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筆記



【シンイ二次】緑いづる17 ―テマンの子守―


「ね、どうしたの。何が嫌なの」

ウンスは、自分自身が半べそをかきながら、小屋の中をうろうろと歩き回っていた。
腕には先ほどから泣き止まないミョンソンがいる。
乳もよく飲み、お腹は膨れ、ゲップもし、濡れて気持ちの悪いところもなく、熱もない。
ただうまく眠りに入れないのか、抱いても揺らしても、ぐずぐずと泣き続ける。

ウンスはもう一度、お腹を触診したり、口の中を見てみたり、手足を確かめたり、赤ん坊の体の具合を見てみるが、どこにも悪いとこはない。
こういうふうに、赤ん坊がだらだらと泣き続けることがあるというのは、お産を手伝ってくれた村の女たちが教えてくれてはいたし、これまでにも経験してきた。
しかし、今のようにできれば静かに身を潜めたい時に、こうも長く泣かれると、自分もわっと泣きたいような気持ちにおそわれる。

「疲れちゃったかな、大変だよね、寝たいんだよね」

分かれ道からまる一日、先を急ぎたいと、あまり休みも取らず、この小さな集落まで来た。
五、六の家族が集まっただけの漁村で、そこの港とも言えぬほどの小さな入江で、船軍の迎えの船と落ち合う手はずになっていると言う。

――アン・ジェに船軍から漁船に偽装した船を一艘出すよう、手配を頼んである。この三日のうちには船影が見える手はずだ。

そうヨンが説明したのはこの漁村に向かう道すがらで、着いたのはもう暮れた後だった。
ウンスと赤ん坊が過ごせる場所を見繕うと、

「この漁村の人間は、高麗側に利する者ですから、ここは安全ですが、念のため、テマンとともに隠れていてください。」

と言って、ヨンは入江を見渡す浜子屋に、チュンソクは岬の突端で見張りをと、すぐに出て行った。
ウンスは、テマンとともに、浜から少しだけ登った、今は使われていない寺の建物の中に身を潜める。

火を焚くこともできない廃屋は、暗く心細く、それがまた赤ん坊に伝わって泣くのじゃないか、とウンスは自らを叱咤する。

「自分が泣いてちゃだめでしょう。このくらい、大丈夫、大丈夫」

そう言ってぐいと目元をぬぐう。
少し、子守歌でも歌ってみようかと口を開きかけたところで、辺りをぐるりと見て回ってきたテマンが、戸口に立って手招きをする。

「な、泣きやみませんか?」

ウンスが歩み寄り、口をへの字にしてうなずくと、テマンはその腕に抱かれた赤ん坊を覗きこむ。

「こんなこと、めったにないのよ」

それがまるで自分の責任でもあるように、ウンスはテマンに言いわけする。
テマンは、ちょっと貸してみてください、と言うと、少し涙をためたウンスからひょいと赤ん坊を受け取る。
そして、するりと懐から帯紐を出すと、慣れた様子で背中におぶってしまった。
首がすわったばかりなので、ウンスは手を少し伸ばしてみたり、赤ん坊の顔を覗きこんでみたり、テマンの回りをうろうろするが、当の赤ん坊は、急にぶんと背中に担ぎ上げられたのに驚いて泣き止み、きょろきょろと辺りを見回している。

「テジャンの、う、上衣を一つ、かしてください。あまり厚くないやつ、お願いします」

テマンが頼むと、ウンスは言うがままにこくこくとうなずいて、奥の荷物に小走りに寄って、上衣を両の手に一枚ずつ持ってくる。
こっちがいいです、とテマンは薄手の方を手に取ると、ふわりと自分ごとその衣を羽織って、前紐を緩く結んだ。小さく揺さぶられている背中の赤ん坊は、夜の静けさと春の風、そしてテマンの背中の温もりに頬を寄せて、先程までのグズグズが嘘のようになんだか眠そうにしだしている。

何がなんだかよくわからないまま、言うなりになっていたウンスに、テマンはにこりと笑ってみせる。

「お、俺はすこしばかりあたりを散歩してきます。
こんなにあったかい夜ですから、風邪も、ひ、ひかせやしません」

夜に赤子が泣いてどうしても泣き止まないってときは、おぶって外を歩いてやれって、まえにマンボ姐のところで子守をさせられたときにならいました、とテマンが話す。
客の赤子が泣くと、ゆっくり食えないから、お前ひとまわりしてきなって背負わされるんです。

