筆記



カテゴリ:蜃楼【シンイ二次】( 12 )


【シンイ二次】蜃楼(おまけ)



「話が…あります」

チェ・ヨンはウンスの前までにじり寄ってあぐらをかくと、
うつむいて、ふうと息を吐いた
何をどう話そうか迷うように、一度上を向いて、またうつむく。
無意識のうちにウンスの両手をつかんで、考え込みながら撫でさすっている。

屋敷に戻るまで、チェ・ヨンは何か考え込む様子で、
部屋に上がるとウンスを座らせて、自分もその前に腰を下ろした。

「ね、どしたの?」

ウンスが落ち着きのないチェ・ヨンに笑いそうになりながら、
うつむいた顔を下からのぞきこんで、そう言った。

「ええと」

何から話そうか迷うように、チェ・ヨンは目をすがめる。
ひどく真面目な深い眼差しでウンスを見たかと思うと、
急にそわそわと目をそらしてしまう。

「いい話、悪い話?」

ウンスが聞き出したくて水を向ける。
チェ・ヨンは落ち着きなく、ウンスの親指の付け根を揉んでいる。
尋ねられてチェ・ヨンは、手を止めて、

「どちらとも」

と首をかしげる。
じゃあ、どっちかと言うと悪い方の話題から、いい方の話題にいく感じで
話してみて、とウンスは空いた方の手で、
低いところから高い方へと手を斜めに動かして言う。
ドキドキしないですむから、とウンスが説明すると、
チェ・ヨンは、ふむ、と笑って、言葉を探す。

「本日より、大護軍職に復帰することに」

それ知ってる、とウンスが口を尖らせて言うと、
そんなところからご覧になっていたのか、とチェ・ヨンがあ然として口を開ける。

「あのあと、話し込んでて帰りそびれちゃったんで
ついでに様子が知りたくて、兵舎の周りをうろついてたら、たまたま、よ。
たまたま! 立ち聞きしたのは悪かったってば!
それにいつかテホグンに戻るだろうな、って予想してたし」

ウンスは顔の前でおざなりに両手のひらを合わせると、
身体を揺すって話の続きをうながした。
チェ・ヨンは、気を取り直して続けた。

「加えて」

言葉と言葉の間が、一瞬だけあいたが、チェ・ヨンはよどみなく続ける。

「二度と辞めませぬ。チョナにそう申し上げた」

すまなそうに、チェ・ヨンはウンスと目を合わせた。
ウンスはごくわずかにだが、口元を歪めて、薄い唇を噛んだ。
静かなため息がウンスの喉からもれる。
うん、とウンスは深々とうなずいた。

「高麗を、あなたが残ってくださったこの国を、守り抜こうと思います」

チェ・ヨンがぎゅう、とウンスの手を痛いほど握り締めると、
ウンスはもう一度、ただ、うなずいた。
それで、と続けて、チェ・ヨンは落ち着きなく小さく膝を揺すった。

「さっきから、何よ」

とウンスがじれたように、握られた手を上下に揺すぶる。
だんだんいい話題になるんでしょう? と笑われて、
チェ・ヨンが膝を止めて、ウンスを見た。

「子を」

とそこだけ急に声が大きくなって、チェ・ヨンは自分でも慌てたように、
声音を低めて、続けた。

「子を作りましょう」

あらまあ、とウンスは言って、手のひらを口に当てて微笑んだ。

「突然、どうしたの」

別にできないようにしているわけじゃないから、あとは運だけど、
急にどうして、と尋ねると、チェ・ヨンが答える。

「ようやくあなた一人ではなくて、この場所を守る覚悟が定まりましたゆえ」

子が欲しゅうなりました、とウンスの柔らかくうながすような表情に、
チェ・ヨンも肩の力を抜いて穏やかにそう言った。
あなたは神医だから、どうしたら子をなせるのか、その方法もよくご存知でしょう、
ぜんぶ試しましょう、とチェ・ヨンが大真面目に膝を叩きながら言う。
ウンスは、少し困ったように笑いながら、肩をすくめた。

「天界でも、子作りの方法はさほどこっちと変わりないのよね。
わたし専門医じゃないし。
まあ高度医療で作る方法もあるけど、それは設備的に無理だし…」

ウンスがそうぺらぺらとしゃべっていると、チェ・ヨンは自分のわかる部分だけを
聞きつけて、顔を明るくする。

「今まで通りでよいのなら、いくらでも」

チェ・ヨンは一人納得したようで、うなずきながら呟いている。
ウンスはそんなチェ・ヨンの姿を、呆れたように笑って、それから、

彼のどんな願いもかないますように、
と淡く祈った。




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by kkkaaat | 2014-04-24 14:31 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(32)

【シンイ二次】蜃楼 11(エピローグ)


「余計なことを言わないでいただきたい」

ウンスの肘のあたりをしっかりと握ってぐいぐいと引っ張り、
チェ・ヨンは無言のまま城門近くまで大股で歩き、
ひとの気配のないところまで来ると、腕を離し、
くるりと向き直ってそう言った。

「ちょっと、痛かったわよ」

そう下から睨みつけるようにチェ・ヨンの顔を斜めに見ながら、
ウンスは口を尖らせて、腕を大げさにさすってみせる。

「いつから」

言いかけて、先ほどのことを思い出して、チェ・ヨンは言葉に詰まり、
振り払うように頭を左右に振った。
気を取り直してなんとか言葉を続ける。

「いつからご覧に」

いつからかなあ、とウンスはチェ・ヨンから顔を背け、
目を空中に泳がせて、腕を組む。
わざとらしく、顎に指を当てたり、にやついて見せるのを、
からかわれているとわかって、チェ・ヨンは、ああもう、と悪態をつく。

「トクマン! いやもうちょっと前からかな。
ウダルチなくして俺の命もまたなかったろう、ってとこかな」

ウンスはチェ・ヨンの重々しい口調を真似して、ぶつぶつと続ける。
チュンソク、と万感の思いを込めて名を呼んだところを真似された
ところで、チェ・ヨンはしびれを切らして遮った。

「もう、よろしい!」

もういいです、黙ってください、わかりました、と早口でチェ・ヨンが
言うと、ウンスはチェ・ヨンを肘でつつきながら、
皆嬉しそうだったわよ、とにやついた声で言う。

「まったく、あなたと言う人は」

チェ・ヨンはそう高ぶった声で言うと、自分をなだめるように、
大きく一つ息を吐いた。

それからごしごしと、自分の顔に浮かんでしまったさまざまな表情を
洗い落とそうとでも言うように、両手で顔をこする。
しばらくじっと顔を覆っていたが、両肘のあたりに、
ウンスの手が触れるのを感じると、ようやくその手をゆっくりと外す。

目の前に、ウンスが自分を見上げるように、いた。

「おかえりなさい」

そう言われて、チェ・ヨンは言葉の意を計りかねて、一瞬途方にくれたように、
顔の前の手のひら越しにウンスをじっと見つめた。
チェ・ヨンの手が胸元までゆっくりと降りていく。
ウンスは自分の手をそっと持ち上げて、チェ・ヨンの頬に指先だけで触れた。
チェ・ヨンはその指先を見つめ、ふい、とウンスの顔に視線を戻す。
目を軽くつむるとうつむき、自らを笑うように首を振った。
下がり始めていた手をウンスの手に添えて、それから握る。

「ただいま、帰りました」

チェ・ヨンは、いつも家に戻り馬から降りると浮かべる微笑みを、
ゆっくりと口元に立ちのぼらせた。





※この後に、少しだけ、おまけがあります。
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by kkkaaat | 2014-04-24 14:24 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(6)

【シンイ二次】蜃楼 10


「チュンソク」

最初に名前を呼ばれて、チュンソクは思わず飛び上がりそうになった。

「ウンスから、聞いた」

そう言いながら、チェ・ヨンは、はあ、と息を吐き、
わずかばかり視線を落として、それからチュンソクをまっすぐに見た。
チュンソクは目を合わせ、その視線の強さに恐縮したように目を泳がせたが、
こらえてチェ・ヨンに目を戻した。

「ウンスが天門を目指して城を出ると言い張ったとき、
我が妻の意を支えて、すぐにも、と王に進言したそうだな」

チュンソクは覚えのないことを言われて、何のことか、と言いかける。

「はっ、いや…いえ、あの」

すぐにチェ・ヨンが言っていることが、ウンスとテマンだけが
体験したあの不思議な話のことだとわかって、
返答に困って口ごもる。
その仔細はテマンから聞いている。
我ながら胸のすくような話である。

チュンソクは言葉を喉で止めたまま、半開きの口のまま動きも止めた。
していないとも言えず、かと言ってしたわけでもなく。
確かに、そのような事態に行き逢えば、必ずやそう言っただろうと、
話を耳にしたときは思ったが、ならばしかと自らのしわざかと
言われれば、もちろんそのような覚えはないわけで。
チュンソクはようやく腹を決めて、口を開く。

