筆記



【シンイ二次】金銀花2

開京より北に十二里。
街道は一度開けた田圃の間を通ったが、都を前にして、
若い松の茂った樹林の中を緩やかにくねりながら続いている。

「今度はおおお俺が見てきます」

テマンが言うと、オ・ソクチェは呆れた顔で、うなずいた。
その返事も待たずに、テマンは馬の腹に膝を入れ、
手綱を鞭代わりに馬を速歩にさせると弓なりに曲がった街道へと走り出し、
すぐに姿が見えなくなった。

「何が斥候だ」

オ・ソクチェがつぶやく。馬の脚音を高らかに響かせてあんなふうに走れば、
怪しい者も怪しくない者もみな道を避けて、姿を隠してしまうだろう。

十日の旅を経て開京までわずか。
誰も彼もが落ち着かず、先ほどからテマンと若い二人が、
斥候と称してかわるがわるに馬を走らせては、なべて何事もなし、
とわかりきった報告を繰り返している。

もう開京も見えようという場所まで来ており、
きっとあいつは南大門まで駆けて戻ってくるつもりに違いありません、
とオ・ソクチェが言うと、チェ・ヨンが、させておけ、
と辺りに目をやりながら言った。

と、今消えたばかりの軽快な脚音が、戻ってくる。
皆が道の先を見ていると、テマンが現れた。

「テホグン、き、禁軍がおります!」

馬を駆け足にして戻ってきたテマンが叫ぶ。
チェ・ヨンはわかっていたこと、というようにうなずくと、そのまま馬を進める。
道を歩ませていくと、都に近づき幅広くなってきた街道を塞ぐように、
黒に臙脂の縁飾りの鎧も華々しい鷹揚軍の兵士、ざっと見積もって百人ほどが、
膝をつきこうべを垂れて並んでいた。
先頭に見覚えのある顔があった。
ねえあの人、わたし皇宮で会ったことがあるわ、とウンスが指さして
小さな声でチェ・ヨンにささやくと、チェ・ヨンはうなずいて言う。

「禁軍二千の片翼、鷹揚軍を率いる護軍アン・ジェです。
赤月隊でともに戦った仲間です。ご安心を」

ふうん、と言いながら近づくと、片膝をついて待っていたアン・ジェが
顔を上げ、両足を開いてしっかと立ち上がる。

チェ・ヨンを先頭に十一名。
手綱を絞るまでもなく、馬はその姿を見て自然に脚を止める。
護軍アン・ジェは、チェ・ヨンの顔に目をすえて声を張り上げた。

「大護軍チェ・ヨン!」

響き渡る声に、若い兵や徴用兵は、びくりと肩をすくめる。
馬がぶるる、と鼻を鳴らし、脚を踏む。

「もとより高麗王の治するべき鴨緑江の地、奪還の命、
見事果たされたと王よりのお褒めのお言葉である。
鷹揚軍一同、テホグンの無事の帰還を心よりお喜び申し上げる!」

流れるようにそう言うと、アン・ジェは表情を一変させ、にやりと笑った。
馬上のチェ・ヨンも、口の隅をぐいと上げる。
二人の徴用兵が慌てて、馬から降りて控えようとするのを、
チェ・ヨンは手でとどめて口を開いた。

「お迎えご苦労であった。今より王の下へと参上いたす。後尾につけ」

護軍アン・ジェが手を振り上げると、兵はいっせいに立ち上がり、
十一名の馬の横を走るようにして抜け、後ろにつく。 
先ほど止められた徴用兵が、急いで馬から降りて、引き綱を持った。
どうした、とチェ・ヨンが尋ねると。

「いえ、このような偉い方の前で、馬に乗るなんて」
「失礼でありますから、我ら二人はこうして馬を引いて歩いてまいります」
「はい、そうさせていただきます。禁軍の兵の方の前を馬で闊歩するなど」

と大変に恐縮して、このままでは自分たちの後ろについた禁軍のさらに
後ろに回りこんで最後を着いてきそうな勢いだ。
馬に乗れ、とチェ・ヨンが言っても、一向に乗る気配もない。
オ・ソクチェが痺れを切らして馬から降りると、二人の尻を蹴飛ばす勢いで、
背中を押す。チェ・ヨンが馬上から、もう一度声をかける。

「俺のほうがこいつより偉いんだ。俺がいいと言うんだから乗れ。
乗らないと、俺も城まで歩いていくぞ」

ここまで言われて、ようやく二人は渋々、後ろの兵たちに頭を下げて騎乗した。
それでもしきりに後ろを気にしている徴用兵に、ウンスが話しかける。

「乗ったほうがいいわよ。こっからまだ、城までけっこうあるんだから。
あ、それにこの人たちより、あなた方、年上なんでしょう?
年配者は尊重してもらっていいのよ」

気にしない、気にしない、とぺらぺら話すウンスを、禁軍の兵たちは
驚いたように見ている。

「おとなしくしていてください。目立たぬように」

耳に顔を寄せて、半分諦めたような口調でそう言うと、
チェ・ヨンはウンスの馬の腹を横から軽く蹴って、歩かせはじめる。
なによ別に何もしてないでしょう、とウンスは口を尖らせたが、
チェ・ヨンは馬を前に進めて、騎乗したアン・ジェの横に並んでしまった。

