筆記



【シンイ二次】北斗七星8


「チェ・ヨン」

王妃がチェ・ヨンに声をかける。
は、と短く答えて、チェ・ヨンは一歩王妃に近づく。
そのか細い声が少しでも聞き取りやすいように。

「チェ・ヨン、見よ」

見るがよい、という王妃の目の奥に燃えるような光が輝いている。
傍らに寝かせた赤子に顔を向けて、王妃は誇らしげに微笑む。

「これほど美しい赤子を見たことがあるか」

赤子の頬に伸ばした腕の骨々しさに、チェ・ヨンは気づく。

「ご健勝そうです」

赤子を強く見つめて、チェ・ヨンはまた一歩赤子に近づきながら、
そう言った。
母が損なわれても子は無事に産まれるものらしい、見事なものよの、
と王妃が笑うように言うと、王が前に進み、赤子を撫ぜる王妃の手に、
そっと自分の手を重ねる。
王と王妃は視線を絡ませ、王妃がだるそうにうなずく。

「呼ぶのが遅くなってすまぬ」

王が口を開く。
滅相もない、とチェ・ヨンは首を振った。
すぐに引き渡す約束であったのだが、と王は言う。

「産まれてみるとな」

王は赤子に目をやり、目を細める。
これほど愛しく手放しがたいものだとは、としみじみと言いながら、
王妃とまた見交わす。

「さりとて、王妃が手放さぬという理由でこの部屋に赤子を
止め置き続けるのにも限度がある」

王は自分自身と王妃に言い聞かせるように、そう呟いた。
典医どもは、身から赤子を離さぬ王妃様の振る舞いを、
お心が―その―乱れていらっしゃるではないか、と危惧しはじめております。
チェ・ヨンはちらと王妃へと目を上げて遠慮がちにそう言うと、
すぐに目を伏せる。王妃がククと笑う。

「気がふれた、と言っているのであろう? 
チョナの手の者からも聞いておるゆえ、気にせぬでよい」

チェ・ヨンは、は、と答えて小さくうなずく。

「この後のことを考えれば、都合の悪いことではありますまい」

王妃は上を向き、ぼんやりと視線をさまよわせながら、言う。
なにせ私は子を失った気鬱でふせってしまうのだから、とぽつりと
言う声のか細さに、チェ・ヨンは思わず顔をあげる。

「またお会いになれます。参月を越えたころから山羊乳に慣らし、
半年をすぎれば、赤子は粥を食べられるようになると妻が申しておりました。
粥を口にできるようになったらすぐに開京へと戻る所存。
さすれば、また赤子にお会いになることもできましょう」

ウンスにたびたび皇宮へと連れてきてもらえばよい、
と王が励ますように王妃の手を握る。

「そうでございますね」

王妃は、逆に王を励ますように柔らかく微笑んでみせる。
そして二人は、赤子を見つめて、また視線を交わす。
チェ・ヨンは思わず口を開く。

「出過ぎたことを申し上げるのをお許しください。まだ間に合います。
手元でお育てになることは、できるのです」

王と王妃はしばらくの間、言葉には応ぜずに、ただじっと見つめ合う。
王妃がかすかに首を振る。

「チェ・ヨン、お前に見てもらいたいものがある」

王妃は言葉には直接に答えずに、チェ・ヨンに顔を向ける。
大儀そうに身体を起こそうとするのを、王が支える。
半身を起こすと、王妃は赤子の頬をいとしげに撫で、それから産着を開く。

「チョナは、私の勘違いではないか、とおっしゃいます。
勘違いなものですか」

王妃はふふと笑いながら、赤子の見え始めた肌を優しくさする。

「紅巾が王都の門を破った日ですもの、忘れようがありませぬ。
忘れるものですか。ウンスとともに瞻星台にまいったときに―」
※チョムソンデ:天文台

赤子の腕をはだけると、王妃は言葉を切って、じっと赤子の腕を見つめる。
しばしの間、部屋に静けさがおりる。
王妃は顔を上げると、チェ・ヨンの目を見た。

「チェ・ヨン、そなたなら知っておろう」

そなたなら、と呟きながら赤子の腕を示す。
チェ・ヨンは、失礼仕る、と一礼して王妃の元に歩み寄る。
赤子は部屋に入ったときと違って、うっすらと目をあけている。
その透き通った瞳に、チェ・ヨンは目を奪われて立ちすくむ。

「顔ではない、こちらを見よ」

王妃が可笑しそうに笑いながら、そううながす。
チェ・ヨンは赤子の腕に顔を寄せる。
息を呑む音がして、チェ・ヨンが弾かれたように身体を起こし、
王と王妃の顔に視線をさまよわせる。
もう一度顔を伏せて、遠慮も忘れて赤子の腕に手を添えて、
確認する。

「同じものであろう?」

王妃の青白い顔に、うっすらと喜色で紅がさす。
寝台についた手に力をこめて、王とチェ・ヨンに向かって
わずかに身を乗り出す。

「確かに」

とチェ・ヨンの口から、小さな返答が漏れるのを聞いて、王の眉根が寄る。
チェ・ヨンの肩をその手がつかむ。
確かに相違ないか、と詰め寄る口調で王が言うと、
チェ・ヨンは身体を起こし長い長い息を吐いてから、

確かにウンスの肩にも、北斗七星の形にならんだほくろがございます。

と王の目を見つめながら答えた。



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by kkkaaat | 2015-02-20 19:50 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(0)
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二次小説。いまのところシンイとか。
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