筆記



<   2014年 01月 ( 11 )   > この月の画像一覧


コメント書き込み時の不具合について

※本題は、記事中ほどからです。
最初のたらたらした文章は、読み飛ばしてもだいじょうぶです!

・・・・・・・・・・・・・・・

皆様、いつも当ブログを訪れ、新しい話を読み、
そして以前の話を読み返してくださり、
本当にありがとうございます。

この「筆記」では、
自分の書きたい内容を、
自分の生活優先の無理のないペースで、
本当に好きなように書いています。

ですから、来ていただく方にも、
自分の読みたい部分(あればですが)を、
好きなペースで、
自由に読んでいただければと思っています。

このブログは、一日に何人の方が来てくれたかが
わかるようになっています。
人数、どのページが人気があるか、
どんなキーワードで検索されてたどりついたのか、
わかるのはそれくらいです。
詳しいことはわかりません。
でも、今日も見に来て読んでくれた方がいた、
というのは確実にわかります。
書くモチベーションとしては、それで十分です。

それでも、

コメントで感想を伝えてくださる方、
いいね、ボタンを押してくださる方、
ブログ村のバナークリックをしてくださる方、

には、重ねて感謝しています。

そういう方の存在を感じると、
「読んでるよ」「ちょっとは面白かったよ」
と言っていただいているようで、
しみじみと嬉しく励まされています。
あらためて、お礼申し上げます。
ありがとうございます。

前置きが大変に長くなりました。
コメントについての記事だったので、ひとことお礼を、と思ったら
ひとことどころではなくなりました…本題です

最近「コメントを書いたのだけど、消えてしまった」
「書きこみボタンを押したのに、書き込めなかった」
「公開コメントで書き込んだのに、鍵コメになっていた」

といったご報告をいただいおります。

それで、自分でも実験をしてみたのと、自分が記事を投稿する
ときにも同様の現象があったりするので、根本的な解決策には
ならないかもですが、コメントの書きこみでトラブルを防ぐ方法について、
まとめてみました。

●まず大前提のコメントの書き込み方です●

この「筆記」があるのはエキサイトブログですが、コメントは
誰でもしていただけます。
特にIDの取得など、していただく必要はありません。

各記事を下へ下へとスクロールすると、一番下に、
コメントが書き込めるフォームがあります。

①一番上の名前と書いているある小さめの四角には、
自分のハンドルネーム(書き込み用のニックネーム)を
お書きください。

②次のURLと書いてある四角には、ブログなどお持ちの方は、
そのURLを入れてください。
書くと、自分のコメントの
名前のところから、そのブログへのリンクが貼られます。
(もちろん書かなくてもかまいません)
③そして大きめの四角に、コメントをお書き入れください。

非公開コメント、と書かれている文字の前の□をクリックしますと、
コメントは「鍵コメ」と言って、管理人である私しか読めなく
なります。

④最後に削除用のパスワードと書いてる四角に、お好きな文字を
入れます。

※実験の結果、1文字の入力でも書き込み可能です。
1とか12とかAAとか1234とかminhoとかなんでも大丈夫でした。
削除したいときに使用しますので、覚えておいてくださいね。

⑤全部書き込んだところで、一番下にある、「送信」というボタンを
押す
と、コメントが書き込めます。

ボタンを押しても反映されない
時折、非常に「重たい」時間があるようです。
その場合、押したはずなのに、タイムアウトと言って、
処理がキャンセルされてしまいます。
反映されないから、と何度もボタンを押すとコメントが何度も
書き込まれてしまうこともあります。
この現象自体は防ぎようがありません。

この対策としては、コメントをするときに、一度メモ帳などに
書いて保存しておき、それをコピーペーストして、書き込み
いただくと、もし書き込めなかった場合も、コメント自体が
消えてしまうことを防げます。


コメントが鍵コメになってしまう
これは理由がよくわかりません。
たぶん、知らないうちにチェックボックスをクリックして
しまっているのだと思われますが、「重い」時間帯などで、
目の前の画面では入っていないように見えているまま、
送信してしまった、という可能性があるのかな。
そのままでも私には読めますが、公開になさりたい場合、
一度削除してから送信しなおすか、もしくは、公開にして
ほしい、とコメント欄に書いていただければ、私の方で、
公開にすることができます。

コメントが消えてしまう
これは本当にまったく理由がわかりません。
私も(削除しないのに)コメントが消えてしまう現象を、
見ましたので、起こることは起こるみたいです。
これも、メモ帳などに一度書いてから、コピーペースト
することで、防げるかと思います。

以上長々と書いたわりに、「知っておる!」「なんの解決策にもならぬ!」
「結局メモ帳に書いてコピペしろ以外のことは言うておらぬではないか!」
とお思いになったでしょうが、何卒ご容赦くださいませ。
私も、あまり詳しい方ではないゆえ…。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました<(_ _)> 



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by kkkaaat | 2014-01-31 20:30 | お知らせ | Comments(20)

【シンイ二次】火、狩人3


「この方をお助けできるのか」

チェ・ヨンは、胸に剣を突きつけて、迫るようにそう言った。

「チャン・ビン先輩、なんなんですかこのヒトォ!」

もうウンスはチェ・ヨンの顔を見もせずに、先ほどと同じように剣を押しのけ
ようとして、刀身を軽く握ったと思うと声をあげた。

「痛いっ!」

それから、自分の手のひらに目をやって、薄く皮が切れて、
わずかに血が滲んでいるのを見て、ぴたりと動きを止めた。
じっとその血を見つめたあと、無言のままチェ・ヨンに背を向けて、
キャリーバッグをかき回しながらウンスは、
横のチャン・ビンに顔を寄せて、ささやく。

「せ、先輩、…この剣、本物です」

チャン・ビンは圧迫止血を試みながら、ああそうだな、
と冷静な声で答える。
気づいてたんですかっ、とウンスが食ってかかると、
ああ、あなたはよく平気だなと思っていたよ、と言う。
まさか、この人が犯人、と自分で言って、ウンスは青ざめる。
サイコ、と呟いて、怖々と顔をしかめたが、それでも手だけは
止めなかった。

「お助けできるのか、と聞いている」

自分を無視する二人に、男が声を大きくする。
怒鳴りつけようとするウンスに、チャン・ビンが静かにささやいた。

「刺激しないほうがいい」

ウンスは、はっとして、開けかけた口を一度閉じ、
それから肩ごしに言った。

「重傷だわ。でも、緊急手術を行えば、助かる、と思う」

そこにかぶさるように、チャン・ビンの口から言葉がこぼれた。
まずい、脈拍が弱まっている、と言いながら、顔を上げる。

「その、きんきゅうとやらは、お前はできるのか」

とチェ・ヨンがウンスの目を見ながら、言う。
深く水底まで見通すようなまなざしだ。

「できるけど、でも救急車がくれば、搬送先の病院の担当医が
手術をしてくれますから、安心してください」

ウンスがそう言うと、チェ・ヨンは言葉を返す。

「そっちの男は、まずい状況だと言ったが」

ええ、そうね、多分出血量が多いから、その、一刻を争うのは確かよ、
とウンスはつっかえながら、正直にそう言った。
相手の機嫌を損ねぬように、と思うのだが、このチェ・ヨンという男の
目を見ると、なにやらうまく言葉をつなぐことができなかった。

「お前、できるのだな」

チェ・ヨンが念を押すように言う。
ウンスは背筋に、嫌な予感が這い上がってくるような気がした。

「いえ、わたしの専門は美容整形だから、やっぱり血管の縫合手術は
ちょっと無理っていうか、そんな簡単なもんじゃないっていうか」

しどろもどろに、言いながら、ウンスは立ち上がって患者から
後ずさりはじめた。
そのままくるりと後ろを向いた瞬間に、腰のあたり、何か鋭いものが
付き当てられたのを感じる。

「ひっ!」

降参とでもいうように、ウンスが両手を上げた時だった。
チャン・ビン先生が声を上げた。

「ウンス、まずいぞ」

ウンスとチェ・ヨンの顔が、同時に女人に向く。
なんですか、とウンスが悲鳴のように答える。
このままでは、救急車が来るまで間に合わない、
とチャン・ビンが言った。
冷静さの後ろに切迫感が感じられる。

