筆記



【シンイ二次】颶風24

昼間に23アップしてあります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

城前広路にまであと少し。
そこでチェ・ヨンたちは足止めをくらっていた。
四方八方から押し寄せる紅巾に、一人、また一人と下馬を余儀なくされ、
今は密集隊形を取って進んでいるのだが、紅巾に剣の腕はないものの、
人壁を払うことができずに進みあぐねている。

もう幾度も雷功を放って、人群れを蹴散らしているが、きりがない。
チェ・ヨンとその後続をつとめる于達赤には、大きな痛手はないが、
集団後方の左右衛の兵が、人数に押されて、幾人かうち倒されはじめている。

身体も妙に重たるい。指先に微かな震えが走る。
雷功を打てるのも、あと二、三度が限度かもしれぬ。

「禁軍はまだか!」

チェ・ヨンの脇を守るチュンソクが、チェ・ヨンの内心を読んだように、
そう激しい息の合間に、吐き出すように言う。
どう切り抜けるか、チェ・ヨンが考えようとすると、打ち掛かられて、
剣花(ひばな)が散る。斬りかかって来る者の中には、手練も混じっているうえ、
あまりに人と、うちかかる武器が多すぎて、すべての動きを読み切ることが
チェ・ヨンでも難しかった。
どうする、犠牲覚悟で血路を開くか、指の一、二本ならよかろう、とチェ・ヨンが
姿勢を低くし、飛び上がらんとしたときだった。

ひょおん、ひょおん、と風を切る矢羽根の音が耳をかすめた。
チェ・ヨンが屋根の上に一度だけ目をやる。

「シウル―!」

屋根の上に、跳ぶように駆けるシウルとジホの姿があった。
呼び集めたのか、数十名の手裏房たちが、それぞれ手に小さな弓か弩を持って、
走りながら紅巾に矢を打つ。ご丁寧に剣や頭に赤い布を巻きつけている。
あいつら潜んでやがったな、と脚の怪我の血が、腰まで染みたトクマンが、
嬉しさで上ずった声で、そう叫ぶ。
先の方まで走っていったマンボ兄姉が何かを投げると、ぼん、と音がして
地が揺れた。火薬玉か、とチェ・ヨンが薄く笑う。
頭上からのいきなりの攻撃と火煙に、紅巾たちは慌てふためきだして、人壁が割れた。

「行くぞ!」

チェ・ヨンが、大声で叫ぶと、兵たちはいっせいに前に進む。
広路にもまた多くの紅巾がいたが、それがいっせいに脇に避けはじめる。
城門が開き、そこから大形の馬群が、人を蹴潰す勢いで、まろび出たのだ。

「馬体と馬体の間を駆け抜けろ」

乱れ走るように見える馬群だが、真中の三列の馬と馬の体躯の間は、
ちょうど人一人通れるほどに空いたまま、まっすぐに駆けてくる。
チェ・ヨンを先頭に、双城総管府より皇宮を目指した兵たちは、その馬体の通路を走る。

城門を、禁軍の騎馬に守られるようにくぐると、残りの兵も駆けこんでくる。
それを追って、紅巾の群れが迫り来る。
チェ・ヨンは今来た方にかけ戻り、兵たちが皆、城門を通り過ぎるのを、
立ち尽くして待った。
最後の十数馬が自分の横を駆け抜けるのを待たずに、チェ・ヨンは最後の渾身で雷功を打つ。
目の前に迫る人波がめくれ上がるように、後ろに吹っ飛ぶ。
その群民のなだれの間隙をついて、城門が閉じた。



「チェ・ヨン!」

便殿に駆けこむと、王は喜びのあまり、立ち上がった。
チェ・ヨンは王に、事態を早口に報告する。
そこにいた武臣たちは、チェ・ヨンの口報を聞いて、わずかな希望に目を交わし合う。
大護軍貢夫甫は、閉じられた城門の周囲に群がって、投石を続ける紅巾に対処するために、
御前を足早に下がった。

チェ・ヨンもこれから、禁軍の指揮に加わらねばならない。
王と話を交わしながら、チェ・ヨンの目は、辺りをさまよう。
すぐに目に入るだろうと思っていた人物の姿が見えないので、
チェ・ヨンは痺れを切らして、それを口に出した。

「ユ・ウンスはどこです」

ぐるりと見回したどこにも、ウンスの姿はなかった。
控えている王妃の側にも、その後ろに連なっている内官の影にも、
控えている典医寺の侍医たちの中にも。
王が、ひどく戸惑ったような顔をして、言いあぐねる。
王妃や内官たちも、困ったように視線をそらす。
チェ・ヨンが、急に気色ばんで声を高める。

「チョナ」

チェ・ヨンが、一歩王に迫った。

「それが…」

どう説明すればよいか、迷って王の言葉が途切れる。
王妃の横に控えていたチェ尚宮が、王に頭を下げると、すいと進み出て、
チェ・ヨンの前に立った。
いつもと変わらぬ厳しい顔で、甥の顔をじっと見上げる。

