筆記



【シンイ二次】スリップ2










まずい…かもしれない。
できれば夢であってほしい、心から。
片手に一人、片手にもう一人、がっちりと男に腕をとられて
いるなんて悪夢そのものだ。

しかし、殺されなかっただけでも、ラッキーだったのかもしれない。
僕がチェ・ヨンではない、と言い出した後のテマンは、
本当にマンガのように髪を逆立てて、ドラマじゃ見たことがないくらいに、
怖い野生の動物のような顔をして、チョヌムジャに向けていた短剣を
僕の身体に向けていたから。

夢なら一刻も早く覚めてほしい、それでも一縷の望みを捨てきれずに、
そう祈るように思う。
どうやら夢じゃないんだけど。
まったく僕は、なんでこんな目にあっているのだろう?
どうしてドラマの中みたいな世界に来ちゃったんだ?



「薬が見つかって、天界へ行かずとも助かるなら、そのとき言います」

「一生守るから、俺のそばにいてくれないかと」

「その時が来て、俺がきいたら、返事をくれますか」

トークコンサートのファンサービスで、ドラマの一番人気のセリフを言って、
衣装もなくて、セットもなく、少し気恥ずかしくて笑って。
そういう話をしたあと、一度舞台袖にひっこんで、
何かにつまずいて。

そう、つまずいて。
足をすべらせて。

顔を上げたら、この場所にいたんだ。
なんだろう、頭がぼんやりする。
セットの変更? そんな話は、聞いてない。
というか、セットでは…ない。

ほんとうにさっきまであんなにクリアだった意識が朦朧とする。
ドッキリ系の何かだと思って、前と後ろをキョロキョロと見回す。
何かもっと、大きなリアクションをしたほうがいいんだろうか。
いや、ドッキリにしたって。

ちょっと整理しよう。
舞台袖にいて、つまずいて、どこかの土埃のひどい道路にいる。
これ、可能か? 不可能じゃないか?
飲み込めない事態に、身体がこわばって、歩き出すこともできない。

そこに、ギュンサンが……いや、トクマンがあらわれたんだ。




「おい、おまえ、元の間者か」

そのトクマンが僕の腕をぎゅうっとつかんだまま、いま、問い詰めてくる。
そうは言っても、本人ではないとは思い切れないのか、妙に弱腰だ。
それほど似ているのか。

いや、似ているどころじゃない。
だってこの世界のチェ・ヨンは僕なんだ。
この、このシンイのドラマの主役は、だれだ? 僕じゃないか。
ならば、このまま不審者扱いされるより、もっといい方法があることに気づく。
それに、こうして羽交い締めにされているなんて、すごく、その
……むかつく。

「ええい、離せ!」

睨みつけて、背筋を伸ばし、腕を振る。
トルベと目を合わせる。
怒りに満ちてこっちを見ていた瞳がとたんに揺れる。
大事なところだ、気合入れろ、と自分を叱咤する。

「何を騒いでいる。俺だ」

何年たったって忘れたりはしない。
仕草、目線、表情、声音。
腰の鬼剣、長衣の裾さばき、袂のある衣装でのアクション。

そりゃ今は、スーツ姿に革靴だけど。
トルベの手から力が抜けた、いいぞ、自由になった手を腰の剣に添える。
添えるっていうか、今は剣がないから、そういう仕草をするっていう意味。
ため息をついて、一度目を閉じる。
申し訳程度に前髪をかきまわして、できるだけ目深にかかるようにして。

3、2、1、アクション。

「おかしな格好で驚かせたな。子細はここでは言えぬが、いずれ話す」

落ち着いた声でそう言うと、とたんにトクマン側の手の力もみるみるうちに
弱まった。ふう、これでようやく両腕は自由になった。
衣装がないから、スーツの襟に手をかけて、ぴしっと着なおす。
それにしても、浮いてるなあ、このかっこう。

戸惑いが皆に広がる。ティムウダルチは互いに顔を見合わせて、
どうしようと目で困惑を伝え合っている。
いやまあ普通に不審者だよね、このかっこうで高麗は。

「先ほどは、試して悪かったな、テマン」

腹心に目を向けて、そう、テマンにだけ見せる表情。
テマンのことについて話す時だけ使う口調、顔つき、そうだ、よみがえってくる。

「あ、え、あれ? あれれ、テ、テジャンですか?」

なだめられた猫のように、テマンの殺気がみるみる消えて、
テマンは大急ぎで短剣を自分の身体の後ろに隠した。
それから、まだ疑い深そうに僕の瞳を覗きこむ。
陽気で、率直で、ジョンムン本人そのものみたいなテマン。
一番手ごわい相手かも。

