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筆記



【シンイ二次】緑いづる9 ―チュンソクのお悩み相談―


話が終わり、部屋からぞろぞろと皆が出て行く中で、チュンソクは後ろから腕をつかまれて、驚いて振り返った。
じっと黙ったまま、チュンソクの顔を見つめた後、ヨンは

「話がある」

と重く聞き取りづらい声で言って、手を離す。
はっ、と返答すると、チュンソクは自分だけ残って、丁寧に扉を閉めた。
自分で呼び止めたというのに、ヨンは何かうわの空で、チュンソクに椅子をすすめると、自分も向かい合って腰を下ろす。
さて、とチュンソクが口を開こうとしたとたんに、ヨンは跳ね上がるように立ち、見世物の虎のように部屋を二、三度行ったりきたりした。

「あ、あの」

呆気にとられたチュンソクが、話しかけようとすると、ヨンが突然目の前に仁王立ちになる。

「テホ…グン?」

何か話そうと、口を何度も開くのだが、また閉じてしまうのを、チュンソクは自分も釣られて口を開け閉めしながら待っている。あの大きな目で射抜かれるように見られて、チュンソクはまるで虎に睨まれた山羊のように身動きがとれなかった。

あげくの果てに、急に腕をつかんで引きずるように立たせると、いや、やはりいい、と手を振って出て行かせようとする。

「ちょっ、ちょっとお待ちを」

肩をつかんで押し出そうとするヨンの胸に両手をつっぱり、チュンソクは足を踏ん張って押しとどめる。
ヨンはそれ以上無理に力を入れず、はあ、と長々とため息をつくと、ゆっくりと肩から手を外す。

「お待ちを、テホグン。何か内密に話さねばならぬことがあるから、私をお残しになったのでは?」

んん、と喉の奥で咳払いをして、ヨンはチュンソクから顔を背ける。

「ご安心ください、このチュンソク、口が固いことでは、少しばかり自信がございます」

チュンソクはちょっとばかり胸を張る。
この計画、それぞれの連携がかなめかと、そのためには秘密があってはなりませぬ、細かなことでもぜひこの中郎将チュンソクには、胸を開いてお話くださいませ――
そうチュンソクが朗々と述べたところで、ヨンの口がわずかに動いた。

「子を産んだ女人は」

ぼそりと吐かれた言葉をチュンソクは聞き取ろうと、一歩前に出て、耳を前に出す。

「赤子を産んだ女人について、お前に尋ねたいことが」

それと計画とどのような関係があるのだろう、と思いながらチュンソクは、ぐっとうなずく。

「いや、やはりよい!」

とても言えぬといった様子で、顔の上半分に手を当てたヨンの前で、チュンソクはト、ト、と一歩つんのめる。
いやテホグン、ここは言いましょうよ、ここでやめるのはいかがかと、とチュンソクが二の腕をつかむと、ヨンは怒ったような顔でその手を振り払い、むすりとした表情のままもう一度椅子に座った。
チュンソクももう一度向かい合って腰を下ろす。

「して、赤子を産んだおなごについて、私の答えられることでございましたら、なんなりと」

ユ夫人の体調なども、これからの計画にはかかわりの深いことでございますから、とチュンソクが言うと、ヨンは、は、と笑いとも呆れたともとれるように息を吐く。
それから顔を上げ、思い切った様子で話し出す。

「チュンソク…お前は、子をなしたあと、いつごろから妻と同衾した」

チュンソクの首がかくりと斜めにかたむく。
ええと、と口が声を出したが、チュンソクは質問の意図をはかりかねて、言葉につまる。

「それは、計画とどのような関係が……?」

まばたきを忘れたまま、ヨンの顔を見ながらチュンソクがおずおずと尋ねると、関係などありはせぬ、と斜め下に視線をそらしたまま、ヨンが低い声で答えた。
チュンソクは、ようやくヨンの聞きたい内容に思い当たって、首をまっすぐに戻す。

「は……はっはあ、なるほどお!」

思わず笑ってしまう頬を抑えながら、そう答えると、何がなるほどだ、とヨンがチュンソクを睨みつける。
いつもなら怖気づくその目つきを事も無げに流し、いやいやいやいや、とチュンソクは両手で膝を打つ。

