筆記



【シンイ二次】緑いづる10 ―夜の訪問者―


夜の闇に乗じて、扉が叩かれたのは、于達赤たちに話がなされてから十日ほど、もう緑も深い5月の半ばを過ぎてからだった。
控えめに叩かれるその音に、ウンスが目を開けたときには、ヨンはすでに身体を起こし、隣の寝台から滑るように降りていた。

「だれかしら」

ウンスがつぶやくと、休んでいてください、と言いかけて、ヨンは少し考えこむ。

「いや、あなたもお会いしたいでしょう」

と言い直し、その言葉に起き上がったウンスの腕を取り、夜着の上から羽織りを着せかける。
身体を冷やさぬように、と言い渡しながら、ヨンがウンスの腕をさする。
ウンスは、暗がりの中でヨンのほのかに光る目を見上げながら微笑んで、それから上着の前をかきあわせる。

「こちらにいらしてください」

そう言われて、ウンスは入口扉の前の広い土間のある部屋より一段入った、板敷の部屋の境目で影に身を潜めるようにして待った。
ヨンはあまり警戒もしていないふうで、ぞんざいに扉を開けたが、いつもの習いで戸口の横に身を寄せて身体を守ることだけは忘れなかった。

新月の雲の多い夜は暗かったが、それでも戸口の中に落ちた影よりはわずかに明るく、そこに墨染の外套をまとった人影がいくつか、開いた扉の隙間から、ウンスにも見えた。
ヨンが低く何かを言うと、その人影が順に中に入ってくる。
全部で五人のそれが入り切ると、ヨンは扉から外に半身を出し、あたりをうかがいながら、そっと閉める。

「もう、出てきてかまいません」

ヨンはウンスにそう言うと、すべての窓に鎧戸が降りているかを一瞥し、それからそっと一本だけ灯心に火をつけた。
ウンスが姿をあらわし、小股でヨンの背中に隠れるよう場所を移すと、その五人はいっせいに外套の雨よけを跳ね上げる。
ウンスの両手が驚きのあまり、口元をおおう。
そのおおったすき間から、弾むような歓声が漏れて、すぐにウンスは前に駆け出した。

「ジホ、シウル、ハヤン!……姐さん!」

先頭で入ってきたマンボの妹に、若い娘のようにウンスは抱きついた。厳しい顔をしていたマンボ姐は、途端に姪っ子でも抱いたかのように破顔する。

「よく帰ってきたねえ。ほんとうによく帰ってきたねえ」

しみじみと言いながら、ウンスの頭を撫でると、ぎゅうと抱く腕に力をこめる。それから、ヨンを見て、

「なんだ、うらやましいのかい」

とからかうように言った。
ヨンはからかわれたにもかかわらず、マンボ姐の目が潤んでいるのを見て、少しうつむいて笑みをもらした。マンボ兄も、歳の分涙もろくなったのか、小さく鼻をすすりあげる。
ジホは背が伸びて、ヨンやハヤンと同じくらいの丈になっていて顔つきも大人びていたが、シウルは未だに小柄で、相変わらず背負った弓が大きく見える。

「まったくもう、ご無沙汰じゃないの! たまにはケギョンに顔を見せなさいよ」

ねえねえ、真白の着物は目立つからダメってこんな格好までしてここに来たのよ、ちょっとは感謝しなさいよね、とヨンにむかってハヤンがまくし立てる。
ハヤンは外套の下に着た、マンボたちと似たような古びた着物をヨンに見せつける。

「感謝する」

低い声でヨンがそう言うと、ハヤンはふふんと鼻で笑い、それからウンスに向き直る。
懐かしく意外な顔ぶれに、ウンスは目に涙をいっぱいにためて、皆の顔をじゅんぐりに見ている。

「ねえねえ、ちょっと、ヨンとあんたの間に赤ちゃんが産まれたんですってね!?
んもう、あたし驚いちゃったのなんのって。四年も離れててどうやって子作りしたっていうの?
天の医術じゃあそんなこともできるっていうの?」

ウンスが口を開いて説明をしようと声を出しかけたのをさえぎって、ハヤンが続ける。

「あらまあ、話なんか後でいいから、とにかく赤ちゃんを見ましょうよ。顔を見りゃヨンの子かどうかなんてすぐにわかるわ。あたしはそのために来たんだから」

と言うと、シウルが、違うだろっ、医仙と赤子を助ける加勢に来たんじゃないか、と抗議する。
あら、そんなのどっちだっていいじゃない、まず赤ちゃんを見なきゃ、とハヤンはウンスの前に立ち、どこ? と顔を覗きこむ。

