筆記



【シンイ二次】颶風21

※20を先にアップしてあります。
・・・・・・・・・・・・・・・・

「わかりました。助けていただいた命にかけて、必ず約束は果たします」

イ・ソンゲがウンスの目を見たまま、ゆっくりとうなずいた。
ウンスはこの若者のすべてを信用できたわけではなかった。
この本当に短い邂逅では、そこまではわからない。

チェ・ヨンの名前を出したとき、イ・ソンゲの表情が何かを示してぴくりと動いた。
何かを言おうとして、口を開きかけ、イ・ソンゲは口をつぐんだ。
当たり前だ、五年ぶりに会った女人に、大事を話す兵がいたら、それこそ信用ならない。
それでも、ウンスはこの若者に賭けるしかないのだ。

大護軍チェ・ヨンが徳興君と会う前に必ず、と念を押す。
そして最後に、馬を一頭ください、そして城の外に逃がしてほしいの、と頼む。

「こちらの部屋で隠れていれば、そうひどいことにはなりますまい。
事情はお話できませんが、この戦は長引かずに終わるでしょう。
後でご自分で、大護軍チェ・ヨンにお会いになるといい」

イ・ソンゲは早口で言って、落ち着かなげに何度か扉を振り返った。
本当に余裕がないのだろう、それじゃあいいわ、自分でなんとかするから、
とウンスが言うと、ため息をついて、急いでください、とウンスの腕を
少しばかり乱暴につかむと、部屋の外に出た。

馬はすぐに手に入ったが、城の外に出るのはひと仕事だった。
イ・ソンゲはもうどうにも行かねばなりません、と言って、配下らしい二人に
ウンスのことを必ずどうにか安全にと言いつけて、ものすごい勢いで走っていった。

その二人はほとんど何も口を聞かずに、ウンスを護衛して城から離れたところ
まで送って、ウンスがここでいい、と告げると、無言のまま戻っていった。


遠くから、それでも腹の底に響く音が、ウンスのもとまで伝わってくる。
城門を打ち破ろうとする破城槌が、ぶ厚い門扉に突進を始めたのだろう。
振り返ると、火矢だろうか、暗い空を弧をえがいて、真っ赤な炎がよぎっていく。
ウンスのいる場所から見ると、それは残酷な武器ではなく、花火のように見えた。

蹄にまで伝わる振動に、馬が怯えていななくのを、ウンスは首を撫でてなだめ、
それからまた馬首を返すと、馬の腹に足を入れ、城から遠ざかりはじめた。

あの暗闇の中に、チェ・ヨンがいる。
そう思うと、熱望で喉がからからになる。
会いたい、ただひたすらに、会いたい、そう思うと、ウンスの目に涙があふれてきた。
もう泣いてもいい、とウンスはそれを自分に許した。
走る馬の上で、ウンスは声をあげて泣いた。

ずっと考えないようにしていた。
今、開京には、、もう一人のウンスがいる。
チェ・ヨンの死の知らせを受ける前の、于達赤とともに玄武門を突破する前の、
三日三晩をテマンとともに走り抜ける前の、天穴に飛びこむ前の、ウンスが。
もうう一人のウンスが、同じ時間に存在するということを考えると、
ひどく心細いような恐ろしいような心持ちになってウンスは肩をすくめた。

チェ・ヨンに会わないですむのなら、会わない方がいいのだ。
会えば必ず、離れがたくなるだろう。
そしてどうするのだ、ともに開京に戻って、もう一人のウンスと三人で暮らす?

「冗談じゃないわ」

ウンスは走る馬の背で、そう呟く。
涙が風にさらされて、ウンスの頬がひどく冷たくなった。



天穴までは、五日かかった。
馬を買う金もなく、テマンのように盗むこともできない。
イ・ソンゲがくれたたった一頭の馬を休ませ、休ませ、たどり着いた。
食べ物は、馬についていた飾り帯と交換で手に入れたものを少しずつ口にした。

ウンスは馬の手綱を引いて歩きながら、自分のありさまを気にしていた。
昨日自分のあまりの汚さに、川に道が合流したところで、馬を休ませている間に、
人目を気にしながら髪と身体を洗ったが、櫛もなく髪がごわごわしている。

