筆記



カテゴリ:北斗七星【シンイ二次】( 10 )


【シンイ二次】北斗七星10(終)

「おお、おう」

お抱きになりますか、とチェ・ヨンに尋ねられて、王は一も二もなく
腕を前に差し出してその胸に抱く。
言葉にならない喜色の濃い音吐が口から漏れる。

「会いたかったぞ」

日も暮れた私室で人払いをした上で、それでも声をひそめて、王は顔を近づける。
赤子は高い笑い声をあげて、王の顔に両手を伸ばしてぶしつけに触る。

「あらあらあら」

ウンスが笑いながら、大丈夫かしらというようにうかがうと、
王はまったく構いもせず、むしろ頬をつかみやすいように赤子を持ち上げる。
赤子は人見知りもせずに、声を出して笑う。

「余の顔をお気に入りか、よいよい。存分に触れよ」

そう言いながら、王は赤子の顔を食い入るように見る。
その薄く赤い唇や、赤子にしてはすっきりとした鼻筋や、大きな黒い瞳をたたえた目を、
順に見て、その中にある面影を見つけると同時に、微笑んだまま目から涙を溢れさせた。

「似ておるなあ」

誰にとは言わずに、王はそうつぶやき、片腕で赤子を抱き寄せたまま袂で目を拭った。
そして、また大きく笑うと、赤子をあやしはじめる。
ウンスは黙ったまま、ぎゅっと横に立ったチェ・ヨンの上着の背中を握った。
それに気づいてチェ・ヨンは少しだけ顔を横に向けて、ウンスを上から見下ろす。
ウンスはそのことに気づかぬまま、王と赤子の様子に見入っている。

王都に戻ったおりに、寝入っている赤子を一度だけ拝謁させたが、
こうして腕に抱くのは王にとってほぼ一年ぶりとなる。
ウンスはもっと早くに機会を作りたいとせがんだが、
チェ・ヨンの戒心の強さはなみなみならぬものであった。

「美しい赤子でございましょう」

自分の横で急に声がしてウンスは、はっとしてチェ・ヨンの顔を見た。

「母親に、似ております」

視線を落として低い声で言い、それからチェ・ヨンは顔を上げて王と目を合わせた。
王はチェ・ヨンを見、それからウンスを見た。





「私の子はどこです。私の、わたくしの――」

もうほとんど見えないような目を空に惑わせて、王妃は寝台の上で悶え、細々と叫んでいた。
王妃様は心が乱れておいでです、と別室へと導こうとする下官を押しのけて、
王は寝台の傍らに立ち、王妃の姿を見下ろした。

ただの十日ほどで、これほどに青ざめ、細るものなのか。
侍医たちを怒鳴りつけたい気持ちが、沸き立つ煮え湯のように腹の奥から湧き上がる。
それを、手を尽くしても王妃の身体は出産に適しているとは言い難いという診断を
きっぱりと告げたウンスの言葉を思い出してぐっと飲みこむ。
ウンスは骨盤という言葉を使っていたが、赤子を包む骨がもともと小さく、
出産には多量の出血の可能性が高いと。
腹を切って赤子を取り出すやり方も提案されたが、
尊い王妃の身体を切り裂くことなどあってはならぬと侍医たちによって一蹴された。
王自身、そうした術技のない侍医たちにまかせる気も起こらなかった。
(チャン・ビンがおれば)
(ウンスを開京にとどめおけば)
今になっては詮無い思いが、ぐるぐると頭の中を回る。

王は、ウンスが王妃とともにしていた可笑しな体操を思い出して、
耐えられずに一瞬目をつむった。
床一面に敷き詰められた布団の上で、ウンスと王妃と、
なぜかチェ尚宮までもが仰向けになって何やら膝を動かしている。
何かなさっているご様子という護衛の言葉に、
前触れをさせぬまま王が部屋へと立ち入ると、
王妃は、チョナ! と高い声を出すと急いで起き上がり、顔を真っ赤に染めてみせた。
今、目の前にいる王妃の顔は血の気がなく、その落差を飲みこむことが難しい。

「王妃さまは、御産の際の出血が多く、また御子様のみまかられたことに心を傷められ、
病にかかっております。
熱でうかされておりますゆえ、御子様がまだ、その生きておられると…。
くれぐれも、刺激なさりませぬよ――」

わかっておる、と王は低く言って寝台のふちに腰掛け、王妃の手をとった。

「チョナ、ああ、チョナ」

うわ言のようにつぶやきながら、まだ相手が誰かはわかるようだった。
私の赤子はどこにいますか、無事ですか、健勝にしておりますか、私の、私の、
と狂ったように王の手を握りしめる。
王は大きく息をすい、憂いを顔から払い、どうにか薄い笑顔を作って、王妃に身を寄せる。

「大事ない。赤子は無事じゃ。心配ない、赤子は無事でおるぞ」

何度も言い聞かせると、王妃は少しだけ言葉を止めて、ぐったりと王を見つめる。

「赤子はチェ・ヨン将軍が守っておる。チェ・ヨンが、命をかけて守っておる」

後ろに控える下官や侍医が、王妃を慰める王の虚言ととらえてそっと涙をぬぐう。
王妃の虚ろな眼差しにかすかに生気が戻るのを、王だけが見る。

「チェ…ヨン…」

そうじゃ、チェ・ヨンが守っておる、震える声で王はそう言って、強く王妃の手を握る。
そうでした、とつぶやくと、もう弱りきって涙も出ない王妃の目に、薄く涙が盛り上がる。
唇に笑みめいたものを苦心して浮かべると、王妃は出ない声で何かをつぶやく。
王はもう堪えることができなくなって、嗚咽をもらしながら、
その口に自分の耳をかぶせるようにして、ただひたすらに小さくうなずき続ける。

その日の夜半に、王妃は絶息する。





「本当に、よく、似ておる」

ウンスと眼差しを合わせたまま、王はしみじみと言う。
しばし抱かせよ、と言って王は腰掛け、腕の中の赤子をじっと見つめ、
静かな声で何か話しかけながらあやしている。
チェ・ヨンとウンスは黙って少し下がり、部屋の入際に置かれた卓についた。

胸がいっぱいで喉が詰まったようになって、
ウンスは王と赤子から目を離すことができなかった。
卓上に置かれぎゅっと握られたその手を、そっと包みこむ感触にウンスは目を下ろす。
自分の手に、一回り大きな手が重ねられていた。
顔を上げると、チェ・ヨンがじっとウンスを見つめている。
ウンスは沈黙のまま、手のひらを上に返すと、包みこむその手に指を絡める。
ぎゅうとこめられた力に、ウンスもまた答えるように握り返す。


力強く。
ただ、力強く。



(終)

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by kkkaaat | 2016-02-12 22:17 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(35)

【シンイ二次】北斗七星9


四人は頭を寄せ合って、赤子の上に四つの雁首を並べてじっと覗きこむ。
覗きこまれた赤子は、小さな口を開けてあくびを一つした。
話し声で目が覚めたのか、ほわと目を開ける。

「ど、どういうことだ?」

テマンが話を聞いてもわけがわからず、頭をぐしゃぐしゃと手でかき乱す。

「ユ先生が男ならともかく、ありえねえ」

それとも天界じゃあ天女が女に孕ますこともできるのか!?
とテマンが仰天したように言うと、不謹慎なことを言うでない、
とマンボ姐がテマンの頭をぴしゃりとはたく。
テマンは素直に口にした自分の考えを頭ごなしに叱られて、口を尖らす。

「赤子が親と似るのは、し、し、自然のことわりってもんだ」

テマンが久しぶりに、言葉を詰まらせつつ主張する。
もし王妃様がお産みになったこの赤子にユ先生とおんなじほくろがあんのなら、
それはこの赤子がユ先生と繋がりがあるってことだろ、そう言って、
したり顔で口の端を引き上げる。

「じゃあ何か、そんじゃあ、この子はユ先生の子ってかい?」

マンボ姐がテマンを馬鹿にするように鼻を鳴らす。
黙って赤子を見つめていたウンスがその目線は動かさないまま、
呆然とつぶやく。

「わたしの子じゃないわ。わたしが子の子なのよ…!」

テマンとマンボ姐が、あっけにとられたように目を合わす。
王妃様もそのようにおっしゃった、とチェ・ヨンは低い声で言い、
ようやく顔を上げて、ウンスを見る。





「産まれて一刻ほどであったか、この子の身体を典医があらためておった折に、
赤子にしては珍しくほくろがある、と言い出しての。
それを見たとき、すぐには思い出せなんだ」

王妃は細い腕で自分の身体を支えたまま、夢見るような口調で話し続ける。

「けれど、確かに見覚えがあったのじゃ。
私はいつぞやこれを見たことがある、とチョナに申し上げると、
夜空の七つ星ではないか、誰でも見覚えがあろう、とチョナはおっしゃいました」

七つ星、腕に七つ星。
王妃は自らの言葉を噛み締める。

―ウンスの腕には星座があるね、って父が言って。同じものが空にあるから見てみようって望遠鏡を買ってくれたんです。

「そう言って、ウンスは私に、腕に七つ星があるのを見せてくれた。
北斗の七星の形に並んだウンスの腕の小さな星座を見せてくれたのです」

夫のそなたなら、ウンスの肌にあるほくろの一つ一つも知っておろう
と思って見せたのです、と言われて、チェ・ヨンはわずかに気まずそうに
顔を横に向ける。
王妃は頬を薄紅にして嬉しそうに少し声を上げて笑い、咳きこんだ。
王がすぐに王妃の背中に手を伸ばしてさすると、
崩折れるように横になる。

