筆記



【シンイ二次】火、狩人4

「結んで…カット」

チャン・ビンが素早く、頚動脈をつなぎ合わせた縫合糸を切る。
ウンスは、傷口を広げていたクランプ(鉗子)を手早く取り出すと、
続けてフック(開創器)を慎重に傷口からどかした。
女人の傍らに、大きく広げたタオルの上には、
ウンスのキャリーバッグに入っていた、
学会での模擬手術に使用した手術道具がひとそろい、
並べられている。

ウンスは、額に手を上げて、展示会場で買ったばかりのライト付きの
ルーペの角度を変えると、今度は傷口の縫合のための針と糸の準備を
始めた。

サイレンの音が遠くから近づいてくる。
(いまさら、遅いのよ)
ウンスは心の中で毒づいたが、無駄口は叩かず、
黙って手を動かすことだけに集中する。
今度は、傷口の縫合だ。
手術の山場は越えた、あとは患者の体力次第ね、と
ウンスは少しだけ、肩の力を抜いた。





「こ、こっ、ここで、ですか?」

激しく言葉をどもらさせながら、ウンスは言った。
見合っていたチェ・ヨンとチャン・ビンが、
ウンスに目を戻して同時にうなずいた。

「こ、ここで…?」

ウンスは、屋外であるこの場所と、患者の女人に目をさまよわせ、
是とも否とも言えずに、ここで、と繰り返しながら、ほとんど
無意識のうちに、キャリーバッグを引き寄せて、そのジッパーを
引き開けはじめる。
が、手術道具に手が触れると、熱いものにでも触ったかのように、
急いで手を引っこめて、無理無理無理、と独り言のように言って、
頭を抱えた。

「世からも、お願いする」

天の医員殿、と言われて顔を上げたウンスが見たのは、
小柄で利発そうな青年の姿だった。
どこから出てきたのだろうか。
ウンスは思わず辺りをキョロキョロと見回した。
群青のフード付きのマントですっぽりと身体を覆っていて、
頭の後ろにおかしな編み髪をたらしている。

その後ろには、チェ・ヨンと名乗った男と似た装束の髭の男が
周囲に油断なく目を配りながら、立っている。
この男はまた別の、“髷(まげ)”頭だ。
(やっぱり時代劇の撮影だわ!)
ウンスはわずかに不安が緩むのを感じた。
しかしこのヒゲ男、腰にチェ・ヨンと同じように剣をさしていて、
いつでも抜けるようにか、しっかりと手をかけている。
あれも真剣なのだろうか、と考えると再び不安がおそってくる。

「ちょっと変なのがまた、ぞろぞろ出てきちゃってるんですけど!」

ウンスは泣きそうな声でそう言ったが、小柄な男の目が
いかにも悲しげな光を帯びているのを見て、騒ぐのを止めた。
もしや、と口を開く。

「あの、ご親族の方ですか? ご心配なのはわかりますけど、
勝手に手術なんてしたら、わたし、下手したら免停になっちゃうんです。
それにね、こんな場所でなんて、この人のためにもならないわ。
ね、この人とわたし、二人のために、わかってください」

早口で顔を突きつけるようにしてまくしたてるウンスの前で、
小柄な男は戸惑ったように目を見開いたが、ウンスの言葉が
途切れると、今度はチャン・ビンに目を向けた。

「そちらの天の医員殿は、この傷を治すことはできぬのか」

私は内科医ですから…、とチャン・ビンが静かに告げると、
またすぐに、ウンスを見上げた。

「天の医員殿、これより方法がないようです。
あなたの力をお借りしなければならぬ」

そう男が、か細い声なのに妙に力のこもった声で言うのと同時に、
チェ・ヨンの剣がまた、ウンスの首元に横から当てられた。
よせ、と小柄な男が言っても、チェ・ヨンは剣を下げず、
ただ低い声でウンスに言う。

「王命だ。治療をせよ」

世からも、重ねてお願いする、とその男が言う。
オウメイ? この男はいったいに何を言っているの、
とウンスが戸惑って、黙ってしまうと、
横からチャン・ビンのため息に続いて低い声がした。

「しかたない、私がやろう」

えっ、とウンスは大きな声で驚く。
チャン・ビンは、はったりでも冗談でもないようで、
ただ静かにウンスのキャリーバッグを開け始めた。

「血管の縫合なんてしたことあるんですか?」

ない、とチャン・ビンはこともなげに言う。
続けて、とびこみでやってきた怪我人の傷口の縫合くらいしか
経験はないが、きみがやらないなら、私がやるしかないだろう、
と言って、じっとウンスの目を見つめた。
ああ先輩そういう人でしたよね、
とウンスはがっくりと肩を落として小声でつぶやく。

