筆記



【シンイ二次】バレンタイン2(終)


「あなたには、手を焼かせられる」

その夜の隊長室で、チェ・ヨンは椅子の背に向かって座り、
背もたれに顎を乗せて、ため息をつく。
ウンスは兵装束はといて、ちょこんと寝台に腰掛けている。

「表に出ぬよう、何度もきつく言い渡した俺の命もどこ吹く風で、
部屋を抜け出しては目立つことをする」

これではあなたをお守りできませぬ、と目を見つめられると、
ウンスは手を顔の前に合わせて、ごめんね、と肩をすくめる。
チェ・ヨンはその愛らしい仕草に、思わず、ふ、と口元を緩ませて、
頭を振る。

「あなたが、隊員を思ってしてくれることはありがたいが、
それよりもご自分の身を守ることを第一にしてください」

いいですね、と立ち上がって横に腰掛けたチェ・ヨンに顔を覗きこまれ、
ウンスは二度頭を縦に大きく動かして答える。
そのまま、二人はなんとなく黙って、見つめ合うような形になった。
微かにウンスの顔がチェ・ヨンの方へと引き寄せられる。

と、チェ・ヨンが立ち上がる。

「今日は忙しく、少々疲れました。休みます」

そう言って、もう一つ椅子を引き寄せ足を乗せようとする。
ウンスは弾かれたように立ち上がると、小走りに何かを取りに行く。
チェ・ヨンはウンスの様子を、不思議そうに目で追った。

「ね、これ」

どうぞ、とウンスが差し出したのは、小ぶりの美しい布が貼られた飾り箱だ。
チェ・ヨンはわけがわからずに受け取って、箱をあらためる。

「これは?」

突然のウンスの行動に当惑して、箱の開け口に指をかけてながら
チェ・ヨンは尋ねる。
ウンスは小さく笑って答える。

「昼間作ってた菓子よ。出来上がったから、持ってきたの」

っていうかだいたいがあなたにあげるのが、本来の目的だったし、と
ウンスはぶつぶつとつぶやく。

「ありがたい。任務の折には持っていきます」

チェ・ヨンは微笑んで箱を顔の横へと持ち上げる。

「この箱はイムジャの持ち物でしょうに、いま別の箱に入れかえてお返し
いたします」

チェ・ヨンはそう勘違いして、執務机の上に飾り箱を置いて、
別の入れ物を探しはじめる。
ウンスが慌ててチェ・ヨンを止める。

「違うの、あの、その箱はラッピングっていうか、あの、
なんて言えばいいのかしら、本気の贈り物をするときは綺麗に包んで
渡すものなの、わたしのいた場所ではね。それに、本題は中身なの」

中を見てほしいの、とウンスに言われて、訳が分からずに
チェ・ヨンは箱へと戻る。

「この中を、見ればいいのですか」

チェ・ヨンがうかがうように言うと、ウンスはこくこくとうなずく。
箱は片蝶番の飾り箱で、爪をひっかけると容易に開く。
開けた箱の中には、典医寺で見た飴菓子が一口で食べられる大きさに固められて、
いくつも入っている。
特に他のものは入っておらず、チェ・ヨンはもの問いたげに顔を上げて、
ウンスの目を見る。

「うまそうです。それに、侍医の話によれば身体にもよいものらしい。
感謝しています」

チェ・ヨンがこの答えで合っているのか、探るように答えたが、
ウンスの目の奥の、何かを期待するような風は変わらない。
戸惑いの浮かぶチェ・ヨンの顔を見て、ウンスはその飴菓子の一つを指さす。

「この形、かわいいでしょう?」

菓子の一つ一つが、何かの紋様のような形に揃えられているのに気づく。
一つ持ち上げると、上下逆さまかな、とウンスに控えめに指摘される。

「わざわざ、整えてくださったのか」

そう尋ねると、ウンスははにかむようにうなずく。
この形には何か意味があるのか、と尋ねられて、ウンスは驚く。

「意味、知らない?」

チェ・ヨンがうなずくと、ウンスは拍子抜けしたように肩を落とす。この時代にはこうした記号の意味がすでに伝来していると、思いこんでいたのだ。

「ええとね、この形は、心の臓を表したハートという形なの」

その続きを聞かぬまま、チェ・ヨンが合点がいったようにうなずく。
説明を続けようとするウンスより先に、チェ・ヨンが口を開く。

「なるほど、心の臓腑の形とは、心も身体も鼓舞する菓子にふさわしい。
疲れた身には、染み入る糧食となりましょう」

部下たちには医仙のまじないがかかっている、と言ってやりましょう、
喜びます、と言われてウンスは半笑いでチェ・ヨンを押しとどめる。

「あ、まあ、みんなのはただの球状に丸めたらから、うん、
まじないをかけてあるのは、あなたのだけよ。
天界では弐月の十四日、つまり今日ね、大切なひとにチョコ…、
って言ってもわからないか。
ええとね、甘いお菓子を贈る習わしがあるのよ」