「ヨン、よいか、落ち着いて聞け」

いいから言ってくれ、とチェ・ヨンが苛立ちを隠しもせずに、そう言った。
チェ尚宮が、ふう、とため息をつく。

「ウンス殿の姿が、見当たらないのだ」

どういうことだ、わかるように説明してくれ、とチェ・ヨンが怒気もあらわに言うが、
チェ尚宮は気圧されもせずに、しっかりと甥の目を見つめて話す。

「我らにもよくわからぬのだ。ウンス殿はずっとこの皇宮におられたのは確かだ。
だのにお前に使いを出して、七日目のこと、急にその姿が見えなくなった。
城の外は紅巾に囲まれて、到底出ることはかなわぬ」

それ、そこの于達赤たちが出ていくまでは、姿を見かけた、とチェ尚宮が
チュンソクを指してそう言った。
後ろに控えていたチュンソクが、はいお見送りいただきました、とうなずく。

皇宮の中は探したのか、とチェ尚宮の肩に手をかける。
チェ尚宮は、落ち着け、ともう一度繰り返す。
これが落ち着いていられるか、とチェ・ヨンは拳を握り締める。
どういうことなのだ、わからぬ、と胸に手を入れて、懐の薬瓶をぎゅうと
握り締める。言いようのない不安が、チェ・ヨンの鼓動を早めていく。

「もちろん皇宮の中はすみずみまで探させたとも。
今ここは城下の民で溢れかえっておる。その中に不届きな者がおらぬとも限らぬゆえ、
できる限りその者たちも取り調べたが、おかしいのだ」

チェ尚宮は初めて、困惑の表情を顔に浮かべた。

「これだけの人で、不埒な振る舞いに及ぼうにも、かえって人目があってできぬのだ。
ヨン、ウンス殿はここで怪我人の手当に忙しく立ち働いていらしたので、
皆に顔も覚えられておってな。それだというのに、ウンス殿がどこかに行かれた
というようなところを見ていた者がおらぬ」

かき消えたと言うのか、とヨンが呆れ怒りをあらわにして、吐き捨てると、
チェ尚宮は、苦々しく顔をしかめた。

「そうとしか思えぬ」

チェ・ヨンはぐるりと見回した。
そして、その顔にチェ尚宮と同じ困惑を見て取ると、王に頭を下げ、
無言で踵を返す。
その目に、怒りと不安がひらめき立つ。

「ヨン、どうしようというのじゃ」

チェ尚宮がその背中を追いかけるように言うと、チェ・ヨンは一度振り返る。

「チョナのお力で見つけられるのなら、自ら探すまで」

待て、待たんか、とチェ尚宮が呼び止めたその時だった。
便殿へと折れる回廊から、お戻りになっていますが、取次ぎをお待ちください、
と慌てたように告げる声が聞こえる。
その声をすり抜けて、重いのに早い、乱れた足音が近づいて来る。
テホグン、テホグン、と呼ぶ声がぞっとするほどしわがれている。
いつもの猫のような歩き方が嘘のようだ。
よろめくような、それでもただひたすらに急ぐような。
チェ・ヨンは後ろへと振り返る。

「テマン!」

名前を呼ぶ声に、動揺があらわれる。
角を曲がって現れたテマンの顔を見て、チェ・ヨンは目を疑った。
城外で着替えをさせた紅巾の多くが着ている白茶の上下に黒い帯を結んでいるのは
先ほどの通りだが、まるで三日三晩を寝ずに通したように、げっそりと痩せている。
ただ城下を抜けただけはこうならない。
テマン、おまえ、とチュンソクが目を擦る。

テマンは、チェ・ヨンの姿を見つけると、一瞬目も口も大きく開いて、
息をするのも止めて、両手の拳を自分の目に強く強く押し付けた。
それからそれが取り払われると、テマンの目からは大粒の涙がぼろぼろとこぼれはじめ、
獣が吠えるような声で叫ぶと、チェ・ヨンに駆け寄る。
その姿のあまりの異様さに、于達赤がいっせいに、行く手を塞いだ。

「何があった」

于達赤たちに身体をつかまれて、それでももがくようにチェ・ヨンに手を伸ばす
テマンに、チェ・ヨンは急ぎ近づいて尋ねる。
離してやれ、と言うと、テマンはよろけるように歩み寄って、チェ・ヨンの袖をつかみ、
そのまま膝をついた。

「生きてた、生きてますよ。ユ先生、ちゃんと―」

その口から聞こえた言葉に、チェ・ヨンは、なにを、とつぶやくと、
呆然とテマンを見下ろした。



にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村
by kkkaaat | 2013-12-16 18:22 | 颶風【シンイ二次】 | Comments(16)
Commented by saikai at 2013-12-16 18:35 x
繋がったのですよね!
本日、仕事がお休みで、ストカーのようにミチさんのブログを張り込みしておりました。笑
テマンがウンスを見つけてくれたのですね。
ああ。早く種明かしして下さい。笑
ヨンと同じく待ちきれない!早くウンスに会いたい!!