「ユ先生を危険へと送り出したこと、我が一生の不覚とは思えど、
悔いているかと言われれば-」

チェ・ヨンの手のひらが、すいと上がって、チュンソクに向けられ、
穏やかに言葉を止める。

「不覚なのは――」

俺だ、とうっすらと自責の微かな痛みをこらえるように目をすがめ、
チェ・ヨンはそう言った。
へまをした、と目を伏せて笑う。

「そして、お前に」

お前らに、とわずかな目の動きで于達赤たちを指し示す。
またチェ・ヨンはチュンソクに目を戻して、言う。

「命を助けられた」

于達赤の隊員たちの胸が、息を吸い込んで膨らみ、
自然と顔が上がる。
チェ・ヨンの頭が下がる。

「ウダルチなくしては、俺の命もまた、なかったろう。
礼を言う。万謝を尽くしても足りぬ」

言葉でいくら言うても…足りぬな、とチェ・ヨンが顔を上げ、
空(くう)を眺め何かを思いながらそう言うと、
男たちの口元は厳しく引き締めようとする意志に逆らって緩み、
歯でその誇らしげな笑みを噛み潰そうとして
おかしな形に歪む。

「しかし」

ふと我に返ったチュモが、左右でうっとりと言っても
いいような表情でチェ・ヨンを見ている仲間の顔を見たあと、
恐る恐る口を開く。

「テホグン」

俺は、その、おっしゃるようなことは何もしておりませぬ、
礼を言っていただくようなことは何も、とチュモは言う。
途端に于達赤の隊員たちも、夢から覚めたように互いに顔を
見合わせた。

それぞれに、自らが火急の折に、大護軍の奥方ウンスを
どのように助けたかについては微に入り細に入り、
テマンから聞き出している。
まるで自分が本当にやったような気さえするほどだ。

開京にチェ・ヨンたちが戻ってきてから、テマンが夜の飲み代(のみしろ)
を自分の懐から出したことなどひと晩たりとてない。
酒を一杯テマンの前に置くと、俺は城門を走り抜けたときに、
どうなったんだ、と一人が尋ねる。

「お、お前は、馬から、落っこちたんだ、どうっと音がして」

と答える。落ちただと、そんな馬鹿な、と男が言うと、

「こ、黄巾に引きずり下ろされたんだ。
だけど、だ、だだれも止まらなかったぞ。
お前は立ち上がって、後ろからせ、せ、迫り来る黄巾の前に、
こう、こう立ちふさがった。おおお俺が見たのはそこまでだ」

と答える。聞いた本人は感じ入って満足そうに、うなずいている。
すると次の男が、空けられたテマンの杯にもう一杯ついで、
で城門から出たところで、チュモとペクス以外
はどうしたんだ、教えてくれ、と迫るというふうだ。
テマンの話は要を得なかったが、話をつなぎ合わせ、手繰り寄せ、
それぞれがそれぞれの英雄譚を作り上げていた。

「俺らがユ先生が天門へ行くのを手伝って、
それで、天門が時を巻き戻してくれてテホグンが
生き返ったようだってのはわかってるんですが」

その、俺には覚えがないんですよ、と消え入るような声でチュモは言う。
誰かが、でもお前は馬が倒れるまでテマンに同道したんじゃないか、
と言うと、テマンがうんうんとうなずく。
チュモはそう言われてもなあ、と生真面目に答える。

「そこが困ったところだ。俺も死んだ覚えがなくて、な」

チェ・ヨンが薄く笑いながらそう言うと、于達赤の隊員たちは
笑っていいものか迷って、中途半端に笑ったがぱらぱらとした
その笑いはすぐにやんでしまった。

「そう、だな」

そうひとこと言ったきり、チェ・ヨンはかなり長い間黙りこんでいた。
皆は何か言った方がいいのかと、互いに目配せをし合うが、
隊長であるチュンソクが辛抱強く黙っているので合わせて口をつぐむ。

「そうだな、起こってもおらず、覚えもない出来事だ。
そこに有ったとも思えるが、しかと有ったかと言われればかき消える」

うん、とチェ・ヨンは誰にというでもなくうなずく。
于達赤たちは、曖昧に調子を合わせるようにうなずく。
だがな俺は、チェ・ヨンがもう一度皆を見回した。

「やはり礼は言う。きっとお前たちはこうして何度も」

俺の命を拾う手助けをしてきたのだ、ありとあらゆるときに、今までもこの先も。
そうチェ・ヨンが低めた声で言うと、皆は照れくさそうに
身体を揺すったり、足を動かしたりする。

「トクマン」

いきなり名を呼ばれて、トクマンはぴょんと飛び跳ねるように姿勢を正した。
チェ・ヨンはトクマンの正面まで歩み寄り、相対した。
何かを言おうとして、チェ・ヨンはトクマンをまじまじと見て、
わずかに首をひねった。
チュンソクと向き合うのとはわけが違うようだ。
言いづらそうに口を開く。
トクマンは口を真一文字に結んで、期待に鼻の穴が膨らんでいる。

「トクマン、お前は城からの血路を開く一番手に、
名乗りを上げたと聞いた」

はい、とトクマンは返事をしたあと、少しばかりにやにやと
顔を崩しながら身体の前で手をこすった。

「いやあの、自然とこう言葉が出たと言いますか、
俺のテホグンをお慕いする気持ちがね、言葉と行動となって
あふれ出たっていう」

あ、まあ俺言った記憶はないんですけどね、まあ自分のことですから
そうだろうなあ、ってのはわかるんですよ、とトクマンは
ぺらぺらと喋り続ける。
チェ・ヨンはいつもの調子のトクマンに微かに苦笑を浮かべた。

「俺は、俺はですね」

トクマンの声が高くなった。少しばかり調子に乗ったふうだった
表情が、自分の言葉に高ぶったのか、引き締まる。

「俺なんかは、死んだってかまわないけど、
テホグンは死んじゃならない、死なせない。
たぶん、そう思ったんです。
たぶん、テジャンもテマンも、他のみんなも」

突然そんなふうに熱く言われて、チェ・ヨン面食らったように
言葉を失った。
トクマンは、なんとなく恥ずかしそうに、鼻の下を擦り、
他の于達赤の隊員やチュンソク、そしてテマンも、
トクマンの言葉にうなずいている。

チェ・ヨンは口を開きかけ、そのままひと時止まり、
咳払いをした。
こぶしを口元に置いたまま、言葉を探す。

「お前たちの信義に俺は―」

チェ・ヨンはそこまで言って、声をと切らせる。
于達赤たちは続きの言葉を待って静まり返り、
兵舎の中は妙に張り詰めた空気で満たされている。
と、入口近くの兵が振り返る。

「あ、ユ先生」

その声でさらに数名が振り返る。
入口の柱の物陰からこっそりと覗きこんでいたウンスが慌てて、
口元に指を立てたり、口を閉じる仕草をしたが、
間に合わなかった。
チェ・ヨンの視線が、于達赤から流れてウンスに止まる。
目が丸く見開かれて、チェ・ヨンの口からごほっと言うような
おかしな咳がもれた。

「なぜ、あなたがここにいらっしゃるのですか」

チェ・ヨンがつぶやく。
ウンスは覗いた場所からばつが悪そうに肩をすくめて出てくると、
つづけて、続けて、と声を出さずに口の形だけで言いながら、
手つきでも続けるようにうながした。

戸惑うように頭を振って、チェ・ヨンはうながされるままに、
口を半ば開けて言葉を探している。
于達赤の隊員たちのチェ・ヨンへの熱誠を帯びた視線はそのままだ。

「俺は―」

チェ・ヨンは言葉が見つからず、また口元にこぶしを当てて、
喉の奥を鳴らすような咳をする。
なかなか話そうとしないチェ・ヨンに、トクマンなど、
少し首をかしげて、顔を覗きこむような仕草を見せるほどだ。
チェ・ヨンがうつむき気味に皆から顔を背けるようにしていると、
ウンスが素っ頓狂な声を上げた。

「あら、この人。照れてるんだわ」

くすくすと笑って、両手で口元を押さえているが、
笑っているのが隠しきれない。
于達赤の隊員たちがまずウンスを見て、
それからいっせいに振り返りチェ・ヨンを注視する。

「おやめください!」

チェ・ヨンが目を怖いように見開いて、背筋を伸ばして、
ウンスに向かってそう言った。
恐ろしげな声で言っているが、皆の目は、
チェ・ヨンの顔でなく、首筋に吸い付けられる。
誰も口に出しては言わないが、武人としては色白なチェ・ヨンの首が薄く、
しかし皆にわかるほど紅潮していた。

「こ、これは…」

チュンソクの口から、余計なひとことが転がり出た。
聞きつけてチェ・ヨンが、じろりと睨みつける。
あ、いや、見ておりませぬ、見ておりませぬ、
と上ずったように言ってチュンソクは目をそらした。
これがまたチェ・ヨンの気に障ったか、つかつかと歩み寄る。

チェ・ヨンはチュンソクの真ん前に立ちはだかって、
震え上がるような目つきでチュンソクを見下ろした。

蹴られるか、剣の柄でこっぴどく小突かれるか、
覚悟してチュンソクは歯を食いしばる。
もうそんな立場ではないのだが、この鬼将軍の前に立つと、
いつもテジャンの下のプジャンの心持ちに戻ってしまうのは直し難い。
チェ・ヨンはしばらくチュンソクの前に棒切れのように
突っ立っていたが、何か思うように目を細め、
口元が苦虫でも噛み潰したように歪むと、急にふいと横を向いた。

それから、ウンスの腕をつかむと、
黙って引きずるように行ってしまった。

ちょっと、止めてよ痛いじゃないのよ、
とウンスの抗議する声が聞こえていたが、
あっ、担ぎあげるのはやめて、やめて、わかったから、
と言う言葉を最後に聞こえなくなった。