「ちょ、ちょっと。どうしましょう、先輩」

ウンスが情けない声を上げて、結局チャン・ビンの横に
またかけ戻った。
ここは町外れだ、救急車の到着までかなりかかる、患者の衰弱が激しい、
とチャン・ビンがウンスに告げるのを、チェ・ヨンはじっと見ている。
嫌ですよ、そんな、見殺しとか、と叫ぶように言いながら、
ウンスはぐしゃぐしゃに髪をかきました。

「ここで応急手術を」
「ここで、やれ」

チェ・ヨンとチャン・ビンが、ほとんど同時に言って、
それから、むっとしながら顔を見合わせた。
ウンスは、一瞬ぽかんと口を開ける。

「えっ、ええー!?」

夜空にウンスの絶叫が、響き渡った。



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by kkkaaat | 2014-01-30 14:23 | 火、狩人【シンイ二次】 | Comments(28)

2巻がやってきました

c0128204_19294356.jpg

本日、ノベライズ2巻が届きました。
なんか嬉しくてご報告。

というか携帯からの更新の実験もかねて。
できるかな?

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by kkkaaat | 2014-01-29 19:32 | シンイ雑記 | Comments(34)

【シンイ二次】蜃楼 6

チュンソクの常のかまえは、正面中段である。
乱戦のときさえ、そのかまえを解かないチュンソクのそれを、
陰で愚直のかまえと酒の席で揶揄するものもいたが、チェ・ヨンが
それを言うならやつのは赤心のかまえだ、と一喝すると、
誰もからかうものはいなくなった。
であるのに、今日に限って、脇かまえを取った。

「いいのか、それで」

チェ・ヨンはつかつかと壁によると、木刀を片手でつかみとる。
脇にかまえるは、チェ・ヨンのかまえ。
刀身の長い鬼剣の遠近を狂わせるために、左脇後ろにかまえるのだ。
両手で自在に剣を扱えるチェ・ヨンだからこそ、できること。

チュンソクの右脇かまえと、チェ・ヨンの左脇かまえが鏡合わせのように
向かい合う。

息を読む間もおかずに、チェ・ヨンは突風のように木刀を巻き上げて、
チュンソクの顎先を狙った。
身体は引かずに、顎だけをひねって刀先をよけると、
チュンソクはチェ・ヨンの胴を狙って木刀を跳ね上げる。
振り上がった刀身で軽々とそれを撃ち落として、チェ・ヨンは跳ねて
一歩後ろに下がると、腕先だけでくるりと木刀を回した。

以前そんなことをした隊員がいて、ふざけたことをするなと、
木刀を叩き落とされていた。
トクマンとチュモが、ちらりと視線を交わし合う。

「剣筋が見え見えだな」

強く打たれた振動で、手首に痺れを感じているだろうに、それを見せない
チュンソクに、チェ・ヨンはくいと片頬を上げてそう言う。
無駄口を叩くな、とチュンソクの口から出た言葉に、真顔に戻る。
チュンソクの態度は、どこまでも隊長(テジャン)としてのものである。

「どっちが、だ」

チェ・ヨンは唸るようにそう言うなり打ち掛かり、円形の兵舎の集合所の部屋には、
木刀のぶつかり合う甲高い木の打音が何度も響きわたった。
いつもなら、こんな手合わせのときには、やじや鼓舞の声が飛び交うのに、
于達赤隊員たち、息を殺すようにして、動けないでいる。

木刀が重なり合って、しばし押しあったあと、いきなりチェ・ヨンが
チュンソクの腹を力任せに蹴って、その身体が壁際まで飛ばされた。
ふん、とチェ・ヨンが鼻を鳴らす。

「剣術は剣のみにあらず、何度もそう言ったが、それは聞いていなかったか」

喧嘩っぱやい若造のようなその口の聞き方に、古株の隊員たちが
目を丸くする。
チェ・ヨンは木刀をからんと投げ捨てて、部屋を後にしようとした。

「終わっておりませぬ」

背後で、じりと立ち上がる気配を感じたが、チェ・ヨンは振り返らなかった。
一本勝負だ、負けを認めろ、と吐き捨てて、歩み去ろうとするのを、
チュンソクの声が追いかける。

「逃げますか」

足が止まる。
周囲で見守っていた于達赤には、チェ・ヨンの背中から湯気が立ったように見えた。
振り向いたチェ・ヨンは、あきらかに向かっ腹を立てていた。
チュンソクの喉がごくりと鳴る。

もう一度チュンソクが、右脇にかまえるやいなや。
だれがだ、と地獄の底から湧き上がるような声で言って、チェ・ヨンは
かまえもせずに、打ちかかった。

打ち合う音が、先ほどよりもさらに高い。
あまりにも荒っぽい太刀筋に、周囲の者は、いつ木刀が折れて
飛んでくるかと、ひやひやと首をすくめる。
くぐもった鈍い音がした。

「うぐっ」

チュンソクが左二の腕を強く握り締めながら、うめき声をあげる。
チェ・ヨンは剣術を競うというよりは、ただの棍棒で殴るがごとく、
その木刀を扱った。あまりにも容赦なく、振り下ろされるそれに、
于達赤隊員たちの口からもうめきがこぼれるようになった。

「まだやるか」

そう言ったチェ・ヨンに、チュンソクは剣を振れるうちは、と答えて立ち上がる。
ちっ、と舌打ちをすると、チェ・ヨンはまた踏み出した。


それからどれほどたっただろうか、荒い息だけが、
互いに交わされる唯一の言葉となっていた。
三度に二度は脛を蹴られ、腰を打たれ、時には肩で突き飛ばされて、
チュンソクは膝をついたが、それでも残りの一度は一矢を報いて、
チェ・ヨンの方も口元と袖から見える手首に、血あざが見える。
服で見えない背中や腿には、さらに多くが散っている。

「おい、まだ、やるのか」

チュンソクが聞いたこともない声で、チェ・ヨンはそう言った。
傍から見れば、あきらかにチュンソクの方が重傷だった。
これで終わりか、と常なら意識を飛ばすほどの強手を入れられても、
チュンソクは立ち上がらないということがなかった。
俺が終わりというまでは終わらぬ、そう言って木刀を脇にかまえた姿は揺るがず、
その前のチェ・ヨンの顔のほうがよほど、よろめくような狼狽え(うろたえ)を
浮かばせていた。
手合わせ鍛錬の域を越えている。

「これじゃあ…」

殺し合いじゃあないか、トクマンが、小さく呟いて、止めるべきかと周囲を見回すが、
ほとんどの者は魂が抜けたように目を奪われていて、残りの幾人かと
目があったが恐れおののいたように首が振られた。

「死なぬように、殺す」

チュンソクが、チェ・ヨンに言うでもなく、ただ胸の内でつぶやくように言ったのを、
チェ・ヨンが聞きとがめて、は、と尋ね返すともつかない中途半端な声を
出すと同時に、チュンソクの木刀が勢いよく前を突いた。
それは斜めに、それでも十分な角度を持ってチェ・ヨンの腹に見事に
押し通り、チェ・ヨンは後ろへもんどり打って、投げ出され、
天井を向いて大の字に倒れた。

(息が、できぬ)

一筋の息も飲み込むことができずに、手足を震わせて、屍のように横たわる。
素早く駆け寄ったテマンが、半身をひきずり起こすと、
背中から活を入れる。
止まっていた肺に、勢いよく新鮮な空気が流れこみ、チェ・ヨンはひゅうと
喉を鳴らしながら、水でも飲むように息を吸いこんだ。
突かれた腹が、燃えるように熱い。
チェ・ヨンはそこに、手を当てて、肘をついて半身だけ起こして、
そのままチュンソクを睨みつけた。