「早く、戻りたい」

ウンスは、もつれた髪を手でほぐしながら、ぽつんと呟く。
天穴を抜けてきたときの押し戻すような感覚とは反対の、引き寄せられるような
粘る感覚が、この地に近づけば近づくほど強くなった。

「戻ったら、変わってる? 本当に?」

ウンスは話す相手がいなくて、馬の首を撫でながら話しかける。
馬はウンスが優しく首の横をかいてやると、静かに鼻を鳴らして、手に首を押し付けた。

すれ違うほど近い歴史の道筋を正せば、並んで走るその先は、いっせいに正される。
絡まるように走る無数の時間の筋は、糸のようにただ絡まり合っているのではなく、
温められて時には飴のように溶けて、二本、三本がまた一つになる。

ウンスはこれまで受け取った、実際には自分の身には起こらなかった事実が記された
日記について、これまで何度も何度も繰り返し考えたことを、また思い返していた。
きっと彼女たちの未来も、ウンスが日記の助けで行動したことによって修正されたと、
ウンスは祈るように信じていたのだ。

丘の下まで来て、風を感じた。
見上げるとぼんやりとした光が、天に向かって立ち上っているのが見えた。
はあ、と息を吐いて、肩から力が抜ける。

ウンスは、馬から馬具を四苦八苦して外してやった。
馬はウンスが手綱を離しても逃げずに、ウンスの手に自分の鼻面を押し付けた。

「あの人を殺した相手に、和州まで連れていってもらって、
あの人をいつか殺す相手に、命を託してきたわ」

それしかできなかった、そう言ってウンスは、馬の首に顔を押し当てる。
もしも、もしも戻って何も変わっていなくても、きっと一人のチェ・ヨンは助かったわよね、
とウンスが涙声で馬に話しかける。
それから、顔を離す。

「さあ、行って」

押しやると、馬は逃げずに、少し進むと草を食みはじめた。
それから、ウンスは疲れた身体に鞭打って、丘を駆け上がる。
天穴の青い光は、いっそう弱く、蠢いていた。
今にもふい、と消えてしまいそうだ。

ウンスは、淡い光に向かって手を伸ばすと、そのまま歩いてその中に入った。
その姿が消えた後、すう、と光も吸い込まれるように、消えた。



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by kkkaaat | 2013-12-14 00:44 | 颶風【シンイ二次】 | Comments(16)
Commented by トナン*.゚ at 2013-12-14 01:04 x
ウンスの願うような気持ちに同調してしまったのかまたしても涙が溢れてきちゃいました…

チェヨンを殺した男…殺すかもしれない男達にチェヨンを助ける手助けして貰った事…
イソンゲとトックンを利用するなんてミチ様さすがですね(^O^)

自分が出来うるやるべき事を全てやり遂げたウンス…
あとは祈るだけです。
Commented by 0523you at 2013-12-14 01:14 x
一気に読んでました。読み終わって、出てきた言葉は、おぉ~
言葉なのかうなりなのか、コメントのかけなかった時も含めて、
息詰まる思いで読んでます。
有難う
Commented by 比古那 at 2013-12-14 01:26 x
さて、渡された内容は「大丈夫よ」なのか「近づくな」なのか「開京は無事」なのか。

渡すタイミングは扉の前、しか思い付かない…。

アン・ジェの使いの時?とも思うけど、セットで思い出してくれそうだ。

良い仕事期待してます。イ・ソンゲ氏。

徳興君の話を聞いて蓄電?放電?したときにウンスのトギ仕込み習いたての漢字かケンチャナヨでおちついてくれたならな。

演技派なソンゲ、頭のキレを見せてもらいました。

そういや、ソンゲと顔見知りとは知らないか。よしよし。

美人でよかったわ、ウンス。美しさは世界を救うらしい。

Commented by saikai at 2013-12-14 01:27 x
「きっと一人のチェヨンは助かった・・・。」
『知っている』という事の責任を、これほどまでのおもいをして果たせというのだろうか。
人には、果たせない程の責務は降りかからないという言葉がありますが、ウンスには、それを背負うほどの強さと正直さがあるという事でしょうか。
全てウンスの全てのヨンが無事でありますように。
Commented at 2013-12-14 01:57 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by pekoe at 2013-12-14 02:22 x
ウンスはヨンに会いに行きたかっただろうな...
心細かっただろうな...