「そうだ、誰と間違えている」

くっと、小さく笑ってみせる。
怯むな、と自分の言い聞かせる。
だってそうだ、別に嘘じゃない。

「す、すみません! なんだろ、俺、なんか今、
テジャンがテジャンじゃないみたいに見えて……」

いいんだ、変装していたわけだから、と言うと、皆に納得の空気が広がる。
ちょっといま、ナイス発言したな、と内心ほくそ笑む。
気を抜かずに、顎を引く。

「兵舎に戻る」

そう言ってから、話から置いてきぼりになって立ち尽くしている
ファスインとチョヌムジャに相対する。
さーてと。

「俺が任務中であったこと、ありがたく思うんだな」

この傷、貸しておく。
そう言い捨てて、くるりと背を向けて遠ざかる。
ドラマなら、これで、次回までは会わないはずだ。
これからキチョルの屋敷に戻って、チェ・ヨンの様子がおかしかったとか、
王の密命を受けていたようだったとか、報告するシーンがあるんだろうか。
頼む、追いかけて来るなよ、と祈りながらゆっくりと大股で歩み去る。

振り向かなかったが、何度も振り向いて舌を出したり、
悪態をついたりしているトルベのおかげで、
二人がついてきていないのがわかってほっとする。
さて、これからどうするか。

もしこれがドラマの世界なら、セットを出て、
現実世界に戻るってわけにはいかないんだろう。
しかし、どうにかしなきゃならない。
ここにはあまり長くいたいとは思えない。
なんせ本物の剣を振り回しているような世界だ。
それに、うん、残してきたコンサート!
違約金やら返金のことが頭をよぎって、少し青ざめる。
こんなピンチな状況下で、事務所の資金繰りを心配していることにため息がでる。

どうやったらここから出られるのか。
どうやって来たかもわからないのに、帰る方法などあるんだろうか。
急にコンサートが中断して、会場どんなになってるだろ…。
チェ・ヨンの演技で歩きながら、僕は大人になってからはじめてと言ってもいいほど、
本当に泣きたい気持ちになった。

そして、一つだけ、もしかしたら、という方法に思い当たる。
歩みを止めると、皆がいっせいに僕を見た。

「して、聞きたい。ウンスは、どこにいる」



(まだ続くの?)



by kkkaaat | 2016-03-06 01:51 | パラレル【シンイ二次】 | Comments(18)
Commented by mm5210 at 2016-03-06 07:09
ミチさん、オモシロすぎます!!!
(なにやらPCとの相性が悪かったのか、ずーっとコメができなくて…)
かぶりつきで二話読んじゃいました。
ウンスははたして登場するのかな…ドキドキ

続き、楽しみにお待ちしてます!
( ”火、狩人”も書いてくださってるのですね♡ )
春遠からじ!って…もう春ですかね。
Commented by ぽんた at 2016-03-06 07:45 x
筆記版すぺしゃるなメイキングDVDを見ているかのようです。
もう画像が浮かんで…朝から大笑いしてしまいました。
こうしてまたこちらのお話が読める事、とても嬉しく幸せに感じます。
ありがとうございます♪
Commented by 皐月 at 2016-03-06 12:58 x
ミチさ~~ん!(^^)!
楽しい。スゴク楽しいです!!
こちらで、こんなシンイパロディ?的お話が読めるなんて。

私も、ミンホssi個人に関してはほとんど何も存じ上げませんが、ミチさんの文章を読んでいると、状況を飲み込めず困惑している彼の姿が(ちょうど、ドラマの最初のウンスのように)浮かんで来ます。
「買い物へ」のコメの中で、ミチさんがご自分の文章を「文体分析」されていたのを、とても肯きながら読ませて頂いたのですが、その中にあった
>ドラマを見ているという感覚を文章上で追体験できる
という一文が特に、腑に落ちる・・・・・というか。
だからこそ、この「筆記」のお話は、どれも(このちょっと毛色の変わった?(笑)バージョンでも)ドラマの続きのように映像が浮かんできてくれるのだな~と思います。

