筆記



【シンイ二次】颶風23



チェ・ヨンはイ・ソンゲの話を聞いて、絶句した。

「確かに、医仙さまでございました。あまりに慌ただしく、
長くはお話できなかったのが、返す返すも口惜しく」

徳興君とともに輿に乗って双城総管府に現れて、牢に入れられて殺されかけ、
それをイ・ソンゲに救われて、俺宛の書付を残して、城の外に逃げただと。
ウンスがここにいたということは、開京の紅巾の乱には巻きこまれては
いないと喜んだほうがいいのか、いや、そもそも徳興君と共にいたと聞いて
落ち着いてなどいられない。

先ほどは命を取らなかったが、今すぐ殺してやろうかと、ゆっくりと剣に
手が伸びるほど、チェ・ヨンは頭に来ていた。

それにしても話がおかしい。
もし本当にウンスがこの双城総管府に来ていたのなら、なぜ一人で姿を消したのか。
どうして、この薬瓶だけを残していったのか。
そもそも、自分を見送ったはずのウンスが、自分より先にこの地にたどりつくのは
どう考えてもおかしいのだ。道理が通らぬ。

そう考えてチェ・ヨンは、ふう、と薬瓶をあがく手の下で見つけた時のことを
思い出して、薄ら寒くなる。
あれを自分に渡したウンスは、信じがたい話だが、百年ものとうの昔に
そこにいて、それを埋めたという。

チェ・ヨンは先ほど、馬の足跡を追いウンスを探すよう、十数名の高麗兵に命じる。
できれば数百名を事に当たらせて山狩りでもさせたかったが、今は到底無理なのだ。

「医仙さまは、徳興君がテホグン殿に毒を盛ろうとしているのをお知りになって
天からおいでになったのでしょうか。テホグン殿に警告をなすために」

イ・ソンゲが話すのを聞きながら、チェ・ヨンは迷いを振り切るように頭を振った。
思い悩んでわかることならば頭を使いもするが、どう考えてもわからぬこと。
新たな知らせを待つよりすべがない。

「医仙さまは天にお戻りになった今でも、高麗の国のことを気にかけて
くださっていたのですね」

イ・ソンゲがしみじみとそう言う。
チェ・ヨンが、考えこんでわずかにうつむいていた顔を上げて、低く言う。

「俺の、妻だ」

は、とイ・ソンゲが、怪訝な顔をする。
チェ・ヨンが脈絡なくわけのわからないことを言ったと思ったのだ。

「だから、イ・ソンゲ、お前の言う医仙さまは、俺の妻だ」

チェ・ヨンはイ・ソンゲの肩に、手を置くと、世話になったな、礼を言う、
とそれだけ言うと、足早に立ち去る。
これより精鋭二百を引き連れて、開京への道をひた走る。
それ以上は馬が足りぬのだ。
また後に会おう、と声に出さずに思いながら、チェ・ヨンはわずかに駆け足になった。

後に残されたイ・ソンゲは、未だチェ・ヨンの言葉の意味を飲みこみかねて、
ぽかんと口を開けたままだ。
それから、慌てて振り返る。

「医仙さまが、大護軍チェ・ヨン殿と夫婦(めおと)ですと」

驚きの言葉を発したときには、すでにチェ・ヨンの姿は見えなくなっていた。





「テホグン――!」

チュンソクをはじめとした十九名の于達赤は、目の前を走っていく馬上の人影が
誰かを見定めると、弾けたように飛び出して、声を上げた。
チェ・ヨンを先頭とする、二百騎の馬群は、しばらく進んで足を止める。

チェ・ヨンが駆け戻って、チュンソクの前で馬から飛び降りる。

「チュンソク、なぜここに。王の護衛は、いやそれより、開京は―!」

きつい口調で問い正すチェ・ヨンに、チュンソクは思わず一歩近寄る。

「開京、玄武門を破られ、城下は紅巾の占拠下にあり。
しかれども二軍六衛により皇宮は未だ守り抜かれております。
しかし打開のすべなく、兵糧も付きかけ、あと数日が限度かと」