大切なひと、というウンスの言葉に不意をつかれて、
チェ・ヨンの口元が思わずほころぶ。
咳払いでそれをごまかすと、箱を大事そうに閉じる。

「ならば、つまりこれは、俺だけへの贈り物―なのですね」

そうチェ・ヨンに言われて、ウンスはようやく嬉しそうに大きくうなずいた。
それでは大事にいたします、と言ったチェ・ヨンの動きがはたと止まる。

「ですが、困りました」

視線を床に落として、考えこむ。
どういうことかと、じっとチェ・ヨンを見つめるウンスへと
顔を上げて目を見つめ、口を開く。

「そうした天界の風習もしらず、俺は何も用意しておりませぬ」

ウンスは慌てて、両手を顔の前でばたばたと振る。

「そんな、いいのよ。だってバレンタインは女性から男性へと
贈り物をする日だから」

しかしそれでは釣り合いが取れませぬ、とチェ・ヨンが納得しかねる
といった風に口元を引き結ぶと、ウンスは続けて説明する。

「あのね、バレンタインデイ、つまり今日は女性から男性へ渡すでしょ。
そのひと月後の参月の十四日のホワイトデイには、男性から女性に
贈り物をするの」

このことは、なんかお返しを要求してるみたいで言いたくなかったんだけど、
とウンスは、いたずらっぽい目でチェ・ヨンを見ながら指で唇を隠すような
仕草をした。

「ひと月ののちに…」

微笑みながらそう言ったチェ・ヨンの言葉が途切れ、視線に薄く幕が降りる。
すいとそらされた視線が、一瞬手首の傷をかすめたことに、
ウンスは気づいてしまった。
落ち着いた足取りで、チェ・ヨンの傍まで歩み寄ると、
ウンスはわずかに顔を背けているチェ・ヨンの頬に手を当てて、
自分へと向かせる。

「そう、一ヶ月あとよ。もらったものの、三倍くらいのお返しを
しなきゃいけないのよ」

ウンスが明るい声を作ってそう言うと、チェ・ヨンは自分に伸ばされている
ウンスの手首をぎゅうと握った。
そのまま、自分の頬へ強くウンスの手のひらを押し付ける。
チェ・ヨンの揺れるような眼差しを、ウンスは静かに受け止める。

「必ず、ひと月ののちに、差し上げます」

チェ・ヨンは我が身にも言い聞かせるように、そう言った。
食べ物でも、衣でも飾り物でも、あなたが望むものをおっしゃってください、
チェ・ヨンは固さは残るものの、笑みを作ってウンスに言う。

「わたしは物欲が強いから、そんなこと言ったら大変よ。
あなた、破産しちゃうかも」

ウンスがわざとおどけて言うと、チェ・ヨンの微笑みがようやく柔らぐ。
頬からウンスの手を外し、チェ・ヨンは両手でそれを包みこみ、
そのまま温めるようにしばらくじっと握る。

「大丈夫よ。典医寺で解毒剤を作ってる。きっと培養は成功するわ」

そう力づけるように言うと、チェ・ヨンは何も言わずに、
ウンスの目を見ながらうなずく。
そして、壊れもののようにウンスを抱きしめる。

「ひと月ののちに、必ず」

チェ・ヨンは意志のこもった声でもう一度そう言って、
ウンスを抱き寄せる腕に、少しだけ力をこめた。

(終)



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by kkkaaat | 2015-02-16 00:29 | 短編【シンイ二次】 | Comments(13)
Commented by りえ at 2015-02-16 04:00 x
みちさん、おはようございます。
2/14がこんなに嬉しかったことはないです。
ウンスが心配でこわい顔になるヨンが、ほっと頬を緩める瞬間が「ああ、いいな」って思いました。
春の足音が待ち遠しい今日この頃、どうぞご自愛ください。
Commented by ミジャ at 2015-02-16 04:13 x
ミチさん、こんばんは。
…何だかあま〜い匂いに誘われて来てみたら、お話の続きが〜( ´ ▽ ` )ノ

……ヨンってば、もぉ〜鈍感!って思ってたけど、バレンタインなんて知らないし、ハートの形もわからないよね。
でもウンスに意味をきいて、大切な人への贈り物ってわかって喜ぶヨン!
……そして、お返しは、一ヶ月後と聞いて……(T . T)
一ヶ月後のホワイトデーには、必ず、ウンスへ贈り物ができますよーに!