続き、楽しみです。ウンスの反応はいかに?
Commented by たまうさ at 2016-03-06 17:49 x
ミチさま、こんばんは〜。
ミノssiが横浜の公演で「チェ・ヨンのシーンが好きです」と言って
その台詞を生披露した、という記事を読んで
私も超テンション上がったんですよ〜。^^
このスリップはその公演の最中に起きたんですね〜。
妙にリアルに想像しちゃいますね。
っていうか、古装のチェ・ヨンもどこかにいたりして?
いやいやいや・・泣きたいミノssi?
これからどうするどうなるの〜〜!!
続きがめっさ楽しみです♪
Commented by たまみ at 2016-03-06 20:16 x
ミチさん、はじめまして
ミノ氏がチェックのジャケット姿で開京の街に・・・・
笑いが止まりません
続きを期待しております
Commented by ミジャ at 2016-03-07 09:34 x
ミチさん、おはよ〜ございます。
何だか訳わからんまま、あれこれ考えてチェヨンを演じるミンホ君。
ウンスに会えるのか、会えないのか…
どんなウンスなのか?
ひゃあ〜ドキドキわくわく楽しみです!
なので、どーかどーか、続きをお願いします。(*^^*)

そしてまた
チェ一家の親子漫才(笑)…時々テマン兄ちゃん一家な風景話も読ませて欲しいです*\(^o^)/*
Commented at 2016-03-07 12:08 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by geko-geko at 2016-03-07 19:56 x
ミチ様
こんばんは。
なにこれ、なにこれ、半ナマ?
なんかぬれせんべいみたいな感じ??
私、好きかも~!
ミチ様、凄いです(想像を越えてマス)
続きが楽しみでたまりません❣
Commented by kkkaaat at 2016-03-07 22:49
> mm5210さん
おおおー、お久しぶりです!!
またいらしてくださって、お読みくださり、ありがとうございます。
ながながと更新もせず、本当にすみませんでした。
コメントいただけて、とってもとっても嬉しいです!

オモシロかったですか(*´∀`*)
いやちょっとけっこうな脱線ぶりに、皆様の反応がちょっぴり怖くて(笑)
ウンス、登場しますヨ。
とにかくおふざけなので、さらっとですが。
火、狩人、なかなか文章のリズムが戻らなくて、苦戦してます。
ほかのもそうですが、間が空いちゃうと、どう書いてたか忘れちゃうんで、
やはり定期的に書かなきゃだめですね。

明日は関東ではもうばっちり春みたいです。
花粉が飛ぶから寒くていいのに~!
Commented by kkkaaat at 2016-03-07 22:52
>ぽんたさん
メイキングDVDっぽく感じてくださったのなら、めちゃくちゃ嬉しいです。
そういうの見るの大好きなんですよね。
大笑いしていただけましたか?
自分でもちょっとくすくすとしながら書いてます。
こちらこそ、また読んでいただけて幸せです!
読んでコメントくださるぽんたさんに、感謝感謝です(´∀`*)
Commented by kkkaaat at 2016-03-07 22:59
>皐月さん
うわーい、楽しんでいただけましたか!
楽しんでいただけて、私も嬉しいです。
自分がこのジャンルでナマやるとは数日前まで思いもしなかったので、
自分でもびっくりしてます。

ミンホさんがどんなドラマに出たとか、シネちゃんと共演したとか、その程度のことは知っているんですけど、特に大ファンとかではなかったんで、こんな感じで間違ってないかな~、とびくびくしながらも書いてます(でも楽しいから書いちゃうw)
今回のこれは、私の記憶違いでなければ筆記初の一人称です。
あまりにも毛色が違うし、いいよねーと文体の縛りも解いて、自由に(笑)
こんなアホパロにお付き合いくださり、ほんとありがとうございます!
Commented by kkkaaat at 2016-03-07 23:34
>たまうささん
テンション上がりますよね!?
私も、印象深いシーンで、シンイのラストを上げたとか読んで、
なんか鼻息荒くなっちゃって…!
どうやら日本はシンイファンが多く、それをくんでのファンサービス
というのもあったみたいですが、それにしたって嬉しいですよね。
本人がシンイというドラマを思い出深く、愛してくれてるって本当に嬉しいですね。
古装のチェ・ヨンはいったいどこにいるでしょう~!?
想像してはいるので、この話が終わったら、番外編かコメ欄で
書きますね。
安心してください、ミンホさん、さほど危ない目にはあいません。
コメディですから(笑)
Commented by kkkaaat at 2016-03-07 23:38
>たまみさん
はじめまして、当ブログに起こしくださり、ありがとうございます!
周囲がわりとナチュラルに受け止めてますが、
半端じゃない怪しさだと思いますよ!
チェ・ヨンとは明らかに違う、うろたえた表情で挙動不審に。
笑っていただけて、嬉しいです~♪
先ほど、3をアップしました。
お読みいただけたら幸いです!
Commented by kkkaaat at 2016-03-07 23:43
>ミジャさん
こんばんは~!
ミンホさん、すごくマッチョな感じはなく、現代っ子っぽいですが、
意外となんでも「あはは」ですませるタフさを持ってそうに感じてます。
こんな中でも、チェ・ヨンを演じるのをちょっぴり楽しんでそう、というイメージでーす。
先ほど、3をアップしまして、ウンスも出てきました♪