ウンスはもう一言文句を言ってやろうと、馬の腹に脚を入れるが、
馬はのんびりと歩を進めていて、ウンスのいうことを聞こうとはしない。

「ちょっと、ね、前に行ってほしいの。わかる? あの図体の大きな
偉ぶった男の横にね、行ってほしいの。ねえ、お願い、お願いよ」

馬は耳を何度かぱたつかせたが、知らぬふりだ。
チェ・ヨンとアン・ジェが振り向いて、二人して笑ったのを目ざとく見つけて、
ウンスはしかめっ面をしてみせた。




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by kkkaaat | 2013-10-24 22:48 | 金銀花【シンイ二次】 | Comments(6)
Commented by 比古那 at 2013-10-24 23:10 x
ダメだ、図体の大きな人にやられた(笑)

隠れたいウンスを付き出すわ、駆け足にはならないわ、ウンス遊ばれ過ぎ(笑)

和む。自然ににへら~っとしてきます。

アン・ジェ!幼馴染みってそういうことだったのかー!!

あの脱獄の手引きをしろと?の辺りのやりとり、大好きでした。大胆なことしたな、とかいいながら楽しそうに牢にはいってくるあたり。

以前のヨンを見ていたからこそ、ウンスに入れ込んでいる幼馴染みの姿が人間味あってうれしかったのを全身でホクホクしている様子を表現してたアン・ジェ。

まぁ、それはそれはだいそれた事しましたけど。

聞いたときは、もう、ヤるじゃん!!な顔をしていたであろうアン・ジェ。

久方ぶりにお会いできて嬉しいです!!
Commented by itukichikal at 2013-10-25 03:22 x
アン・ジェ、昔のヨンを知ってますものね!近衛隊の皆もビックリでしょうがアン・ジェもビックリしたでしょうね。大勢の前でキスしちゃうヨンには。

英雄となって戻った友を迎える心境は誇らしいでしょうね。王様に軍を纏めるように言われてもヨンの方が相応しいと言っていたくらいですから。

しかしそんなに凄いヨンに小言を言うウンスは奇異な存在に見られてませんかねぇ。
Commented by グリーン at 2013-10-25 15:06 x
盟友アンジェの出迎えに大護軍チェ・ヨン貫禄があります。
そんなヨンの想い人のウンスをアンジェもあたたかく見守っているように思えます。
想い人、ウンスを連れ戻ったヨンをアンジェはどんな思いで見ているのでしょう。

この一途にウンスを想い自分のもとに戻ってくることを信じ、4年の歳月を待っていた友の姿をアンジェはどう見ていたのか、、アンジェに聞いてみたいです。

それにしても護軍アンジェ率いる禁軍百人余りの兵に出迎えられたヨンはやはり英雄なのですね。
改めてヨンてすごいと思ってしまいました。
Commented by kkkaaat at 2013-10-25 15:43
>比古那さん
チェ・ヨン、昔の人だからか、それともウンスが面白いからか、
けっこうウンスのこと、いいようにしてる印象が(笑)
好きな子はナチュラルに苛めてしまうタイプ?
和んでいただいて、嬉しいです~!

アン・ジェ、少しばかり出世しました(笑)
ドラマでは、ちょっと扱いが中途半端でしたが、
かなりいい立ち位置にいましたよね。

なんかものすごく普通にワルいことしてましたよね~。
融通がきいて、ヨンの過去も知っていて対応できる、
ヨンのいい片腕となっていそうだな、と想像してます。
Commented by kkkaaat at 2013-10-25 15:50
>itukichikalさん
いやあ、ヨンのキス、もう本当にびっくりしたと思いますよ!
それもよりによって七年間死人のようだったヨンがですからね。
魂抜けそうになったでしょう(笑)

ヨンは実力もあって、わかる人には本当に尊敬されていますよね。
>しかしそんなに凄いヨンに小言を言うウンスは奇異な存在に見られてませんかねぇ。
いやもう絶対に「俺らのテホグンに失礼なこというあのおんなだれや」状態が予想されるかと(笑) 
まあヨンの漏れ出るデレ具合に、みな口をつぐむでしょうが(笑)
Commented by kkkaaat at 2013-10-25 15:58
>グリーンさん
アン・ジェ、五年前から包容力があるというか、
臨機応変に対応できるしたたかさがある人物でしたから、
もっと気楽にやれよ、思いつめるな、的なことも思いながら、
自分にはないそのまっすぐな男ぶりを認めて見守っていたような
想像をしています。
ヨンが荒れた時代も見てますから、そうなってしまわいよう願って、
ウンスが戻ってきたのですから、嬉しいというより、ほっとしたんじゃないかと。

チェ・ヨンはこの五年で、鴨緑江近くの八ヶ所の土地を元から奪還し、
国境を広げていますから、大英雄だと思います。
あまり平穏でなく豊かでもなかったこの時代、民は英雄譚を求めますから、
きっと人気者だったろうな、と想像してます。
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