チャン・ビンのクールな外見や振る舞いとは裏腹に、
ひとは彼を熱するところのない人間だと思いがちであるが。
このウンスの先輩は大層行動の熱い人物で、大学院を出てから二年ほど、
海外の医療ボランティアに行ったこともある。

ウンスは、わかった、わかったわよ、わたしだって助けたいのよ、
助けたいんだから、と甲高い声で言った。

「わたしが、―やります」

ウンスはそう言って、今度は恐る恐る剣を指で自分の身体から押しやって、
チェ・ヨンをキッと一回睨むと、チャン・ビンが開けたキャリーバッグから
手術道具を取り出し始めた。

「ありがたい。感謝する」

小柄な男が、まだ強張りのとけぬ声で、そう言うと、
後ろのヒゲ男が、直立不動になって、深々とお辞儀をする。
ウンスだけ聞こえるくらいに、チェ・ヨンはふん、と鼻から息を吐いて、
剣を小さな音を立てて、鞘に戻した。



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by kkkaaat | 2014-02-01 23:22 | 火、狩人【シンイ二次】 | Comments(17)
Commented by ピヨコ at 2014-02-01 23:42 x
こんばんは、ミチさま。更新有難うございます。
いよいよ手術がはじまってしまいました。その場で。
しかも、内科医のチャン先生。確かに、クールなイメージが強い人ですが、中身はやっぱり熱かった。カッコイイですね。
チャン先生。髭の男も活躍してねん。
Commented by 比古那 at 2014-02-01 23:48 x
大変なところで手術になったんですね。
やはりチャン・ビンはチャン・ビンでした。
うーむ、傷が気になります。

おなご達の。
Commented by みさ at 2014-02-02 00:04 x
やっぱり、ウンスは、チャン・ビンの言葉をきっかけに、進みましたね。
王様達も出て来て、大丈夫?

更新、ありがとうございます。
Commented by sakuranoki at 2014-02-02 00:18 x
ミチ様、更新有難うございます。

屋外での手術。野外病院ですね。
すごい展開です。

チャン・ビン先生の持つ、医者としての熱い熱情!
王様の王妃様を案ずる毅然とした心情。!

手術の山場を越えて、少しだけ肩の力を抜いた
ウンス!

近づいてくるサイレンの音!!

誰が救急車に乗るのでしょうか?
これだけの人数がどこへ行くのでしょうか?
これからどの様に広がって行くのでしょうか?

読んでいて、胸が「ドキドキ」しています。
続きが楽しみです。
Commented by チビママ at 2014-02-02 01:12 x
不遜な態度のチェ・ヨンとウンスの
バトルが始まりそうな予感?
先が読めそうで読めない、
この感じが堪りません(^^)
それにしても、ウンスは相変わらずの天然ですね。
まだ時代劇と思ってる?
解った時のリアクションが楽しみです(^o^)
早々の更新ありがとうございましたm(__)m
Commented by mm5210 at 2014-02-02 01:32
「変なのがまた、ぞろぞろ出てきちゃってる」で大笑いしながら、そりゃあそうだろうと。
剣をかざすチェ・ヨン、フード付きマントを羽織った小柄な男、鎧姿の髭男。
ウンス、他にもあと2人いるんですよ、ヤケに身軽な革鎧と、天穴を見張っている背の高い若い男が。
こちらの物語、状況は緊迫していますが、読んでいるとなぜかニヤニヤしちゃって…なんだか楽しいです!
Commented by トナン at 2014-02-02 04:44 x
さすがチャンビン先生、鶴の一声ですね。
ウンスにお礼を言ってるのはチョナとチュンソクですよね(^_^;)
ヨンとウンス、早くも戦闘態勢に入っちゃってますね(笑)
しかし血管を縫合するなんて、やっぱり
ウンスすごいですね!
それも道端でやってのけちゃうなんてさすが我らがウンス!
ウンスみたいな腕利きの先生にチョイチョイと私も整形お願いしたいな(笑)
夜中につい目が覚めちゃって。
…もう少し眠ります。おやすみなさいませ(*^o^*)