「これがどういうことか、そなたにはわかるか」

王妃は咳をこらえながら、チェ・ヨンに問う。
チェ・ヨンは、いえ、よくは、と小さく呟いた後、黙り考えこむ。

「私にはわかります」

王妃はそれをチェ・ヨンへと言うよりはむしろ、王に向かって言う。

「この子の口元、鼻ぶり、チョナにそっくり」

そう言うと、王は少しばかり照れくさそうに、それでいて誇らしげに微笑む。

「目は私に似ている」

横たわった王妃の目から、つうと涙が一筋、首を通り、寝床へ落ちる。

「子は親より身体を授かり、親と似て産まれる。
ならばなぜ、この子にはウンスと同じものを身体に持っているのか、
あきらかではないですか」

王妃の目から、また一筋ふた筋と涙が落ちるが、
涙とはうらはらに、その頬に口元に溢れるような喜びが輝いている。

「この子は産まれ、生き、子を産む。
その子がまた、人生を長らえ、また子を産む。
そうやって、何百年を経て、ユ・ウンスに繋がるのですよ。
私と王の子は、ただいたずらに死にはしないの」

―北斗七星はそのあかし。

チェ・ヨンよ、そう呼びかけて王妃はしばらく溢れくる思いに言葉を失って、
唇をかすかに震わせた。

「それを見たときに、私は心を決めたのです。
チェ・ヨン、そなたに託そうと」

そなたはこの子を命をかけて守りとおすでしょう。

王妃のその言葉は、これまでのそれとは違った種類の確信に満ちている。
うなずくチェ・ヨンの顔に現れた決意もまた、今日までの決意を超えている。

「この赤子が、子々孫々の代まで命の長らえるよう、
我が魂をとしてお守りいたします」

王と王妃と王女の前に悠然と膝をつき、チェ・ヨンはこうべを垂れる。
王は哀しげな顔で、口元をほころばせた。

この男を我が身に仕えさせてはや十年。
初めて、心の奥底から臣下の礼を取るチェ・ヨンの姿を目にしたのだ。

「頼むぞ」

王は、噛み締めるようにそう呟いた。





「ってことは、この子がユ先生のご先祖様ってことですか?」

テマンが頭をかき回すのも忘れて、ぽかんと口を開ける。
マンボ姐は、眉間に深い皺を寄せながら、チェ・ヨンに話しかける。

「あたしにゃ、天界のことや天門のしくみは、よくわからない。
何がどうなってかはわからないが、ユ先生とこの子にゃ、ふかあい縁がある、
そう思っていいんだね、ヨン」

チェ・ヨンは、そうだ、とゆっくりとうなずく。

「手裏房には、この子を見守ってほしい。だから、聞いてもらった」

大っぴらにできないから、裏からあたしたちに守れと言うんだね、
とマンボ姐は赤子の小さな指を撫で、思わず微笑みながら言う。

「高くつくよ」

マンボ姐がそう言うと、チェ・ヨンは真面目な顔を崩さずに言う。

「でかく儲けさせてやる」

ほほう、とマンボ姐は肩をすくめる。
子細を伝えずにどう守るか、知恵を貸してくれ、とチェ・ヨンは言うと、
今度はいまだ呆然と赤子を眺めているテマンに声をかける。

「テマン、さっきはすまなかったな」

チェ・ヨンがもう一度頭を下げると、テマンはぶるぶるとすごい勢いで
首をふった。
俺こそ事情もしらずに勝手を言ってすみませんでした、
とテマンが頭を下げると、チェ・ヨンはテマンの両肩に手を置く。

「女房に話すかは、お前が決めろ。立ち入れば危険も増す」

テマンは、こくりとうなずいた。
チェ・ヨンは大きくひとつ息を吐くと、両膝を叩き、
さて、といった様子で声を出す。
イムジャ、と言って顔を上げて、唖然とする。

「ほーら、あなたのオモニ(お母さん)ですよー、はじめまちて
かわいいベビーちゃんですねえ、お顔を見ちてくださいなー」

ウンスは赤子に顔を近づけて、惚れ惚れと見つめながら、
その手で自分の指を握らせている。
少しばかり深刻なチェ・ヨンらの様子などそっちのけだ。
普段とはまったく違う聞いたこともない言葉使いに、
チェ・ヨンは戸惑いを隠せない。

「イムジャ…、ちと、話の続きが―」

ウンスはチェ・ヨンが話しかけても、顔を向けもせずに答える。

「そんなのはあと、あとでいいわよ。ねえ、見てこのかわいいお手て」

あっけにとられて言葉を詰まらすチェ・ヨンに、
ウンスは畳み掛ける。

「ほーら、あの人が見えるかな? あなたを抱いてきた人よ」

ウンスは赤子の頬に手を当てて、顔を軽くチェ・ヨンに傾ける。
その時にようやくチェ・ヨンはウンスの目にたくさんの涙がたまっていることに気づく。
話はまた後にしよう、そう思って口をつぐむ。
ウンスは涙をこぼさぬように、チェ・ヨンを見つめて言う。

「あなたのアボジ(お父さん)ですよ。
立派な武士なのよ、とーっても強いの」

チェ・ヨンは、ウンスの言葉に、面食らって顔をかすかに赤くする。

「ほーら、ヨン。あんたもこれで立派な子持ちだよ。
テマン、子育てに関しちゃあんたの方が一日の長がある」

マンボ姐はチェ・ヨンの背中を強くひとつ叩く。
いろいろと教えてやるんだよ、と言われてテマンは、はいっと勢いよく答える。
ウンスが赤子を抱き上げて、チェ・ヨンに近づく。

「ほら、アボジ。ご挨拶して」

チェ・ヨンは渡されるままに赤子を抱くが、
戸惑ったままで、助けを求めるようにウンスの顔を見る。

「いや、この数日腹に抱いていたゆえ、挨拶はすませたかと思うが…」

言い訳するようにそう言うチェ・ヨンに、ウンスが微笑みかける。

「父親としては、してないでしょ?」

チェ・ヨンは助け舟を求めて、マンボ姐とテマンの顔を見るが、
二人ともにこにこと笑うばかりだ。
腹をきめて、チェ・ヨンは赤子と目を合わす。
赤子はまだよく見えぬ目で、それでもぼんやりとチェ・ヨンを
見つめ返す。

「俺が、そなたの父のチェ・ヨンだ。よろしく頼む」

チェ・ヨンがそう言うと、三人は思わず吹き出す。
マンボ姐はさっきよりも強く背中をばしばしと叩き、
ウンスは、そうじゃなくて、とひいひいと笑いながら言う。
そんな部下にするみたいじゃなくて、アボジだよーって、優しくね、
そう言われてチェ・ヨンは困り果てて、歯を食いしばり目をつむる。
目をつむったまま息をつくと、目をあけて天を仰いでから口を開く。

「お前の…アボジだよ」

チェ・ヨンは、顔を紅潮させながらも、なんとかもう一度赤子に言い直す。
それから、しっかりと抱き直して、自分の顔に赤子を近づける。

「そうだ、俺が、お前のアボジだ」

チェ・ヨンは今度こそ、低いがしっかりとした声で、赤子にそう告げた。



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by kkkaaat | 2015-02-20 19:56 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(27)

【シンイ二次】北斗七星8


「チェ・ヨン」

王妃がチェ・ヨンに声をかける。
は、と短く答えて、チェ・ヨンは一歩王妃に近づく。
そのか細い声が少しでも聞き取りやすいように。

「チェ・ヨン、見よ」

見るがよい、という王妃の目の奥に燃えるような光が輝いている。
傍らに寝かせた赤子に顔を向けて、王妃は誇らしげに微笑む。

「これほど美しい赤子を見たことがあるか」

赤子の頬に伸ばした腕の骨々しさに、チェ・ヨンは気づく。

「ご健勝そうです」

赤子を強く見つめて、チェ・ヨンはまた一歩赤子に近づきながら、
そう言った。
母が損なわれても子は無事に産まれるものらしい、見事なものよの、
と王妃が笑うように言うと、王が前に進み、赤子を撫ぜる王妃の手に、
そっと自分の手を重ねる。
王と王妃は視線を絡ませ、王妃がだるそうにうなずく。

「呼ぶのが遅くなってすまぬ」

王が口を開く。
滅相もない、とチェ・ヨンは首を振った。
すぐに引き渡す約束であったのだが、と王は言う。

「産まれてみるとな」

王は赤子に目をやり、目を細める。
これほど愛しく手放しがたいものだとは、としみじみと言いながら、
王妃とまた見交わす。

「さりとて、王妃が手放さぬという理由でこの部屋に赤子を
止め置き続けるのにも限度がある」

王は自分自身と王妃に言い聞かせるように、そう呟いた。
典医どもは、身から赤子を離さぬ王妃様の振る舞いを、
お心が―その―乱れていらっしゃるではないか、と危惧しはじめております。
チェ・ヨンはちらと王妃へと目を上げて遠慮がちにそう言うと、
すぐに目を伏せる。王妃がククと笑う。