于達赤兵舎の広間に集まった精鋭たちは、いっせいに大きく息を吐いた。



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by kkkaaat | 2014-03-21 00:02 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(20)

【シンイ二次】蜃楼 9


チュンソクの顔は面白いように青白かった。

「怒ってはいらっしゃらないでしょう」

わかっております、そのような狭量な御仁ではないのです、とチュンソクは
つむった目の上を、何度も手の指で押し揉むようにしながら、言う。
並んで歩きながら、アン・ジェはチュンソクの背中を、手のひらで撫でるというか、
軽く叩くというか、何を言ってよいのかごまかすように、中途半端に手を動かした。

「うむ、怒ってなどいないと思うぞ」

むしろ、お前のとった行動を有りがたく思っているだろうさ、とアン・ジェが
言うと、同意されたというのにチュンソクは、
胸から絞出すように深々とため息をついて、
足を止めるとアン・ジェの顔をすがりつくような目で見た。

「そうでしょうか。もしそうだとしても、私のしたことは…」

チュンソクが続けようとした言葉を、アン・ジェは遮って、
強めに背中を叩いて、前に押し出す。

「そう悩むな。お前はなかなか肝の据わったところのある男だと思うんだが、
あれだな、あいつのことになるとどうにも打たれ弱いなあ」

はあ、とチュンソクは息まで青白く見えるような様子でつぶやくように答える。

「あれだろう? それであいつも目が覚めたようになって、
御前に馳せ参じたわけだろう? 
あとはチョナがどうにかいいようにおさめてくれるさ」

アン・ジェが少し面倒くさそうにそう告げると、チュンソクは、
わかりました、話をお聞き下さりありがとうございました、と小声で言うと、
于達赤の兵舎へと入っていった。

「あいつも苦労人だよなあ…」

そうひとりごちると、アン・ジェは踵を返して龍虎軍の詰所へと戻り始める。
回廊を折れると、足音もなく歩いてきた相手とぶつかりそうになったが、
相手はふわりとアン・ジェの肩に手を当てて止めて、それを避けた。

「危ないぞ、前を見ろ」

それだけ言うと、チェ・ヨンは少し微笑むと、そのままアン・ジェの傍らを抜けて、
彼が今来た于達赤兵舎の方へと歩いて行ってしまった。
アン・ジェはぽかん、とその姿を見送る。
チェ・ヨンの姿が小さくなってようやく、アン・ジェははっと我に返るとつぶやいた。

「ありゃなんだ、ばかみたいに強くなってるぞ…」

アン・ジェはしばらく呆然としたようにチェ・ヨンの背中を
見つめていたが、ふと、くくく、と笑みをもらして、

「こりゃあいいぞ」

とうなずくと、ようやく本来の目的の場所である
龍虎軍の詰所へと歩き出した。



「いいか、チェ・ヨン殿、いや、チェ、チェ・ヨン兄が戻ったら」

トクマンは元の大護軍の名を呼び捨てようとして、つっかえる。

「気まずいことのないよう、できるだけ気安く、そういかにも
ウダルチの同輩といった風に、話しかけるんだぞ」

トクマンがそう皆の顔を見回すと、皆は戸惑ったように顔を見合わせて、
それから、我らにできるでしょうか、と若手の男が小声で言った。
トクマンは腰の剣の柄で、そいつの腹を小突くと、詰め寄りながら言う。

「いつも言ってるだろうが!
できるでしょうか、じゃなくて、やるんだよ!」

そう言いながら、トクマンの顔も少しばかり張り詰めている。
これから于達赤の兵としてずっと一緒にやっていくのだからな、
と自分に言い聞かせるように、繰り返しているトクマンを、
ごろりと横になっているテマンが鼻で笑う。

「おまえ阿呆だなあ、このままいちウダルチでいるわけがないだろうが」

テマンがそう言うと、入口を見てひょいと立ち上がって姿勢を正す。
それを見て皆が顔をそちらに向けると、チュンソクが早足で入って来た。
先ほど出て行ったときとさほど変わらぬ顔色に、
于達赤の隊員たちは目配せしあって、そのまま隊長室へと入っていく
チュンソクへ、控えめに頭を下げる。

バタン、と扉が閉まる音とほとんど同時に、
ほとんど軽やかと言ってもいいような足取りで、チュンソクと入れ替わる
ように部屋に入ってきたのが、チェ・ヨンだった。

隊長室に向いていた皆の顔が、くるりとまたいっせいに入口へと向く。
チェ・ヨンはいっせいに自分に向けられた視線にたじろぐこともなかった。
そうやって注視を受けることなど、つい数ヶ月ほど前までは、
日常であったのだから。
ごく自然に、チェ・ヨンの口から言葉がこぼれる。

「テマン、チュンソクは戻っているか」

はいっ、とテマンは跳ねるように一歩、二歩とチェ・ヨンに近づいて、
その顔を下から見上げながらそう言った。
この兵舎を出ていった時と同様、唇端に切れた痕があり、
右目の横にも打たれた跡が赤黒い。
だのに、チェ・ヨンの顔付きにはその傷を受けたときのすれたような
空気が消えている。
なんとはなしに、テマンの口元が笑みほころんだ。

「それなら-」

チェ・ヨンが何かしら指示を与えようと口を開いたその時に、
トクマンがはっと気づいて、声をあげる。

「ヨッ、…チェ・ヨン兄!」

そう言ってから、トクマンはちらりと横目で他の于達赤をうかがった。
他の隊員たちは強ばった顔で、トクマンを見つめ返すばかりで、
口を開くものはいない。
チェ・ヨンはいきなりそう呼ばれたことで、多少面食らったのか、
一瞬目を見開いて、微かに眉間に皺が寄ったが、口元は面白がるように
それとわからぬほどに、ぴくりと動いた。

「あー…」

トクマンは、気安く呼びかけたはずなのに、
なぜか凍りついたような空気になっていることに耐えかねて、
唸りとも嘆声ともつかない声を出す。
ほらみんなも呼んでみろ、と目配せをするが、もともと乗り気でもなかった
他の隊員たちは、肩をすくめて目をそらす。
トクマンは何の助け舟もないことに捨て鉢のようになって、
一気にしゃべりだした。

「ええと、チェ・ヨン兄」

今日はお疲れでしょうから、早めにあがって、
城下に繰り出そうじゃありませんか、酒でもたんと飲めば憂さも晴れましょう、
と少々しどろもどろにそう言いながら、トクマンはチェ・ヨンの肩に手をかける。
その馴れ馴れしい様子に、まだ経験の浅い若手など、ぎょっとして口を開けた。

「早めに、上がる?」

チェ・ヨンの口元が愉快そうに笑ったので、トクマンはほっと
肩の力を抜いて視線を上げて、その目を見てまたぎょっと
身体を強ばらせた。

「皇宮の警護が早く終わるなど聞いたこともないが」

チェ・ヨンが片頬だけで笑ったまま、言う。
いや、あの、前に早く上がって飲みにいきま…せん…でしたっけ…?
トクマンはほとんど聞き取れないような声で抗弁しようとするが、
ゆっくりと近づいてくるチェ・ヨンにのまれて言葉がつかえる。

「俺はどうも、参月も開京を離れていたせいか、
腕がなまくらになってしまったようでな。
これでは果たしてまともに時間まで警護が務まるか。
おまえが稽古をつけてくれるか、トクマン」

チェ・ヨンはそう言うと、つかつかと壁まで行って鍛錬用の
木刀を二本取ると、振り向きざまに一本をトクマンに投げる。
トクマンは咄嗟のことに慌てて、お手玉のように手の中で
木刀を何度も弾ませたが、何とか取り落とさずにつかんだ。

「いや、あの、俺はちょっと、今日はどうも痛めた腰が」

トクマンがいったんつられたように木刀を構えたが、
すぐにそれを脇に下げて、わざとらしく腰をさすってチェ・ヨンから
顔をそらす。あたたた、とつぶやきながらそのまま部屋のすみへと
向かおうとするのを、おい、と一言チェ・ヨンが言うと、
他の于達赤たちが衣をつかんで引き止めて、くるりと回すと
部屋の中央へと押し出す。

「ちょっ、おいっ、お前らなあ!」

トクマンがうだうだと身体をよじっていると、聞きつけてチュンソクが
部屋から出てきた。

「おい、何事だ」

トクマンに目をとめてチュンソクは尋ねながらチェ・ヨンのいるのに
気づいて、軽く目を見開いた。
チェ・ヨンはチュンソクが出てきたのを見ると、そのまま歩み出て、
何事か訴えようとするトクマンに自分の分も木刀を押し付けると、
正面で相対して姿勢を正した。

そうやって立つと、それよりもよほど背丈の高いものがいると言うのに、
チェ・ヨンの姿は中でも目立って高やかで、偉丈夫という言葉に
ふさわしかった。

「テジャン、ご報告が」

そう言われて、チュンソクは、怪訝な顔をしたが、
はっと息を飲んで、みるみるうちに晴れやかな顔になる。
申してみよ、とチュンソクは、自らも衣の前を整えて襟を正し、
チェ・ヨンの前で背筋を伸ばした。
チェ・ヨンはまずチュンソクの目をじっと見て、
それから周囲をゆっくりと見回すと、于達赤の隊員たちは、
すぐに察して皆立ち上がり、居住まいを正した。
トクマンも木刀を急いで片脇に抱えて、背を伸ばす。
チェ・ヨンが口を開く。