「テホグンも、男ですなあ」

思わずそう言うと、俺のことはどうでもよい、質問に答えろ、と恫喝のように言う。
わかりました、このチュンソク、テホグンのためでしたらお答えしましょう、と言うと、咳払いをひとつして答える。

「私の場合はですね、赤子が産まれてひと月後に遠征に参りましたが、テホグンにお気遣いいただきまして、半年の後に開京への連絡員として一時帰京させていただきました」

まっ、その折にということになりますかな、とチュンソクが前で手をこすり合わせながら答えると、半年か、とヨンがつぶやく。
なんの抑揚もなく出たその言葉の裏に、かすかな落胆があったように聞こえて、チュンソクはいやいや、と付け加える。

「ひと月後にはすでにという者もおりますが、赤子の世話で母親というものは忙しく、疲れておりますゆえ、無理強いは禁物かと。まあ参月ほども待てばよろしいのでは、と思うのですが」

もっともらしくチュンソクが説明すると、ヨンはふいと顔をあげる。
それから、チュンソクにむかって不思議そうに尋ねた。

「おまえはなぜ、そのように詳しいのだ」

どこでそんなことを知る、と言われて、チュンソクはうなずきながら笑った。

「都を離れ、妻と共寝することもかないませぬ。
妻子のいる男同士で飲むときには、そのような開け広げな話でもして憂さを晴らします。
あさましいことですが…」

笑いながらそう言うチュンソクの目が、わずかに人恋しそうに細まる。
テホグンと酒を酌み交わすおりには、どうしても戦や武芸にかかわる話が多くていけませんな、ぜひ今度はテホグンも我ら嫁御のおる男たちの酒盛りにおいでください、とチュンソクがそれをごまかすように言うと、

「俺は房事は話さんぞ」

とヨンは、ふっと笑って、そう言った。
それから口元の笑みを残したまま、真面目な顔でチュンソクに言う。

「帰京までもうすぐだ。無事に戻るぞ」

はい、と答えたチュンソクに、こうしたことはお前にしか聞けぬ、これからも頼むぞ、とヨンが横を向いて付け加えると、チュンソクはいっそう力強く、はい、ともう一度答えた。





by kkkaaat | 2016-03-25 21:36 | 緑いづる【シンイ二次】 | Comments(17)
Commented by ya039733 at 2016-03-25 22:47
ハニです( ´∀`)
楽しい愉しい匂いがぷんぷんします!
明るい気持ちになりましたあ~(*´-`)
ミョンソンはきっとヨン激似なプリティガールなはず?近衛隊面々のアイドルになることでしょう(笑)
毎日更新チェックしますよ私♪
ニヤニヤが止まりません~
Commented by h-imajin at 2016-03-25 23:33 x
チュンソク、やはりヨンに頼りにされてますね~( ´艸`)

>いつもなら怖気づくその目つきを事も無げに流し
しかしやっぱり調子に乗っておりますね:*:・( ̄∀ ̄)・:*:

チュンソクとのやりとり、なぜかとても癒されます。(*^▽^*)
Commented by mm5210 at 2016-03-25 23:58
こんばんはー
今日は日付が変わる前に読めました♥

チュンソク、ああたヤギになる前に察してやれよと思った次第!
もう爆笑に次ぐ爆笑でございます。

チュンソク→これからの計画で頭がいっぱい
ヨン→ウンスとの同衾で頭がいっぱい
( ミチさんが赤子の方が吸った回数が多いと書かれてて、それも大ウケしちゃって…いや、女の子でよかったわと )

それにしても、チュンソク、“こうしたこと” にちょっと詳しいんだと顔が緩んじゃってますヨン。

うれしい連日の更新、ありがとうございます 。
d=(´▽`)=b
Commented by kotomisa 884 at 2016-03-26 00:46 x
大好きなお話を毎日読めて本当に幸せです♪
トクマンさんだけでなく、チュンソクさんもヨンの恫喝に負けないハート(←恋ばな限定)をもつまで成長したんですね。
男同士の恋ばなはついついニヤけて読んでしまいます。
ヨンの「これからも頼むぞ」のコメントに、ついつい私からもまたお願いします~と、付け足したくなりました。このシチュエーション、また是非!
Commented by たまうさ at 2016-03-26 02:09 x
ミチさま、こんばんは。
チュンソクってば天然だわ〜。
男テホグンの悩みをもう少し早めに察してあげて〜笑
ヨンの言葉の裏のかすかな落胆には気づくのにね。