「あ、えっと、こっちです」

ウンスは気圧されて、寝室へと五人をいざなった。
暗がりの中を、手裏房はつまづくこともなく、こともなげに足を運ぶ。
寝台の横に来ると、ウンスは小さな声で皆に告げる。

「ごめんなさいね、今は寝ているの」

そう言って、そーっと抱き上げる。
月もない暗い部屋の中で、ウンスのまわりを五人が足音もなく囲む。
ヨンがそっと、おぼろげに燃える灯心を頭上に持ち上げると、ウンスとその腕の赤子が照らし出された。

「ああら、まあ」

マンボ姐の声がまた湿っぽくなる。
こいつぁ、とマンボ兄が言ったきり、赤子の顔に見惚れる。

「あんたの小さいときに、そっくりじゃないか」

振り返って背後に立つヨンに、マンボ姐がそう言うと、ヨンはこくりと無言のままうなずく。

「かっわいいなあ」

シウルがそう言うと、ジホがいや美人っていうんだこういうのは、と言い返す。
そして、絶え間なくしゃべり続けていたハヤンの声が止まったのに気づいた皆が顔を上げて、そして驚く。
その目からぽたぽたと、言葉の代わりに涙が、次々と溢れているのだ。

「ちょっと、ちょっと、まあ、あんたが娘を持つなんてねえ」

ハヤンが感極まったように、言葉を絞り出す。
そして皆が自分を見ているのに気がついて、照れくさそうに袖で涙を拭く。

「ほらあたしたち、同門じゃあないけど、しょっちゅう一緒に鍛錬をしてたじゃない」

それを聞いて、ああ、俺は稽古つけんのが面倒で、よくこいつをチフ兄のとこに行かしてたからなあ、とジホとシウルに見つめられて、マンボ兄が肩をすくめる。
今じゃ信じられないだろうけど、よく笑う性根のまっすぐな子でね、手合わせで怪我をすると後で水くんできて冷やしてくれてね、とハヤンが語る。

「だからかしら、あたし自分が、あんたの姉のような気持ちでいるのよ」

ハヤンの言葉に、ジホとシウルが声をそろえて、兄だろっ、とつっこむ。
どっちでもいいじゃない、と言いながら、ヨンに顔を向ける。

「あんた、よかったわね。ほんとに、よかったわね」

そう言った後に、ウンスに顔を向ける。

「あんたも、よくぞ連れ帰ったわ。
ほんとはね、ヨンの子はあたしが産んであげるはずだったんだけどねえ」

今度はジホとシウルだけでなく、マンボ兄妹もそろって、産めねえだろ、とつっこむ。
ウンスは、笑いをかみ殺しているヨンと目を合わせて、くすくすと笑った。

「皆、はるばる来てくれたこと、すごく、感謝している」

めったに聞けない言葉に、五人はくすぐったそうに目線をそらす。

「二日後には、出発をする」
それを聞いて、一気に五人の顔から柔らかい表情が引っ込む。
ウンスは静かに赤ん坊を寝台に戻した。

「まかしときな」

眠る赤ん坊をに視線を落とした後、ジホがヨンの目を見つめて、小声で答える。
ほかの四人もにんまりと笑ってみせた。





by kkkaaat | 2016-03-26 19:49 | 緑いづる【シンイ二次】 | Comments(15)
Commented by mm5210 at 2016-03-26 20:43
ミチさん こんばんはー
仕事は勝手に強制終了。お話も早くに読めました!

五人の助っ人って、スリバンの面々だったのですね♥
ハヤンの発言にその他四人が揃って(というか様々にかな…)突っ込む姿が浮かんできました。
>今じゃ信じられないだろうけど、よく笑う性根のまっすぐな子でね、
ドラマでの赤月隊時代、チェ・ヨンはよく喋ってましたが、入隊前はもっとピュアな感じですかね?
ウダルチの古参達と共に、ヨンが最も信頼できる、いわば仲間のようなメンバーが、はてさて、これからどう活躍してくれるのか…
そして、チュモをはじめとした “目指せ開京帰還作戦” のメンバーはどう動く?!
最後に、ヨンは開京に着くまでは “紳士たれ” のままなのか?!