「本日より、一等兵(イルビョン)チェ・ヨン、
王命を拝し、大護軍(テホグン)に立ち戻ることとなった」

ほお、というような声にならない声が、いっせいに皆の口からもれる。
チュンソクが嬉しくてたまらぬように、二度、三度とうなずく。

「短い間だったが、世話になったな」

古巣のウダルチで寝暮らすことは、許されぬことのようだ、とそこだけ
声は話しかけるような調子になってチュンソクに向けられた。

「あまり露骨に安堵するな」

チェ・ヨンがそう言いながら、チュンソクの肩を叩くと、チュンソクは
あまりにも自分がほっとした様子を見せていたことに気づいて、
慌てて、いや、そんなことは、けっして、などといくつも切れ切れに
言葉を並べた。
それを見て、トクマンやチュモやテマンが、けらけらと笑っていると、
もう一度チェ・ヨンが口を開いた。

「あらためて皆に、言っておきたいことがある」

聞いてくれ、チェ・ヨンはそう言って、急に真顔になった。



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※すみません、コメントのお返事をする時間がなかなか取れない状況が続いています。しばらくの間、初めて書き込みくださった方以外、ひとことずつのレスをさせていただくと思います。
by kkkaaat | 2014-03-08 23:57 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(18)

【シンイ二次】蜃楼 8


「この高麗の国を守護するものとして、おのれの力不足で投げ出せる、
その程度の覚悟で務められると思っていた。それが甘い」

チェ・ヨンはそう言って、息をつめた。

手で首筋を撫でながら、王は、そうか、
と同意ともそうでないともわからぬ声で、投げ出すように軽く言う。
チェ・ヨンは王の意をはかりかねて、下げていた視線をふいと上げた。

「俺はまだ、やれることがありますか」
 
ふうむ、と王は相槌を打つ。
答えはしない。
チェ・ヨンはしばらく黙って王のいらえを待っていたが、
何も言わずに、あるかないかの笑いを口元に張り付かせて
黙っている王に痺れを切らしたように、はあっ、と荒いため息を
ついて、視線を宙にさまよわせた。

「どうなんです」

次に王を見た目は、探るようではなく、迫るようにまっすぐだった。
突然、王が立ち上がる。
チェ・ヨンがその動きを目で追うと、王は今度はにっこりと笑って、

「ウダルチの兵士チェ・ヨン、世の護衛をせよ」

と言って、歩き始めた。





「いかがでしょうか、こちらは」

と王は尋ねる。
文官武官が追いすがるのをすべて散らしてチェ・ヨンのみを
従えて王が向かったのは、禁軍兵営に面した迎賓館の一角の、
小部屋だった。
元、明からの使者の侍従などのための控えめな広さの部屋だ。

扉の前の巨体の二人の衛兵の間を通って中に入ると、
節約をむねとして華美さを減じた皇宮に比べると、
部屋の内装は幾分華やかだった。

「不自由だな」

王が部屋に歩み入っても、無反応だった徳興君が、
その後ろのヨンを見ると、毛氈の上の座椅子に寝そべるようにもたれたまま、
自由に歩き回ることもできぬ、
と気だるげに布の巻かれた先のない手を持ち上げてみせた。

ヨンは王の前にこそ立たなかったものの、その横に控えて、
油断なく徳興君に目を据えている。
しかし徳興君が、左の口角を引きつったように上げるほかには、
特にだらりと身体の力を抜いているのを見て、
わずかに剣にかけている手の緊張を緩める。

不自由だとも、不自由以外になにがあるのだ私に、と王の叔父は
酒やけした声でつぶやくように言った。

「何をやっても、うまくいかぬ。
どう知恵を絞っても、しまいにはこうして、もとの囚われの身だ」

なに一つ変えられぬ、

そう言って、徳興君はゆっくりと瞼を閉じてしまった。
考えてみれば、元からこの高麗へと遣わされていたあの半年程のみが、
叔父にとって息を潜めぬ暮らしのできたわずかな期間だったのだ、
と王は思い、いつものように、言い訳にはならぬが、と無言で付け加えた。

ヨンは、双城総管府で手を斬って落として以来、
この男と会ってはいなかった。
冬をまたいで春の始まろうというほどの間に見ぬうちに、
徳興君は最後に見た時にはわずかに残っていた目の光を失って、
妙に青黒いような顔色で、ひどく酒臭い。

「なに一つ変えられぬ、ですか」

王がそうつぶやくと、チェ・ヨンと徳興君が同時に、
王の顔を見つめる。
友にでも話しかけるように王はほがらかな口調で言う。

「叔父上、あなたはご自分では覚えていらっしゃらないが、
一度このチェ・ヨンをお殺しになった。ご存知ですか」

徳興君は、何を、と半笑いを浮かべながら王を見る。
聞いてはおられぬか、と王は真面目な顔で言う。
徳興君は知らぬのをつくろうように、
にやにやとうすら笑いを浮かべていたが、
しばらくすると「では、あのユ・ウンスは」とつぶやくと、
その顔から微笑が消えて、みるみるうちに理解の色が広がった。

「それでは…、しかし、どうやって…」

かすかに震える声で、徳興君は王に問うと言うよりは、
自問自答するかのようにひとりごちる。

「ユ・ウンスがこのチェ・ヨンに知らせねば、
あの席で手を落とされる前に、この」

王はチェ・ヨンを指でさしながら、徳興君の前の椅子に腰掛ける。
チェ・ヨンもまたそれに合わせて場所を変えた。

「チェ・ヨンは毒に倒されていたのですよ」

それは、まことか、とほとんど聞き取れぬ声で徳興君が
言うのにかぶせるように、王は愉快そうに続ける。

「世には到底成し遂げられぬことです。このチェ・ヨンを殺すなど」

王が心底感嘆したように言うと、チェ・ヨンは後ろで
苦虫を噛み潰したような顔をして、横を向いた。
徳興君は、自嘲の笑みを頬に張り付かせたまま、
顔を強ばらせた。

「あなたは、変えられぬ、とおっしゃった。
しかし、ユ・ウンスは変えたのです」

あの女がたまたま運がよかった、それだけのこと、
と吐き捨てるように徳興君が言うと、王は首をかしげた。

「果たしてそうでしょうか。
叔父上は、多くのものを捨てても、このチェ・ヨンの命を取ろうとする
執念をお持ちでした。そのお気持ちが、この者の力を上回った。
それは本当のことなのですよ」

王は首を回して、チェ・ヨンを見て、また顔を戻す。

「その叔父上のご覚悟を、ユ・ウンスの覚悟が上回った。
そういうことではないでしょうか」

ふん、と徳興君が苛立って鼻を鳴らす。
慰めにもなりませぬか、と王は静かに言う。

「食えもせぬ、幻の食いもののようなものだ。
飲めぬ水が地平に揺らめいていたとて、喉の渇きは癒せぬ」

そうでしょうか、あなたは成したのに、と王は目をうつむかせた。
しばらくの間、叔父と甥の間に沈黙が降りる。
こうして向かい合うと、血のつながりはさほど濃くもないのに、
その顔にはどこかしら似通ったところがあった。

「慶昌君が存命で在位なさっておれば、
世も叔父上のようになったかもしれませぬな」

しかし世はそうならなかった、
と王は徳興君に言うのではなく、独り言のようにそう言った。
世は叔父上のようにはならぬ、と王はおのれに言い聞かせる
ように繰り返した。

チェ・ヨンはじっと、王の後ろ姿に目を据えている。
徳興君は王の話に心動かされた様子もなく、
怨嗟と哀れっぽさの入り混じった顔で
王の後ろのチェ・ヨンにひたと目を据えている。
どうでもよい話をしました、と王が顔を上げて、徳興君に言う。

「叔父上、あなたは北京にお行きください。
そして二度と高麗の土を踏むことのないように。
次にお戻りになったときは、命を取らざるをえません」

殺さないのか、と徳興君がさして嬉しくもなさそうな、
それでいて、命意地汚い嬉しさをにじませてそう言った。
どうしてかいつも、あなたを殺す気にはなれぬのですよ、
と王は苦笑いを浮かべてそう言った。

「叔父上、昔玉座より大事なものがおありか、
と尋ねたこと、覚えていらっしゃいますか」

そんなことがあったか、と徳興君が言う。

「そのとき叔父上は、自分が一番大事だとおっしゃいました。
ですから、その一番大事なものを守るため、
二度と高麗の土を踏まないでいただきたい」

王はひどく柔らかい口調でそう言った。
しかし、徳興君からしか見えないその目は、
ぎらついて、ただならぬ決意に満ちていた。

「あなたがこの約定を破られたときには、
あなたの一番大事なお命をちょうだいすることになる」

世は一番大事な、高麗を守らねばならぬゆえ、
王はそう言って徳興君をじっと見つめた。



「チョナ、あなたは甘い」

牢から離れ、長和殿に向かい歩き始めるとすぐに
チェ・ヨンがそう言った。あいつを生かしておくとは、と続ける。
ほう、まったく礼儀知らずの臣下だな、たかが于達赤の兵卒が、
と王が面白そうに言う。
チェ・ヨンは立ち止まると、ならば言い直します、
と言いながら同じように立ち止まった王に向き直る。