「気がふれた、と言っているのであろう? 
チョナの手の者からも聞いておるゆえ、気にせぬでよい」

チェ・ヨンは、は、と答えて小さくうなずく。

「この後のことを考えれば、都合の悪いことではありますまい」

王妃は上を向き、ぼんやりと視線をさまよわせながら、言う。
なにせ私は子を失った気鬱でふせってしまうのだから、とぽつりと
言う声のか細さに、チェ・ヨンは思わず顔をあげる。

「またお会いになれます。参月を越えたころから山羊乳に慣らし、
半年をすぎれば、赤子は粥を食べられるようになると妻が申しておりました。
粥を口にできるようになったらすぐに開京へと戻る所存。
さすれば、また赤子にお会いになることもできましょう」

ウンスにたびたび皇宮へと連れてきてもらえばよい、
と王が励ますように王妃の手を握る。

「そうでございますね」

王妃は、逆に王を励ますように柔らかく微笑んでみせる。
そして二人は、赤子を見つめて、また視線を交わす。
チェ・ヨンは思わず口を開く。

「出過ぎたことを申し上げるのをお許しください。まだ間に合います。
手元でお育てになることは、できるのです」

王と王妃はしばらくの間、言葉には応ぜずに、ただじっと見つめ合う。
王妃がかすかに首を振る。

「チェ・ヨン、お前に見てもらいたいものがある」

王妃は言葉には直接に答えずに、チェ・ヨンに顔を向ける。
大儀そうに身体を起こそうとするのを、王が支える。
半身を起こすと、王妃は赤子の頬をいとしげに撫で、それから産着を開く。

「チョナは、私の勘違いではないか、とおっしゃいます。
勘違いなものですか」

王妃はふふと笑いながら、赤子の見え始めた肌を優しくさする。

「紅巾が王都の門を破った日ですもの、忘れようがありませぬ。
忘れるものですか。ウンスとともに瞻星台にまいったときに―」
※チョムソンデ:天文台

赤子の腕をはだけると、王妃は言葉を切って、じっと赤子の腕を見つめる。
しばしの間、部屋に静けさがおりる。
王妃は顔を上げると、チェ・ヨンの目を見た。

「チェ・ヨン、そなたなら知っておろう」

そなたなら、と呟きながら赤子の腕を示す。
チェ・ヨンは、失礼仕る、と一礼して王妃の元に歩み寄る。
赤子は部屋に入ったときと違って、うっすらと目をあけている。
その透き通った瞳に、チェ・ヨンは目を奪われて立ちすくむ。

「顔ではない、こちらを見よ」

王妃が可笑しそうに笑いながら、そううながす。
チェ・ヨンは赤子の腕に顔を寄せる。
息を呑む音がして、チェ・ヨンが弾かれたように身体を起こし、
王と王妃の顔に視線をさまよわせる。
もう一度顔を伏せて、遠慮も忘れて赤子の腕に手を添えて、
確認する。

「同じものであろう?」

王妃の青白い顔に、うっすらと喜色で紅がさす。
寝台についた手に力をこめて、王とチェ・ヨンに向かって
わずかに身を乗り出す。

「確かに」

とチェ・ヨンの口から、小さな返答が漏れるのを聞いて、王の眉根が寄る。
チェ・ヨンの肩をその手がつかむ。
確かに相違ないか、と詰め寄る口調で王が言うと、
チェ・ヨンは身体を起こし長い長い息を吐いてから、

確かにウンスの肩にも、北斗七星の形にならんだほくろがございます。

と王の目を見つめながら答えた。



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by kkkaaat | 2015-02-20 19:50 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(0)

【シンイ二次】北斗七星7


トギはウンスの襟首を後ろからつかむと、ぐいと引っ張った。
そのまま強引に屋敷の方へと引きずっていく。

「ちょっと、何するの!」

ウンスは数歩よろけて立て直すと、襟を振り切る。
トギはウンスを睨むとその腕をぐいと引っ張って、
また屋敷へと連れていこうとする。

「わかった、わかったから!」

そうウンスが訴えても、トギは懐疑の目つきで一瞥するだけで手を緩めない。
本当にもうやめるから、と泣きそうな声で言うと、
ようやく足を止めてウンスに向き直り、ふん、と鼻をならして
腰に手を当てた。

「だってえ…」

ウンスは人差し指と人差し指の先を、顔の前でちょいちょいと合わせながら、
上目遣いにトギの顔色をうかがう。
トギは、素早く手を動かす。

そんなところに立ちっぱなしでうろうろしていれば、
姿を見た者から不審がられる。たまにならいいが、
予定日あたりから、毎日毎日毎日――

とトギは「毎日」というしぐさを大げさに何度も繰り返しながら、
目を大きく見開いて怒った表情を作って見せる。

「だってここらへん、旅人にしたって狩人にしたって通ったためしがないじゃない。
次に姿を見せるとしたら、ヨンしかいないわ。ね、ね」

そう訴えるウンスの言葉も一理はある。
十月十日めが過ぎ、ウンスは約束された王都からのヨンの来訪を
今か今かと待っているのだ。
トギの手がゆっくりと威圧的にウンスの前で動かされる。

「口に出して、読めっていうの?」

深々とトギはうなずくと、空に字を書くようにウンスの前に手文字を並べていく。

「ウンス、あなたの、その、膨らんだ腹には、何が、入っている」

ええと布団、と言いかけて、トギの目つきを見て慌てて、
赤ちゃんだわ、と言い直してウンスは腹を軽く一つ叩く。

「そして、そいつは、いつ、出てくる予定?」

王妃様の出産と時をおかずして…、と言うウンスの声が徐々に小さくなる。
トギの言わんとすることが、飲みこめてきたのだ。

「臨月どころか予定日を迎えたわたしがこんなところで
うろうろしてるのは、おかしい…わよね」

いてもたってもいられないの、とウンスは本当に泣きそうな顔で揉み手をする。
じっとしてると、頭の中がわけのわからない考えでいっぱいになって、
しまいにはほんとにお腹が痛くなってくるの、そう訴えるウンスを、
急にトギが押しとどめた。

「なに?」

尋ねかけるウンスの口に、トギが指を立てる。
しゃべるな、という仕草。
口を閉じたウンスが、はっとして顔をあげる。
馬の蹄が立てる、微かな音。
歩ませているのか、音の間隔は緩やかだ。

屋敷で待てるわね、というトギの手言葉にウンスは小刻みに首を縦に振る。
きびすを返して駆け出しそうになるウンスの手首を、
トギは急いでつかみ、眉をしかめて首を振る。

「あっ、そうよね。うん、走らない、走らないでいくわ。妊婦だもんね」

ウンスは、真剣な顔で、何度もうなずきながら、後ずさるようにして、
道を屋敷へと歩きはじめる。
ウンスの姿が見えなくなって、しばらくの間、
トギは張り詰めた表情を顔に貼り付けたまま、
道の向こうをじっと見つめていたが、急にはっと目を見開く。

一歩、二歩と前に進み、道をゆっくりとこちらへと進んでくる二頭の馬をじっと待つ。
それぞれの馬上に女の姿が見える。
近づいてくるにつれて、一人は見知らぬ若い女で赤子を背負っている。
赤子は馬の揺れが心地よいのか、眠っている。
もう一人は年配の女で見知った顔だ。

「久しぶりだねえ、トギと言ったね」

トギは頭を下げて挨拶を返すと、手振りで屋敷へと誘いかけたが、
ふと足を止めてすぐに一つ手振りをした。
両手を軽く握ったまま横へと開き、棒状の何かを示して腰へうつし、
その後に手を目の上にかざす。

「あいつなら、木立の中さ。つけられてないか、確かめながらついてきてる。
もちろんテマンもね」

こくり、とトギはうなずくと、もの問いたげに女を見つめる。
女は木立の方に目をやって、あいつが胸に抱いているよ、とトギだけに
聞こえるよう低められた声で言うと、もう一度深くうなずく。
それで満足したのか、トギは顎をくいと動かして、道を進めと合図する。

木立が切れると柵に囲まれて屋敷があらわれる。
トギが屋敷の戸口を開けようとすると、扉が中から勢いよく開く。
ウンスが、口を強く引き結んで、そこに立っていた。

「待ってたわ!」

入って、と急いた口調でウンスが言うと、トギは横にどいて、
二人の女に中に入るよう手でうながした。
先に年配の女が戸口をくぐると、ウンスの強ばった表情が
ぱっとほどける。

「マンボ姐さん!」

久しぶりだねえ、ウンス、元気そうだ、と微笑みながらマンボ姐は
ウンスを抱き寄せ、背中をぽんぽんと叩く。
それから身体を離し、自分の後ろにいる娘を前に押し出す。

「約束どおり、テマンの女房を連れてきたよ」

若い女は固い表情だが、しごくまっすぐな目でウンスを見て、
ウンスの手を両手で取ると、痛いほどぎゅうと握った。
お久しぶりでございます、とそれだけ言って深々と頭を下げる。

「よく来てくれたわ、本当に本当にありがとう!
赤ちゃん、大きくなったわね」

ウンスが握り返して顔を近づけると、ありがとうございます、
と短く答える。
迷惑かけるわね、とウンスが背中の赤子に目を細めて言うと、
ユ先生からいただいた御恩に比べたら、
とテマンの女房は低い声で言って、ひとつ頭を下げた。