少しずつでも、キリがいいところでも、某、待つのには慣れております。
Commented by kotomisa 884 at 2016-03-27 00:05 x
いや~、泣けるシーンのはずなのに、なんでこんなにウキウキしているんでしょう😆。

白い人実は私、少し苦手でした。でも、まず赤ちゃん、そうしてウンスを気遣う優しさにハヤンさん特有のキャラクター。一気に好きになりました。
底抜けに明るいところも、涙脆いところもまとめてお気に入りキャラクターです!
Commented by たまうさ at 2016-03-27 03:54 x
ミチさま、こんばんは。
わぁ〜い。わぁ〜い。
懐かしいメンバーだぁ〜。
まさかこの5人に会えるとは思っていませんでした。
懐かしいムン・チフのお名前も出てきました〜^^ふふ。
ジホとシウルは4年の月日ですっかり頼りになる存在に
成長したのですね。
姉ポジのハヤンは相変わらずの様ですが。
まさか、ヨンの子供を産むつもりだったとは・・笑
やっぱりミョンソンはヨンにそっくりなんですね〜。
両親が美男美女だからホントに可愛いんでしょうね。
ヨンはお嫁に出すとき大変そうだな〜。^^
Commented by ぽんた at 2016-03-27 08:11 x
選りすぐりの5人がやって来ましたね。
このメンバーならウンスも安心だろうし、何があっても臨機応変に護ってくれそうな気がします。
ハヤン…失恋確定しちゃいましたね(笑)←それでもまだどこかで期待してる前向きさが好きです
彼女(彼⁉)の話に突っ込むメンバーの顔を想像したら…もうおかしくて…

いよいよ2日後に出発ですね。
更新…ありがとうございました♪



Commented by ミジャ at 2016-03-27 10:40 x
おやすみ時に、誰?と思ったら懐かしい顔が…開京からの助っ人五人は、スリバンのメンバーだったのね。
ウンスにとっては、母のような、おばちゃんのようなマンボ姐さんとの再会はほんとに嬉しいですよね。(T . T)私も嬉しい。
ハヤン…白い人ですね。…ヨンの子を産みたかったんだ。^_^; スリバン五人と一緒に開京への珍道中になるのかな?←ちょっと期待(^ω^)
Commented by eme at 2016-03-27 16:57 x
役者が続々揃っていきますね。
続々にワクワクです。

『隣の寝台』なんだ・・・
Commented by kkkaaat at 2016-03-27 19:48
>mm5210さん
こんばんは!
あはは、そうですね、土曜の仕事など早く終わるに限ります!

>五人の助っ人って、スリバンの面々だったのですね♥
そうなんです。五人という時点で推測されちゃうかな、と思っていたんですが、意外とびっくりしていただけたようで、よかったです。
>ドラマでの赤月隊時代、チェ・ヨンはよく喋ってましたが、
本当に同じ人物かというほど、赤月隊のヨンは明るかったですよね~!?
志のある良家の男子として、育てられてきたのだと想像してます。ドラマ後半のウンスに対する気遣いなどを見ても、メヒの一件さえなければ、なかなか素直な青年だったんだろうなって思います。