チュンソクは突いた姿勢のままだった腕を引き戻して、
かまえの足を踏ん張ったまま声を張り上げた。

「ご事情はそれなりに飲みこんでいるつもりです」

が、とチュンソクの声が一段高く張り上げられる。
視線と視線がぶつかる。
礼を尽くしてはいたが、一歩も引かぬ様子に、チェ・ヨンの目が
微かに右に流れ、また戻った。

「一武官の感傷を、慰めているひまなど、于達赤にはないのです。
お気持ちのおさまるのを待つ余裕など、俺たちにはない」

チュンソクは言葉が喉につかえそうになるのを、必死に押し出しているせいか、
声が掠れて、寒気だったように身体の芯が震えていた。
木刀を脇に構えた姿勢のまま、打ちかかる気迫のまま声を絞る。

「同情などと言えば、あなたは大層お怒りになるでしょうが、
一同みな、ウダルチだけではございませぬ、文官武官みな、
チェ・ヨン殿、あなたに同情いたしておりまする」

チェ・ヨンは同情という言葉にかっと頭に血が上るのを感じたが、
チュンソクの言わんとしていることがわかって、どっと情けなさがこみ上げて、
一度土についた手で顔をぬぐった。

「けれど、高麗にはその猶予がございませぬ…」

そこまで言った、チュンソクの顔はのぼせたように赤かった。
その紅潮が、周りにわかるほどみるみるうちに青ざめて、
構えを解くとだらりと木刀を手にぶら下げたまま、
棒立ちになった。

「言いすぎました」

言いすぎました、とチュンソクは、吠えるような口説の舌の根も乾かぬうちに、
蒼白になって繰り返した。




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by kkkaaat | 2014-01-28 15:21 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(49)

【シンイ二次】蜃楼 5

「イルビョン、チェ・ヨォォン!」

人の引き上げてしまった練兵の広場を横切り、于達赤の兵舎に戻り、
自分の仮寝の床へと歩いていると、いきなり、太く張りのある声が呼び止める。
咎めるような怒気をはらんだ声だったが、チェ・ヨンは臆することもなく振り返る。
振り返った先には、険しい顔をした「テジャン」の顔があった。

チェ・ヨンは一瞬真顔になった。
于達赤に入って最初は、チュンソクはかたくなに「テホグン」とチェ・ヨンを呼んだ。
やめろ、と言うとしかたなしに、チェ・ヨン殿と呼び続けてきたのだが。
イルビョンと聞いて眉間に皺が寄りそうになったが、あえて、
その気持ちの高ぶりをないものとした。
そうだ、俺はただのチェ・ヨンだ、チュンソクは正しい。

「いい声、だ。チュンソク」

右頬だけを微かに上げて、そんなふうに言って、チュンソクの肩を一つ叩くと、
また後ろを向いた。
隊長(テジャン)と呼んだのは、最初の一度きりだ。
大護軍の身も名も捨てた今でも、自らより弱いものをテジャンと呼ぼうとすると、
何かしら喉の奥がつかえたようになった。

「待て」

びりびりと兵舎の高い天井に響くような声で、チュンソクはチェ・ヨンを呼び止めた。
なぜ待たぬとならぬ、と怒鳴りつけたくなったが、歯を食いしばる。
一兵卒扱いされて、苛つく自分が苛立たしかった。
無様に徳興君に毒を噛まされ、妻の不在に腑抜けになった自分は、
そのあたりでちょうどいい、そう開き直ったはずだった。
そもそも、皇宮を下がるまでの腰掛けの在職だ。

「なんだ」

と振り返らぬまま、肩ごしに尋ねる。
周囲の隊員たちがかたずを飲んで見守っているのがわかる。
散れ、散れ、とチェ・ヨンは心の中で大声を張り上げる。

こっちを向け、チェ・ヨン、そうチュンソクが言ったヨンの名の尾が、
裏返ったのを聞いて、チェ・ヨンは、ふ、と薄く笑った。
唇の上に浮かんだ薄笑いを消しもせずに、チェ・ヨンは振り返った。

こちらを見つめるチュンソクの目は、もちろん笑ってなどおらず、
怒気をはらんで、険しくしかめられていた。
おいおい、と口の中で呟く。
ほんのわずか、威圧を感じたのを無視して、チュンソクの目を見る。

「なんだ」

もう一度、低い声で尋ねる。
周囲の于達赤隊員たちの目が、自分とチュンソクとを忙しなく行き来する。
あの、と誰かが小さな声で何かを言いかけたが、チュンソクの手のわずかな
動きで静まった。

「やりすぎです」

待て、と言った声は荒ぶっていたが、そう言った声はもう静まっていて、
それでも何やら切羽詰まった響きがあった。
何がだ、とチェ・ヨンがわかりきったことを口にして問うと、
チュンソクは、苛立ちも見せずに繰り返す。

「やりすぎだと、申し上げているんです」

だから何を、としらを切ろうとするチェ・ヨンの言葉を遮って、
チュンソクは一歩前に踏み出すと、言う。

「務めている間は私事は二の次、いや百の次だ。
敵が陽が上って暮れるまで鍛錬するなら、俺たちは起きて寝るまで鍛錬する。
息抜き? それはお前の命を守るのに何か役に立つのか」

チェ・ヨンの目が、大きく見開かれ、一瞬口の端がふるりと震えた。

「すべて、あなたが俺におっしゃったことだ」

チェ・ヨンの口が何か言い返そうと半開きになったまま、
は、と息だけを吐いた。
言葉を失っているチェ・ヨンに向かって、
もう二度と、務めている間に抜け出したりなさらぬよう、
とチュンソクは落ち着いた声で言うと、ほっとわずかに肩の力を緩めて、
踵を返す。

「待て」

身体を半分だけ回したチュンソクの腕を、チェ・ヨンが自分でも何をしようと
しているのか、意識もせぬほど素早くつかんだ。
チュンソクは、薄く戸惑いを顔に登らせて動きを止める。

「俺は」

チェ・ヨンは、小さく唇を噛んだ。
お前なんぞに何がわかる、そうチュンソクにだけ聞こえる声で言って、
チェ・ヨンは腕ごと身体を突き飛ばした。
チュンソクは二歩ほどたたらを踏んで、止まると、驚いたように顔を上げた。
それから、ふーっと長く息を吐き、チェ・ヨンの顔を見る。

チェ・ヨンは顔に血を上らせたまま、ふい、と横を向いた。
チュンソクはもう一度、盛大なため息をつくと、つかつかと壁の剣置きに歩み寄り、
そこから木刀を一本つかみ出す。
これより、わかっていただく方法はなさそうですね、とつぶやくように言うなり、
丸い部屋の中央に歩み出て、言う。

「チェ・ヨン、これより剣の鍛錬をつける。構えい!」

そして、木刀を脇にかまえると、ぴたりとチェ・ヨンに目をすえた。



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by kkkaaat | 2014-01-25 23:10 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(20)

【シンイ二次】火、狩人2


「テジャン…」

男は水の中を歩いているような気がしていた。
粘りつくような冷たい光の中を、一歩一歩、明るい方へと進む。
自分の周囲に水面のように揺らめくそれの中でも、息はできた。

自分を呼ぶ声がした気がして、声の方に向かって歩いていた。
ふと、身体が軽くなる。
見回すと、そこはすでに、光の中ではなかった。

「テジャン、ご無事で」

強ばっていた小柄な男と並び立つ髭の男の表情が、
見る間にほっと緩むのが見えた。
男はまず女人の首に目をやった。
先ほど流れ出るようだった傷は、わずかに勢いを緩めているが、
それが良いことなのかどうかの判断もつかない。
顔を上げて、辺りを伺う。

立派な石柱に囲まれて、先ほど見た仏像は、より大きなものへと
挿げ替えられている。
床は磨き上げられたような石床で、このような立派な石造りは、
皇宮でさえ見たことがなかった。

「テジャン、あちらに明かりがたくさん見えます。
あちらに街があるのではないでしょうか」

石床の端に立って見下ろすと、夜の暗闇を打ち消すほどの明かりが
眼下に広がっている。
なんだ、ここはどこだ、そう呟いた瞬間に後ろから革鎧の青年が
まろび出て、そのままつんのめるよう走って男の横に並んだ。

