筆記



【シンイ二次】北斗七星6



「ねえ、都の噂は耳にしなかった? 体調がどうとか、顔色がどうとか。
ああっ、でも、あれだわね! 悪い噂だって意図的に流した可能性が
あるわけだから、うのみにはできないわ。ってことは逆に大変順調だそうだ、
なんて話も信用できないわよね」

顔を見るなり、ウンスはべらべらと一人勝手に喋りだし、
答えを待たずに一人勝手に考えを進めている。
トギは呆れ顔で、仕入れ担いで帰ってきた原料生薬の重い包みを、
ウンスに向かって放り投げる。

「おうっ! ちょっ! あぶなっ」

ウンスは丸い腹のうえで、荷物を受け止めてから、
トギにくってかかる。

「ちょっと危ないじゃないの! お腹の子どもに何かあったらどうするの?」

荷物を何とか抱えなおすと、ウンスは作業小屋にそれを運びながら大声を上げる。
トギは、ちっと舌打ちをして鼻で笑うと、水を飲もうと井戸へと向かった。

どさりと小屋の作業台に荷を置くと、ウンスはうーんとうめいて腰をさすり、
小屋の扉から外を確かめると戸を閉め、ごそごそと着物をたぐりあげる。
とたんにトギがバタンと音をたてて入ってくるなり、
ウンスの手をパチンと音を立てて叩いた。

「だって重いのよ、疲れるの。ね、あなたが戻ってきて気を配る人も増えたんだし」

ウンスが揉み手をして言うと、トギはせわしなく手で詰問する。

「外してない、寝るときもよ。ほんと。あなたがいなかった四日間、一度も」

トギは目を細くしてウンスの頭のてっぺんからつま先までじろじろと観察し、
それからおもむろに、すでにたぐりあげられかけていた着物をさらに
たくしあげる。

「ほらね、行く前にあなたが結んだとおりでしょ?」

ウンスの腰に結び付けられた、布団の塊のようなそれの紐の結び目を、
トギは仔細に観察し、ふん、と息を吐くと丁寧に着物を戻す。
うなずいてみせたトギに、ウンスは手を目の前で合わせる。
トギはしぶしぶうなずいて、夜になって部屋の戸締りをしてから、
とウンスに伝える。
ウンスは、一瞬ぱっと顔を明るくして、それから思い出したように、
また質問をしはじめた。

「ね、それで、開京の話はないの? 王妃様のものじゃなくても、
何でもいいの。新しい倭寇の話なんかはあんまり聞きたくないけど。
王妃様とお腹の太子様は大変お健やかになさっている、とか
太子の生誕するのを祝って明国から贈り物が届けられた、とか」

トギは包みを開きながら、大きく首を振った。
茶屋で用もないのに時間をつぶして噂話にも聞き耳を立てたし、
薬屋の主人にも最近変わった話は聞かないか、とわざわざ尋ねたが、
何も変わりはないようだと知って、ウンスは拍子抜けしたような
表情を浮かべた。

「まあ、何もないのがいちばんなのよね…」

自分に言い聞かせるようにつぶやく。

「ああっ! わたしが町に出られたら、もっといろいろ聞き出せるのに!」

とウンスが地団駄を踏むようにして言うと、
トギは眉をしかめて、町に出るなどもってのほかだ、と手を動かす。
声が出せていたら、よほどの大声に違いない。

「わかってる、わかってるわよ。
そうですよ、わたしは身重で具合が悪くて静養中ですってば!」

つわりがひどくて埃っぽい開京の屋敷にもいられなくて、
年かさの妊婦だから無理もできなくって、
友人の薬師(くすし)のところに身を寄せてるんだから、
町になんか出られませんっ、とウンスが口の中でぶつぶついうと、
トギは、長い長いため息をつく。
それに気づいたウンスが、口を尖らせて言う。

「だってもう半年もここから、この家の敷地から出てないわ。
散歩だって何があるかわからない、どこから何が漏れるかわからないから
しちゃだめだって、ヨンからきつく言われて、ずーっと守ってる。
ここは静かで素敵なところよ、それは認めるわよ。
でも、いくらなんでもここはひとけがなさすぎるわ!」

なにせお隣の家まで、歩いて半刻はかかる。

「話し相手はあなただけ。それに、それに、
女一人でこんなところに住むなんて、ええと、物騒だわ!」

トギは御前から下がると、開京の南にそびえる松獄山の麓に、
典医寺で働いていたときの禄を貯めたもので人足を雇い、
小さく土地を開いて屋敷を設けたのだ。
屋敷の周囲を自らこつこつと開墾して薬草畑を作って、
その売り買いで長く暮らしを立てていた。

「私は困ったことなどない? あっそう! あっ、そう…」

ウンスはまるで子どもの喧嘩のように、この辺鄙な場所の屋敷に
言いがかりをつけようとするが、トギにとってはすべて塩梅のいい
ようにしつらえられたこの住処をけなす言葉はなかなか見つからない。

トギは、ウンスのいらついた顔をじっと見て、表情を緩めると、
諭すようにゆっくりと手を動かした。

「ええ、ええ、わかってるわよ。だからこそわたしは怪しまれずに
ずっと隠遁していられてるの。本当は孕んでいないのを隠しとおせてる。
わかってます…」

ウンスは苛立ちを抑えらずに、立ったままつま先をパタパタと動かしている。
トギはほどいた包みの片隅から、竹皮で包んだものをぐいと差し出した。
最初はぎろりと睨んだウンスも、すぐにぱっと顔を向き直らせて、
ひったくるように受け取る。

