筆記



【シンイ二次】金銀花9

平壌の離宮は、大陸から高麗への門である。
元よりの遣使があれば、まずは平壌にて出迎えもてなし、その後に開京に向かう。
開京の王城や南京の雅やかな離宮に比べて、
剛健な砦の役目を持ちながら、元におもねって派手な胡風の建物が目立つ。

離宮に南面した庭園に、その急ごしらえの円丘壇はあった。
王の諡(おくりな)に、元に逆らわぬものとしての忠の字が置かれて、はや百三十余年。
開京の円丘壇は名ばかりのものになり、
そこで王による祭天が行われぬようになってから長い。

天を祀るはただ一人、唯一の天子である元の皇帝のみ。
行われるは北京の天壇のみ。
高麗王は皇帝の臣下である、だから祭天は行わぬが筋。
それが皆の了解であった。

そのはずであるのに、ここ平壌で使われぬはずの円丘壇を整えるために、
昼夜を問わずに働く職人と兵の姿が見える。
ほとんどはりぼてのようなものだが、見た目だけはなんとか体裁を整えた
皇穹宇(ファングンウ:神位板を収める建築)の足元に、
于達赤隊隊長チュンソクの姿があった。

「どうせ暗がりでよく見えぬ。適当に塗っておけ!」

指示を出しながら、辺りを見回して走り出す。

「トクマン、そこはもういいから、こっちの大門の石材を運ぶのを手伝え」

急なことで必要な石材は手に入らず、離宮裏手の石垣から
無理に外してきた石を運んでいる。
ふと気になってチュンソクが横に並んで引き始めたトクマンに尋ねる。

「おい、これ使ってよいか、誰ぞに確かめたか」

チュンソクが脚を踏ん張り綱を引くと、肩の筋肉が恐ろしいように盛り上がった。
男たちは春の平壌の寒さの中、諸肌脱ぎで身体から湯気を立てている。
トクマンが、いえだれにも、と歯を噛み締めて力を込めながら言うと、
チュンソクはぎょっとした顔をした。
おいおい、とつぶやきながらも手は止めない。

だって仕方がないじゃありませんか、これしか使えそうなのがなかったのです、
いざとなったら隊長が責任を取ってください、
とトクマンが言うと、チュンソクは嘆息する。

「おまえ坊ちゃんだからなあ、そう言うところはほんと図々しいよ」

トクマンは、にやにやしながらすいません、と言った。
褒めてるんじゃねえぞ、とつぶやきながら、チュンソクは歯を食いしばる。
一つ目の石を大門を作るべき場所に転がすと、すでに皆汗が額に垂れていた。

「もうすぐ王と大護軍がお着きになる頃合だ! 気合を入れろ!」

チュンソクが大声を張り上げると、おう、と其処此処から威勢の良い声が返った。



その夜、不格好な石の大門の元に、一本の松明が近づき、照らした。

「間に合わせだな」

チェ・ヨンが石柱が倒れてこないか、手で押して確かめながら、
松明で照らして眺めて苦笑した。
今日の夕刻日が暮れるころ、ようやっと王とチェ・ヨンはこの平壌の離宮に
到着した。

「いや上等。火で陰影がつくと、多少のあらはわからぬ」

王は自らも円丘壇まで来て、その出来を見ていた。
こけ威しであるな、と王がつぶやく。
役者の使う書き割でも、そこに魂がこもれば本物に見えます、とチェ・ヨンが返した。

「これは手厳しい」 

王は口元を歪めて笑い、チェ・ヨンを見る。
余次第であるとそちは言うのだな、余が誠の王であればここに天意が宿ると、
と王が言うと、チェ・ヨンはしばらく下を向いて、それから王に正対した。

「民は暮らしが平穏であれば、王の名も国の名も気にしますまい。
王があって、官がいて、国があるのではありませぬ。
国まずありて、それを支える人柱、それが王ではないでしょうか」