「それで、ヨンは?」

ウンスは、トギが最後に戸口をくぐり、扉を閉めたのを見て、
焦ったように言う。

「もうそこまで来ているよ。さ、部屋に通しておくれ。
乳をあげるしたくをしとかなくちゃあね」

この子も長旅でお疲れだ、休ませねばと、とマンボ姐に言われて、
ウンスは慌てて、二人を部屋にあげる。
奥の裏山に面した暖かい部屋に上がると、女は無言のまま、
胸紐をときはじめる。手を貸そうとウンスが傍に寄る間もなく、
するりと背中から赤子を滑りおろす。

ウンスが振り返ると、トギはすでに部屋の隅に重ねてあった布団を広げて、
赤子が休む場所を作っていた。
布団に横たえると、小さくぐずるような声を上げたが、
馬旅に疲れたのかそのまま寝入る。

「あの、お乳、飲ませなくていいのかな?」

ウンスが尋ねるとテマンの女房は、手早く自分の旅装束を脱ぎながら答える。

「もう、チェ・ヨン殿がお着きになりましょう。
まずは、あのお子に飲ませなくては」

この子は宿場を出るときに飲ませましたからまだ大丈夫、と
小さな声で早口に言う。
と同時に屋敷の戸口を開ける物音が聞こえた。
皆が振り返ると同時に、ウンスが小走りに部屋を出てむかう。

駆けでた先に、チェ・ヨンが立っている。
ちょうど、テマンが戸締りをしているところだった。

「ヨン、テマン!」

名前を呼ばれる前に、チェ・ヨンはそのどたついた足音を聞きつけて
すでに顔をあげ、ウンスを見ていた。

「イムジャ…」

ヨンの声には、無事にたどり着いたという安堵とは違う何かがあって、
ウンスの顔から浮かびかけていた笑みがすうと引く。

「さ、上がって。道中はなにもなかった? 王妃さまは?
まず、赤ちゃんを見せて」

ウンスは矢継ぎ早に言葉を繰り出すが、
チェ・ヨンは神妙な顔つきでウンスを凝視するばかりで動かない。

「いいわ、とにかく――とにかくまず、赤ちゃんを見せてちょうだい。
最後にお乳を飲ませたのはいつごろかしら。
健康状態をチェックするから、下ろして」

テマンが先に廊下を通って女房に話しかける声が部屋から聞こえると、
チェ・ヨンは、はっと我に返って、自分もようやく部屋に入る。
マンボ姐の姿を見ると、反射で言葉が出た。

「宿場からここまで、特に後をつけるものもおらず、不審な人影もない」

マンボ姐が、そりゃあ何よりだ、と言いながら、チェ・ヨンに近寄り、
胸元の布に手を差し込もうとするとチェ・ヨンは、いや俺がやる、と断って、
やけに丁寧に胸元の布から赤子を取り出した。

「よく寝ていた」

腕に抱きかかえると、チェ・ヨンはすぐに下ろさず、その赤子の顔を
まじまじと眺めながら、あやすように揺する。
顔にかかった産毛のような髪を、壊れもののようにかきあげる手が、
やけに大きく見える。

「ほら、早くユ先生に見てもらえ」

マンボ姐がしびれを切らしてそう言うと、チェ・ヨンは目を赤子からそらせぬまま、
両手を出しておあずけの状態で待っているウンスにそっと差し出す。
ウンスは、危なっかしい手つきで受け取ると、大事そうに横抱きにする。

―待っててね、いま診察してあげるから。ちょっとだけ待ってね。

ほとんどささやくような声で、赤子に話しながら、その顔に目を引き寄せられる。
眉の形、鼻の形、薄い唇、まだ赤っぽい肌、もつれた髪の毛、
その一つ一つを黙って目で追っていく。

「遠かった? ずっとくるまれて抱かれてここまで来たの? 
大変だったわね、がんばった。ほんとがんばった、ね」

あやすのか、語りかけているのか、赤ん坊の匂いに吸い寄せられるように、
ウンスは赤子の顔に自分の顔をすりつけるようにして、
夢心地で何か言い続ける。
この子なの、この子なのね、とほとんど独り言のようにつぶやく。

「ユ先生」

テマンの女房が、きっぱりと名前を呼ぶと、ようやくふんぎりがついて、
ウンスは顔を離す。

「ユ先生、乳をやらないと」

そう言われて、ウンスはうなずき、赤子を布団に下ろした。
くるんだ綿布をほどき、産着の上から身体を指で触診する。
くるぶしをつかんで、脚を曲げ伸ばしして、関節の動きを確かめる。
赤子は触れられて目を覚ましたのか、細い細い泣き声をあげはじめる。
顔を寄せていたときとは違う、探るような目つきだったウンスは、
慌てて診察をすませると、ほっと息を吐く。

「わたし赤ちゃんにはくわしくはないけど、特に気になるところはないわ」

そうウンスが言うと、テマンの女房は前にいざり出て、
泣き始めた赤子をすくい上げる。

「ほら、出な」

マンボ姐がそう言うと、開京からの旅路ですでに習いになっているようで、
チェ・ヨンは言われる前から腰を浮かせ、さっと部屋を出ていく。
ウンスはなぜ、と目を泳がせたが、テマンの女房が胸元を開いたのを見て、
合点する。
赤子が乳を吸う様子を、吸い寄せられるように見ていたが、
マンボ姐に脇腹をつつかれる。

「ヨンと話さないでいいのかい」

そう指摘されて、名残惜しそうに目は赤子と娘に残したまま、
ウンスは立ち上がった。
部屋からひょこりと頭を出すと、廊下の途中の壁に背中をもたれかからせて
チェ・ヨンがうつむくように腕を組んでいる。

「おつかれさま、でした」

歩み寄って声をかけると、チェ・ヨンは生真面目な顔でこくりとうなずいてみせる。

「あの子、なのね」

ウンスが手にすがるようにしてそう言うと、チェ・ヨンは
突き通すようにまっすぐウンスの目を見ながら、深くうなずいた。

「王妃様のご様子は? お産でさわりはなかったの?」

どうやって皇宮を抜け出したかも知りたかったが、
まず一番気になっていることを問い詰めるように尋ねると、
チェ・ヨンの瞳が揺らめいた。
口が何かを言おうと半開きになって、そのまま力をなくして閉じる。
ウンスは背中が粟立つような感覚に、両手でチェ・ヨンの胸ぐらを
ほとんどつかみあげて詰め寄ろうとしたところで。

「いや、うむ」

―待ってくれ、とチェ・ヨンは戸惑いを喉にからませて、絞り出す。
終わったら、話す、それまで。
視線で部屋の乳飲み子の方を示して、そう頼みこむ。
チェ・ヨンの神妙な眼差しに、ウンスは不承不承、その胸元から
手を離した。

「わかった、でも、あんまり待てないわ」

そう下から見上げて言うと、チェ・ヨンはこくりとうなずいた。
しばらくすると、マンボ姐の呼ぶ声がする。

「終わったよ、さ、お入り」

二人が部屋に入ると、赤ん坊は乳を吸ったまま寝てしまったようで、
テマンの女房の腕の中でか細い寝息をたてていた。
ウンスが手を伸ばすよりも早く、チェ・ヨンはすうと膝をついて、
その赤子を抱きとると、柔らかな細工ものでも扱うように
腕の中にかかえこむ。

「悪いが二人は席を外してはもらえまいか」

チェ・ヨンは珍しく、歯切れの悪い言い方でテマンの女房とトギに顔を向ける。
話をせねばならぬ、と理由にもならぬ言葉が続くと、
テマンは珍しく不満げな表情をぱっと顔にのぼらせた。

「こいつは、口が固いです。誰にも漏らしやしません」

だいたいの事情は知ってなきゃここまで来ない、と声を高める。
と、テマンの女房は素早く立って、後ろから強く肩をつかむ。

「わかんないの」

なにがさ、とテマンが気圧されながらも答えると、
聞かないほうがいいから言ってくれてんのよ、と静かに言う。
乳をあげてるあたしがいいって言ってんの、とウンスやチェ・ヨンに
対する丁寧な言葉使いとは少し違う口調で言うと、
テマンは気圧されて、わかった、とおずおずとうなずいた。

「恩に着る」

チェ・ヨンが頭を下げると、テマンは少し驚いて、
軽くのけぞり、承知しました、とつぶやくように言うと、
自分の赤子を抱き上げた女房の背中に手を添えて、部屋を出す。
トギは目顔でチェ・ヨンにうなずくと、その後ろからついていく。

部屋の中央に、チェ・ヨンは足を進め、トギが案内する足音が去ると、
大事に赤子を抱えたまま、部屋の真ん中に進み、腰を下ろす。

「あたしゃ、居ろってことかい」

マンボ姐がそう言うと、この四人で話をする、とチェ・ヨンが言う。
テマン、ウンスもチェ・ヨンの両脇に座る。
チェ・ヨンは赤子をその真中に置いた。
そして、例えようもなく優しく、産着の紐を解く。
普通に開くとその布が崩折れてしまうのではないかと思っているかのように、
慎重にその着物をはだける。

