ウンスは声が出そうになって、身体をよじるが、チェ・ヨンの身体が
後ろからのしかかっていて、軽いウンスは身動きが取れない。
大きな声で、この酔っ払い、やめなさい、と言おうとしたところで、
宴席からどっと大きな笑い声が聞こえた。
はっとして声を出すのをやめ、首だけ後ろに向けて、
声を出さずに、や、め、て、と口を動かす。
それでもヨンが衣の中をまさぐるので、試しにと哀れっぽく、無理にするの、
と小さな声で尋ねてみた。
無理にはいたしません、そのようなことするわけが、
チェ・ヨンはむっとして吐き捨てるように言った。
手が抜かれて、ほっとして胸を撫で下ろす間もなく。
大きな手で後ろから顎を掴まれて動けなくされてから、耳元でかすれた低い声で、
無理になど決していたしませぬ、と囁かれる。
びっくりして振り返ろうとしたが、棚に追いやられて、体重で押さえこまれた。
チェ・ヨンの身体が背中にぴたりと寄り添う。
息の音が聞こえたと思うと、耳のなかに濡れた音が響いて、
ウンスは声もなく身体を仰け反らせた。
「あなたはここが」
チェ・ヨンがつぶやく。
婚儀の準備でふた月と少し。
その間に、この男はいくつかウンスを従える手管を手に入れてしまった。
ウンスが急いで耳を手で覆うと、チェ・ヨンが喉で笑う。
「隙だらけです」
ここも、と言って素早く上衣を緩めて、脇腹に手で触れる。
この武骨な武人のどこに、というように繊細に指で撫でられて、
ウンスは息のような声をあげた。
そのまま乳房の横で手が止まって、包まれ先を執拗に弄う。
チェ・ヨンは息を荒げて、後ろから擦り上げるように腰を押し付けて、
ウンスが身悶えするたびに呻きながら、耳の後ろに吸い付いた。
身体の奥にともった火が消しようもなくなって、ウンスは目をぎゅっとつぶった。
ふとチェ・ヨンの重みが少し離れたので、ウンスは急いで振り返る。
すでにウンスは涙目で、衣も息も乱れていた。
何か言おうとして口を開いたが、チェ・ヨンの身体がぶつかるように
寄って腰を抱き寄せられ、上から口づけられる。
「夫婦となって初の閨です。やめるわけがない」
チェ・ヨンが、口づけに混ぜて、途切れ途切れに息せき切って言った。
言いながらチェ・ヨンはチマをたぐり上げる。
暗がりの中で、白く光るような気さえする脚が中からあらわれて、
口を合わせたまま、チェ・ヨンは薄目でそれを見下ろした。
膝のあたりから撫ぜるように上に脚に手をすべらせ、
重いほどにたわんだ布の中に手を潜り込ませてまさぐると、
潤みにたどりついて、チェ・ヨンは満足そうにウンスの唇を甘く噛んだ。
ウンスは脚がくだけて、チェ・ヨンの打合せを両手で握りしめて
顔を固い胸に押し付ける。
ただひたすらに声を殺していると、チェ・ヨンがゆっくりと手を引き抜いた。
瑠璃紺に藍鼠文様の花婿の衣装の前を開いて下帯を外すと、
チェ・ヨンはさっきとは違った目的で、もう一度着崩れたチマをたぐりあげる。
ウンスはもうなすがままで、じっと胸に顔を押し付けて耐えている。
チェ・ヨンがウンスの腰を抱え上げ、ウンスは棚に押し付けられた。
棚の上板に背中が当たったのを見て、チェ・ヨンは荒い息で尋ねる。
「痛くはないですか」
ウンスは背中の固い感触に違和感を覚えながらも、痛いとは言わずに、
ただ無言でうなずく。
チェ・ヨンが身体をきつく寄せると、ウンスは細く息を吐きながら、
すすり泣くような声をあげた。チェ・ヨンが揺すりあげると、身体に
こもる熱をどう逃がしてよいかわからないように喘いで、腕を首に
回してしがみつく。
ウンスが声をこらえきれなくなって、チェ・ヨンの衣装を噛んで
こらえていると、それに気づいたチェ・ヨンはわずかの間動きを止めて、
はあはあと息を切らしながら、優しく頬に唇を寄せた。
そろりと指を伸ばすとウンスの口から布を引き出して、気遣うように微笑む。
チェ・ヨンが一度離れようとすると、身体の中から引きずられる感覚に、
ウンスは、ううん、と小さく声を上げる。
身体の中がぽかりと空になったようで、虚しい。
そのまま抱きかかえられて、寝台の上にうつぶせにされると、
背後からチェ・ヨンがゆっくりと覆いかぶさる。
ウンスはすっぽりとチェ・ヨンの胸の中に入ってしまった。
「俺は別にもう、体面が悪いとも何とも思いませぬが」