「そのかわりに、お、おわったら、ク、ク、クッパが食えるんだ」

クッパを食べる仕草をしながらテマンは言う。
木にのぼったりしやしません、いま何にもいないのも見回ったばっかりです。
ただ、ゆーっくりこのあたりを歩くだけ、とテマンは上目遣いで、安心させるように手をくるりと回してこの近辺というのを示すと、ウンスをなだめるように言う。

「眠ったら、ここに戻って、ちょっとだけ寝かせます。腹が減ってまた泣いて、どうにも乳が恋しいようだったら、連れていきます。こ、これっぽっちも危ないめにはあわせません」

約束します、とテマンがぐっと力をこめて言うと、ウンスは気圧されるように、うなずいた。
ミョンソンはテマンの背中が心地よいのか、今のところ泣き止んでいる。

「じゃあ、ちょっとばかし出かけてきます」

テマンは軽快な足取りで、開け放した建物の扉から赤ん坊を揺らさないよう滑らかに出る。
それから一度、どこかにむかって歩き出し、姿が見えなくなった。
が、すぐに数歩戻って顔を見せると、ぼさっと突っ立っているウンスに向かって

「少なくとも二刻か三刻は戻りません。朝まで寝てくれりゃあ一番いいんだけど」

だから、その、時間はあります、あと一人でいると危ないからテジャンのところに行ったほうがいいです、と言い残して今度は本当に姿を消す。
無言のままそれを見送ったウンスは、たったいまテマンが口にしたことの意味をようやく飲みこんで、少しだけ頬が熱くなるのを感じた。




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by kkkaaat | 2016-04-18 22:50 | 緑いづる【シンイ二次】 | Comments(19)
Commented by ミジャ at 2016-04-18 23:38 x
おお〜!
今、ウンスノートを読ませてもらってコメント書いてたら、新しいお話が!

まだまだ…新米オンマだものね…泣きやまないとオロオロしちゃうよね。
そこへ、テマナ〜〜!
マンボ姐さんのところで子守もさせられてたんだ…。すごい、すごいです!
そして、戻ってきて色々と何言ってるのかと思ったら……時間はあります…って。\(//∇//)ウンスさん!
ミョンソンはテマナにお任せして…一人は危ないから、早くテジャン(照…)の元へ〜パリパリ、カセヨ〜ン(*^_^*)
Commented by momiji at 2016-04-19 00:07 x
ウンスさんもどうしたら良いのか泣きたくなりますよねぇ
教えてくれる人が誰もいないんですもの、不安ですよね。
そんなときに救世主!テマンすごい!!

ようやく(ヨンの)待ちに待った甘いひととき~♪
私もとっても待ってましたヨン(*´ω`*)
Commented by たまうさ at 2016-04-19 00:50 x
ミチさま、こんばんは。
テマン、超優しいですね〜。
夜泣きされると、ホントにこちらの方が泣きたくなりますよね。
そんな時にこんなに気遣ってもらったら、もうもうもう・・
テマン墜ちしてしまいそうです〜笑

ウンスじゃないけど、
テマンが口にしたことの意味がわかりませんでした〜。
最後まで読んで、やっとわかるという・・笑
ウンスが一人で浜小屋に来たらヨンはびっくりするだろうな〜。
どうする、どうする、テジャン!!
テマンの心遣いに甘えちゃう??
テマンはホントにテジャンが大好きで
テジャンの幸せをいつも願っているのでしょうね。
ふふ、ミョンソンが朝まで寝てくれるといいですねぇ。^^

チュンソク〜!岬の突端は寒くないですか〜。
風邪引かないようにね〜。
Commented by kotomisa 884 at 2016-04-19 05:46 x
テマンのぶっきらぼうな優しさが、純粋すぎてまぶしいです。

心を許したらとことん大切にする。テマンは今すごく幸せなんだろうなあと。だから、ウンスにはありがたくヨンの所に行ってほしいです。

どうでもよいことを想像☆。
テマンってば、野良猫手なずけるのうまそう😁。
すみません、どうでもよいことを、、、。

こんなに穏やかなのに何故かよ読み終わってからドキドキしてます。
すてきなお話しありがとうございます。
Commented by eme at 2016-04-19 08:31 x
テマンの朴訥な思いやり・・・ホント!好い子ねえ
でも、「じゃ行ってきます」は恥ずかしいかも・・・
どうするウンス?
Commented by mm5210 at 2016-04-19 11:14
こんにちは!
ホホホ (n˘v˘•)¬
テマン、エラい!
子守も任せとけなんだ。
赤子はもうしっかり目も見えるだろうし、空気の湿り具合や匂いなどで、敏感に感じ取ることがあるのでしょうね。

まてよ…テマンが自ら子守を買って出る→ということは、そんだけヨンが目に見えて渇望ってコトなのかしら?
まあ、ドラマでの熱〜い眼差しでウンスを眺めていたのだとしたら…テマンじゃなくてもわかるか…

テマナ、はたして二刻か三刻で足りるのかな?
(お下品ですよね〜 _(._.)_)
そして、これからも二人のために、たびたびミョンソン嬢ちゃんのことをヨロシクねー!!!