「これを……見てほしい」

チェ・ヨンは赤子の腕を持ち上げる。
はだけた肩の外側が見えるように。

「これが、なんだい。なんにもありゃしない。
ただの赤子の腕じゃあないか」

マンボ姐が、まじまじと見てから口を尖らせて言う。
テマンも、床につくほど身体を下げて見て、首をかしげる。
ここを、よく見てくれ、とチェ・ヨンはウンスに向かって言った。

指さした先を見て、ウンスの息が止まる。
驚きに見開かられた目が、射すくめるように細められる。

「なぜなんだ?」

チェ・ヨンはウンスにささやくように言った。

「なぜ、イムジャと同じものが、この赤子にあるのだ?」



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by kkkaaat | 2015-02-20 09:38 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(6)

【シンイ二次】北斗七星6



「ねえ、都の噂は耳にしなかった? 体調がどうとか、顔色がどうとか。
ああっ、でも、あれだわね! 悪い噂だって意図的に流した可能性が
あるわけだから、うのみにはできないわ。ってことは逆に大変順調だそうだ、
なんて話も信用できないわよね」

顔を見るなり、ウンスはべらべらと一人勝手に喋りだし、
答えを待たずに一人勝手に考えを進めている。
トギは呆れ顔で、仕入れ担いで帰ってきた原料生薬の重い包みを、
ウンスに向かって放り投げる。

「おうっ! ちょっ! あぶなっ」

ウンスは丸い腹のうえで、荷物を受け止めてから、
トギにくってかかる。

「ちょっと危ないじゃないの! お腹の子どもに何かあったらどうするの?」

荷物を何とか抱えなおすと、ウンスは作業小屋にそれを運びながら大声を上げる。
トギは、ちっと舌打ちをして鼻で笑うと、水を飲もうと井戸へと向かった。

どさりと小屋の作業台に荷を置くと、ウンスはうーんとうめいて腰をさすり、
小屋の扉から外を確かめると戸を閉め、ごそごそと着物をたぐりあげる。
とたんにトギがバタンと音をたてて入ってくるなり、
ウンスの手をパチンと音を立てて叩いた。

「だって重いのよ、疲れるの。ね、あなたが戻ってきて気を配る人も増えたんだし」

ウンスが揉み手をして言うと、トギはせわしなく手で詰問する。

「外してない、寝るときもよ。ほんと。あなたがいなかった四日間、一度も」

トギは目を細くしてウンスの頭のてっぺんからつま先までじろじろと観察し、
それからおもむろに、すでにたぐりあげられかけていた着物をさらに
たくしあげる。

「ほらね、行く前にあなたが結んだとおりでしょ?」

ウンスの腰に結び付けられた、布団の塊のようなそれの紐の結び目を、
トギは仔細に観察し、ふん、と息を吐くと丁寧に着物を戻す。
うなずいてみせたトギに、ウンスは手を目の前で合わせる。
トギはしぶしぶうなずいて、夜になって部屋の戸締りをしてから、
とウンスに伝える。
ウンスは、一瞬ぱっと顔を明るくして、それから思い出したように、
また質問をしはじめた。

「ね、それで、開京の話はないの? 王妃様のものじゃなくても、
何でもいいの。新しい倭寇の話なんかはあんまり聞きたくないけど。
王妃様とお腹の太子様は大変お健やかになさっている、とか
太子の生誕するのを祝って明国から贈り物が届けられた、とか」

トギは包みを開きながら、大きく首を振った。
茶屋で用もないのに時間をつぶして噂話にも聞き耳を立てたし、
薬屋の主人にも最近変わった話は聞かないか、とわざわざ尋ねたが、
何も変わりはないようだと知って、ウンスは拍子抜けしたような
表情を浮かべた。

「まあ、何もないのがいちばんなのよね…」

自分に言い聞かせるようにつぶやく。

「ああっ! わたしが町に出られたら、もっといろいろ聞き出せるのに!」

とウンスが地団駄を踏むようにして言うと、
トギは眉をしかめて、町に出るなどもってのほかだ、と手を動かす。
声が出せていたら、よほどの大声に違いない。

「わかってる、わかってるわよ。
そうですよ、わたしは身重で具合が悪くて静養中ですってば!」

つわりがひどくて埃っぽい開京の屋敷にもいられなくて、
年かさの妊婦だから無理もできなくって、
友人の薬師(くすし)のところに身を寄せてるんだから、
町になんか出られませんっ、とウンスが口の中でぶつぶついうと、
トギは、長い長いため息をつく。
それに気づいたウンスが、口を尖らせて言う。

「だってもう半年もここから、この家の敷地から出てないわ。
散歩だって何があるかわからない、どこから何が漏れるかわからないから
しちゃだめだって、ヨンからきつく言われて、ずーっと守ってる。
ここは静かで素敵なところよ、それは認めるわよ。
でも、いくらなんでもここはひとけがなさすぎるわ!」

なにせお隣の家まで、歩いて半刻はかかる。

「話し相手はあなただけ。それに、それに、
女一人でこんなところに住むなんて、ええと、物騒だわ!」

トギは御前から下がると、開京の南にそびえる松獄山の麓に、
典医寺で働いていたときの禄を貯めたもので人足を雇い、
小さく土地を開いて屋敷を設けたのだ。
屋敷の周囲を自らこつこつと開墾して薬草畑を作って、
その売り買いで長く暮らしを立てていた。

「私は困ったことなどない? あっそう! あっ、そう…」

ウンスはまるで子どもの喧嘩のように、この辺鄙な場所の屋敷に
言いがかりをつけようとするが、トギにとってはすべて塩梅のいい
ようにしつらえられたこの住処をけなす言葉はなかなか見つからない。

トギは、ウンスのいらついた顔をじっと見て、表情を緩めると、
諭すようにゆっくりと手を動かした。

「ええ、ええ、わかってるわよ。だからこそわたしは怪しまれずに
ずっと隠遁していられてるの。本当は孕んでいないのを隠しとおせてる。
わかってます…」

ウンスは苛立ちを抑えらずに、立ったままつま先をパタパタと動かしている。
トギはほどいた包みの片隅から、竹皮で包んだものをぐいと差し出した。
最初はぎろりと睨んだウンスも、すぐにぱっと顔を向き直らせて、
ひったくるように受け取る。

「これだから、トギのこと大好きよ!」

包みの中は甘い餅菓子で、トギはウンスのころりと変わった態度に、
肩をすくめる。
全部たいらげて本当に腹ぼてのように肥えるといいわ、とさっそく開けて
頬張りはじめたウンスに向かって手言葉を投げつける。

「もう、嫌味なんて言わないで! これだけが楽しみなの!」

口に餅をつめたまま、聞き取りづらい声でそう言うウンスを無視して、
トギは荷の片付けをはじめる。
待って待って、とウンスは菓子を大事そうに棚に置くと、
急いで飲み下して、トギの横で手伝いをはじめる。

「お世話になっているんだから、これぐらいはしなくちゃね。
ほんとに感謝してるの、トギには」

ウンスが顔を覗きこみながらそう言うと、トギの顔がわずかに柔らかくなる。
産み月まであと数日。
十月めに入れば、産まれるまでは、あっという間だ。

「もうすぐ、ね…」

ウンスは自分でも気づかぬうちに、そうつぶやいていた。
トギはちらりと横を向いてウンスの横顔を見て、
本人は内心がこぼれていることに気づいていないと見て取ると、
気づかれぬよう小さくため息をついて荷解きを続けた。



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by kkkaaat | 2014-09-29 19:57 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(9)

【シンイ二次】北斗七星5


「よいのか」

王の肩が緩やかに下りる。
はい、と短く答えたチェ・ヨンの声は、いつもと変わりない。

「引き受けてくれるのか」

思わず王が聞き返すと、チェ・ヨンは少しだけ目をそらし、
玉座の足元にどさりと腰を下ろした。
チェ・ヨンでなくては許されぬ行為だ。

「実を言えば、チョナ」

腰を下ろしてから、顔を上げて王を見上げながら、チェ・ヨンは
言い辛そうに口にする。

「もとより、お引き受けするつもりでした」

王の目が、二度三度と瞬きをする。
チェ・ヨンは手のひらで膝を落ち着かなげに、擦った後、
こぶしを軽く握りしめる。

「ウンスが」

チェ・ヨンがそう言ったのと、王が合点がいったように、ああ、
と声を出したのには、ほとんど差がなかった。
そう、ウンスです、とチェ・ヨンが苦笑すると、王もまた小さな笑みをこぼす。
チェ・ヨンはあらためて言い直す。

「ウンスは、嬉しい、と言いました。目を潤ませて、嬉しい、と」

わかりますかこうやって、とチェ・ヨンが口元の前で両手を合わせる
ウンスのよくやる仕草を大雑把に真似ると、王は微笑みながらうなずく。
はあ、とチェ・ヨンは明るく息を吐いた。

「俺はウンスに子を授けることがかないませんでした。
まだ望みが途絶えたわけではない、ウンスは申しておりましたが。
本人は、あまり口にはしませぬが、自分のせいだと思うておるようです。
毒で二度も瀕死の目にあっておりますゆえ」