ミチさん、1日に二度も更新してくださり、有難うございました。
Commented by 比古那 at 2013-12-16 19:30 x
待ちます。明日を待ちます。
Commented by グリーン at 2013-12-16 19:41 x
テマンがすべて覚えていたのですね。
良かった!
これで繋がったのですね。
あとはウンスが無事にヨンのもとへ帰ってきますように。
明日を待ちます。
Commented by ちび at 2013-12-16 19:44 x
テマンだけが、ウンスと時を共有したんですね。              ウンスが天門に入る時、<他が変わっても、わすれないで>と、叫んで行きました。やはり、忘れなかった。。涙です。                テマン,紅巾賊の中に混じった時 今とシンクロしたんですね。                                                 ウンスの苦労を知ってくれる人が、いて救われますね、                                                      本当に次が楽しみなお話です  ( ^)o(^ )   
            
Commented by sakuranoki at 2013-12-16 20:07 x
何も言葉が出ない!!  只々『う~ん』 と、うなるのみ。
圧倒されました。

絡まった糸が、どう繋がるのか?
鶴の首、私も、明日を待ちます。
Commented by pekoe at 2013-12-16 20:07 x
ウンスが、自分のこと覚えてくれてるかな...と天穴に入る前にとても不安に思って、思わずテマンに言った言葉。ヨンが助かるなら、それでもいいと決死の覚悟で天穴をくぐったんですものね...

明日の続きが楽しみです。
私も、明日は、ミチさんのblogに張り付いているかも(笑)。
Commented by iymar at 2013-12-16 20:36 x
すごく急ぎ足というか、先は?先は?と目で文章を追いました。
テマン・・・あなたの言葉がヨンの心にどれだけ入ったことか・・・。
よかった!続きが気になります!
Commented by aki at 2013-12-16 20:54 x
ウンス、帰ってくるよね・・・

心配・・・・(ノ_・,)

前後の事実を把握してるのは、テマナだけや・・・・

チェ・ヨン、これで、ウンスに会えなきゃ、死んだも同然だよぉおおおお・・・号泣・・

ピンポイントでヨンを救うことが出来たんだから、・・・

でも、今、皇宮にいないってことは、・・・・

ウンス、どこに行ったんだよぉおおおおおお(T▽T)

心配しぎて、胃が痛いよぉおお
胸が締め付けられるよぉお

なんとか、して・・・・ミチ様m(_ _)m
Commented by トナン at 2013-12-16 21:11 x
テマンだけは忘れていなかったのですね。

テマンの憔悴しきった姿。

死んだはずのチェヨンに逢えた歓喜、不眠不休でウンスと共に駆け抜けた想い…

涙が溢れて止まりません。
Commented by みみたび at 2013-12-16 21:22 x
オオ!テマンなんて素晴らしいの。抱きしめてあげたい。(嫌がられるかしら)壮大なお話になりましたね。もう夢中で読んでいます。
Commented by haruwata at 2013-12-16 21:32 x
日課のように、楽しく拝見させたいただいてます。
否、楽しくというより、先が読めなくて、どうなるのーとどきどきしながら、読ませていただいてます。
ここ最近の展開に、コメントせずにはいられなくなり… ここにきて、シンクロするのですね?!
わたしもみなさんと一緒に明日を待ちます(>_<)
Commented by みわちゃん at 2013-12-16 22:40 x
ウンスが消えた。
テマンはいつの間にか、ウンスと天穴に行ったテマンになってる。

でも、これでウンスが帰ってきても、居場所があるってことで、取りあえずは、ほっとしました。

寝不足のためか、いまいち訳がわからないままですが、続きをすご~く楽しみにして、明日も頑張りますね。
Commented by masafuku at 2013-12-16 23:51 x
もう毎日気になって張り付いてます。
更新までの間は今までのお話を繰り返し読んだりして待ってます♪
どんどん引き込まれてしまいます!!
次を楽しみにしてます♪
Commented at 2013-12-17 00:18
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2013-12-19 21:31 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by mayu at 2014-10-16 11:40 x
何度読んでも涙が・・・
この時のヨンの苛立ちと焦りが、ヒシヒシと伝わってきます。
訳の分からない薬瓶、テマンの様子、一気に不安が増しますよね。

ウンスが居ない狼狽振りが、如何にウンスを愛しなくてはならない存在であるかを物語っています。
<< 【シンイ二次】颶風25 【シンイ二次】颶風23 >>

二次小説。いまのところシンイとか。
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
最新の記事
カテゴリ
記事ランキング
最新のコメント
ウンスノートから読んでし..
by 比古那 at 13:31
あー、やっとたどり着けま..
by 比古那 at 10:48
みちさん お元気でしょ..
by mm5210 at 12:59
更新を待ってるの
by やっちゃん at 07:58
更新を待ってるの
by やっちゃん at 07:58
ブックマーク
以前の記事
検索