「チョナ、恐れながら申し上げます」

王は後ろで身体の後ろに手を回し、
顔だけをチェ・ヨンに向けて、見上げている。

「あなたは甘っちょろい」

王はチェ・ヨンをじっと見つめていたが、我慢できずに吹き出した。
拳を口に当てて、くくく、と笑っている王を、
チェ・ヨンはくすりともせずに、真面目な顔で見つめている。
世はいろいろな者に様々なことを言われてきたが、
面と向かってそのように言われたのはさすがに初めてであるぞ、
と王は笑いながらチェ・ヨンに言った。

「ですから」

俺がお守りいたします、とチェ・ヨンはきっぱりと言った。
王は笑うのをやめて、チェ・ヨンの顔を挑むように見た。

「双城総管府で叔父上を斬って捨てることもできぬ男がか」

と王が言うと、チェ・ヨンは、はあ、と大きくため息をつく。
それが俺の甘さです、とチェ・ヨンは言った。
治りはせぬ、と付け加える。

見もせぬことで平静を失い、
女一人のことで抜け殻になるこの性根、
治らぬとしても、周りの力を借りればなんとか
あなた一人はお守りできるでしょう。
チェ・ヨンはまっすぐに王を見つめてそう言った。

「覚悟ができたか大護軍チェ・ヨン、よき心がけであるぞ」

王はそう言うと、うむ、と一人うなずいて、歩き出し、
チェ・ヨンもまた並んで歩き出した。



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by kkkaaat | 2014-02-06 23:01 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(35)

【シンイ二次】蜃楼 7


「テマン、よせ」

背後に立つテマンを振り返りもせずに、チェ・ヨンは鋭く言った。
テマンは、濡れた目でチュンソクを睨みつけていた。
左手にはすでに短剣が握られていて、利き腕が懐に入っている。

「別に殺そうってんじゃありません。痛めつけるだけです」

テマンがそう言うと、いいからよせ、とチェ・ヨンは少しばかり
呆れたように言って、手を軽く振り上げる。
それでもおさまらない様子のテマンが一歩ずいと前に出ると、
トクマンをはじめ、数名の于達赤が飛び出してチュンソクとテマンの
間に壁を作った。

「身の程をわきまえないことを、申し上げました」

チュンソクは、目の前で起こっていることはそっちのけで、
ただ、ひたすらに分不相応でありました、
俺がこのようなことをあなたに言う資格など、
と拳を握りしめてわびの言葉を止められないでいた。

覚悟を決めて闘い言ってみたものの、
いざチェ・ヨンにこうして一矢を射当てると、
おのれが思っていたよりも、強い衝撃を受けたようで。

「思い上がりもはなはだしいっ」

そう言うなり、頭を抱えて、地面に膝をついてしまった。
自分の周りで、自分とは関係なしに進む出来事を、チェ・ヨンは呆然と
眺めていたが、鼻を人差し指でかくと、くくっ、とかすかに笑った。
それに気づいたテマンが顔を向けると、チェ・ヨンはそのふくれっ面が
目に入って、余計におかしくなって、肩を揺らして笑いだした。
チュンソクも気づいて、自分を責めるのをよして、チェ・ヨンに目をやる。

チェ・ヨンは握った拳を口元に当てて、
皆を見回して身体を揺らして笑いをこらえていた。

「テホグン…」

チュンソクがそう呼ぶなと言われたことも忘れて、
力が抜けたような情けない声で、そうつぶやくと、

「ああ、悪い、悪かったな」

そう言いながらチェ・ヨンは、手をついて身体を起こし立ち上がった。
両手のひらを腰の後ろに当てて、少しうつむいて、ふうと息を吐く。
それからそのままの姿勢でしばらく動きを止めて、
じっとしているので、テマンもチュンソクも、他の于達赤隊員たちも、
固唾を飲んで、動きを止めている。

チェ・ヨンが顔を上げるのにつられるように、他の者たちの顔が上を向く。
はあ、とチェ・ヨンが腹の底からもう一度息を吐き出すと、
周りの者たちからも、何とはなしに息が漏れる。

「チュンソク」

はいっ、とチュンソクが弾かれたように返答する。
いや、隊長(テジャン)だったな、と聞こえぬほど小さく呟いて、
チェ・ヨンは言葉を続ける。

「すまない。迷惑をかけた」

お前の言うのはもっともだ、とチェ・ヨンが言うと、
いえっ、と肩をすくめるようにして、チュンソクが恐縮する。

「これより、チョナに謁見を申し入れる」

しばしの沈黙が流れた後、チェ・ヨンは咳払いをする。
テジャン、とチェ・ヨンは力強く、チュンソクを呼んだ。
チュンソクの顔が、くいと上がり、チェ・ヨンを見つめた。

「テジャン、ただいまより、長和殿に参るゆえ、
任務を少しばかり離れる許可をいただきたい」

チェ・ヨンはそう言って、ゆるく頭を下げた。

「はっ、いえ、あの」

チュンソクは泣き笑いのような顔をして、うまく返答できずに口ごもったあと、
許可する、と言ってうつむいた顔を上げた。
チェ・ヨンはその声を聞いて身体を動かしかけて、
周囲の于達赤隊員たちに目を留めて、歩みをと切らせる。

何かを言おうと口を開きかけたが、一つうなずくと、そのまま立ち去った。





「ウダルチ、イルビョン(于達赤隊一等兵)、チェヨン参りました」

そう言って、チェ・ヨンは頭を下げる。
すいと身体を起こすと、こちらを見つめる王と目があった。

「ずいぶんと、突然であるな。
こちらもいろいろと忙くしておるゆえ、急にというのは困る」

それにしては、すぐにお取次いただきましたが、とチェ・ヨンが言い返すと、
ああ、ドチには大護軍ならまだしも、いち兵卒に取次を頼まれたら
もう少しもったいぶれ、と言うておかねばならぬな、と王はこともなげに言った。
チェ・ヨンは、視線を落として少しだけ笑う。

「して、何の用だ」

王がうながすと、チェ・ヨンはしばらくの間、
口をつぐんだまま、じっと王の目を見つめた。
王は落ち着き払って、その視線を受け止めていた。

「王のお考えを、うかがいたく」

チェ・ヨンがそう言うと、王は何についてか、と平然と問い返す。
王の問い返しをそのまま打ち返すように、チェ・ヨンは言った。

「俺について、です」

そう言ってから、チェ・ヨンはかすかに目をすがめる。
知りたいのだ、とでも言うように。

「どこぞの兵卒について語るほど、世は暇ではないぞ」

口の端を持ち上げて、王がからかうようにそう言ったが、
チェ・ヨンはにやともせずに、まっすぐ王を見つめている。

「于達赤の兵卒となり、つくづく思いました」

王も顔から笑いを取り払って、黙ってチェ・ヨンを見ている。

「以前の俺は、甘かったのです」

チェ・ヨンは何かを噛み締めるようにゆっくりとそうつぶやく。

「徳興君に殺されたという油断のことか、
それとも、妻の行方を探して職を辞そうとしたことか」

王が尋ねると、チェ・ヨンはしっかりと首を振った。
いいえ、そのどちらもただおのれの力不足であっただけのこと、
そう言うと、チェ・ヨンは王と目を合わせる。

「この高麗の国を守護するものとして、おのれの力不足で投げ出せる、
その程度の覚悟で務められると思っていた」

―それが甘い、
とチェ・ヨンはそう言って、視線を落とした。



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by kkkaaat | 2014-02-05 00:13 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(37)

【シンイ二次】蜃楼 6

チュンソクの常のかまえは、正面中段である。
乱戦のときさえ、そのかまえを解かないチュンソクのそれを、
陰で愚直のかまえと酒の席で揶揄するものもいたが、チェ・ヨンが
それを言うならやつのは赤心のかまえだ、と一喝すると、
誰もからかうものはいなくなった。
であるのに、今日に限って、脇かまえを取った。

「いいのか、それで」

チェ・ヨンはつかつかと壁によると、木刀を片手でつかみとる。
脇にかまえるは、チェ・ヨンのかまえ。
刀身の長い鬼剣の遠近を狂わせるために、左脇後ろにかまえるのだ。
両手で自在に剣を扱えるチェ・ヨンだからこそ、できること。

チュンソクの右脇かまえと、チェ・ヨンの左脇かまえが鏡合わせのように
向かい合う。

息を読む間もおかずに、チェ・ヨンは突風のように木刀を巻き上げて、
チュンソクの顎先を狙った。
身体は引かずに、顎だけをひねって刀先をよけると、
チュンソクはチェ・ヨンの胴を狙って木刀を跳ね上げる。
振り上がった刀身で軽々とそれを撃ち落として、チェ・ヨンは跳ねて
一歩後ろに下がると、腕先だけでくるりと木刀を回した。

以前そんなことをした隊員がいて、ふざけたことをするなと、
木刀を叩き落とされていた。
トクマンとチュモが、ちらりと視線を交わし合う。

「剣筋が見え見えだな」

強く打たれた振動で、手首に痺れを感じているだろうに、それを見せない
チュンソクに、チェ・ヨンはくいと片頬を上げてそう言う。
無駄口を叩くな、とチュンソクの口から出た言葉に、真顔に戻る。
チュンソクの態度は、どこまでも隊長(テジャン)としてのものである。

「どっちが、だ」

チェ・ヨンは唸るようにそう言うなり打ち掛かり、円形の兵舎の集合所の部屋には、
木刀のぶつかり合う甲高い木の打音が何度も響きわたった。
いつもなら、こんな手合わせのときには、やじや鼓舞の声が飛び交うのに、
于達赤隊員たち、息を殺すようにして、動けないでいる。