身体にも障りが残っておるようだと、とチェ・ヨンが淡々と述べると、
そうか、と王は、静かに答えた。

「ですから、この話を聞いたときに、大それたことという恐ろしさは
もちろんこと、ウンスがもしや妬みの心で苦しむのではないか、
とそれが気がかりでした」

いらぬ心配だったわけですが、とチェ・ヨンが大きく一つ肩を揺らして、
笑ってみせると、王も口の端を上げてにやりと笑った。

「それが、嬉しいと。子を育てることができる、
崔家に子どもをもたらすことができる、と」

笑ってそう言って、とそこで言葉をと切らせて、
チェ・ヨンは王からわずかに顔を背けて口ごもった。
しばしの沈黙の後、チェ・ヨンがことさら明るい声で言う。

「あの方には、かないませぬ」

あの方か、王は懐かしい呼び方を耳にして口の中で繰り返した。
それから、と続けて、チェ・ヨンは真顔に戻る。
これは長い年月で初めてウンスの口から出た話なのですが、と前おいて言う。

「王妃様が攫われたときに、自分が開京を出ていなければと、
心に思い置いていたようです。その咎(とが)のつぐないにはならないだろうが、
せめてお役にたてるなら、という思いがあるようで」

そう言うとチェ・ヨンは、すっくと立ち上がり、
すっかりくつろいだ様子で座っている王の前に膝をつき、頭を下げる。
突然のことに、王は居住まいを正す暇もなかった。

「その思いは俺も同じ。于達赤隊長としてのつとめを果たせなかった」

そう言ったチェ・ヨンの声は、思いのほか激しく、
王はわずかに戸惑いを見せながら、座り直した。

「こたびのお役目、命にかけて務めさせていただきます。
大事な御子をお預かりするというのではない、ウンスと二人、
我が子として」

口が一度、固く結ばれる。
チェ・ヨンは真っ直ぐに王の目を見つめた。

「我が子として」

チェ・ヨンはいま一度、気圧す声で繰り返した。

「育て、お守りいたします」

王は、ごくゆっくりとうなずき、
口が声には出さずに、頼む、と形作った。
しばらくの間、王とチェ・ヨンは互いに見入り、動きを止めていた。

それから、これでやっと申し上げることができる、
とチェ・ヨンはまっすぐに王を見つめたまま、立ち上がった。

「チョナ――おめでとうございます」

目の前で、そう言うチェ・ヨンの目に浮かぶ、率直な喜びを受けて
王の口元に浮かんだ笑みは、心なしか寂しみをにじませているようにも思えた。



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by kkkaaat | 2014-09-25 19:17 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(29)

【シンイ二次】北斗七星4


かなり長い時間、ウンスは黙りこんでいた。
少しうつむいて、頭の中に浮かんくるさまざまな言葉をどう連ねようか、
考えてこんでいる様子を、チェ・ヨンは辛抱強く見守っていた。
一度、わずかに口が動きかけて、また止まる。

チェ・ヨンはゆっくりとウンスにもたれかかり、
自分の頭をウンスの肩に乗せた。

「……怒らない?」

そうウンスが言った瞬間に、チェ・ヨンの眉間に皺が寄った。
ふーっ、と長い息がチェ・ヨンの口から漏れる。

「いいから」

怒るとも怒らないとも約束せず、チェ・ヨンはうながす。
ウンスは自分の肩に乗ったチェ・ヨンの頭に指をさしこみ、
髪をいじりながら、その頭に顔を寄せて、もう一度言う。

「ねえ……絶対に、怒らない?」

すると、チェ・ヨンはすいと身体を起こし、腕を組んで空を睨み、
もう一息吐いてから、怒らぬ、と低くもごもごと言った。
口を開かないウンスにチェ・ヨンが目をやると、かすかに顔をしかめて
疑うようなまなざしで見ている。
チェ・ヨンは苦笑いを浮かべると、脚と脚の間に頭を垂らし、
それから顔をねじってウンスを見上げるように見た。

「声を荒らげたりはせぬと、約束する」

怒ったことなど滅多になかろう、とため息をつきながら付け加えると、
ウンスは、はあ? と語尾を上げて頭を振る。

「ちょっと前になるけど、ほら、遠征から戻ったときに、
テマンの…覚えてる? 去年トクマンをかくまったときだって」

指を折りながらそういうと、チェ・ヨンはもう一度顔を手で覆って動きを止めた。

「テマンのあれか」

と手越しにくぐもった声で言う。
そうよ、あなた怒るとすっごい怖いんだもの! とウンスが言うと、
くくく、と脱力したように肩を揺らして顔をから手を外した。

「本当にあなたという人といると、なぜこうなる。
よくもまあ、俺を怒らせるようなことを次々と…」

そう言いながら、ちらとウンスを見ると、
ウンスはわたしのせいじゃないわ、と肩をすくめる。
チェ・ヨンは、わかりました怒らないと約束しますから、
と言いながら手でうながす。
ウンスは、覚悟を決めて口を開いた。





「それで、どういうおつもりですか、チョナ」

人払いの済んだ便殿の最奥で、玉座にもたれかかるように座る王に向かって、
チェ・ヨンの言葉は詰め寄るような響きがあった。

「と、言うと」

王はそう言ってから、すぐそばに立ったチェ・ヨンの目つきを見てすぐ、
あの件か、と気まずそうに目をそらして呟いた。
ウンスから伝わったか、と尋ねられて、チェ・ヨンは深くうなずく。

「この際、お世継ぎが必要であるということは置いておきましょう」

低く抑えられてはいるが、荒ぶりを秘めた声に、
王は驚いたようにチェ・ヨンに顔を戻した。
高麗の太子の問題について責められると、王は思っていた。

「あれだけ、……あれだけ願って得た御子を、
ひとに託そうというのはどういうわけか、
あなたのお口から直にお聞きしたい」

そうチェ・ヨンが言うと、王は軽くうつむき、顔の前で掌を合わせた。
ふむ、そうきたか、と呟いて、合わさった掌越しに、チェ・ヨンを
ちら見する。

チェ・ヨン、と呼びかけた声は、わずかに不機嫌な気を孕んでいる。
久しぶりに名を呼ばれて、今度はチェ・ヨンが驚きを顔に走らせた。
余はな、子を手放す気などない、王の口から思いがけない言葉が出て、
チェ・ヨンが眉をかすかに動かした。

「覚えているか」

何のことかわからずに、チェ・ヨンは王の顔をじっと覗きこんだ。

「どうしたのです」

王が何も言わぬので、不躾にも腕をつかむ。

「言ってください」

顔を上げた王の顔色が青白いのに、チェ・ヨンは、はっと息を呑む。

「王妃がさらわれたときのことを」

あの時のことを思い返すと今でも、ほら、
と言って袖をめくり差し出した王の腕が粟立っている。
十年も前のことだというのにな、と王は呆れたように腕を撫ぜてから
袖で覆いなおした。

「王妃とその子の命を思うて、余はすべてを投げ打ってあの者に哀願した。
一言一句覚えておる。思い出したくないが」

王位を差し出した、ぽつりと呟いて、王は自嘲で唇を歪める。
チェ・ヨンはわずかに俯き、奥歯を噛みながら顔を上げた。

「余はあの時より歳を経て、少しばかり利口になった。
手ひどいことも、できるようになった。そうは思わぬか」

問いかけるように言われて、チェ・ヨンはこくりとうなずく。
王は指で眉根を揉むと、そのまま動きを止める。

「しかし、しかしだ。余はまた同じことをするぞ」

王はそばに立ったチェ・ヨンを見上げるように顔を上向けた。

「王妃と子に何かあれば、余はまた同じことをしてしまう」

我が子はどれほど付け狙われるであろうな、と口の半分だけが苦く笑う。

「余がそうであったように、我が子も遠い地で人質となることを求められよう。
元国には抗えよう。しかしだ、明国は求めぬか。どうだ。拒めばどうなる」

自問自答のように、言葉を紡ぐ王を、チェ・ヨンは不動のまま見ていた。

「王のつとめとは何だ。国を永らえることであると決め込んでおった。
そのためにはすべてを駒にせねばならぬと」

できるわけがなかろう、王は目の当たりを手のひらで覆うと、
長いため息をついた。
そして、目を隠したまま、言葉を続けた。

「だからな、チェ・ヨンよ。
余は卑怯な手を使うことにしようと思う。
我が子を隠し、ひとの手で育てさせ、しかも、妙齢になり、
その時にこの国がウンスの言うほど悪しきありさまでなければ、
子が我が世継ぎであると明かそうと思う」

王は顔から手をどけた。
血走った目が、チェ・ヨンの目とひたと合わさる。

「預け先の人物は、余が保証する」

信頼に足る人物だ、とチェ・ヨンとしかと目を合わせたまま、王は続ける。

「余の子を我が子のように愛しみ、命をかけて守るだろう。
またその者は、手放した親である余を憎むようには仕向けまい。
成人した後に、余がその者から子を取り戻すとしても」

王はそこまで言って、黙り込んだ。
二人の間に、しばし沈黙が横たわる。
チェ・ヨンは低い声で言った。


「それで、よいかと」



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by kkkaaat | 2014-09-17 23:55 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(24)

【シンイ二次】北斗七星3

「ただいま、戻りました」

奥の間ではなく、火を使っていて暖かい厨(くりや)の片隅で
読み物をしているウンスの姿を目にしたチェ・ヨンの声がかすかに弾んでいる。
身支度をしてくる、湯はあるか、と尋ねたのにありますと答えて、
ユンシクが、その間に膳を整えます、と続けるとチェ・ヨンは、