「これだから、トギのこと大好きよ!」

包みの中は甘い餅菓子で、トギはウンスのころりと変わった態度に、
肩をすくめる。
全部たいらげて本当に腹ぼてのように肥えるといいわ、とさっそく開けて
頬張りはじめたウンスに向かって手言葉を投げつける。

「もう、嫌味なんて言わないで! これだけが楽しみなの!」

口に餅をつめたまま、聞き取りづらい声でそう言うウンスを無視して、
トギは荷の片付けをはじめる。
待って待って、とウンスは菓子を大事そうに棚に置くと、
急いで飲み下して、トギの横で手伝いをはじめる。

「お世話になっているんだから、これぐらいはしなくちゃね。
ほんとに感謝してるの、トギには」

ウンスが顔を覗きこみながらそう言うと、トギの顔がわずかに柔らかくなる。
産み月まであと数日。
十月めに入れば、産まれるまでは、あっという間だ。

「もうすぐ、ね…」

ウンスは自分でも気づかぬうちに、そうつぶやいていた。
トギはちらりと横を向いてウンスの横顔を見て、
本人は内心がこぼれていることに気づいていないと見て取ると、
気づかれぬよう小さくため息をついて荷解きを続けた。



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by kkkaaat | 2014-09-29 19:57 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(9)
Commented at 2014-09-29 23:20 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ミサ at 2014-09-30 01:01 x
トギだ~
嬉しい~っ
ウンスの親友
ウンス、もうすこしの我慢、
頑張れ~、
王妃は、大丈夫?

Commented by りえ at 2014-09-30 03:44 x
ミチさんおはようございます。
いらいらモードのウンスをいなすトギのほうがお姉さんらしい・・・。
静かな生活は、ウンスにとっては刺激が少なすぎるんですね。
トギいいなあ。阿吽の呼吸っていう感じです。
Commented by ミジャ at 2014-09-30 08:13 x
ミチさん、おはようございます。
このブログ始められて一周年すぎてたんですね。おめでとうございます!
私が、ミチさんのブログにお邪魔させてもらったのは、「雨」のあと「明日の風」の途中からだったと思います。それから、こそっとお邪魔してよませてもらって…こそっと帰ってましたが、「颶風」が終わったところでもう感動してしまって……初コメしちゃったんです。
それからは、しつこいように……お邪魔しております。ずいぶん前のような、あっと言う間だったよーな。今も相変わらず、シンイファンです(^ω^)
ミチさん、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

ウンスの妊婦大作戦!(違…)始まってたんですね。てか、もうすぐ終わるのね……
ばれないよう、気付かれないように都から離れていたんですね。自分で決めた事とは言え…人目につかないようおとなしくこもって……ウンスには、辛い時間でしたね。
でも、トギがそばにずっといてくれたんだ!ケンカしながらも、ウンスの1番の理解者ですよね。トギとテマンが、ウンスとヨンのそばにいつもいてくれて、ほんとによかった。これから、もっともっと大変なことが起こりそうですが、頑張って!続き楽しみにお待ちしております。
Commented by トナン at 2014-09-30 22:43 x
こんばんは♪
おしゃべりが大好きで陽気なウンスにとってはトギの暮らすいい塩梅のこの地はとても退屈で寂しいのでしょうね。
トギはぶっきらぼうで無愛想なイメージがあり、最初はウンスを嫌っているのかなぁって思ってましたが、一番ウンスを理解しているのかもしれませんね。
お互いに隠し事なくぶつかっていける相手。
そして一番信頼できる相手。
トギの物語を読んでみたいなぁって今おもっちゃいました。
チャン先生に片思いしてたと思われますが、トギにも誰かいい人が現れないかなぁ。
ウンスの赤ちゃん大作戦が上手くいきますように(#^.^#)
明日から10月ですね。
私の大好きな季節到来。
あまり無理されませんように、体調に気をつけてお過ごし下さいね。
それでは…
Commented by ピヨコ at 2014-10-01 14:54 x
こんにちは~
トギとウンスのやり取り本当に面白いですね^^
トギもイラッとしても、きっとウンスの事が
好きなんだろうなと思わせるような素敵なやり取り。

ウンスの妊婦大作戦。最後までばれずにうまくいくのでしょうか。

Commented by mayu at 2014-10-01 21:38 x
愈々産み月ですか。
相変わらずウンスは騒がしいですね(笑)ヨンが、人里離れた所にやったのも気持ち分かります。
何時バレルか!冷や冷やものですもの。
トギは、相変わらずウンスと喧々諤々しながら、お目付け役で厳しくしてるんですね。
今、頼れるのはトギだけだから。。。
隠さなくていい様に、早く生まれるといいですね。
Commented at 2014-10-02 13:02 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 比古那 at 2014-10-07 23:34 x
相変わらず可愛らしいお嫁様ですね。
お菓子にキラキラしちゃうし。ずーっと隠し通されてきた年嵩の妊婦は無事出産なるか!!

王妃様は無事なのですかね…。悲しみを迎えねばならないのですかね。
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二次小説。いまのところシンイとか。
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