木刀が重なり合って、しばし押しあったあと、いきなりチェ・ヨンが
チュンソクの腹を力任せに蹴って、その身体が壁際まで飛ばされた。
ふん、とチェ・ヨンが鼻を鳴らす。

「剣術は剣のみにあらず、何度もそう言ったが、それは聞いていなかったか」

喧嘩っぱやい若造のようなその口の聞き方に、古株の隊員たちが
目を丸くする。
チェ・ヨンは木刀をからんと投げ捨てて、部屋を後にしようとした。

「終わっておりませぬ」

背後で、じりと立ち上がる気配を感じたが、チェ・ヨンは振り返らなかった。
一本勝負だ、負けを認めろ、と吐き捨てて、歩み去ろうとするのを、
チュンソクの声が追いかける。

「逃げますか」

足が止まる。
周囲で見守っていた于達赤には、チェ・ヨンの背中から湯気が立ったように見えた。
振り向いたチェ・ヨンは、あきらかに向かっ腹を立てていた。
チュンソクの喉がごくりと鳴る。

もう一度チュンソクが、右脇にかまえるやいなや。
だれがだ、と地獄の底から湧き上がるような声で言って、チェ・ヨンは
かまえもせずに、打ちかかった。

打ち合う音が、先ほどよりもさらに高い。
あまりにも荒っぽい太刀筋に、周囲の者は、いつ木刀が折れて
飛んでくるかと、ひやひやと首をすくめる。
くぐもった鈍い音がした。

「うぐっ」

チュンソクが左二の腕を強く握り締めながら、うめき声をあげる。
チェ・ヨンは剣術を競うというよりは、ただの棍棒で殴るがごとく、
その木刀を扱った。あまりにも容赦なく、振り下ろされるそれに、
于達赤隊員たちの口からもうめきがこぼれるようになった。

「まだやるか」

そう言ったチェ・ヨンに、チュンソクは剣を振れるうちは、と答えて立ち上がる。
ちっ、と舌打ちをすると、チェ・ヨンはまた踏み出した。


それからどれほどたっただろうか、荒い息だけが、
互いに交わされる唯一の言葉となっていた。
三度に二度は脛を蹴られ、腰を打たれ、時には肩で突き飛ばされて、
チュンソクは膝をついたが、それでも残りの一度は一矢を報いて、
チェ・ヨンの方も口元と袖から見える手首に、血あざが見える。
服で見えない背中や腿には、さらに多くが散っている。

「おい、まだ、やるのか」

チュンソクが聞いたこともない声で、チェ・ヨンはそう言った。
傍から見れば、あきらかにチュンソクの方が重傷だった。
これで終わりか、と常なら意識を飛ばすほどの強手を入れられても、
チュンソクは立ち上がらないということがなかった。
俺が終わりというまでは終わらぬ、そう言って木刀を脇にかまえた姿は揺るがず、
その前のチェ・ヨンの顔のほうがよほど、よろめくような狼狽え(うろたえ)を
浮かばせていた。
手合わせ鍛錬の域を越えている。

「これじゃあ…」

殺し合いじゃあないか、トクマンが、小さく呟いて、止めるべきかと周囲を見回すが、
ほとんどの者は魂が抜けたように目を奪われていて、残りの幾人かと
目があったが恐れおののいたように首が振られた。

「死なぬように、殺す」

チュンソクが、チェ・ヨンに言うでもなく、ただ胸の内でつぶやくように言ったのを、
チェ・ヨンが聞きとがめて、は、と尋ね返すともつかない中途半端な声を
出すと同時に、チュンソクの木刀が勢いよく前を突いた。
それは斜めに、それでも十分な角度を持ってチェ・ヨンの腹に見事に
押し通り、チェ・ヨンは後ろへもんどり打って、投げ出され、
天井を向いて大の字に倒れた。

(息が、できぬ)

一筋の息も飲み込むことができずに、手足を震わせて、屍のように横たわる。
素早く駆け寄ったテマンが、半身をひきずり起こすと、
背中から活を入れる。
止まっていた肺に、勢いよく新鮮な空気が流れこみ、チェ・ヨンはひゅうと
喉を鳴らしながら、水でも飲むように息を吸いこんだ。
突かれた腹が、燃えるように熱い。
チェ・ヨンはそこに、手を当てて、肘をついて半身だけ起こして、
そのままチュンソクを睨みつけた。

チュンソクは突いた姿勢のままだった腕を引き戻して、
かまえの足を踏ん張ったまま声を張り上げた。

「ご事情はそれなりに飲みこんでいるつもりです」

が、とチュンソクの声が一段高く張り上げられる。
視線と視線がぶつかる。
礼を尽くしてはいたが、一歩も引かぬ様子に、チェ・ヨンの目が
微かに右に流れ、また戻った。

「一武官の感傷を、慰めているひまなど、于達赤にはないのです。
お気持ちのおさまるのを待つ余裕など、俺たちにはない」

チュンソクは言葉が喉につかえそうになるのを、必死に押し出しているせいか、
声が掠れて、寒気だったように身体の芯が震えていた。
木刀を脇に構えた姿勢のまま、打ちかかる気迫のまま声を絞る。

「同情などと言えば、あなたは大層お怒りになるでしょうが、
一同みな、ウダルチだけではございませぬ、文官武官みな、
チェ・ヨン殿、あなたに同情いたしておりまする」

チェ・ヨンは同情という言葉にかっと頭に血が上るのを感じたが、
チュンソクの言わんとしていることがわかって、どっと情けなさがこみ上げて、
一度土についた手で顔をぬぐった。

「けれど、高麗にはその猶予がございませぬ…」

そこまで言った、チュンソクの顔はのぼせたように赤かった。
その紅潮が、周りにわかるほどみるみるうちに青ざめて、
構えを解くとだらりと木刀を手にぶら下げたまま、
棒立ちになった。

「言いすぎました」

言いすぎました、とチュンソクは、吠えるような口説の舌の根も乾かぬうちに、
蒼白になって繰り返した。




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by kkkaaat | 2014-01-28 15:21 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(49)

【シンイ二次】蜃楼 5

「イルビョン、チェ・ヨォォン!」

人の引き上げてしまった練兵の広場を横切り、于達赤の兵舎に戻り、
自分の仮寝の床へと歩いていると、いきなり、太く張りのある声が呼び止める。
咎めるような怒気をはらんだ声だったが、チェ・ヨンは臆することもなく振り返る。
振り返った先には、険しい顔をした「テジャン」の顔があった。

チェ・ヨンは一瞬真顔になった。
于達赤に入って最初は、チュンソクはかたくなに「テホグン」とチェ・ヨンを呼んだ。
やめろ、と言うとしかたなしに、チェ・ヨン殿と呼び続けてきたのだが。
イルビョンと聞いて眉間に皺が寄りそうになったが、あえて、
その気持ちの高ぶりをないものとした。
そうだ、俺はただのチェ・ヨンだ、チュンソクは正しい。

「いい声、だ。チュンソク」

右頬だけを微かに上げて、そんなふうに言って、チュンソクの肩を一つ叩くと、
また後ろを向いた。
隊長(テジャン)と呼んだのは、最初の一度きりだ。
大護軍の身も名も捨てた今でも、自らより弱いものをテジャンと呼ぼうとすると、
何かしら喉の奥がつかえたようになった。

「待て」

びりびりと兵舎の高い天井に響くような声で、チュンソクはチェ・ヨンを呼び止めた。
なぜ待たぬとならぬ、と怒鳴りつけたくなったが、歯を食いしばる。
一兵卒扱いされて、苛つく自分が苛立たしかった。
無様に徳興君に毒を噛まされ、妻の不在に腑抜けになった自分は、
そのあたりでちょうどいい、そう開き直ったはずだった。
そもそも、皇宮を下がるまでの腰掛けの在職だ。

「なんだ」

と振り返らぬまま、肩ごしに尋ねる。
周囲の隊員たちがかたずを飲んで見守っているのがわかる。
散れ、散れ、とチェ・ヨンは心の中で大声を張り上げる。

こっちを向け、チェ・ヨン、そうチュンソクが言ったヨンの名の尾が、
裏返ったのを聞いて、チェ・ヨンは、ふ、と薄く笑った。
唇の上に浮かんだ薄笑いを消しもせずに、チェ・ヨンは振り返った。

こちらを見つめるチュンソクの目は、もちろん笑ってなどおらず、
怒気をはらんで、険しくしかめられていた。
おいおい、と口の中で呟く。
ほんのわずか、威圧を感じたのを無視して、チュンソクの目を見る。

「なんだ」

もう一度、低い声で尋ねる。
周囲の于達赤隊員たちの目が、自分とチュンソクとを忙しなく行き来する。
あの、と誰かが小さな声で何かを言いかけたが、チュンソクの手のわずかな
動きで静まった。

「やりすぎです」

待て、と言った声は荒ぶっていたが、そう言った声はもう静まっていて、
それでも何やら切羽詰まった響きがあった。
何がだ、とチェ・ヨンがわかりきったことを口にして問うと、
チュンソクは、苛立ちも見せずに繰り返す。

「やりすぎだと、申し上げているんです」

だから何を、としらを切ろうとするチェ・ヨンの言葉を遮って、
チュンソクは一歩前に踏み出すと、言う。

「務めている間は私事は二の次、いや百の次だ。
敵が陽が上って暮れるまで鍛錬するなら、俺たちは起きて寝るまで鍛錬する。
息抜き? それはお前の命を守るのに何か役に立つのか」