「軽いものでいい」

とだけ言って、書物から目を上げたウンスに目元だけの笑みを残して、
素早く湯屋に向かってしまった。
ユンシクは汁を温めはじめた母親に、急ごう、すぐにお戻りになる、
と声をかけて、膳の支度をはじめる。

ユンシクの言う通り、チェ・ヨンは水をかぶっただけではないか、
と思うほど早く部屋に戻ったが、きちんと石鹸の匂いをさせていた。
慣れたもので、すでに部屋には膳が並べられ、夕餉をすませていた
ウンスの席もしつらえてあり、薄い酒と温かい茶が飲めるようにしてあった。

「いま、すませるから」

チェ・ヨンは、座るやいなや、飯をかきこむように口に入れ始めた。
遅くなってすまない、眠くはないか、早う戻ると言ったのに、
とウンスを気にしながら、噛む合間に言葉を挟む。

「大丈夫、眠くないわ」

ウンスがそう答えると、チェ・ヨンはほっと肩の力を抜いて、
俯いた顔の前髪の間からウンスを盗み見るように眺めて、
口元だけ少し笑った。
ウンスは薄い酒をわずかに口にした。
いつもなら喉から身体にしみるようなそれも、ほとんど水のようで、
ウンスはそれ以上飲むのはよしておいた。

ほとんど流し込むように食べてしまうと、
チェ・ヨンは弾みをつけるようにかちゃりと箸を膳に置き、
さて、済んだ、と見ればわかることをわざわざ口に出し、
それからどことはなしに落ち着かなげに両膝を音を立てて一つ叩くと、
すくりと立ち上がる。
少しばかりぼうっとしているウンスの前に立つと、手を伸ばして、
ウンスの手を取り立ち上がらせる。

「ゆきましょう」

そう言いながら、ウンスの口元に自分の口を寄せて、
首根っこを包むように片手でつかむと慣れた様子で押し付ける。
ウンスは、どう話を切り出そうか、いまだに思いつかず、
何か言いかけたように口を半開きにして、動きを止めていた。
応えが鈍いのを怪訝に思って、チェ・ヨンは口を離し、
あらためてウンスの顔を覗き込む。

「なにか?」

ウンスは何度か瞬きをする。
(この人がこんなふうなためらいを見せることは珍しい)
とチェ・ヨンは不安にかられて尋ねる。

「日を間違ったか、それとも身体に不調でも」

ああ、違うのよ、と答えながらウンスは、ふうーっと息を吐いて、
腕を組み、首をかしげた。
ウンスとチェ・ヨンは四十を過ぎて、未だ子がいなかった。
月のうち何日か、ウンスの割り出した日に営みを持つことは
すでに習いとなっている。
今日はそうした日のはずだと、チェ・ヨンは頭の中で確かめなおす。

「気が……乗らぬか?」

チェ・ヨンが、ウンスを抱き寄せながら、残念そうに小声で言うと、
ウンスは、ああ違うの、と慌てたように言って額に手を当てる。

「ちょっと、すごく、大事な話があって、
どう話せばいいかな、って思いつかなくて」

ウンスはチェ・ヨンの手を取ると、とにかく二人になれるところで話しましょう、
とその顔を見上げながら言う。
チェ・ヨンは先ほどまでのくだけた雰囲気を捨て去って、
ウンスの腰に手を回すと、寝屋へと足を向けた。



「我らの子として偽れと!?」

ウンスが話を切り出した内容を聞いて、
馬鹿なことを、とチェ・ヨンが声を荒げた。

「待って、待って。話を全部聞いて」

ウンスがうろうろと寝台の前を行ったり来たりしはじめた
チェ・ヨンの腕をつかんで引き止めると、
勢いよく息を吐くと、どさりと寝台に腰を下ろす。

「ありえぬ」

チェ・ヨンは手で口元を覆うと、その下でもう一度、ありえぬ、とつぶやいた。



「ウンス、そなたは言ったな。高麗の国はそう遠くはない先に、
朝鮮という国となり、さらにそなたがいた時代ではまた別の名前となると」

はい、とウンスは王妃の問いかけにうなずく。

「そなたの知る国史では、私と子は難産によってチョナのもとを去ると」

目を伏せたウンスをまっすぐに見て、王妃はそう言った。
ウンスは、うなずきながら顔を上げ、早口で言い返す。

「けれどそのことを知り、対処すれば避けられる可能性もあると思うんです。
だからわたし、すべてお話しました」

王妃はウンスの言葉に、穏やかな目でうなずいた。

「話してくれたこと、心から感謝しておる。
そなたの話が、どれほどチョナのご判断に役立っておるか」

王妃の手がウンスに向かって伸び、そっとその手を握る。
やはりそなたは、仏がおつかわしになった天人なのであろうな、
と呟いて王妃は微笑んだ。

「ここにおる子はきっと、そなたの医術があれば生き延びるであろう」

いや、生かす。必ずや生かす、と王妃は自分の腹をじっと見つめて言う。
腹に向けていた顔を上げると、すでに王妃の顔に笑みはなかった。
ウンスの手を握り締める手にわずかに力がこもる。

「けれど、無事産まれたとして。…その先はどうであろう?
太子として、また王女として産まれ、この国の中枢におれば、
必ずや政変に巻き込まれること必定」

ウンス、そちが語ったこの国のゆく道ゆく末は、時のずれや
順序の変わりこそあれ、そうなるのじゃ、と王妃は目を見開くようにして言った。
王妃の言おうとしていることの見当が付いて、
あらがおうと言葉を探して、ウンスは視線を宙にさまよわせる。

「わたしがお話したことは、受験の暗記とか、ドラマ…その、劇の中で
見たものがほとんどなんです。なんていうか、物語っていうか、
本当にそうだったからもわからないし…、
それって、お話しする前に、申しあげましたよね?」

ウンスはしどろもどろになりながらそう言ったが、
王妃がウンスの手を握る力はますます強くなる。

「けれど、おおすじは当たっていた。
なんとか変えられぬか、と手を尽くしても、倭寇はやってきたし、
紅巾党は何度も押し寄せた。
この子が」

と王妃は腹に目をやる。

「我が子である限り、命を失うは定め事。」

でも、と遮ろうとするウンスを目で押しとどめて、王妃は続けた。

「子をなし、次の王を産むことこそ、私に課せられたつとめであると
長くそう思っておった」

けれども、必ずしも、この、この高麗は――。
王妃は思っていたよりも穏やかな口調で言って、そこでつと言葉をと切らせた。
チェ尚宮は、かすかに眉間に皺を寄せたまま、黙って机上を見つめている。

「先の世にて高麗は滅んだというが、見よ。
ウンス、そなたを見ればわかる。
王が代わり、名が変わっても、人と土地はつなぎつながれて国は残るのじゃ」

目の奥に、見たことのない温かい光をたたえて王妃はウンスに告げる。

「国の名ではなく、命を残したいと願うは、
王妃としてまことに菲才(不適任)である」

許されぬことやも知れぬ、と呟いて、
王妃は片手をチェ尚宮の机上で固く握られた拳に伸ばして、
包むように握った。
ウンスとチェ尚宮の手を握ったまま、王妃は二人の手を軽く揺すった。

「しかしじゃ、母として、この子をさだめより逃がしたい。
――たとえ天意に逆ろうてもじゃ」

王妃の声が震えた。
ウンスは強く握られた手の痛みも忘れて、
呆けたように王妃の言葉を聞いていた。



「それで我らに仮親になれと」

ウンスは低い声で言ったチェ・ヨンに顔を向けて、
ぎょっとして微かに飛び上がった。

「そんなに怖い顔しないでよ!」

隣に腰を下ろしたウンスが、肘でチェ・ヨンの脇腹をつつくと、
いや怒っているわけではない、だがあまりにも途方もない話で、
と言いながら、チェ・ヨンは片手で顔を覆うと、
ゆっくりと撫ぜるように顎まで下ろした。

「いくらお二人の頼みごととて…」

首を振りながら、なんとかこの事態を飲みこもうと、
何度も小さくため息をつく。

「それで、あなたはどう応じられたのだ」

チェ・ヨンは顔を向けて、ウンスをじっと見つめた。



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by kkkaaat | 2014-08-20 14:27 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(12)

【シンイ二次】北斗七星2



話は一年半ほど遡る。

ウンスが、王妃のお召しで皇宮を訪れた日は、突然訪れた早い春風で、
雪が溶けて城までの道がひどくぬかるんでいた。
馬を使ったが、その乗り降りだけで足を膝まで覆う布靴が泥まみれになる。
それでも厳しい冬の寒さの中にぽかりとあらわれた春らしさに、
ウンスは心が晴れ晴れとするのを感じていた。

王妃もまた、同じ心持ちなのか、普段通りの落ち着き払った表情であるのに、
顔色もよく、どこか弾むような気配があった。

「このような日に、呼び寄せてすまなかった」

王妃はそう言うと、小さな円卓を囲む三つの椅子の一つに、ウンスを座らせる。
見計らったようにチェ尚宮が、茶と茶菓子を運んできた。
それを卓に置いて、入ってきた開き戸を音もなく閉めると、
部屋の中には、ウンスと、王妃と、チェ尚宮の三人だけとなる。