いろいろなところで支援募金が始まってますね。
できることから、できる限り、続けていきたいと思います。
Commented by ぽんた at 2016-04-19 14:39 x
上のコメに続け~(笑)
テマンが作ってくれる時間は、二刻三刻しかありませぬぞ。
ムード作りからはどうやら出来そうにありませぬ(笑)
ちゃっちゃっと済ませなきゃ←や~だ~ムードがないじゃ~ん(笑)
テマンはホントにテジャンが大好きなんですよね。
テジャンの為なら…
テジャンが大切に思う人の為なら…
そんな彼なりの優しさ、強さを感じました。
赤ちゃん…泣くしか訴える方法がないのは分かるんだけど、ホントにこっちが泣きたくなりま
した~
テマン…あんまり気を利かせすぎると、今度から朝まで子守を任されちゃうぞ(笑)
Commented at 2016-04-19 17:52 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kkkaaat at 2016-04-21 11:36
>ミジャさん
ナイスタイミングでのアップだったみたいですね!
私も経験がありますが、ちょっと得した気分と、あ、いますれ違ってたね、となんとなく嬉しくなります。

ほんと、里帰りもできず、相談できる友人もおらず、調べる育児本もインターネットもなくて子育てするって想像を絶してます。
その時代の人で、親親戚に囲まれていればいいんでしょうが…。
テマンは、10歳くらいでヨンに拾われているので、まだ小さかったとき、ヨンが戦に行くとき、マンボ兄妹のところに預けられたこともあったんじゃないかな、って思ってるんです。
そんなときは、店の手伝いもさせられてたと勝手に想像してます♪
そんな経験が、まさにいまっ! 役に立つときが(笑)
Commented by kkkaaat at 2016-04-21 11:49
>momijiさん
特に本やネットでいろいろ調べる手段のある現代から来た医者のウンスは、元気に振舞っていてももどかしかったんじゃないかな~と思ってます。
開京に戻れば、王妃様もチェ尚宮もトギも侍医たちもいるので、いろんな面で楽になりそうです。
テマン、なーんか子どもの扱いがうまそうなイメージです。
むしろ現時点ではヨンより、うまそう(笑)
そして、ヨンもmomijiさんもお待たせしました~!
ねー、私もここまでおあずけとは鬼だな、と自分で思いますヽ(;▽;)ノ
Commented by kkkaaat at 2016-04-21 15:13
>たまうささん
こんにちは!
テマンがテジャンのために走って薬を取りに行くシーンがすごい好きなんですよ。
あの一生懸命さ、人のために全力を尽くす子ですよね。
四年の間に少し大人になって、テジャンのために、こんなことまで気遣いできるようになりました(笑)
私、チュンソク、テマンとは結婚したいと思ってます(え、ヨンは!?)

>テマンが口にしたことの意味がわかりませんでした〜。
テマン、一応気を使ってますw
やってることはあからさまなんですけど(笑)
テジャンのためにはけっこう直接的にぐいぐいプッシュします。

そしてチュンソクへのお気遣い、男泣きしておりました…!
Commented by kkkaaat at 2016-04-21 19:30
>kotomisa 884さん 本当に、本音丸出しな分、テマンの素直さ優しさは、眩しいなと私も思います。 テマンにとって、ヨンは隊長でお父さんでお母さんで兄貴で友達で。 ヨンの幸せなしに、テマンの心が平穏であることもないんだと。 だから、ウンスが返ってきて、テマン、ヨンと同じくらい嬉しくてたまらないんだと想像 してます。
>テマンってば、野良猫手なずけるのうまそう 。
いや、同意です、同意! たまに、テマンのことでムツゴロウさんとか金太郎的な想像をすることがあります。 手懐けるのも上手だし、おびき寄せておいてぱっと捕まえて食べちゃうのも平然という野 生味を感じます。
ドキドキしていただき、嬉しいです!
お読みいただきありがとうございました。
Commented by kkkaaat at 2016-04-21 19:31
>emeさん
テマン、本当に素敵な子でしたし、素敵な青年になりました!
ね、ほんと、「んじゃ、行ってくるわ~」はねえ(笑)
ウンス、意外とうぶですしね。
しかしここまでプッシュされて、廃屋でぼーっとしているのも芸がない。
ここはひとつ…!!
Commented by kkkaaat at 2016-04-21 19:54
>mm5210さん
こんにちは!
テマン、ほめてやって、ほめてやって!
夜泣き状態になっちゃうと、同じ家屋の中だと何をやってもダメになっちゃうときってあるんですよね。
空気が変化すると、ふとわれに返って、急に寝出したり。
お母さんの抱っこだと、お乳の匂いがして眠れないって説もあります。