…そして、またミチさんがこの続きを書いてくださるよーに(何気におねだりしたり…)お祈りしながら、もう少し寝ます!

お忙しいのに、お話の更新ありがとうございました。

また、お邪魔しまーす。( ´ ▽ ` )ノ
Commented by ポチッとな at 2015-02-16 06:56 x
チェヨンくん、ハート知らなかったんですね。それでは、特別も説明しないとわからないか。
すぐにお返しを考えるチェヨンくん、ステキ!
一ヶ月後に、必ず破産させちゃうほど贈り物してもらいましょうね。ウンスちゃん!
Commented by まろん at 2015-02-16 07:46 x
おはようございます。
ヨンへのヨンだけへの特別なハート♡
ふふっ、朝から思わず顔がほころびました(*^^*)
Commented at 2015-02-16 08:23 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ぽんた at 2015-02-16 09:01 x
おはヨンございます❤
ほぉ~っとするお話でした。
得した感いっぱいのバレンタインの贈り物…
ありがとうございました。
Commented by たまうさ at 2015-02-16 16:13 x
ミチさま こんにちは~。
ココロがほっこりするような、微笑ましいお話をありがとうございました。
バレンタインデー、そしてひと月後という期限に絡めたお話・・流石です~。
ウンスが初めて隊長室に来た日、チェ・ヨンは約束(告白?)しましたよね。
もし、解毒薬が完成して、ウンスが帰らなくてもよくなったら
この時代に、自分の傍に、留まってくれるか、尋ねると・・
たしか、天門が開くのもひと月後ぐらいでしたよね。
二人のココロに重くのしかかるカウントダウン・・
そこにほんのり色をさすホワイトデーの約束。
ミチさん、本当に素敵なお話をありがとうございました。
大切なウンスを優しく抱きしめるチェ・ヨンを想像して
ニヤニヤがとまりませんでした~笑

今、「シンイ」が再放送されておりますが
二人のキスシーンは婚礼を阻止する時の公開キスだけでしたよね。
「テェ~ジャン♪」の時もチュンソクが入ってきたし・・間がワルっ!
ラストシーンも離れたまんま見つめ合うだけだったし・・えっ、ソコでおわり?
という感じで、個人的には色々と消化不良だったので
ミチさまの「筆記」に出会えてホント良かったです。
これからもミチさまのペースでかまいませんので
「シンイ」の世界がずっと続いていくと良いな~って思っています。
Commented at 2015-02-18 02:11 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by p172172 at 2015-02-18 22:54 x
体に良い飴かぁ。さすが、ウンス、医員ですね。ヨンンにだけ、ハート型っていうのが、ウンスのかわいいところ。ウンスって何かにつけかわいいんですよね。ヨンがどんどんはまっていくのがわかる。
Commented by ヨンラブ at 2015-02-19 18:15 x
待ってました。「筆記」を読ませて頂いてからシンイの二次小説にはまりました。
これからも、楽しみにしています(^^)
Commented by kkkaaat at 2015-02-21 00:50
朝も早くから、夜遅くまで、皆様コメント感謝感謝です。
もう定期更新がないので、たまーに覗く方も多いと思うのですが、こうして反応いただけると、まだ読んでくださっている方がいるんだな、よし書こう! という気持ちがかきたてられます。ありがとうございます。

元気にしてますよ~!

そうなんです、ちょうど天門が開くと予想される頃のひと月前くらいが、バレンタインだったんじゃないのかな、と思ってます。あの「買い物に行きましょう」のエピソードのきっかけが、実はこのバレンタインだった、という自分設定なんですよ(笑)
なので、一周年リクエストの中にあった「お買い物」の話を、この後日譚として書けないかな、と思ってます。もし書けたらヨンでやってくださいまし~。
Commented by 比古那 at 2015-02-26 00:31 x
なんだよ~、いちゃいちゃしやがって、みたいなこの気持ちはなんでしょう(笑)
ばかっぷるめ(笑)

今年のバレンタインは不○屋の心の臓型サウザンドリーフ名産カカオマス喰ろうておった私に謝れ。自家もの。
Commented at 2015-03-02 16:04
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二次小説。いまのところシンイとか。
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