Commented by ミジャ at 2014-02-03 17:22 x
ヨンさん、ウンスさんの首に剣を当てたり、ツンケンした態度だったり……

でも心の中では………て、今、シンイの小説本読んでて、えー!心の中では、こんなこと考えてたんだ!と、驚いたり、少々ショックうけたり.、嬉しかったり……
このお話での2人も、もうすでに、惹かれあってるのかしら……続き、楽しみにまっております。
Commented by kkkaaat at 2014-02-03 17:40
>ピヨコさん
こんにちは!
こちらこそお読みいただきありがとうございます。
その場で手術、無謀ですが、韓ドラということで(笑)
チャン侍医、ウンスに話した最初の言葉が、
「この人は本当に医者なのか。患者を目の前にして見もしない」
でしたよね。超クールなのに、医者としては患者に寄り添う
素敵な人でした。現代でもそうあれかし。
ヒゲの男、相変わらずご贔屓です(笑)
Commented by kkkaaat at 2014-02-03 17:41
>比古那さん
正直言えばそれはありえないでしょ、と、迷ったんですが、
あの、この話、韓ドラだと思って読んでください(笑)
韓ドラなら、ありでしょ!
チャン・ビン先生、書いてて、より好きになってきちゃってます。

ピピー! そこ、こだわらない(笑)
Commented by kkkaaat at 2014-02-03 17:41
>みささん
ドラマでウンスが変わっていったの、ヨンの影響が大だけど、
チャン・ビン先生の影響も大きかったですよね。
王様、いてもたってもいられなくて、出てきちゃいました。

こちらこそ、読んでいただきありがとうございます。
Commented by kkkaaat at 2014-02-03 17:41
>sakuranokiさん
ほんと戦場でもその場ではやらないだろう、と思いましたが
そこは韓ドラ!!

チャン・ビン先生は、ドラマでの熱い心とクールな外見を
ぜひ再現したいです。そしてぜひ途中退場なしで(笑)

さてサイレン近づいてきました。
どうなりますかね?
ドキドキしてくださって、ほんと嬉しいです。

今晩、続きアップします。明日はかいやぐらの方も更新したいです。
Commented by aki at 2014-02-03 21:19 x
やっぱり、手術しちゃってますね、ウンス。
でも、それだけ、緊急事態で、救急車を待ってたんじゃ、間に合わないと、チャン・ビン先生も察知したゆえ、「君がやらないなら、私が・・・」って、ウンスの性格をよーくわかってる行動・・
ふむふむ・・。

手術終了で、救急車登場・・・って、ことは、予後を見るため、ワンビママは、多分、入院ですよね。

個室・・?
4人部屋?
って、お金、誰が払うんだろ??とか・・
と、夢のないことまで、考えてる私です・・。

律儀にお辞儀してるのは、チュンソクですよね。
場面が目に浮かびます。
楽しみ、楽しみ~。

かいやぐらも、イライラMAXの、ヨン、どうなったかなぁって、心配してる私です。
Commented by kkkaaat at 2014-02-04 02:07
>チビママさん
この二人、ちゃんと仲良くなれるんでしょうか?
読めそうで、ちょっとずらしていきたいと思いますが、
私にできるかしら。
>それにしても、ウンスは相変わらずの天然ですね。
ドラマでもかなり長く受け入れてなかったですよね。
受け入れないわりに、なじむのは早い(笑)
少しずつ、わかってきそうです。
Commented by kkkaaat at 2014-02-04 02:07
>mm5210さん
大笑い、ありがとうございます!
現代に出てきたら、あきらかに浮きますからね、彼ら。
なんか鎧、がしゃがしゃいってるだろうし、
髪型、変だし(笑)
全員そろったら、、ウンス、ドン引きでしょうね。
ちょっと多すぎですから(笑)
楽しいと言っていただけて、嬉しいですヾ(*´∀`*)ノ
これから、どんどんおかしな方向にいきますよ~。
Commented by kkkaaat at 2014-02-04 02:07
>トナンさん
チャン・ビン侍医、本質をついた発言をする人でしたよね。
そうです、チョナ、やっぱり黙ってられなくて出てきて
しまったようです。
ウンス、ドラマでも意外や凄腕でしたよね。
整形の方も、かなりの腕と見ました。
私もぜひお願いしたく…ウンスけっこう高いお金取りそう(笑)
お。4.44の時間でしたね。
Commented by kkkaaat at 2014-02-04 02:08
>ミジャさん
ヨン、今はまだこの生意気な女人はなんだ! 的な時期でしょうか。
小説本、二次書きとしては、けっこうショックを受けてます。
そういう気持ちだったんだ、違う気持ちだと思って
もう書いちゃったよ的な(笑)
でも逆に、刺激されていろいろと書きたくなったりしてます。
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