ヨンってば4年ぶりの再会なのに、我慢してるんですね・・むふ。
ウンスからは恥ずかしいだろうから
ヨンがリードしないとね〜♪
>「俺は房事は話さんぞ」byヨン
いいも〜ん!ミチさまに聞くもんっ。^^

チュンソクは「お前にしか聞けぬ」と、テホグンに頼られて
ホント嬉しかったでしょうね〜^^
Commented by ミジャ at 2016-03-26 02:30 x
生真面目?なチュンソク…にイラっと(察しろよ…)しながらも、真剣に聞いちゃうヨン…
高麗を護る強い2人の武士だけど…なんか可愛い、良いコンビですよね。(*^^*)
Commented by kkkaaat at 2016-03-26 10:37
>ya039733さん
楽しんでいただけて嬉しいです♪
基本お笑い系の話なので、明るく読んでいただけるのが一番です!
ヨンっすごく男らしい男ですが、実は顔つきは目も大きく鼻筋通り、唇も柔らかげで、女の子でも似たらすごく可愛くなりそうですよね。
可愛いと思いつつ、周囲の男どもがかわいいと言ったら蹴散らしそうなパパヨンですよね(笑)
春休みに入り、来週からは毎日はちょっと無理そうです(´;ω;`)
ときどき見に来て、読んでくださったら嬉しいです~!
Commented by kkkaaat at 2016-03-26 10:45
>h-imajinさん
チュンソク、ヨン直属の将校となったので、もう一生テジャンのためのプジャンで行くのだろう、と想像してます。
ヨンもね、誠実なチュンソクを信頼しているんでしょうね。
しかしチュンソク、唯一ヨンの上に立つことができるネタを手に入れて、ほんと調子にのっております(笑)
ヨンは、あまり人に心を許さない人物ですよね。もともとはそうじゃないんだろうけど。
なので、私もヨンが心を開く様子を書くとなんとなく嬉しいです。
Commented by kkkaaat at 2016-03-26 10:58
>mm5210さん
こんにちは~
12時を過ぎないと自分の時間が取れないそんなシンデレラな生活、お疲れ様です。今日は早めでよかったです♪
チュンソク、本当にヨンのこと、よく理解しているはず…なんですよね(私の想像の中では)。戦では、ヨンは危険ゆえ行かなくていいと言った場所に、でもそこに行くことが戦いの要であるとヨンが考えていることを見抜いて、自分から飛び込み、血だらけになってあらわれて、ヨンをびっくりさせたりとか、そういうことをこの四年間やってきたはずなんです(妄想の中では)。

だというのに、こういうことに関してだけは、鈍感男健在ですヽ(´▽`)/
ヨンね、もちろんほんと、真面目にこれからのこと、考えてるんですよー? でもね、やつも男ですから。
ただでさえ夜泣きでチャンスがつかめないでいる上に、手を出していいのかそれさえも迷ってる状態のままではいられなかったんでしょうね(笑)

軍隊なんて男所帯ですから、チュンソク含め、皆毎日そんなことばっかり話してるでしょう(´ε`;)
四年間待ってるヨンの前ではちょっと遠慮気味な男どもだったのでした。
Commented by mm5210 at 2016-03-26 13:36
2回目のコメごめんなさい _(._.)_
>鈍感男健在ですヽ(´▽`)/
さすがチュンソク!

えーと、ミチさんのお話を読んでいると、ヨンとウンスだけではなく、もう出てくる人物がそれこそドラマのキャラに磨きをかけて動いてくれている…
つけていただくコメ返も然り…
そんな風に思えてなりません。