「うわぁ」

青年は子どものような声を上げた。
テジャンと呼ばれている男は、背の高い若い男に、
天穴を見張れ、とひと言命ずると、腕の中の女人を石床の上に横たえた。



「チャン・ビン先生、そう思われませんか?
ですからね、やはり美容医療のこれからは、
心のケアと内科的な処置や服薬との、複合的な――」

先ほどまで行われていた、美容外科学会での講演の成功に
気をよくしたウンスは、やや興奮気味で、もう何度か語っていることを、
大学の先輩で内科医のチャン・ビンに早口でまた話している。
キャリーバッグをがらがらと引き摺りながら、
開いた手を空中にふらふらと彷徨わせながらしゃべるのがウンスの癖だ。
背の高いチャン・ビンは、もう何度目かになるその話であるのに、
きちんとウンスの顔を見つめ、丁寧にうなずきながら聞いている。

手を慌ただしく動かしまくしたてながら歩いていたウンスの
足と口が、ぴたりと止まった。
目が細くすがめられ、少し先に目を凝らす。
チャン・ビンは追いかけるように、ウンスの視線の先へと
目を向けた。

「ねえ、あれ」

止まっていたウンスの足が、ゆっくり一歩、二歩と前に出て、
それから早足になる。

「人が、倒れてません?」

チャン・ビンは黙ったまま、ウンスとともに足を踏み出し、
そのまま駆け足になった。



「テ、テ、テジャン、人が来ます」

皮鎧の青年は石床の端から、辺りを見回していたが、
その丘の下を通る固い石の道から、女が一人、男が一人、
走り寄ってくるのに気がついた。

「追っ手か」

跪いていた男が顔を少し上げて問うと、青年は暗い中に
目を凝らす。

「わかりません。で、でも、武器は持ってません。女の方が何か
に、荷を持っています」

それから、呟くように、なんだあれ、旅芸人か、と
不思議そうに言う。
テジャンと呼ばれている男は素早く立ち上がると、
髭の男と背の高い若い男に顔を向けた。

「チュンソク、チョナを物陰にお隠しせよ。お前も共に隠れ、
なにがあってもお守りしろ。トクマンは引き続き天穴を見張れ。
追っ手が出て来るようであれば殺せ」

チュンソクと呼ばれた髭の男と、トクマンと呼ばれた背の高い
若い男は、イエ(はい)、とうなずくと、即座に動く。

「テマン、お前は樹に登って、俺を援護しろ」

革鎧の青年は、まるで人技とは思えない身軽さで、
この石の祠の横の樹上に音もなくのぼった。

「テジャン、王妃は」

チュンソクという男にうながされた小柄な男が、一瞬立ち止まって、
細い悲痛さをにじませたような声で、尋ねた。

「どうにかいたします。まずは我が身をお守りください」

男がほとんど振り向きもせずにそう言うと、小柄な男は歯を食いしばって
物陰に走り込んだ。
と同時に、女と男が石床に続く階段のたもとにたどり着き、
駆け上がり始める。
男は跪いて、もう一度女人の息を確かめると、また立ち上がり、
腰に差した剣に手をかけた。



「あの、大丈夫ですか?」

ウンスは、はあっ、はあっ、と息をきらしながら男に話かける。
男は一瞬にして女の様子を見て取った。
見たこともないような、赤い髪。
胸元の開いた身体の線が浮かび上がる、淫らな異国の衣、
夜でもわかる抜けるように白い肌。
微かに男の目が見開かれる。

このような時であるのに、
男は女の口元に目が吸い寄せられるのを感じた。
見たこともないような色の紅だ。
美しい、という言葉が頭のどこかをかすめたが、
そう意識する前に振り捨てた。

「ね、その人、ああっ!」

女は首の傷に気がついたようで、手を口に当てた。
悲鳴でも上げて逃げ出すかと思っていたのに、女は傷を見ると、
さらに急いで駆け寄ってきた。
テジャンと呼ばれた男を押しのけるように、女人の傍に滑り込む
ようにして膝をついた。
男の方は、その半分まで駆け寄ったが、女人と男の異様な風体に
気がついて、密かな警戒の表情を顔に浮かべて、数歩を残し立ち止まった。
女は懐から小さな真珠色の板札を取り出したと思うと、
耳元に押し当てて、何かをしゃべりだした。

「救急車の出動を一台要請します。患者は若い女性、
首中程に鋭利な何かで切りつけられた外傷、7センチ程度で、ええ、
静脈が傷ついています。至急血管縫合手術が必要だと思われ――」

男は板札にしゃべり続ける女を一蹩すると、その後ろの男に顔を向けた。
帯剣もしておらず、一風変わってはいるが、武人の身なりではない。

「この近くに、医員はおらぬか」

男がそう言うと、ウンスの後ろのチャン・ビンが口を開く前に、
ウンスは男には目もくれずに、女人に首筋の傷に触れ、確かめながら
しゃべりだす。

「わたしが医者よ。今、救急車を呼びました。
チャン・ビン先生、止血が必要です、わたしのキャリーバッグに―」

すらり、と男の腰から剣が抜かれた。
チャン・ビンの動かない表情が崩れ、目が見開かれる。
男は医者だと言ったウンスの横に立つと、怒りを孕んだ声で言う。

「何をする」

男はしゃがんでいるウンスの首元に、剣を当てた。
ウンスは臆する様子もなく、男を睨みつけながら、刃を手のひらで
ぞんざいに自分から押し遠のけた。
つい先ほどまで何十人もを斬ってきた剣を、素手で退けられて、
男は微かに戸惑ったよう瞳を揺らした。

「こんなときに、ふざけないでよ! 何? テレビの撮影?
チャン・ビン先輩、見てないで手伝ってください。
この人の傷、かなり深いわ」

ね、撮影中の事故なの、責任者は、あなたは事情がわかるの、と
畳み掛けるようにしゃべりながら、ウンスは大きな荷入れから、
何やら道具を引き出し始める。
勝手に触れるな、と男が女の肩をつかんで押しのけようとすると、
女はいきなり立ち上がって、一歩前に出て男に詰め寄ると、
ドンと男の胸に両手を押し当てて、突き飛ばすようにした。

「ねえちょっと、何様だか知らないですけどね、
この人を助けたいんだったら、黙ってて!」

祠の横にそびえる見たこともない明るい白い灯火に照らされて、
女の髪は逆立って赤く燃えるようだった。
男は瞳の奥の強い光に、気圧されるようなものを感じた。
他人にそんなものを感じたことなど、この数年なかったことだ。

どうしよう間に合わないわ、と顔を歪めながら、ウンスは男に
背を向けると、この言い争いの間に女人に近寄り脈をとりはじめて
いたチャン・ビンの傍に膝をついた。

「医員なのか」

男が剣を持った手をだらりと、身体の横に下げたまま、
二人に問いかける。

「そうよ、さっき言ったでしょう!」
「そうだ」

ウンスは噛み付くように、チャン・ビンは落ち着き払った声で同時に答える。
それを聞いて、男は岩影に、一瞬目をやって戻す。

「名を、何という」

男は急に、はっきりと定まった声で、言った。
ウンスは苛々と身体を揺らしながら、顔だけ振り返った。

「ウンス、ユ・ウンスよ。江南の形成外科医よ。
そんなこと今はどうでもいいでしょう。
人に名前を尋ねるなら、自分が先に名乗りなさいよ!」

男は、すい、と目を細めた。
一歩、近寄る。

「俺の名はチェ・ヨン」

高麗国于達赤隊隊長、中郎将のチェ・ヨンと申す。
その男は剣をウンスの喉元に突きつけて、そう言った。



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by kkkaaat | 2014-01-23 22:48 | 火、狩人【シンイ二次】 | Comments(24)