あなたがお気になさるなら、そう柔らかな口調でささやいて、
小さな枕を口に当てられ、ウンスがそれを抱えこむと、
安心したようにチェ・ヨンはウンスの身体の上にのしかかる。
濡れた音をさせて身体の中をかき回されて、口に押し当てた枕越しにさえ、
声が漏れるのを、チェ・ヨンは至極満足して熱っぽく見つめる。
時折、苦しゅうはないですか、と耳元で尋ねて、ウンスが絶え絶えに
余裕なくうなずくと、さらに口を耳に寄せる。
「それでは、好いですか」
低く息の混じった声で問われて、何も答えないでいると、また聞かれる。
答えるまで、聞くのをやめないのだ。
観念して、小さな声で答えると、チェ・ヨンはウンスの肩に顔を埋めて、
それはそれは嬉しそうにはあ、と息をついた。
「なんか、が、がたがたいってましたけど、静かになったよなあ」
テマンが大きな声でそう言って、賑やかだった宴席が一瞬静まり返った。
おまえなあ、とチュンソクがテマンの後ろ頭をはたきながら噴き出した。
「あのなあ、おまえもそっと、こう、な。あんま露骨には言うな」
トクマンが自分のことは棚にあげて、呆れたように諭すとテマンは、
「いやだって今さっきまで、なんかもうがたがた、がたがたって音がしてて、
俺喧嘩でもしてんじゃないかって心配で」
と本当にそう思っているらしく、テマンはわしわしと今日のために
せっかく整えた頭をかきまわした。
宴席の皆は、音に気づいていたが、あからさまに口には出さず、ただにやついたり、
こそこそと話していたのをテマンがあまりにもはっきりと言うので、
戸惑ったようにくすくすと笑っている。
「お前、何歳だよ」
誰かが言うと、テマンは、今年で二十二歳になるが、と答えた。
「あのさあ、嫁取りをしてもおかしくない年で、そんなんじゃ恥ずかしいぞ。
あれはな、ううんっ、テホグンとユ先生がな、まぐ…」
そんなことはわかってるよ、とテマンがぴしゃりと遮る。
「テジャンとユ先生が寝屋でなにしてっかくらい
俺だってわかるよ子どもじゃないんだから。
俺が言ってんのは、その前にがたがたいってたのは
喧嘩じゃなかったのかって心配してるってことだよ」
テマンは酒で少しばかり滑らかになった口でつらつらと続ける。
この間だって今日のことで喧嘩になって、ユ先生がいろんなものをテホグンに
投げつけて、最後にはテホグンも投げ返してたんだけど、でもちゃんと
テホグンは手加減して、布とかそんな痛くないものしか投げ返さなかったんだ。
その後は寝屋にこもってしまったんだけど、あんなにがたんがたん音なんか
ちっともしなかった。
たいていそうなんだ、朝でも昼でも夜でも、寝屋にいったらわりかし静かなもんなんだ。
たまに追っ払われるから、そのときはどうだかわからないけどさ。
なのに今日はえらく大きな音をさせてるから、どうしたんだろうって。
俺は二人が仲良くしてほしいからすごく心配なんだよ。
テマンの話をみな身体を乗り出して聞いている。
「あの二人、そんなにしょっちゅう寝屋にこもるのか」
年配の于達赤が尋ねると、テホグンはお忙しいから、
そんなにしょっちゅうはこもれないよ、とテマンが呆れたように言う。
皆がなぜかほっとしたように顔を見合わせる。
ただとにかく屋敷のあっちでもこっちでも接吻ばっかりしてっから、
俺、見ないふりをするのが面倒くさいんだ。
こないだも通りかかっちまって、ユ先生は目をつぶっておられたから
気づいてなかったけど、テホグンは俺のこと睨んで手で追い払ってさあ。
テマンはしっしっと手で追い払うしぐさをしてみせる。
それでも二人の仲睦まじいのは嬉しいようで、
ほくほくと嬉しそうな顔を崩さない。
「なあ、やっぱり俺、心配だよお。
ちょっと屋根伝いに行って様子だけ見てくる」
テマンがすっくと立ち上がると、慌てた于達赤が皆どっと身体をつかんで
必死に止めた。
「テマン、おまえ、酔っ払ってるな」
チュンソクがそう言うと、俺は酔ってません、と元気よく言いながら、
立ち上がった身体は揺れている。
「ああ、もう、とにかく呑め、みんなもっと呑め!
テマン、お前は潰れるまで呑め!」
チュンソクがそう言うと、そうだそうだ、呑もう呑もう、
と皆我に返ったように盃を手に取った。
我らがテホグンとその奥方に、と祝杯の声が上がる。
こうして、祝宴の夜は更けていくのであった。
(おしまい)
にほんブログ村