妙にシン、と静まり返っていて、
ウンスはすでに廊下の人払いがされているのだと、気づいた。
王妃はじっとウンスを見ていて、チェ尚宮は黙ったまま茶をつぎ、
まずは王妃の前に、次にウンスの前に茶を置き、
最後の椀に茶を注ぐと、一つ空いていた席の前に置き、
自分がその席に音もなく座った。

なんとはなしに、いつもとは違った空気を感じて、
ウンスは王妃とチェ尚宮を交互に見る。
どうぞ、召し上がられよ、とチェ尚宮は低い声でウンスに勧めると、
自分も茶碗を手にとって、さあ、とウンスにうながす。
ウンスはわけもわからずに肩をすくめると、一口熱い茶をすすり、
ふう、と息を吐いた。

「ユ・ウンス」

そう呼んで、王妃はためらいからではなく、
その後の話の重みのためにしばし黙りこんだ。

「今日呼んだのは、大事な話があるからです」

王妃は、自分の茶椀には手をつけず、ウンスが茶碗をいったん置いたのを
見計らって口を開いた。

「なんでしょうか」

ウンスは王妃に向かって座り直し、話を聞こうとして
わずかに顔を傾ける。
王妃の視線が、ウンスからふとチェ尚宮に流れる。
チェ尚宮は、ほんのわずかに首を縦に振って、
力づけるように王妃の目を見つめ返す。
王妃の瞳がウンスの顔に戻ると、そのきりりとした唇がゆっくりと開かれた。

「私、子を宿したようなのです」

ウンスの目が丸く見開かれ、口が今にも叫び出しそうに大きく
開かれたが、チェ尚宮が急いで手を伸ばすと、その口をふさぐ。

「お静かに。まだ内々の話ゆえ」

チェ尚宮がそう言うと、ウンスは急いでうなずいて、
口から手を押しのける。

「おめでとうございます」

ひそひそと声を潜めてみたが、浮き立つ調子はありありとその中に
含まれている。王妃は身体を揺するようにして喜びの言葉を言う
ウンスに、嬉しそうにうなずいた。

それから何かを言おうと思うのだが、
突然ウンスは自分の視界がぼやけたのに驚いて口をつぐんだ。
ぼやけた原因は涙で、それがほとんど溢れそうになったところで、
ウンスは初めて自分が泣きそうなのだと気づいた。

途切れ途切れに息を吸っていると、
素早くチェ尚宮が手布を懐から出して、ウンスに渡す。
ウンスは目にそれを押し当てると、くぐもった声で王妃に言う。

「わたし、う、嬉しくて」

徳興君のたくらみで、最初の懐妊がふいになってから、
十年以上の歳月が流れている。
もらい泣きしそうになって、チェ尚宮が顔を横に向けて口元を固くした。
その頬に入る皺は幾分深くなっているのに、王妃はあの時と、
変わらぬ風貌を保っている。
王妃はそうしたウンスの様子を、じっと無言で見つめている。

「悪阻はあるのかしら。あっ、見立てをいたしますか?」

涙を拭きながら、最初の問いかけは友として心配から出た言葉だった。
が、続いたのは医員として自分が呼ばれたのではないか、
ということに思い当たったウンスの医師として言葉だった。
いいえ、と王妃が首を振る。

「そのために呼んだのではないのです」

王妃の顔が喜ばしさでかすかに紅潮すると同時に、
目元や口元に喜びには似つかわしくない強張りが見えることに
ウンスは気づいた。はしゃいだ空気がすうと引いていく。

「何か、…問題でも?」

いいえ、万事順調です、と王妃はしっかりとした口調で答える。
横からチェ尚宮が、ウンスの腕をぐっと握った。
思わず顔を向けると、ほとんど睨みつけるように、ウンスの目を見つめて言った。

「これから大事なお話をなさいます。
声を上げたり、騒いだりしてはならぬ」

わかったか、と念を押すのと同時に、チェ尚宮の指が腕に喰いこむ。
すい、と王妃の手が上がり、チェ尚宮の指に優しく触れた。
チェ尚宮は、はっと我に返ってウンスの腕を握る手の力を緩める。
浮いていた腰を椅子におさめて、チェ尚宮は顔をうつむけた。
王妃が口を開く。

「この子を」

王妃は、まだ胎動もなさげなその存在を探るように、
自分の腹にじっと手を当てる。
一度俯いた顔が上がる。

「そなたの子として欲しいのです」




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by kkkaaat | 2014-07-30 22:53 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(20)

【シンイ二次】北斗七星1

※注意※
この話には、王妃の死の場面が含まれます。4~5話目あたりになる予定です。
「颶風」「蜃楼」から数年後の話となります。
チェ・ヨンとウンスには、子どもが産まれていないことが前提です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「旦那様、そんなこと、私がやりますから。
いつも申し上げておりますでしょう」

屋敷で働くヨンシクの母が、慌ててチェ・ヨンにかけよる。

「いや、よいのだ」

チェ・ヨンは、膝に乗せた小さな赤児の口に、ゆっくりと慎重に匙をさしいれる。
赤児は粥をぱくついて、口から余ったそれがこぼれると、
チェ・ヨンは唇についたそれを、指で拭うようにして赤児の口に入れる。
武人にしてはたおやかな手指であったが、ごく小さな口とならぶと、
その指もいかつく見えた。
そのまま赤児は、チェ・ヨンの指をぎゅっと握ってしまったので、
チェ・ヨンは笑って、自分の力強い指を離さない柔らかく細かい指を
あやすように引っ張る。

「いいのよ、自分がやりたいってきかないんだから」

助けを求めるように顔を向けた屋敷の使用人に対してウンスは、
汁をかけた飯を匙で大きく開けた口に運ぶ途中で、手を止めてそう言うと、
そのままぱくりと美味しそうに一口含んだ。

賛成事にまでおなりになったのですから、子守りなど、
何人でもお雇いになったらいいですのに、とヨンシクの母が遠慮がちに言うと、
チェ・ヨンは、子守りがたくさんいたら俺のやることがなくなっちまう、
と溶けそうな顔を赤児の顔に近づけて言う。

「いる間はやらせとけばいいのよ。どうせ家にはたいしていられないんだから」

ウンスが少々の棘を含ませてそう言うと、
チェ・ヨンはわざと聞こえないふうを装って、赤児に話しかける。

「ん? もっと召し上がりたいか。そうか、そうか」

ようやく指を離した赤児にもうひと匙含ませると、
チェ・ヨンは嬉しそうに言う。

「たんと食べるがいい。そうすると、大きく丈夫になるからな」

赤児が匙の上の粥に手を差し入れて、べたべたになった手で
チェ・ヨンの頬に触ると、ああっ、とヨンシクの母が声を上げる。

「かまわぬ、かまわぬ」

チェ・ヨンはウンスが渡した手拭きで、赤児の手を拭いながら
手の使い方が実に上手におなりだ、しかし、人の顔に粥をつけてはならぬぞ、
とこんこんと説いている。

「仕事でも、これぐらい根気強く穏やかにやれば、
鬼神なんて言われなくなるのにね」

ウンスがからかうように言うと、チェ・ヨンはきりりと顔を引き締めて、言った。

「兵士どもは、このようにかわいらしゅうはない」

チェ・ヨンがそう言うと、ウンスは荒くれた兵士どもを思い浮かべて、
くすくすと笑った。

「祝いの席の準備は進んでいるのか?」

尋ねられると、ウンスはちょうど箸を置いたところで、満足気な顔でうなずく。
膝でいざり寄ると、チェ・ヨンの腕から赤児を抱き上げて、
ウンスは顔を近づけて笑いかける。

「もう少し食べる? ん?」

ウンスの膝の上で、赤児は再び、粥と野菜の潰したものを食べ始める。
手の空いたチェ・ヨンは、自分の膳の前に腰を下ろし直し、
箸を取ると、少し冷めた自分の食事を口に運びはじめる。

「いろいろ考えたのだけれど…」

ウンスが赤児に目をやりながら、口を開くと、チェ・ヨンは口を動かしながら、
目をウンスに向ける。

「お祝いの品は遠慮して、その代わり食べ物をできるだけたくさん用意して
お客様だけじゃなくて、屋敷の門のところに、仮小屋を立てて、
その日一日、餅か、餅が用意できないようなら、もういっそ米を
配るようにしようかと思うんだけど、どうかしら」

ウンスの提案に、チェ・ヨンがぐっと深くうなずく。
ここ半年は兵糧の徴収がない分、開京の市場に出回る品物も少しずつ
増えてきている。
とはいえ、この食糧難の折だ。

市場で買い占めるわけにもいかないだろう、
左将軍に融通できないか聞いてみよう、とチェ・ヨンが言うと、
ウンスはほっと表情を緩めた。

「それで、どうかな。チョナは来られそう?」

ウンスがそう言うと、チェ・ヨンは残念そうに首を振った。
ため息をつきながら、ウンスが言う。

「まず無理よね…。一人の部下の子どものトルジャンチ(誕生祝い)
だけ特別にいらっしゃるわけにはいかないだろうし」

しかしチョナも祝いの日にはどうしたってお会いになりたいだろう、
とチェ・ヨンは声を潜めつぶやくように言いながら、
じっと赤児を見つめた。



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by kkkaaat | 2014-07-27 01:04 | 北斗七星【シンイ二次】 | Comments(30)

二次小説。いまのところシンイとか。
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