【シンイ二次】火、狩人1

※この話は、ドラマ「シンイ」の登場人物をお借りし、展開のアイデアは別ドラマ「屋根部屋の○リンス」からお借りしています。現代ものパラレルです。ドラマの続きではなく、ドラマの一話目のあたりから、ストーリーを変えて話が始まります。主人公はチェ・ヨンとウンスです。こんなはじまりですが、ラブコメの予定です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「テジャン!」

そう呼ばれて男は、足で踏みつけた身体から、
剣を引き抜きながら顔を上げた。
呼ばわった髭の男よりも、まだ若い。
だのに、テジャン(隊長)と呼ばれていて、
周りの揃いの鎧を身につけた数人の男達は、
その男のことを頼るように見つめている。

口元に髭を蓄えていないので、まだ三十にもなっていないのだろう。
肩ほどの髪を後ろで無造作にくくり、長い前髪を額帯で上げている。
テジャンと呼ばれるのが当然と、本人も思っているのが見て取れる。
よほどの手練だろう、引き抜いた剣をひとふりすると、
刃先には血曇り一つない。

「乙は、どうした」

低く暗い声で、その男は尋ねた。
声を張り上げたわけでもないのに、辺りはその声で、しん、とした。

「乙のうち七名、戻りません。丘下から、登ってくる人影が数十名」

ちっ、と男が舌打ちをして、
すぐそばの岩影に佇む二人の人影に目をやる。

小柄な男が一人、すらりとした女人が一人。
小柄な男は雨避けの被り物をきつく身体に巻きつけて、
ただ一人、テジャンと呼ばれた男をじっと見つめている。

「チルサルにやられたと――」

髭の男が続けると、テジャンと呼ばれた男は空を仰ぐ。
空に沸き上がった雲から、不思議な赤い雷光が、
何度も光っているというのに音がしない。

「なんなんだ」

天帝がお怒りか。ならばどちらにか、と空を睨む。
赤く染まった雲が渦を巻き、丘のさらに上へと集まっている。
男は辺りを見回した。
麒麟の鎧をつけた兵が八名、岩影の二人、侍従らしき文官が数名。
部が悪い、と言わざるを得ない。

「どっ、どうにかしろ! チョナをお守りするのだ!」

雨避けから、紫の派手な衣が覗く年嵩の文官が、上擦った声で繰り返す。
男は、その男を無視して、髪の長い身体のがっしりした男に近づいた。

「あの大木の方へチョ・イルシン殿をお連れして逃げろ」

チョ・イルシンと呼ばれた文臣がぎょっとしたように、男を見た。
そう言ってから、男はほんの一瞬間を置いた。
そうして、髪を長く下ろした男の耳元に顔を寄せる。

「お前は、このようなことで、命を落とすには惜しい男だ。
時間を稼いだあとは、死力を尽くして遁走しろ」

はい、と髪の長い男はその双眸に光をみなぎらせて、
強くうなずいた。
男は、チョ・イルシンにつかつかと歩み寄る。

「ウダルチ四名とともに、臣の方々はお逃げください」

囮にしようというのか、と震える声が抗うように言った。

「奴らの狙いは、お二方です。共にいれば巻き添えをくう」

男がそう言うと、急に文官たちは押し黙った。
チョナをお守りせねば、と誰かが弱々しく言うと、
男は、あなたがたがいても足でまといだ、と切り捨てる。

「こちらへ」

髪の長い男が、誘うと、文官たちは戸惑いを顔に残したまま、
チョナどうかご無事でと小声で言っておずおずと走り出す。
男は、岩影に走り寄る。

「こちらへ」

岩陰の男と女を、丘の上へと誘いながら残った三名の兵と登りだす。
あのものたちは、と小柄な男が尋ねると、男は事も無げに答える。

「囮としました。幾名かでもあちらを追ってくれればよいが」

小柄な男は、一瞬痛ましげに顔をしかめたが、すぐに前を向いて
必死に男についていく。女はひと言も口を聞かずに、ただ、
足早に丘を登った。
なぜだろう、男は鳥肌が立つような不思議な感覚をおぼえていた。
空気が何かを含んだように、ぴりぴりと肌を刺す。
この先に、この先に活路がある、何かがそう告げている。

「テジャンっ」

子どものような顔の、一人だけ別の革鎧を身につけた青年が、
樹上から飛び降りながら悲鳴のような声をあげた。
追っ手だ。
丘の下からわらわらと、数十名、いやそれ以上か。
舌打ちする余裕もなく、一行はひたすらに丘を登る。

山陰を回り込むと、大きな岩壁が見えた。
なぜだかわからぬが、そこへと皆が引き寄せられるように走った。
びゅうびゅうと向かい風が吹き、木の葉が舞い上がっているというのに、
足が止まらない。

「あれは…?」

初めて、女人が口を開いた。
細いが気丈そうな声が、戸惑いで震えている。
男以外の者の足が、一時止まった。

「天門が、開いている」

小柄な男が、驚きを秘めて、そう呟いた。
天門、と問い返したのは誰の声だったか。

「華陀が現れ、消えたという天穴なのか」

男の顔は驚き一つ表していなかったが、
それでも声に微かに畏怖が混じる。
仏像の足元に祠のように組まれた岩の庵の中が、
青白く光ながら渦巻いている。
あまりの驚きに、警戒が一瞬おろそかになった。

「テジャン!」

小柄な男が高い声で、叫ぶ。
丘の下からの追っ手とは違う、黒の装束に深く傘をかぶった
三十名近くの剣手が、岩壁の横から影のように走り出た。
テジャンと呼ばれた男は、一歩ずつにひと振りずつの剣花を散らし、
瞬く間に数人を斬り倒して、小柄の男のそばまで駆け寄ると、
腕を掴んで、髭の男の方へと放り投げるように押し出した。

それから、それよりも二歩ほど遠い女人が、男に手を伸ばした。
男はそれを掴まずに女人の背後の一人へと剣を突き刺し。

(あと、二人。)

もう一人の腕を切り落として、返す刀でその首元へと突き立てようと
して、間に合わぬ、と目を見開いた。
七殺(チルサル)の手の者らしき男が、
女人の首に刃を当てて引き斬るのと、
男の剣が殺者の首を貫くのが同時だった。

(この男が命汚ければ、間に合ったものを―)

男はきつく歯を食いしばる。
剣を引き戻しながら、倒れ込んでくる女人を腕に抱きとめ、
男はそのまま走り出した。

「天穴へ」

腕に抱えている女人の首傷から、鮮やかな赤が流れ落ちる。
滴るそれを、小柄な男は、走りながら凝視している。
小柄な男の目が、恐怖とは別の絶望で、黒々と曇った。
丘下から、さらに追っ手が加わるのが見える。

「入るのですか」

若い背の高い男が、また一人斬り捨てながら、叫んだ。
追っ手と天穴とを交互に見比べている。

「行くんだ」

テジャンと呼ばれた男は、確信を持って、そう命じた。
髭の男が小柄な男の腕を掴んだまま、迷いもなく走り込み、
姿が消えた。
続いて背の高い男が意を決したように飛びこむ。

革鎧の青年が、光の横で、髪を揺らしながら男を待っている。
男はちらと剣を構える青年に目をやってうなずくと、
腕に女人を抱いたまま、その中へと駆け込んだ。
青年は、男の姿が消えるのを確かめて、跳ねるように天穴へと身を投げる。

追っ手が岩壁を回って見たものは、そこに渦巻く青い竜巻のような渦と、
誰もいない草地の上を吹き抜けていく、寒々しい風の痕だけであった。



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by kkkaaat | 2014-01-21 19:41 | 火、狩人【シンイ二次】 | Comments(33)

【シンイ二次】蜃楼 4


「ひゃあ!」

ウンスは急に横から伸びてきた手に腕をつかまれて、
部屋の中に引きずりこまれた。
悲鳴をあげそうになった口を大きな手が覆う。

「俺です」

殴りかかりそうになった手首をひょい、とつかむと、チェ・ヨンは
ウンスの顔を覗きこんで、目を合わせた。

「もう、何するのよ。驚いたじゃないの」

ウンスはチェ・ヨンの手を口からずらし、胸に手を当てて目を見開いて
そう言った。
チェ・ヨンは、驚かせるのが目的だったとでも言うように、にやりと
口角を上げて、それから言う。