さてこのメンバーでどうウンスを開京に連れていくか、それが今後の課題ですが、たぶん一番気になるのは
>最後に、ヨンは開京に着くまでは “紳士たれ” のままなのか?!
でしょう。はてさて、どうなるんでしょう(/ω\)
>某、待つのには慣れております。
みんなヨンなみに根気強い(笑)
Commented by Zauberberg at 2016-03-27 23:12 x
ミチさん、こんばんは。最初に一晩で一気読みしたとき、「明日の風7」と「夜番」と2パターン(?)あるのね、と思っていたのですが、後々、このミチワールドでもパラレルができるという見事な仕掛け、唸らされました。この世界がどこまで広がっていくか、またまた楽しみにしています!
Commented by kkkaaat at 2016-03-28 09:19
>kotomisa 884さん
ウキウキしていただけて、私もうきうきです!
白い人、二次的には扱いに困るキャラクターなんですよね(笑)
名前は出てこないし、ドラマ後半ではまるでいなかったような扱いなので、類型的なおねえキャラ以上の肉付けが難しいし、時代的にもありなのかなしなのかも判断がつかず。
私のこれまでのお話でも、登場させたことがありません。
でも、チョヌムジャやファスインと一緒で、こういう非常に漫画っぽいキャラが出てくるところがフュージョン時代劇たるシンイの面白さのひとつだし、どっかで出てきてほしいなあ、と思い。
好きになっていただけて、ほんとうれしいです!!
Commented by kkkaaat at 2016-03-28 10:01
>たまうささん
おはようございます!
昨日は、花粉の吸い過ぎと、野球の球拾いの疲労で、コメントもせず寝落ちしてしまいました~。
懐かしいメンバーの登場です。
ドラマ後半は、いまいち出番の少なかったスリバンですが、もっともっと活躍してほしかったなあ、と思います。特にジホとシウルは、人気の出そうな二人だったので。
この二人、まだ少年と青年の間くらいのイメージでしたが、四年もたてば、たぶん二十歳も越えてますよね?
白い人は、ドラマ上では名前がなく、勝手な名前をつけるのも躊躇していたのですが、まあ今回はドリフということで、まいっかとつけてしまいました。
この人、ほんと出番が少なかったですが、ビジュアル的に忘れられないキャラでした(笑)
ウンスとヨンの赤ん坊、あの二人の子どもだったら、絶世の美女になってもおかしくないですよね!? ミノさんが、全体としては非常に男性的なんですが、パーツパーツは女性的な可愛らしさのある顔つきだと思うので、女の子似てたらすごい可愛いかと。
ヨン、お嫁に出せるんだろうか…?
年齢をへてよりどっしりと落ち着いたヨンが、目をかっと見開いて、声も出さずに泣いていて、ウンスがぎょっとする絵面が浮かんでしまいました…(笑)
Commented by kkkaaat at 2016-03-28 10:08
>ぽんたさん
“ある意味”えりすぐりの五人です。
白い人、どこまでが本気でどこまでが冗談なのか、ドラマでの出演場面が少なすぎて、情報が少なくつかめません(笑)
ただただ私の頭の中で妄想のキャラクターのみが着々と育ってしまってます、大丈夫かしら?
おかしいと読んでいただければ幸いです!
さて次からは旅路に入ります。
皆がそれぞれに活躍してくれればいいなと思ってます!
Commented by kkkaaat at 2016-03-28 10:13
>ミジャさん
そうなんです、こっそりとやってきたスリバンでした。
マンボ姐さんは、具合が悪くなったときにかくまって世話してくれたり、ご飯食べさせてくれたり、高麗のお母ちゃんですよね。これからもずっと高麗に住むウンスの頼りになるおばちゃんになってほしいなあと思ってます。
ハヤン、直球すぎる名付けですみません(笑)
これも本名というより、通り名のようなイメージです。
白い人、当ブログ初登場だったと思いますが、初登場でいろいろと活躍してくれると思いますヨン!
道中、いろいろな人がいろいろと頑張ってくれる予定です。さてどうなるか?
Commented by kkkaaat at 2016-03-28 10:17
>emeさん
これで出発の準備は整いました!
今回はドラマでは細かいモブなメンバーにもぜーんぶ出てほしいなあ、と思って書いてます。

>『隣の寝台』なんだ・・・
よ、よくぞ気づいてくださいました…ヽ(;▽;)ノ
赤子とウンスを気遣って、最初にそうしてしまったせいで、いまだ引っ込みがつかず、別寝台生活を続けているヨンです…(笑)
Commented by kkkaaat at 2016-03-28 10:28
>Zauberbergさん
おはようございます、あ、もうこんにちはかな。
夜番は番外というか、別ルートな独立した話ではあったんですが、ふとね、ヨンなら百発百中ありえるんじゃないの? という世にもお下品な妄想が降りてきまして。
ということで、また新しいお話を書かせていただいてます。
明日の風ルートが日曜夜8時大河ドラマ風なら、今度の緑いづるは8時だよ、全〇集合!(わかりますかこの番組…)ですので、かなりドタバタですが、お楽しみいただければ幸いです~!
Commented by ミジャ at 2016-10-31 07:28 x
真面目チュンソクさんの後に、スリバン5人衆登場にプッと吹き出したり、ウルっとしたり……
こそっと読んで、帰ろ〜と思ってたのに…(*^_^*)
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