チェ・ヨンは王の目をしかと見据えて話し続ける。
王は目をそらさずチェ・ヨンを見返した。

「ここで余がしくじれば、元に追封されるまでもなく、
余はすでに王ではない、ということか」 

チェ・ヨンは息を吐いて、不遜なことを言う。

「高麗の危うきありさまをどうにかしてくれる者なら、
王でも役者でもかまわぬのです」

やり遂げた道化こそが王。

そう言い放った後、チェ・ヨンは頭を下げて、すぎたことを申しました、と王に言った。
王はしばらく黙ってチェ・ヨンを睨んでいたが、にやりと笑って、石柱を手で叩く。

「道化の性根は座ったぞ。して、かみなりの芸当の支度はすんでおるのか」

王がからかうように言うと、準備万端ととのってございます、
とこちらもにやりと笑った。





「おお、ご覧くだされ」

双城総管府から総管の趙小生に伴ってきた戸長が喜びの声を上げた。

「チョウ殿、我らの到着を歓迎して、あのように明々と火を炊いて」

戸長が指差した先には確かに明々と見たこともない大きな火が見えた。
確かにそれは、西京平壌の王の離宮に灯っているように見える。

「夜の到着になる、ついては酒肴の準備をしておけと、早馬で知らせておきました」

と戸長は自慢げに報告する。
うむ、と威厳をもってうなずいた総管趙小生は、
離宮に向けてはじまった上り坂を、馬で粛々と進んでいた。

半時も馬を進めると、総管府の一行は、見えていた火がただならぬ大きさを
備えていることがわかってきた。
城下の村を通ったが、あたりが暗くなったことを差し引いても、ひと気がない

歓迎の夜明かりにしては大掛かりすぎる、辺りの様子も何かおかしいと話すうちに、
離宮正面の大通りに出た。
馬を進める一行の言葉数が少なくなった。
目的の城が目の前に徐々に大きくなっていく。

「あれは、なんだろうか」

今まで黙っていた総管趙小生が、ぽつりといぶかしむような声をあげた。



コメント少しずつお返事させていただいています。<(_ _)> 
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by kkkaaat | 2013-11-07 00:10 | 金銀花【シンイ二次】 | Comments(12)
Commented by saikai at 2013-11-07 00:58 x
「道化の性根は座ったぞ。」チョナはやっぱり立派ですね。
ヨンも凄い人だけど、自分を道化に例えられて、この返しは、器が大きいです。流石、名を残した人物ですね。
流石、ミチさん。有難うございました。
Commented by すいれん at 2013-11-07 01:19 x
いつも素敵なお話をありがとうございます。

お返事などを書かれるのも大変かなと思い、
お話が完結してから感想を書かせていただこうと
思っていましたが、チュンソクの登場に萌え禿げて
飛び込んでしまいました!

チュンソクっ!

好きすぎて困ります(笑)

私の中では、たまにイムジャカップルへの愛より
上回ります。

ほんとは有能で腕も立つのに、なぜか間の悪さNo.1・・・
そしてちょっと鈍感なかんじ。

愛しくてしょうがないです♪

いつか、飛びついたウンスに押し倒されたチュンソクが
チェ・ヨンの眼から飛んできた雷功を受ければいいと
夢見ています^^(笑)

・・・場を荒らしました。
すみません!

続きのお話も楽しみに待っております。
Commented by itukichikal at 2013-11-07 02:38 x
ヨンは言いたいことは言いますからねぇ…
しかしそれを聞ける王様がいるからこそですよね!
本当に器の大きさが違いますよね~女の人をはべらせて酒を呑んでいたお兄さんとは!
どんなに素晴らしい人物でも周りにいるブレーンが悪ければどうにもなりませんからねぇ…

ウンスとは違う意味でのベストパートナーでしょうか?
さて、どうなるのでしょうか?
Commented by 比古那 at 2013-11-07 07:22 x
チョナと大護軍。いいコンビですね。
道化とかみなりの会話、素敵でした。

ズバリと切り込んでくるヨンと、ムッとしてもちゃんと意味を噛み砕いて飲み込み、無駄に飾り気のない言葉の本質を受けとる懐の広いチョナ。

いつまでも見続けていたい二人です。

同じくコンビ。チュンソクとトクマン。

意外とちゃっかりしていたトクマンに思わず口許がゆるみます。ヨンよりも取っつきやすそうな隊長姿ですね。

さて、凄く気になるところで「待て次回」気になるどころではありません。何?何です?何かありましたか?
Commented by ちび at 2013-11-07 09:30 x
これは原作の続き?                                と、思わずにはいられません。ここまで(下調べも大変だったと、思います)書かれるとは。