そうですね、現代ものをアップしたら、次は真面目なシンイ二次を書きましょうか。
っていうか、この話、厳密に言うとシンイパロじゃなくてミンホパロですもんね(笑)
Commented by kkkaaat at 2016-03-07 23:50
>鍵コメさん
うおおおおおお、行かれたのですね!
やっぱり、彼がセリフを言ったときとか、会場中盛り上がっていたのでしょうか。
もし自分がその場にいたら、涙と鼻血で大変なことになりそうです(キタナイ)
抱っこですと…!?
抱っこですと!!(大事なことなので二回言いました)
韓流の俳優さんのコンサートはこういうファンサービスがすごいですね。
好きなセリフを全員分読んでもらえる、とか好きなシーンを再現してもらえる、
とかそういうディナーショーとかないんですかね?
たぶんチケット10万超えでも完売ですよね(笑)
Commented by kkkaaat at 2016-03-08 00:11
>geko-gekoさん
とってもピュアーな質問をいただき、いま私、ちょっと汚れちまった悲しみにな気持ちです。
>なんかぬれせんべいみたいな感じ??
ごめんなさい、ここで吹き出して指が震えてコメントが打てませんでした。

ちょっと真面目に説明しますと、二次創作というのは基本原作(マンガ、小説、ゲームなど)に対して、続きを書いてみたり、パロディを書いてみたり、というものなんですが、その1ジャンルとして「ナマモノ」と呼ばれるグループがあるんです。
実際にいる人間を登場人物にした創作群のことですね。ジャ〇ーズとか東方〇起とかお笑いコンビとかサッカー選手とかの男二人を恋愛関係にして話を作るのがほとんどなのですが、実在の人物を妄想で勝手にそういうことをさせるので、本人及び低年齢層のファン、そういったことに嫌悪感のあるファンの目に入るのが、本当にまずいと書き手も読み手もかなり自主規制が入っているジャンルです。その中で、俳優さんがやってるドラマをベースにした二次創作を半ナマと呼びます(ドラマ、特撮、映画など)。
私も前ジャンルは外国俳優のナマモノもやってたのですが、一応自主規制しつつ、ご本人の目に触れない、低年齢層のファンがほぼいない、だったので、かなりゆるかったです。
まあ、ミンホさんもファン層の年齢高めっぽいですし、この話もBLとかではないので、載せちゃってます(一応、ワンクリック間に挟むように他のものよりは一段下げてますが)。

そうですか、お好きですか、うひひ、嬉しいですヾ(*´∀`*)ノ
なんか私も楽しいので、もうちょっとだけお付き合いくださいませ~♪
Commented by geko-geko at 2016-03-08 09:35 x
ミチ様
おはようございます。
ああ、そういうことなんですね。丁寧に説明していただいてありがとうございます。理解できました。
それにしても二次(特にシンイ)の世界って奥が深いというか、まるで無限に広がる大宇宙ですね!
すっとぼけてるこんな私ですが、これからもどうぞよろしくお願い致します。楽しませてください‼
Commented by kkkaaat at 2016-03-11 20:56
>gekogekoさん
こんばんは!
いえいえ、まったく知らなくていい、いやむしろ知りたくない豆知識です(笑)
いわゆる二次創作のひろーい世界は、私も全部はよくわかないくらい深く暗い底なし沼のような世界らしいです。なんでもありですから、ほんと面白いですよね~。
こちらこそ、こんなアホな話にあきれず、これからもよろしくお願いします!
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