時間もなく、手立てもなく、
ほんと少ないチャンスを物にしなければならなくて。
それも託さなければならなかった相手が、あのイ・ソンゲ。

〉すれ違うほど近い歴史の道筋を正せば、並んで走るその先は、いっせいに正される。絡まるように走る無数の時間の筋は、糸のようにただ絡まり合っているのではなく、温められて時には飴のように溶けて、二本、三本がまた一つになる。

元のヨンとウンスになりますように。
Commented by みわちゃん at 2013-12-14 02:30 x
ソンゲに手紙を託しましたね。
中には、ハングルで何と書いてるのか、気になります。
無事に危険なことを伝えて、事が上手く運びますように‥‥。

現代人のウンスが、川で体や髪を洗うなんて‥すっかり高麗で生きる人になってるんですね。

天穴に何とか間に合い、中に入ることが出来て、とりあえずは良かったです。
‥‥が、お話が延びたとのこと。
ウンスは時空を旅しなきゃならないのでしょうか?
まだまだ話が続くのは嬉しいのですが‥。

続きをお待ちしています。
Commented by aki at 2013-12-14 08:34 x
また、予想だにしない展開!
成長したイ・ソンゲにヨンの命運を託すことになるとは・・
あのとき、イ・ソンゲを助けるには、神の理由があったのじゃないかと思うほど、あのドラマの時の、天真爛漫なイソンゲとヨンの会話のシーンがフラッシュバック。
まさにウンスじゃないけど、今はヨンを助けてとイ・ソンゲにすがりたい気分。
あの徳興君は、蛇のごとくの執念があるゆえ、謀反造反へのかっぱの男。
敵にするにも味方にするにもやっかいな奴。
イ・ソンゲがどう扱うのかも・・・・・

楽しみです。
Commented by グリーン at 2013-12-14 08:59 x
イ・ソンゲはヨンとウンスが結婚したことを知りませんね。ヨンは言ってないし。ウンスもヨンとソンゲが密談していたことを知らない。ウンスは何と書いてソンゲに託したのか気になります。ヨンが気づく言葉でしょうね。きっとヨンはウンスが天欠を通り危険を冒してここまで来たことに気づくのじゃないかなと思います。

天欠はウンスを待っていてくれました。あとはウンスが自分の居るべき場所に戻れることを願うばかりです。また時空をさまようのはあまりにもウンスが可哀そうすぎるのではと。。。
Commented by ちび at 2013-12-14 09:39 x
もう、一気に読みです。                              明日のウンス?登場でヨンも察してくれる事でしょう、                                                       それにしても、この話の展開、二次小説の枠超えてます。                                                    ワクワクしながら、次を待ってまーす。(^○^)                 
Commented by チビママ at 2013-12-14 16:38 x
本当に、ドラマを見ているかの様な迫力と臨場感ですね
一冊の本にして読みたいです。
早く、次が知りたくて…。
ウンスはどうなるのか?チェ・ヨン
は助かるのか?
二人は再び会えるのかと、
気ばかりが焦ってます。
凄いとしか言い様のない展開に、痺れます。
Commented by チビママ at 2013-12-14 16:38 x
本当に、ドラマを見ているかの様な迫力と臨場感ですね
一冊の本にして読みたいです。
早く、次が知りたくて…。
ウンスはどうなるのか?チェ・ヨン
は助かるのか?
二人は再び会えるのかと、
気ばかりが焦ってます。
凄いとしか言い様のない展開に、痺れます。
Commented by きら at 2013-12-14 19:16 x
緊迫感がありドキドキがとまりません・・イ・ソンゲを信じるしかないこの状況・・やるだけはやったよウンス!!
あとは神のみぞ知る!ヨン助かって!お願い神様!
Commented at 2013-12-14 19:45 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2013-12-14 20:16 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2013-12-14 22:59 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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