「ここでお待ちすれば、会えると思いまして」

ウンスは王に呼び出されて、宣仁殿を訪れていて、先ほど下がって回廊を
歩いている途中だった。
もう三度目になる。
起きなかったことと、起きたこと。
開いた天門と、その先の出来事。
ウンスは尋ねられたことで、答えられることは包み隠さず話すことに
決めていた。

「だって歴史を変えちゃいけないって、
誰が決めたのよ、ねえ。おかしな話だわ」

自分のしたことを振り返ると、王に話さないのは筋が通らない。
ウンスはそう思ったのだ。

春の午後は穏やかに暖かくて、ウンスは中庭で花でも眺めてから屋敷に
戻ろうと、のんびりと足を運んでいた。
引きずりこまれたのは、皇宮に無数にある控えの間の一つで、
人減らしが進んだ今では、使うものもいないようで、
掃除はされているものの、わずかに埃っぽい。

チェ・ヨンは一枚だけ空いていた扉を軽やかに蹴り閉めると、
当然のことのように、ウンスを扉脇の壁に押し付けて、
その唇に自分の唇を押しつける。

「ちょっと待って、ふざけないで」

ウンスは、笑いながらチェ・ヨンを押しのけようとするが、思いのほか
その腕は強固で、ウンスの肩のすぐ下をぐいとつかんだまま、離れない。
チェ・ヨンの口元は笑っているが、目元は一つも緩んでおらず、ウンスは
自分の笑いを引っ込めた。
しつこく、追いかけてくる唇を、手で避けながら、言葉を続ける。

「ねえ、なんでここにいるのよ。今、お仕事中でしょう?」

そう尋ねられて、ようやくチェ・ヨンの顔が少し止まる。
見回り中だったのです、と答える前の一瞬の逡巡に、ウンスはため息をつく。

「ね、違うわよね。なに? わたしに会いたかったの?」

そう言うと、チェ・ヨンは小さく目をそらしたが、すぐにウンスを見ると
けろりとした声で言う。

「剣の鍛錬でしたが、抜けて参りました」

逃げ出して、でしょ、とウンスが言い直すと、同じことです、と
チェ・ヨンは言いながら、ウンスの手の隙間から、首筋に唇を潜りこませた。
ウンスは小さく声を上げて、やめてやめなさいってばここをどこだと思ってるの、
と言いながら、チェ・ヨンの頭を平手でぺしりと叩いた。

「皇宮です」

チェ・ヨンは気にも止めずにそう言って、顎をさかのぼって
口づけにようやくありつく。

ウンスが呆れてしばらくの間、好きにさせてやると、
チェ・ヨンはそのまま上衣の背中に手を差し入れて、嬉しそうに肌を撫ぜる。
少し息があがって弾んだ声で、ウンスは口づけの合間に言った。

「ね、抜け出すなんてしていいの。あなたがテジャンだったときに
そんなことをする人がいたら、どやしつけていたでしょう?」

チュンソクは多分気づいておりますまい、
とチェ・ヨンが上の空でそういう言いながら、
さも嬉しそうにウンスの衣の前紐を引っ張って解く。

「何言ってるのよ、ちゃんとテジャンって呼びなさい、ね?」

ウンスが逆らって結びなおそうとすると、結んでいる間に別のところを
解いてしまう。慌てているのを見て、チェ・ヨンが笑うのがしゃくで、
ウンスは伸びてくる手を何度もはたいた。

チュンソクは気づいているに決まってるでしょ、っていうかみんなあなたが
抜け出したことなんて気づいているわよ、とウンスが言いながらチェ・ヨンを
見ると、もうその顔は笑っておらず、ウンスの顔も見ていない。
余裕なげにウンスの手を払いのけると、上衣の前を開き、
下袴の腰紐も瞬く間に緩めてしまった。

そうなるとウンスが、ねえ、ちょっと、といくら話しかけても応えもせずに、

「ねえ、…まずいんじゃないのかな」

ウンスが遠に抗うのをやめ、動きを助けるように自分も腕を
チェ・ヨンのうなじに回して、弱りきった声でそう言ったときだけ、

「かまうものか」

と小さな声で言った。



ウンスは乱れた髪を、手ぐしで落ち着かせようとすきながら、歩き出すと、
二つ先の回廊から、すいと人影が現れ行く手を遮った。

「ひいっ」

音もなく現れた人物に、ウンスは思わず声を上げる。
チェ尚宮は、腰に手を当てて、首を傾げてウンスを見た。

「はめを外すにも、限度がございますぞ」

はあ、と肩をすくめて照れ隠しの笑いを漂わせながら、ウンスは
頭をかいたので、髪は結局、前よりもひどく乱れてしまった。



「ヨンは、まったく、どうしたというのですか、ウンス殿」

はあ、とウンスは曖昧な声を出した。
回廊の先の、手すりにもたれるように腰掛けて、二人は話しはじめる。
于達赤隊で、あの者がどのような狼藉をしているか、ご存知か、
と言うチェ尚宮の言葉に、ウンスは小さく身を乗り出す。

チェ・ヨン本人は、万事無事うまくいっております、と言うばかりで、
詳しいことは口にせず、テマンは于達赤隊に戻ったチェ・ヨンに付き添って
兵舎に寝床をもらったおかげで、屋敷に戻ることが少なくなっていて、
ウンスは夫がどのように過ごしているのか、今ひとつ
わからないでいたのだ。

「先日は、ひらの隊員全員と剣の手合わせをして、皆を打ちのめしたそうじゃ。
それも、テジャンだった時のように、しごくわけでもなく、面白半分に
腕試しのようなことをしたと耳にしておる」

チェ尚宮は、むっとしたように口端を曲げて、そう言った。

「昨日はその打ちのめした者ども皆を引き連れて、夕番の時間が終わるか
終わらぬかで城下に繰り出して、酒を振舞ったそうじゃ」

ああ、それは聞いてます、とウンスが言う。
酒を酌み交わすから、少し帰りが遅れると、テマンが知らせに来て、
そのままテマンも加わりたいとすぐにとって返したからだ。

「まあ、いいんじゃないですか? 今はあの人も新入社員…、
んー、新兵みたいなもんなんでしょ。親睦を深めるのには飲み会くらい」

チェ尚宮がぴしりと自分の膝を叩きながら、声高に返す。

「ウンスどのっ! その引き連れて行ったウダルチ十数名は、腰が立たぬほど
飲まされて、本日の朝番誰ひとりとしてまっとうに務められなかったのですぞ!」

ええ? とウンスは驚いて声が出る。
あの人は特に酒の匂いもさせずに戻りましたけど、と言うと、
チェ尚宮は、両手で顔を覆って、深いため息をついた。
まあ、そんなに気にしなくても、とウンスが言うと、

「チョナも何をお考えになってヨンをウダルチに戻されたのか、
皆目見当がつかぬ」

とチェ尚宮は肩をを落とした。
ウンスは、少し首を傾けると、手を顎に当てて少し黙る。

「わたしは、なんとなくわかるような気がします」

チェ尚宮がぱっと顔を上げる。
ウンスは、あ、でもどうかな、わたしには国務のことはわからないし、
と言いながら立ち上がって、くるりとチェ尚宮の方に身体を向ける。
わたし、ずいぶんあの人に見失わせてしまったから、と困ったように言った。
でも、いらないものを捨てた、とも言えるんですよ、と言いながら、
チェ尚宮に目を戻す。

チェ尚宮はウンスの顔を睨むように見て言った。

「天界では不要のものも、ここ高麗では失せてはならぬもの。
それは、ウンス殿もおわかりいただかぬと」

ウンスは、肩をすくめる。
それから両手を身体の前で重ねると、背筋を伸ばした。

「わたしが姿を消していたのと同じ、三月のあいだは、
おおめに見てあげてほしいの。たぶん、そんなにかからないと思うし」

お願いします、とウンスが頭を下げると、チェ尚宮は心底頭を痛めている
といった顔でウンスの頭を見下ろして、もう一度ため息をついた。



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by kkkaaat | 2014-01-15 22:39 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(42)

二次創作活動考

どうしても今日答えたいコメントがあったので、書いていたら、
あまりにも長くなってしまったので、記事にしました。
そしてアホほどに長いので、興味のない方はスルーで
お願いします。


まず、最初に。

私のようにくっそ真面目に二次創作をとらえる必要は
まったくない、と断言します。もっと気軽にで十分。
だって日々の楽しみなんですから。
ただ、私はこういう楽しみ方しかできない性分なので、
そういう私の考えとして、お読みいただければ幸いです。
どん引きしないでね…。



>通りすがりのくまさん

もしかしてくまさんは、こういうどハマり活動は初めてですか?
もし初めてならば、この楽しさがいつかは終わるかもしれない、
という予感を今から持ったのならば、さすがと言わざるをえません。
確かに書き手に回ると、なんでかわかんないんですが、
こういう不安が襲ってくる場合が多いんですよね。
読み手は去ればいいけど、書き手は取り残されるからでしょうか?
書き手には「ネタ切れ」という恐怖もあるからかしら?