テマンはねえ、もうまるっとお見通しだと思います。
でもね、それ以上にヨンの渇望は、たぶん、チュンソクでさえ丸分かりの状態かと(笑)
同じ男だからこそ、想像がつく部分も多いでしょうしね。

>テマナ、はたして二刻か三刻で足りるのかな?
たぶん溜まりすぎててあんまりもたないから大丈夫←自分で書いててあまりにひどいw
まあ、四年越しですからね、がっついてもしょうがないです。
テマンにはこれからもしょちゅうお世話になるでしょう(笑)

>できることから、できる限り
ほんとにこれが大事ですね。私も心がけていこうと思います。
Commented by kkkaaat at 2016-04-21 20:01
>ぽんたさん
あ、下ネタOKチーム員がここにも(笑)
私、このブログでは、昔連発していた最低のエロネタも全部封印しているのに、皆さんのせいで本性が少しずつばれていってるような(もうばれてる?)
でも、シンイファンは下ネタもとてもソフトですよね(笑)

>テマンはホントにテジャンが大好きなんですよね。
ほんと、そう思ってます。
山の中で野生児のように生きてきたテマンの心に、刷り込みのようにテジャンは入り込んだのかなって思います。
テマンは、自分の行動原則がすごくシンプルで、だから強いんだと想像してます。

赤ちゃんほど空気読まない存在はないですからね~。
ぐずぐず夜泣き、続くとほんっとにノイローゼになりますよね。
開京に戻ってから、テマン、ふと気づくとしょっちゅう背中に赤子がいて、他の兵士が?? ってなりそうです(笑)
Commented by aki at 2016-04-21 22:09 x
ミチさん、こんばんは。
テマン、わかってるんだよね。
ウンスの事も・・。
勿論、テジャン「ヨン」の一挙手一投足、すべてがわかるテマンならではの粋な計らい。
勿論、子守もできるテマンならではだけどぉ。
ウンスも・・・・ドキドキですよね・・・
Commented by kkkaaat at 2016-04-21 22:46
>鍵コメさん
テマン、本当に頼りになります!
最強でそして一番優しい、そんな存在ですね。
こんな風にサポートされて、ぼーっとしてるわけにはいかないですよね、二人とも(笑)

このお話では、テマンはまだ独身です。
ウンスがいなくなってから、戦戦の毎日でしたから、あまり街の普通の娘たちと知り合う機会もないのですが、少なくとも妓生たちからは日毎に人気が増して、「なんであいつあんなにもててんだ?」と噂されたりしていると想像してます。
嘘つかないし、はっとするような優しさを見せるし、強い(!?)し。

読み直してくださっているとのこと、ありがとうございます。
楽しんでいただけることが、一番の幸せです!
Commented by kkkaaat at 2016-04-21 22:53
>akiさん
こんばんは!
テマン、わかってると思います。
なんだろう、私の中で、テマンからは何にも隠せないっていうのがあるんです。直感めちゃくちゃ鋭そうって。
テジャンについては特にね。
テジャンの助けになることなら、なんだってしてあげたい、ってのがテマンです。
時々、テマンが女の子じゃなくてよかったなあ、って思うくらい(笑)
ウンスも赤ちゃんを産んで、肝は座ったと思いますが、いわゆる女性としては、まだまだ初心者といいますかヾ(´▽`;)ゝ
ドッキドキだと思います…!
Commented by kkkaaat at 2016-04-22 22:04
>鍵コメさん
テマン、本当に頼りになります!
最強でそして一番優しい、そんな存在ですね。
こんな風にサポートされて、ぼーっとしてるわけにはいかないですよね、二人とも(笑)

このお話では、テマンはまだ独身です。
ウンスがいなくなってから、戦戦の毎日でしたから、あまり街の普通の娘たちと知り合う機会もないのですが、少なくとも妓生たちからは日毎に人気が増して、「なんであいつあんなにもててんだ?」と噂されたりしていると想像してます。
嘘つかないし、はっとするような優しさを見せるし、強い(!?)し。

読み直してくださっているとのこと、ありがとうございます。
楽しんでいただけることが、一番の幸せです!
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