チェ・ヨンは陰の気もあらわに、緊張をみなぎらせ、
チュンソクの話すのをじっと聞いている。
そこまで言ってチュンソクは、はっ、と目を見開いて、報告を続ける。

「王殿下、王妃殿下、重臣の方々はじめ、城下の民は皇宮にてみな無事です。
もちろん、ユ先生もです」

チェ・ヨンの力みきっていた肩が、すう、と下りる。
一瞬、目が開京の方を向いたが、すぐにチュンソクに戻って尋ねる。

「それで、なぜお前たちは、皇宮を出てここにいるのだ」

それは、この事態を打ち破るため、平壌州軍への伝令にと、我らを立てられました、
とチュンソクが説明する。トクマンが血路を開き、我ら一丸となって開京を抜け出し、
そのまま街道を駆けてまいりましたが、前方より馬群近づくのを見て、
隠れておりました、と続ける。
腿が切り裂かれ血の滲んだ下衣、髪も一部が切り取られ、額に刀傷を受けている
トクマンの姿に目をやり、チェ・ヨンは小さくうなずいた。
それから、ぐうと眉がひそめられ、怒り含みの口調でチェ・ヨンがつぶやく。

「近衛を我が身から離すとは、チョナはいったい何をお考えに」

それから目を閉じると頭を振って、考えてもらちが明かぬ、と目を開ける。
これより、開京へと前進する、平壌州軍はすでに出師し、こちらに向かっている、
我らより一日か、二日の後には加勢が見込めるだろう、
とチェ・ヨンがチュンソクに告げる。
我らはなんとしても皇宮にたどり着き、チョナにこの知らせをお伝えし、
平壌州軍の加勢までを持ちこたえ、そして、挟撃する、とチェ・ヨンが言うと、
チュンソクをはじめ、于達赤たちは力強くうなずいた。

「して、皇宮までどのようにまいりますか。作戦は」

そう尋ねたチュンソクに、チェ・ヨンは事も無げに答えた。

「正面突破、だ」



「テマン、お前はこれを着て、どうにか城下に紛れこめ。
皇宮までどうにかたどり着いて、アン・ジェに知らせろ」

まかせてください、と言いながら、于達赤を追撃した紅巾の死体から剥ぎ取った衣を渡されて、
テマンは顔をしかめた。
街道を離れ閑地を進んできたが、開京の京壁が木立越しに遠く見える距離まで
もう来ていた。

「俺たちは騒ぎを起こして、人目を引きながら皇宮を目指す」

この数でですか、とテマンが兵服を脱ぎながら、総員を見渡す。
一人五十でも、余ります、と指で数えるのを諦めて、そうチェ・ヨンに訴える。

「その書状をアン・ジェに渡せば、開門し、禁軍千が加勢に出る。
城門からの援護も望めよう。禁軍の撤退と同時に入城する」

それも城前の広路まで、たどり着けたらの話でしょう、俺、心配です、
とテマンが言うと、お前以外に皇宮まで忍んでいける奴がいない、
とチェ・ヨンはテマンの肩に手を置いた。

「頼むぞ」

そう言うと、さあ行け、とテマンを突き放す。
テマンは馬には乗らず、于達赤の顔を一瞥すると、獲物を追う鼬のように素早く走りはじめる。

チェ・ヨンはその姿を目で確かめると、双城総管府より伴ってきた精鋭二百と
于達赤に向き直る。それぞれ馬を引き、ごった返すように身を集めている。

「騎乗せよ」

低く、けれどひとりひとりまで響く声で、チェ・ヨンが命ずる。
いっせいに、皆が馬上となる。
二百と余名の目が、いっせいにチェ・ヨンに注がれる。
繰り返す、とチェ・ヨンが発する。

「玄武門、未だ修復なされず、ただ材木を組み重ねた障壁あるのみ。
行けるところまでは乗り破る。ただし後方に注意せよ。
友兵と離れすぎてはならぬ。二馬より広く間を開けずに走れ」

おう、とそろって声が上がる。
馬たちが、奮い立つように地面をかく。

「友兵が落馬したときは、後続が拾いあげろ。二身一馬となったものは、馬群中央に入れ。
馬群周囲の槍兵が下馬して戦いはじめたたときは、剣兵は見計らって降り、
密集して戦いながら、前方へと進む」

もう一度、太い声で、いらえがかえる。

「先陣は俺が取る」

そう言って、チェ・ヨンがにやりと笑うと、兵たちは顔を見合わせて、うなずきあう。
行くぞ、チェ・ヨンがそう言うと、馬はいっせいに緩やかに走りはじめた。



ちょっと長くなっちゃったので、切ります。
残りは夜までに整えアップします。

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by kkkaaat | 2013-12-16 14:04 | 颶風【シンイ二次】 | Comments(12)
Commented by グリーン at 2013-12-16 14:27 x
憧れの医仙が大護軍の妻になっていたとはイ・ソンゲ、驚くのは無理ありませんね。ちょっとかわいそうかなぁと思ったりもしました。

ウンスが城内に居るということはまだ本来のウンスの居る時空ではないという事ですね。
ヨンを助け天欠を潜ったウンスはどこへ行ったのでしょう。
また違う時空間を彷徨っているのでしょうか。だとしたらあまりにも二人には酷です。ウンスをもといた場所、ヨンのそばに帰してと願わずにいられません。