これはほんとうに読み手にとってうれしいことで…♥

一年間お待ちしていたかいがあったなーとしみじみです
シンイファンの一人でも多くの方にヨンでもらえますように!
Commented by kkkaaat at 2016-03-26 18:02
>kotomisa 884さん
こちらこそ、毎日読んでいただけて、嬉しいです!
チュンソクさん、四年間で多くの戦を乗り越えて、真面目さに豪胆さも加わっていると(いいなと)思ってます。相変わらず、ヨンに対してはビビリ気味ですが(笑)
男同士の恋ばなは、もっとゲスい感じなんだろうな、と思いつつ、ヨンとチュンソクならこのくらいかな、とも思い。
百戦錬磨のヨンも、こっち系だけは、堅物だけに、なかなか苦戦しているようです。興味のない女なら、これだけの男前ですし、どうとても手玉に取れてそうなんですけどね。
ウンスとのマジ恋だけは、チュンソク先輩に頼ってもらおうと思います!
Commented by ぽんた at 2016-03-26 19:45 x
チュンソク~(笑)
でもこうゆう真面目なところが彼らしいですよね。
だからヨンもいろいろと任せられるし、こうやって込み入った話が出来るのかなぁ~と思いました。
しかし…ヨンはそんなことが気になっていたのね(笑)←私もまだかな~って気になってたから分かる!
頭の中で、ヨンのそろばんがフル回転で月数計算してそう~♪
という事で…そろそろOKですかな…?(笑)
Commented by kkkaaat at 2016-03-26 20:12
>たまうささん
こんばんは~!
チュンソク、この天然具合がほんと好きです。
ドラマでもお約束でしたもんね~、しかしヨンの真っ正直な感じとの相性、かなりいいと思います。こんなチュンソクだからこそ、ヨンも話す気になるというか。

まず最初は赤ちゃんがいっしょに寝てたからできなかったでしょうし、落ち着いてからも、あれ?赤子常にいっしょ?? と戸惑い、さらにあれ? 産後ってどうなの??? と疑問に思い。
まず普通に夫婦をしてないですから、どうしたらいいか、内心かなり困惑中かと。
いくら正面突破な人でもこればかりはね(笑)
ヨンは知られたくないでしょうが、容赦なく書いていきたいと思います!
Commented by kkkaaat at 2016-03-26 23:49
>ミジャさん
チュンソクとヨン、この二人って変に真面目なところが実は似てますよね。
だから話が通じづらい(笑)
でも、だからこそ、チュンソクなら信じられる、と思う気持ちもありそうだなって想像しています。
この二人、並べると、なんか面白いです!
Commented by kkkaaat at 2016-03-27 00:12
>mm5210さん
いえいえ、二回目むしろありがとうございます。
人物が動いてくれて…とは嬉しいお言葉~!
ドラマの中で、ウンスもヨンも、ウダルチ達も、王も王妃も、それが役者さんだということを忘れてしまうような演技だったのが、ほんと印象に残ってます。
ただセリフを読んでいるんじゃなくて、その人物として動いているのが、楽しくて。
ですから、お話の中でも、ぜひあの生き生きとした彼らに動いてほしいなあ、と思ってます。
一年間、見捨てずに覗いていてくださって、ほんと感謝しています♪
Commented by kkkaaat at 2016-03-27 00:13
>ぽんたさん
ウダルチの面々は皆、ヨンのことを慕い、勇気も技術もあるんでしょうが、こういう話をしても「ぐふふふ、テホグン~」ってならないのは、ザッツ真面目人間チュンソクだけなんじゃないでしょうか(笑)
ヨンも体面がありますからね!

>私もまだかな~って気になってたから分かる!
完全にタイミングを逸していますよね。
勢いだけで押せる再会直後の時期を逃し、落ち着いたからそろそろいいでしょうの2~3週間後も逃し、ならばと開き直って大胆に迫るには赤子がいるし。
ヨン、一生懸命考えて、煮詰まりチュンソクに相談し、結局特に解決しない(笑)
そろそろ報われてほしいですね!
Commented by ミジャ at 2016-10-31 07:17 x
ミチさ〜ん、おはよ〜ございます。
また、このお話を最初から読ませてもらってました。(*^_^*)
こそーっと読ませてもらって帰ろうと思ってたのに……真面目チュンソクとヨンとの2人の様子見てると、笑えるし、可愛いし〜ついついニヤけてしまって…ついついミチさんともお話したくなったりで〜(^ν^)
こないだまで暑い〜と思ってたのに一気に冬のように寒くなりました。ミチさん、お忙しいと思いますが風邪ひかないようあったかくして体調崩さないよう気をつけてくださいね。続きのお話を、本を楽しみ(しつこく、待ってますヨン!)にしながらちょくちょくお邪魔させてもらってまーす。
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