チェ・ヨンの目が、大きく見開かれ、一瞬口の端がふるりと震えた。

「すべて、あなたが俺におっしゃったことだ」

チェ・ヨンの口が何か言い返そうと半開きになったまま、
は、と息だけを吐いた。
言葉を失っているチェ・ヨンに向かって、
もう二度と、務めている間に抜け出したりなさらぬよう、
とチュンソクは落ち着いた声で言うと、ほっとわずかに肩の力を緩めて、
踵を返す。

「待て」

身体を半分だけ回したチュンソクの腕を、チェ・ヨンが自分でも何をしようと
しているのか、意識もせぬほど素早くつかんだ。
チュンソクは、薄く戸惑いを顔に登らせて動きを止める。

「俺は」

チェ・ヨンは、小さく唇を噛んだ。
お前なんぞに何がわかる、そうチュンソクにだけ聞こえる声で言って、
チェ・ヨンは腕ごと身体を突き飛ばした。
チュンソクは二歩ほどたたらを踏んで、止まると、驚いたように顔を上げた。
それから、ふーっと長く息を吐き、チェ・ヨンの顔を見る。

チェ・ヨンは顔に血を上らせたまま、ふい、と横を向いた。
チュンソクはもう一度、盛大なため息をつくと、つかつかと壁の剣置きに歩み寄り、
そこから木刀を一本つかみ出す。
これより、わかっていただく方法はなさそうですね、とつぶやくように言うなり、
丸い部屋の中央に歩み出て、言う。

「チェ・ヨン、これより剣の鍛錬をつける。構えい!」

そして、木刀を脇にかまえると、ぴたりとチェ・ヨンに目をすえた。



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by kkkaaat | 2014-01-25 23:10 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(20)

【シンイ二次】蜃楼 4


「ひゃあ!」

ウンスは急に横から伸びてきた手に腕をつかまれて、
部屋の中に引きずりこまれた。
悲鳴をあげそうになった口を大きな手が覆う。

「俺です」

殴りかかりそうになった手首をひょい、とつかむと、チェ・ヨンは
ウンスの顔を覗きこんで、目を合わせた。

「もう、何するのよ。驚いたじゃないの」

ウンスはチェ・ヨンの手を口からずらし、胸に手を当てて目を見開いて
そう言った。
チェ・ヨンは、驚かせるのが目的だったとでも言うように、にやりと
口角を上げて、それから言う。

「ここでお待ちすれば、会えると思いまして」

ウンスは王に呼び出されて、宣仁殿を訪れていて、先ほど下がって回廊を
歩いている途中だった。
もう三度目になる。
起きなかったことと、起きたこと。
開いた天門と、その先の出来事。
ウンスは尋ねられたことで、答えられることは包み隠さず話すことに
決めていた。

「だって歴史を変えちゃいけないって、
誰が決めたのよ、ねえ。おかしな話だわ」

自分のしたことを振り返ると、王に話さないのは筋が通らない。
ウンスはそう思ったのだ。

春の午後は穏やかに暖かくて、ウンスは中庭で花でも眺めてから屋敷に
戻ろうと、のんびりと足を運んでいた。
引きずりこまれたのは、皇宮に無数にある控えの間の一つで、
人減らしが進んだ今では、使うものもいないようで、
掃除はされているものの、わずかに埃っぽい。

チェ・ヨンは一枚だけ空いていた扉を軽やかに蹴り閉めると、
当然のことのように、ウンスを扉脇の壁に押し付けて、
その唇に自分の唇を押しつける。

「ちょっと待って、ふざけないで」

ウンスは、笑いながらチェ・ヨンを押しのけようとするが、思いのほか
その腕は強固で、ウンスの肩のすぐ下をぐいとつかんだまま、離れない。
チェ・ヨンの口元は笑っているが、目元は一つも緩んでおらず、ウンスは
自分の笑いを引っ込めた。
しつこく、追いかけてくる唇を、手で避けながら、言葉を続ける。

「ねえ、なんでここにいるのよ。今、お仕事中でしょう?」

そう尋ねられて、ようやくチェ・ヨンの顔が少し止まる。
見回り中だったのです、と答える前の一瞬の逡巡に、ウンスはため息をつく。

「ね、違うわよね。なに? わたしに会いたかったの?」

そう言うと、チェ・ヨンは小さく目をそらしたが、すぐにウンスを見ると
けろりとした声で言う。

「剣の鍛錬でしたが、抜けて参りました」

逃げ出して、でしょ、とウンスが言い直すと、同じことです、と
チェ・ヨンは言いながら、ウンスの手の隙間から、首筋に唇を潜りこませた。
ウンスは小さく声を上げて、やめてやめなさいってばここをどこだと思ってるの、
と言いながら、チェ・ヨンの頭を平手でぺしりと叩いた。

「皇宮です」

チェ・ヨンは気にも止めずにそう言って、顎をさかのぼって
口づけにようやくありつく。

ウンスが呆れてしばらくの間、好きにさせてやると、
チェ・ヨンはそのまま上衣の背中に手を差し入れて、嬉しそうに肌を撫ぜる。
少し息があがって弾んだ声で、ウンスは口づけの合間に言った。

「ね、抜け出すなんてしていいの。あなたがテジャンだったときに
そんなことをする人がいたら、どやしつけていたでしょう?」

チュンソクは多分気づいておりますまい、
とチェ・ヨンが上の空でそういう言いながら、
さも嬉しそうにウンスの衣の前紐を引っ張って解く。

「何言ってるのよ、ちゃんとテジャンって呼びなさい、ね?」

ウンスが逆らって結びなおそうとすると、結んでいる間に別のところを
解いてしまう。慌てているのを見て、チェ・ヨンが笑うのがしゃくで、
ウンスは伸びてくる手を何度もはたいた。

チュンソクは気づいているに決まってるでしょ、っていうかみんなあなたが
抜け出したことなんて気づいているわよ、とウンスが言いながらチェ・ヨンを
見ると、もうその顔は笑っておらず、ウンスの顔も見ていない。
余裕なげにウンスの手を払いのけると、上衣の前を開き、
下袴の腰紐も瞬く間に緩めてしまった。

そうなるとウンスが、ねえ、ちょっと、といくら話しかけても応えもせずに、

「ねえ、…まずいんじゃないのかな」

ウンスが遠に抗うのをやめ、動きを助けるように自分も腕を
チェ・ヨンのうなじに回して、弱りきった声でそう言ったときだけ、

「かまうものか」

と小さな声で言った。



ウンスは乱れた髪を、手ぐしで落ち着かせようとすきながら、歩き出すと、
二つ先の回廊から、すいと人影が現れ行く手を遮った。

「ひいっ」

音もなく現れた人物に、ウンスは思わず声を上げる。
チェ尚宮は、腰に手を当てて、首を傾げてウンスを見た。

「はめを外すにも、限度がございますぞ」

はあ、と肩をすくめて照れ隠しの笑いを漂わせながら、ウンスは
頭をかいたので、髪は結局、前よりもひどく乱れてしまった。



「ヨンは、まったく、どうしたというのですか、ウンス殿」

はあ、とウンスは曖昧な声を出した。
回廊の先の、手すりにもたれるように腰掛けて、二人は話しはじめる。
于達赤隊で、あの者がどのような狼藉をしているか、ご存知か、
と言うチェ尚宮の言葉に、ウンスは小さく身を乗り出す。

チェ・ヨン本人は、万事無事うまくいっております、と言うばかりで、
詳しいことは口にせず、テマンは于達赤隊に戻ったチェ・ヨンに付き添って
兵舎に寝床をもらったおかげで、屋敷に戻ることが少なくなっていて、
ウンスは夫がどのように過ごしているのか、今ひとつ
わからないでいたのだ。

「先日は、ひらの隊員全員と剣の手合わせをして、皆を打ちのめしたそうじゃ。
それも、テジャンだった時のように、しごくわけでもなく、面白半分に
腕試しのようなことをしたと耳にしておる」

チェ尚宮は、むっとしたように口端を曲げて、そう言った。

「昨日はその打ちのめした者ども皆を引き連れて、夕番の時間が終わるか
終わらぬかで城下に繰り出して、酒を振舞ったそうじゃ」

ああ、それは聞いてます、とウンスが言う。
酒を酌み交わすから、少し帰りが遅れると、テマンが知らせに来て、
そのままテマンも加わりたいとすぐにとって返したからだ。

「まあ、いいんじゃないですか? 今はあの人も新入社員…、
んー、新兵みたいなもんなんでしょ。親睦を深めるのには飲み会くらい」

チェ尚宮がぴしりと自分の膝を叩きながら、声高に返す。

「ウンスどのっ! その引き連れて行ったウダルチ十数名は、腰が立たぬほど
飲まされて、本日の朝番誰ひとりとしてまっとうに務められなかったのですぞ!」

ええ? とウンスは驚いて声が出る。
あの人は特に酒の匂いもさせずに戻りましたけど、と言うと、
チェ尚宮は、両手で顔を覆って、深いため息をついた。
まあ、そんなに気にしなくても、とウンスが言うと、