ヨンが帰還してきました。開京を護ってくれますね。
Commented by saikai at 2013-12-16 14:29 x
あのヨンを救ったウンスはどこにいるのでしょう。
心配でなりません。
Commented at 2013-12-16 15:03 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by みわちゃん at 2013-12-16 15:45 x
ややこしくなってきました。
ウンスが無事に城内にいるのなら、違う時空のウンスはどこに? そして元の時空に戻れたら、ヨンは生きてるのでしょうか?
そのために天穴をくぐったのに。
急に頭の中がぐちゃぐちゃになりだしてしまいました。
ヨンが開京に戻ったら、いるのは天穴をくぐってないウンスですよね?

すみません。
突然訳わからなくなっちゃいました。
Commented by 比古那 at 2013-12-16 17:40 x
来て帰ることはできる。

飴細工の様に3つが1つになるなら意識としてウンスに組み込まれるのでしょうか。

既思感?でしたか?デシャブ。
もしいつかのように、百年前のウンスを五年前のウンスが感じ取ったように。

命を落としたヨンを知らないウンスの琴線に触れた何かは悲しみのウンスの意識になるのでしょうか。

そうなると薬瓶に自分の文字を見てもこのウンスには通じない。

しかし、何かは感じ取れるはず。

だが、そのウンスは私たちのウンスではない。さて…。

人の世は選択と分岐の繰り返しですが、願わくは、悲しみのウンスに知らないウンスを組み込みたい。

わがままでしかないけれど。

ただ、ですよ。

そうなると黒天の動く時点から分岐しなきゃならなくなるわけです。もし天穴に入る事が必須次項ならば、ここのウンスも何らかの為に天穴に入らなければならなくなる。

ならば、ここに戻るのは数日誤差で悲しみのウンスになるはず。

と、こんなんでましたけど。(古い…)

はい、悪い癖発動。黙って読めないもんですかね、ワタシ。
Commented by kkkaaat at 2013-12-16 18:20
颶風24アップします。
皆様、たぶん必要のない混乱や心配させてごめんなさい。
やはりこの後は一括でアップすべきでした!
とりあえず、下書きを本書きにできたところを、今晩中に、
できる限りアップします。
アップ状況は、ブログトップの目次のところでお知らせしますね。
すみませぬ~(´Д`;)ヾ 
Commented by sakuranoki at 2013-12-16 19:49 x
『正面突破、だ』
チェ・ヨンの真骨頂!! さすが名将!!
かっこいい~!!

ドラマを見ているようですね~。
ドキドキしながら楽しんでおります。
早く皇宮へ!!!!!!!!
Commented by ちび at 2013-12-16 19:56 x
ウダルチ達が一気に飛び出した時から、変わったんではないでしょうか。それで、ウンスも城にいると、思っているし、城を出た理由も変わっている。 なんて思っております
Commented by pekoe at 2013-12-16 19:58 x
今日のツボ...
「だから、イ・ソンゲ、お前の言う医仙さまは、俺の妻だ」

ここですよ。俺の妻なんだから、気安く名を呼ぶなと。話題に出すなと。でも、イ・ソンゲがいなかったら、ウンスも、ヨンも助からなかったという複雑な心境。

馬を走らせるシーンの躍動感素晴らしいですね。蹄の音が、文章から聞こえてくるようでした。続き読みに行ってきます♪
Commented by aki at 2013-12-16 20:14 x
ウダルチたちは、ウンスを天穴に行かせるための記憶はなくなっているのだろうか・・・

時空が上書きされると、前のデータが消去されるのかな・・

ウンスが助けにいったことで、チェ・ヨンは、今、皇宮に向かうことが出来るわけで・・・

と、いいつつ、頭がこんがらがってる私です。

イ・ソンゲは、ウンスがヨンの妻になってることを知らなかった・・
これがあとで、何か影響するのかな・・

怖い展開・・ギブです・・

Commented by トナン at 2013-12-16 20:49 x
時間の修正でウンスの頑張りもチュンソク達にはなかった事になってしまったんですね。
イソンゲが良いところついてるんだけどなぁ…(-o-;)

しかしながら…チェヨンカッコいいですね(*^^*)
Commented by mana at 2013-12-16 21:20 x
天女もかくやと夢見心地なイソンゲに,ウンスの不可解な行動に混乱しながらも「俺の妻だ」と釘を差す!チェヨンがもうツボにハマりました!(>▽<)☆
徐々に過去と未來が融合してゆく様が素晴らしいです!
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二次小説。いまのところシンイとか。
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