。                         王妃様、例え実家と疎遠となりましても、同じ時を過ごせるではありませんか。                                         ウンスの事を思えば大したことでは、ありませんよ。           ちび尚宮でした。(^^)/
Commented by グリーン at 2013-10-24 00:47 x
王様と王妃様、仲睦まじく素敵に年月を重ねてこられていて
チェ尚宮さん、ドチさん、懐かしい方々が・・・
王妃様の凛とした佇まい、好きでした。

やはりヨンの言っていた通り、二人でいられるのは道中だけのようですね。
都に戻れば早、離れ離れに・・・
しかも戦に出るのでしょうね。大護軍なんだから当然なんですけど。
ようやく逢えた二人には可哀そうすぎると思ってしまいます。

「金銀花」忍冬、花言葉「愛の絆」
ヨンとウンスの愛の絆のお話でしょうか。
長編との事、楽しみです。
Commented by 比古那 at 2013-10-24 02:40 x
王も王妃もお元気そうで何よりです。

チェ尚宮もドチ内官も相変わらずで嬉しかった。

ついに元との関係が難しくなりますが、歴史上仕方のないこと。

あの王さまなら悩んで四方手を尽くした結果なんだろうなと。

いい役者さんでしたねぇ…。

次から主役二人が出てくるんですね。

旅の途中なのか帰省後なのか、王と王妃も喜んでくれますよね。

チェ尚宮も。

続きを楽しみにしています。
Commented by itukichikal at 2013-10-24 06:19 x
戦になってしまうのでしょうか?折角、再会出来たウンスとヨンなのに。直ぐに離ればなれになってしまうんですね!
王様と王妃様は疎遠だった頃が嘘のように仲睦まじくて良いですね♪二人とも聡明で愛し合ってるのが分かりますよね。
Commented by ナナ at 2013-10-24 10:18 x
王と王妃。此方のカップルもステキですよね。
ドラマの中でも 愛を育んでいく姿にイムジャカップル同様、ワクワクしながら観てました。
ヨン達も戻ったら やはり また離ればなれですかね。
続きも楽しみです。
Commented by kkkaaat at 2013-10-24 23:38
>くまみやさん
ありがとうございます、信じてくれて(笑) ほっとしました!
ドラマの最初の方、私も微妙に誤解しました。
え、何、そういう三角関係??? みたいな。
すぐに、王妃の意図がわかって私の誤解はとけましたが、
韓ドラらしく、そりゃ誤解するでしょ的なシーンでしたね~。
王妃のツンデレが心底ツボでした、なんてかわいい人なんだ!って。
Commented by kkkaaat at 2013-10-24 23:42
>ちびさん
本当に大好きなお二人です!
お互いツンデレで、どうなっちゃうの~!? と思ってたら
けっこうすぐに二人共素直になってうまくいって、
すごく嬉しかったです。
このような境遇にあっても、大好きな王の側にいられて、
王妃さま幸せだと思います!
ちび尚宮さま、いいこと言う~!!
Commented by kkkaaat at 2013-10-25 06:32
>グリーンさん
王と王妃、使命感にあふれ、お互いを支えあって、
大好きな二人です。
懐かしいと再会して、嬉しい思いをしてほしいなあ、と思ってます。
皇宮の雰囲気も五年前のあの状態にくらべれば、
ものものしくなく安全でしょうが、でも時代は常に不穏な空気に
満ちている時代ですよね。
ですが私の書くものですから、あまりドラマティックな山谷は
期待しない方がよいかとは思います(笑)

金銀花、さまざまな意味や役目のある花ですよね。
うまく話に盛り込めたらな、と思ってます。
前より少し長くなりそうですが、冗長にならずまとめられたら…!
とがんばりたいと思います!
Commented by kkkaaat at 2013-10-25 14:17
>比古那さん
お読みいただき、ありがとうございます。
チェ尚宮、ドチは一生あのままの忠臣でしょうね。
ドチと王妃の慰めるときにお酒を出すという話、
あそこのドチがもうツボで何度見たことか(笑)

王は歴史的にも本当に激動の時期に劇的な王様ですよね。
あの役者さん、抜群でしたね。
王が出てくると画面が引き締まるというか、
胡服を脱いで、韓服になるシーン、鳥肌が立ちました。

次から二人のお話となります。
続き、楽しんでいただけるよう、書いていきますね!
Commented by kkkaaat at 2013-10-25 14:20

>itukichikalさん
どこまでお話していいのか、よくわからないのですが、
現実の歴史では、ウンス帰還の年あたりから高麗の反元政策が
はじまり、戦争にはならないものの、それがさまざまなことに
影響及ぼしていく、という流れなんですよね。
さて話ではどうなるのでしょう~。
王と王妃は、もう最後の方なんて、主役二人をさしおいた感さえ
ある仲良しっぷりでしたね(笑)
ほんとこの二人大好きです。
Commented by kkkaaat at 2013-10-25 14:25
>ナナさん
王と王妃カップル、本当に素敵でしたよね。
私ツンデレ、特に男のツンデレは激萌えする方なんですが、
あの王様にはやられました。
今日アジドラの放送が、王が王妃が口元を隠したあの女性であったと
知っていた、という回だったのですが、身じろぎもせず見てしまいました。
幸せです(笑)
ヨンたちはさてどうなるでしょう…。こちらも幸せもなってほしいですよね。
続き、楽しんでいただけるよう頑張りますね。
<< 【シンイ二次】金銀花2 【シンイ二次】星天の屋根 おま... >>

二次小説。いまのところシンイとか。
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
最新の記事
カテゴリ
記事ランキング
最新のコメント
ウンスノートから読んでし..
by 比古那 at 13:31
あー、やっとたどり着けま..
by 比古那 at 10:48
みちさん お元気でしょ..
by mm5210 at 12:59
更新を待ってるの
by やっちゃん at 07:58
更新を待ってるの
by やっちゃん at 07:58
ブックマーク
以前の記事
検索