私の少ない経験から申し上げますと、だいたいこういう盛り上がりには
3つの末路が待ち受けています。

一、すぐに醒めて、移る。
だいたい、三ヶ月から半年、一年くらいで、すーっと嘘のように醒め、
しかしながら、それまでの楽しさから日々に虚しさがつのり、
また次の「萌え」を探してさまよう萌えジプシーとなります。
盛り上がるための材料を常に探している状態になり、
中には無理に自分の好きっぽいものに、無理に萌えている状態になる人も。
二次創作をすること自体が好きなオタク人には、こういう人が
山のようにいます。

二、萌え尽くす。
同じ作品で、十年いや二十年以上、二次活動、ファン活動を続ける人が
います。その中には、原作や本人を愛する以上に、そこで生まれた
人間関係や自分が生み出した人物造形に愛着を感じて離れられない人も。
これはこれで、非常に楽しいのですが、中には二次創作を読むと、
まったく原型をとどめなくなっている場合も(ものすごく面白かったり
しますが、もうオリジナルでいいんじゃね? というものも)。

三、自分の中に、その作品が留まる。
私的にはこれが理想だと思うのですが、その作品が素晴らしく、
燃え盛るような時期はすぎても、一生愛が続く、そういう状態です。
私はプライベートな理由で五年ほど二次を休んでいましたが、
その前にはまった作品では、二次を約六年間書き続けました。
今でもその作品の原作本や資料本は私の本棚の一番いいところに並んでいて、
読み返したりしていますし、十年たったった今も、
その時に出した同人誌の感想をもらったりしています。

その時できた友人達とは今でも続いていて、夏前に会ったときには
「熱くはまれるものが欲しい、でもあの時みたいにはまれるものは
まだないから、じゃあ十年くらいして生活が落ち着いたら、皆でまた
ロケ地旅行に行こう。俳優にも会いにいこう」と話していたのに、
十月に会ったときには、私が韓ドラ、もう一人がシャーロッ○、
もう一人が進撃にはまっていて笑いました。

本当に少ない経験でしか語れないのですが、仲間がいるうちは、
わりと続けられます。それをオタ用語的に言うと、
「ジャンルが盛り上がっている」と言います。
二次創作やファンブログをやってる人がたくさんいて、どこかしらで
毎日更新がある。
だから私、コメント欄でたびたび二次創作しませんか? と
勧めてしまうんです(笑)

本家で動きがあるのも大事です。
再放送があって、ご新規さんが流入する。
主演俳優さんが別ドラで盛り上がってる。脇俳優さんの新しいドラマ
のニュースが入ってきた。新しくメイキングDVDが出る、そういう
動きが続いてるうちは、わりとジャンルは冷めません。
そういう意味では、ドラマ本作は終わったものの、脚本家さんが
ノベライズを出し続けている現状はありがたい状態で、
とりあえず、これが出ているうちは、熱を保ちやすい。
可能ならば、今年のうちに、地上波放送があると、どっと新規さんが
入ってきていいんですけどね。
こういう動きがあるうちは、けっこう盛り上がり続けます。

ある程度楽しみ尽くす期間を経て、この三のような形に
着地するのが、私は一番幸せなような気がしています。

では、このような状態に持っていくにはどうしたらいいのか。
まずは原作に力があることが大前提です。
シンイにそこまでの力があるか、それは私にもわかりません。

ただ、二次活動、ファン活動する側にもできることがあると思ってます。
それは原作の愛し方にあるのではないかと。

二次創作活動は、原作を「抱く」ことに似ていると私は思っています。

ただ、ひたすらに大事にして、清らかな交際キス止まり、という
お付き合いもあります。しかしその熱い肉体を知ることはできない。

その原作を辱め、主人公を蹂躙する、そういう形で愛する人もいます。
原作を喰らい尽くし、擦り切れるまでやり尽くす。それもまた、
一つの愛の形ですが、消費しつくされた作品を、振り返って心の中に
置いておこう、となるかというと、ならないかな、と。
(何を持って辱める、と言うのかは、すごく難しいのですが、
例えば、チェ・ヨンが触手の怪物に襲われて犯される、そのうえ、
ヨンの性格も大幅に改変されてて、それ高麗じゃないじゃん、
って言うか、ヨンじゃなくていいじゃん! みたいな
そういう二次創作を、これまでたくさん読んできました(笑)
ただね、そういう中にまた抜群に面白いものがあったりもします。)

原作や登場人物の肉体やその精神をできるだけ深く理解して、
探るように分け入って、愛撫し、自分も喜びを得る。
ただやりゃあいいってもんじゃありません。
マンネリにならないように、その時々でシチュエーションを変えて。
でも、そこに求めるのは「何」か、を常に念頭に置く。
肉体の深い深い深い結びつきを求めるのもよし。
その心を理解するために、踏み込むのもよし。
徹底的に笑い合うのも、喧嘩するのもよし。
痛めつけるのも、やはり一つの愛の形だったり。
何が「愛」か、というのはもうどうにも答えられない問いになって
しまうのですが。

私はそういう過程を経ることができたのなら、
例え醒めてしまったとしても、
その蜜月自体の価値はなくならない、と思う方です。

ああ、楽しかったなあ、だから今が虚しい、ではなく、
楽しさを振り返った寂しさの中で、でも出会えてよかったなあ、
と胸が熱くなる。
そういう二次活動ができるといいなあ、と思ってます。

僭越ながら、この楽しみ続ける「コツ」ですが、やはり自己分析
が大事かと。自分が何に夢中になっているのか、分析しすぎても
醒めますから、加減が必要ですけど。
私の場合は、どうやら今回は「歴史」と「脚本家」が
キーワードみたいだとわかったので、まずは資料本を探しては、
自分に燃料を与えてます。
それから今年は高麗史の研究者に会ってコンミンワオとチェ・ヨン
の話を聞いてみたい、と思ってます。世界遺産認定された北○鮮の
コンミンワオ墓陵にも行きたいんですが、さすがにこれは難しそう。
あと、いつかソン・ジナさんに会ってみたいなあ、ダメなら手紙を
書きたいなあ、という夢も抱いています。
なので、今年は韓国語もちょっと勉強してみようかと。
え、無謀?
それが意外と無謀じゃないんですよ(笑)
作品のファン活動をしていると、けっこうすごいことが起こったり
します。

そして私ですが、あまりの仕事の忙しさに、ストレス解消のため
2月に書く予定だったシンイパラレルを書き始めています(笑)
これ、たぶん50話くらいになるので(えっ?)少なくとも今年一年は
続けますよ。二次活動。
その後は、この歴ドラハマりが高じて、一本オリジナルを書こうと
思っているので、二次活と言えるのかどうか、微妙ですが。

なんだかちょうど、こういうことを考えていたので、長々と語って
しまいました。走り書いたので、雑な文ですみません。
コメント欄でお返事するには長すぎるので、記事にしてしまいました。
くまさん、すみませぬ。