「チョナも何をお考えになってヨンをウダルチに戻されたのか、
皆目見当がつかぬ」

とチェ尚宮は肩をを落とした。
ウンスは、少し首を傾けると、手を顎に当てて少し黙る。

「わたしは、なんとなくわかるような気がします」

チェ尚宮がぱっと顔を上げる。
ウンスは、あ、でもどうかな、わたしには国務のことはわからないし、
と言いながら立ち上がって、くるりとチェ尚宮の方に身体を向ける。
わたし、ずいぶんあの人に見失わせてしまったから、と困ったように言った。
でも、いらないものを捨てた、とも言えるんですよ、と言いながら、
チェ尚宮に目を戻す。

チェ尚宮はウンスの顔を睨むように見て言った。

「天界では不要のものも、ここ高麗では失せてはならぬもの。
それは、ウンス殿もおわかりいただかぬと」

ウンスは、肩をすくめる。
それから両手を身体の前で重ねると、背筋を伸ばした。

「わたしが姿を消していたのと同じ、三月のあいだは、
おおめに見てあげてほしいの。たぶん、そんなにかからないと思うし」

お願いします、とウンスが頭を下げると、チェ尚宮は心底頭を痛めている
といった顔でウンスの頭を見下ろして、もう一度ため息をついた。



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by kkkaaat | 2014-01-15 22:39 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(42)

【シンイ二次】蜃楼 3


「チュンソク…、災難だな…」

アン・ジェは、于達赤隊と龍虎軍、鷹揚軍での皇宮警護についての打ち合わせが
終わると、隊長のチュンソクに歩み寄った。
普段と変わりなく職務をこなしてはいるが、よく見ると目の下の隈が濃い。

「はい、まあ、はあ…」

なんと答えればいいものかと、チュンソクは言葉を濁したが、
最後のため息が何よりも雄弁だ。
いつものぴんと伸びた背筋が幾分丸くなり、肩が落ちている。

「どうだ?」

なんと聞いていいかわからずに、アン・ジェはそれだけ言った。

「ええ、まあ、つつがなく…と言っていいのかどうか…?」

何の抑揚もない声で、チュンソクはそう言って、額をこすった。
それから顔を上げて、眉間に皺を寄せて、アン・ジェの顔を見て。

「どうやら、先日ホグンがおっしゃってくれたように、
我らに対して怒っているわけではないのは、
この度のことでわかったような気がするのですが」

チュンソクは、それがまた悩みの種で、と続けた。





それが、とチュンソクは半分裏返ったような声で、アン・ジェに言った。

「何も、なさらないのです!」

はあ? とアン・ジェが、怪訝な声で問い返す。
何も、なさらないし、おっしゃらないのです、とチュンソクが沈んだ声で言う。

「ちょっと待て、おい、ウダルチテジャン、チュンソク。
俺の耳がおかしいのか。俺にはチェ・ヨンが何もしない、と聞こえたぞ」

なんでそれが、チェ・ヨンが怒っていることになるんだ、とアン・ジェは幾分憤慨した
それがですね、とチュンソクは低めた声で、アン・ジェに顔を近づけた。

「先日など、トクマンが鍛錬中にくだらない冗談を言って、
ふざけているちょうどまの悪いその時に、テホグンが通りかかられまして」

私はひどい叱責を受けるだろうと、声を待ち受けておりましたし、
トクマンなどはこっぴどく小突かれるか、尻でも蹴られるだろうと思っておりましたが、
とチュンソクは顔をこわばらせる。
そりゃあ、そうだろうな、とアン・ジェがうなずく。

「テホグンはつかつかと、トクマンの前まで速歩で歩み寄られまして、
じっとトクマンを睨みつけましたが、ふいっと顔を背けられました」

それで、とアン・ジェはうながす。

「それだけです」

はあ? とアン・ジェが怪訝な顔を作る。

「それだけなんです。テホグンは何も言わず、そのまま立ち去ってしまわれたのです」

俺の方も一蹩をくれただけで、とチュンソクは頭を抱える。
声をかけるにも値しない、とはどれほどのお怒りでしょうかっ! とチュンソクが言うと、
アン・ジェしばらく考え込んだ後、ははあ、と顔を上げた。

「何か、思い当たられますか」

チュンソクがすがるように言うと、アン・ジェは微かに笑いそうになって、
すぐに口を引き結んだ。

「チュンソク」

はいっ、とチュンソクが背筋を伸ばす。

「おまえ、あれだ。うん、チェ・ヨンは怒ってはいないぞ、これは。
はは、そうか。まあ理由(わけ)はな、あいつの体面もあるだろうしな。
うん、チュンソク、テホグンはお怒りじゃないぞ、その点は安心しろ」

そうか、はは、そうか、と言いながらアン・ジェはほのかに愉快そうに、
チュンソクを置いてその場を立ち去ってしまった。

「え?」

その場にはぽかんとしたチュンソクが、取り残されていた。





「ね、ウダルチに戻ったって、ほんとなの?」

夕餉を取りながら、急に問われて、チェ・ヨンは飲んでいた汁でむせかけた。
箸を持った方の手で胸を軽く叩きながら顔をあげると、
ウンスがチェ・ヨンの顔を覗きこんでいる。

「テマンが言いましたか」

そう言うと、ウンスはこくこくと何度かうなずいて、またチェ・ヨンを
じっと見る。その目に浮かんでいるのがどうやら好奇心らしいと気づいて、
チェ・ヨンはふうと息を吐いて、答えた。

「はい、ウダルチの隊員となりました」

テマンはどこまで話したのだろう、とウンスの顔を見るが、読み取れない。
怒るでも、悲しむでもなく、ただ興味深々といった様子で目を輝かせている。

「じゃあ、またテジャンになるの?」

いえ、と口走って、チェ・ヨンはどう話せばよいのか、少し口ごもった。
箸と椀を置いて、握った拳を口に当てる。
一隊員として戻った、というのもやはりあまり格好のいいものではなく。
はて、と動きが止まったところで、ウンスがもどかしげに口を開いた。

「ねえねえ、大護軍の職を退く、ってこのあいだ、話したよね?」

はい、とチェ・ヨンが短く答える。

「なぜかっていうのは話を聞いたから、わかってるから、もういいの。
その後どうするか、はこれから考える、って言ってたけど、
わたしはテホグンを辞めるっていうのは、軍職から退くっていう意味だと
思ってたんだけど、違う?」

違いません、そのつもりでした、とチェ・ヨンがいらう。

「テマンはチョナに拝謁したあと、そうなったって言ってたけど、
そこで何かあったの? チョナに脅されたとか?」

とんでもない不敬を、まるで面白いことのように尋ねてくるウンスに
チェ・ヨンは思わず顔を上げて顔をしかめたが、思い返してみると、
あながち外れてもいない、と言葉を失って、口を開けたまましばらく
動きが止まってしまった。
それでも、気を取り直して、なんとか言葉を続ける。

「チョナは…脅すなどいたしません。ただ、この乱の折、人手不足で」

そう答えると、ウンスは微かに眉間に皺を寄せた。

「ね、ちょっと、真面目な話なんだけど」

急にウンスが居住まいを正して、膳に箸を置いた。
チェ・ヨンはなにごとか、とひたとウンスの顔を見つめる。

「わたし、働きに出ようか?」

は、とあまりの意外な言葉に、小さな声がチェ・ヨンの口から出た。
それから急いで、なぜですか、と尋ねる。

「だってテホグンってすごくいいお給料…禄をもらえてたんでしょう?
一年に銀六斤、あと軍田の収穫も割り当てがあるって聞いたわ。
それがなくなっちゃうと、生活苦しいのかなって。
わたし、そこらへん、よくわからないじゃない? 
高麗の経済ってまだいまいち理解できなくって」

あ、でもだんだんわかってくると思うのよ、ここの診療所じゃ
あまり稼ぎにならないから、明日チョナとお会いする用事があるの、
ついでに典医寺での働き口がないか、相談してみようかな。
べらべらとしゃべり続ける内容に、あっけにとられていたチェ・ヨンは
手の平をウンスに向けて、なんとかそれを遮った。

「それではあなたは、俺が日銭を稼ぐためにウダルチに入ったと、
そう思っておられるのですか」

大護軍ではいられないけど、でもお金はいるでしょ、
今までの職歴を活かして、舞い戻ったのかなあ、ってそう思ったんだけど、
ずばり、当たってるでしょ? とウンスは少し得意げに言った。

「あなたは何か、思い違いをしておられる」

チェ・ヨンは苦笑いを浮かべて、ウンスに言った。

「俺とあなたが一生食うていくくらいの蓄えは、チェ家の蔵に十分あります」

そうチェ・ヨンが静かに言うと、ウンスは一瞬黙って、それから
ええっ、と大声を出した。
その驚きぶりが大仰で、チェ・ヨンは思わず笑ってしまった。

「そうなの?」

そうです、とチェ・ヨンは深々とうなずいた。

「そうなんだ…?」

ウンスは質実な屋敷の部屋を見回して、信じられないようにそう言った。

「じゃあ、なんで…あ、そっか、人手が足りないのか…」

ウンスは、先ほどチェ・ヨンが言ったことを繰り返して、でも、
あまり納得のいく答えではなかったようで、考え込んでいる。

「ゆえに、あなたは心配しなくてよいのです」

チェ・ヨンは穏やかにそう言うと、さ、冷めてしまう、と箸を取った。
ウンスはわかったわ、とうなずいて、また箸を取って食べはじめたが、
その目はまた自分も椀を持ち上げたチェ・ヨンの様子を、
うかがっていた。



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by kkkaaat | 2014-01-08 19:47 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(52)

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