王様も5年の間、成長されたのですね。優柔不断だった頃に比べと。 信頼できる臣下、又それに応えようとする王。合わせ鏡の様です。    ウダルチのメンバー、大好きです。ガンバレ(^^♪
Commented by ナナ at 2013-11-08 06:32 x
王様も成長されましたね。
最初の頃の 自信のなさそうな御姿が嘘のよう…
ほんと色々ありましたもの…
ヨンと王様
いいコンビだと思います。
Commented by kkkaaat at 2013-11-09 23:09
>saikaiさん
ドラマでヨンが「恥を知る人だ」「仕えるのに理由を考えてくださる人だ」と
いうようなことを言いますよね。当時としてはすごく革新的、という描かれ方
で、いろいろと想像が膨らみました。
チョナの立派さを少しでも書けたらなら嬉しいです!
こちらこそ、読んでいただきありがとうございました。
Commented by kkkaaat at 2013-11-09 23:16
>すいれんさん
こちらこそ、読んでいただきありがとうございます。

私の生活までお気遣いいただいて、本当にありがとうございます。
それを飛び越えての感想、とっても嬉しいです!

チュンソク、たぶんウダルチ内人気ナンバーワンですよね。
リアルでのモテ度はわかりませんが(笑)
私もチュンソク大好きです。

>ほんとは有能で腕も立つのに、なぜか間の悪さNo.1・・・
そしてちょっと鈍感なかんじ。
そうそうそうそう!
そして誠実度ナンバーワンだと思います。

チュンソクには、絶対に幸せになってほしい!
彼氏にはしたくないが、彼氏の友達で絶対に幸せになってほしい
ナンバーワンな感じ(笑)
チュンソクで一編何か書きたいですね。

いえいえ、いつも熱い叫びを待っています!!

金銀花、これから2話分アップします~。
Commented by kkkaaat at 2013-11-09 23:21
>itukichikalさん
チョナに向かって国璽をよこせと言った男ですからねぇ(笑)
でも、ほんと、
>しかしそれを聞ける王様がいるからこそですよね!
これを信じているからだと思います。
聞く耳を持つ人物だと信じているから、言える人が寄ってきて、
そういう人がいるからまた本人も成長する、というよい関係だと思います。
>ウンスとは違う意味でのベストパートナーでしょうか?
ドラマ版チェ・ヨンがいることで、王の人生が変わるんじゃないかな、
なんて想像してます。
Commented by kkkaaat at 2013-11-09 23:40
>比古那さん
この二人、なんだか未来を変えていけるんじゃないのかな、って
思わせてくれるコンビですよね。
現にキチョル、史実より5年も早く退治しましたし。
チョナは言葉の裏までちゃんと汲み取る懐の広さを持っている人ですよね。

私の中で、チュンソクは苦労人で実力で上がってきたタイプ、
トクマンはけっこう家柄もよくて、わりと努力せずに成績よいタイプです(笑)
トクマン、ドラマでなんか一人だけいい服着てるときとかなかったですか?
なんか育ちのよいおぼっちゃんな気がします。

チュンソクは部下に気を使いすぎて、胃を痛めそうですね(笑)

凄く気になるパートも終わり、今日はラスト前までアップしてます。
よかったら読んでくださいませ~。
Commented by kkkaaat at 2013-11-09 23:47
>ちびさん
そう言っていただけると、本当に報われます。
調べるのはとても楽しいですよ(笑)
こういうのはまると調べたおすほうなので、いろいろまた妄想が膨らんでます!
王はよい臣下にめぐまれて、そして聞く耳を持っている方ですから、
一番成長しているんじゃないかと想像しています。
ウダルチメンバーようやく出てきて、わたしも嬉しいです!
Commented by kkkaaat at 2013-11-09 23:52
>ナナさん
本当に、最初は線の細い神経質そうな王様でしたもんね。
賢くて、人の話の聞ける人だから、
>ほんと色々ありましたもの…
それを乗り越えて成長できたんだと思います。
このコンビでいろいろなこと、これからも頑張ってほしいな~と思ってます。
だんだん悪友的なところも出てきたり(笑)
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