それでは。



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by kkkaaat | 2014-01-12 01:57 | 雑記 | Comments(75)

【シンイ二次】蜃楼 3


「チュンソク…、災難だな…」

アン・ジェは、于達赤隊と龍虎軍、鷹揚軍での皇宮警護についての打ち合わせが
終わると、隊長のチュンソクに歩み寄った。
普段と変わりなく職務をこなしてはいるが、よく見ると目の下の隈が濃い。

「はい、まあ、はあ…」

なんと答えればいいものかと、チュンソクは言葉を濁したが、
最後のため息が何よりも雄弁だ。
いつものぴんと伸びた背筋が幾分丸くなり、肩が落ちている。

「どうだ?」

なんと聞いていいかわからずに、アン・ジェはそれだけ言った。

「ええ、まあ、つつがなく…と言っていいのかどうか…?」

何の抑揚もない声で、チュンソクはそう言って、額をこすった。
それから顔を上げて、眉間に皺を寄せて、アン・ジェの顔を見て。

「どうやら、先日ホグンがおっしゃってくれたように、
我らに対して怒っているわけではないのは、
この度のことでわかったような気がするのですが」

チュンソクは、それがまた悩みの種で、と続けた。





それが、とチュンソクは半分裏返ったような声で、アン・ジェに言った。

「何も、なさらないのです!」

はあ? とアン・ジェが、怪訝な声で問い返す。
何も、なさらないし、おっしゃらないのです、とチュンソクが沈んだ声で言う。

「ちょっと待て、おい、ウダルチテジャン、チュンソク。
俺の耳がおかしいのか。俺にはチェ・ヨンが何もしない、と聞こえたぞ」

なんでそれが、チェ・ヨンが怒っていることになるんだ、とアン・ジェは幾分憤慨した
それがですね、とチュンソクは低めた声で、アン・ジェに顔を近づけた。

「先日など、トクマンが鍛錬中にくだらない冗談を言って、
ふざけているちょうどまの悪いその時に、テホグンが通りかかられまして」

私はひどい叱責を受けるだろうと、声を待ち受けておりましたし、
トクマンなどはこっぴどく小突かれるか、尻でも蹴られるだろうと思っておりましたが、
とチュンソクは顔をこわばらせる。
そりゃあ、そうだろうな、とアン・ジェがうなずく。

「テホグンはつかつかと、トクマンの前まで速歩で歩み寄られまして、
じっとトクマンを睨みつけましたが、ふいっと顔を背けられました」

それで、とアン・ジェはうながす。

「それだけです」

はあ? とアン・ジェが怪訝な顔を作る。

「それだけなんです。テホグンは何も言わず、そのまま立ち去ってしまわれたのです」

俺の方も一蹩をくれただけで、とチュンソクは頭を抱える。
声をかけるにも値しない、とはどれほどのお怒りでしょうかっ! とチュンソクが言うと、
アン・ジェしばらく考え込んだ後、ははあ、と顔を上げた。

「何か、思い当たられますか」

チュンソクがすがるように言うと、アン・ジェは微かに笑いそうになって、
すぐに口を引き結んだ。

「チュンソク」

はいっ、とチュンソクが背筋を伸ばす。

「おまえ、あれだ。うん、チェ・ヨンは怒ってはいないぞ、これは。
はは、そうか。まあ理由(わけ)はな、あいつの体面もあるだろうしな。
うん、チュンソク、テホグンはお怒りじゃないぞ、その点は安心しろ」

そうか、はは、そうか、と言いながらアン・ジェはほのかに愉快そうに、
チュンソクを置いてその場を立ち去ってしまった。

「え?」

その場にはぽかんとしたチュンソクが、取り残されていた。





「ね、ウダルチに戻ったって、ほんとなの?」

夕餉を取りながら、急に問われて、チェ・ヨンは飲んでいた汁でむせかけた。
箸を持った方の手で胸を軽く叩きながら顔をあげると、
ウンスがチェ・ヨンの顔を覗きこんでいる。

「テマンが言いましたか」

そう言うと、ウンスはこくこくと何度かうなずいて、またチェ・ヨンを
じっと見る。その目に浮かんでいるのがどうやら好奇心らしいと気づいて、
チェ・ヨンはふうと息を吐いて、答えた。

「はい、ウダルチの隊員となりました」

テマンはどこまで話したのだろう、とウンスの顔を見るが、読み取れない。
怒るでも、悲しむでもなく、ただ興味深々といった様子で目を輝かせている。

「じゃあ、またテジャンになるの?」

いえ、と口走って、チェ・ヨンはどう話せばよいのか、少し口ごもった。
箸と椀を置いて、握った拳を口に当てる。
一隊員として戻った、というのもやはりあまり格好のいいものではなく。
はて、と動きが止まったところで、ウンスがもどかしげに口を開いた。

「ねえねえ、大護軍の職を退く、ってこのあいだ、話したよね?」

はい、とチェ・ヨンが短く答える。

「なぜかっていうのは話を聞いたから、わかってるから、もういいの。
その後どうするか、はこれから考える、って言ってたけど、
わたしはテホグンを辞めるっていうのは、軍職から退くっていう意味だと
思ってたんだけど、違う?」

違いません、そのつもりでした、とチェ・ヨンがいらう。

「テマンはチョナに拝謁したあと、そうなったって言ってたけど、
そこで何かあったの? チョナに脅されたとか?」

とんでもない不敬を、まるで面白いことのように尋ねてくるウンスに
チェ・ヨンは思わず顔を上げて顔をしかめたが、思い返してみると、
あながち外れてもいない、と言葉を失って、口を開けたまましばらく
動きが止まってしまった。
それでも、気を取り直して、なんとか言葉を続ける。

「チョナは…脅すなどいたしません。ただ、この乱の折、人手不足で」

そう答えると、ウンスは微かに眉間に皺を寄せた。

「ね、ちょっと、真面目な話なんだけど」

急にウンスが居住まいを正して、膳に箸を置いた。
チェ・ヨンはなにごとか、とひたとウンスの顔を見つめる。

「わたし、働きに出ようか?」

は、とあまりの意外な言葉に、小さな声がチェ・ヨンの口から出た。
それから急いで、なぜですか、と尋ねる。

「だってテホグンってすごくいいお給料…禄をもらえてたんでしょう?
一年に銀六斤、あと軍田の収穫も割り当てがあるって聞いたわ。
それがなくなっちゃうと、生活苦しいのかなって。
わたし、そこらへん、よくわからないじゃない? 
高麗の経済ってまだいまいち理解できなくって」

あ、でもだんだんわかってくると思うのよ、ここの診療所じゃ
あまり稼ぎにならないから、明日チョナとお会いする用事があるの、
ついでに典医寺での働き口がないか、相談してみようかな。
べらべらとしゃべり続ける内容に、あっけにとられていたチェ・ヨンは
手の平をウンスに向けて、なんとかそれを遮った。

「それではあなたは、俺が日銭を稼ぐためにウダルチに入ったと、
そう思っておられるのですか」

大護軍ではいられないけど、でもお金はいるでしょ、
今までの職歴を活かして、舞い戻ったのかなあ、ってそう思ったんだけど、
ずばり、当たってるでしょ? とウンスは少し得意げに言った。

「あなたは何か、思い違いをしておられる」

チェ・ヨンは苦笑いを浮かべて、ウンスに言った。

「俺とあなたが一生食うていくくらいの蓄えは、チェ家の蔵に十分あります」

そうチェ・ヨンが静かに言うと、ウンスは一瞬黙って、それから
ええっ、と大声を出した。
その驚きぶりが大仰で、チェ・ヨンは思わず笑ってしまった。

「そうなの?」

そうです、とチェ・ヨンは深々とうなずいた。

「そうなんだ…?」

ウンスは質実な屋敷の部屋を見回して、信じられないようにそう言った。

「じゃあ、なんで…あ、そっか、人手が足りないのか…」

ウンスは、先ほどチェ・ヨンが言ったことを繰り返して、でも、
あまり納得のいく答えではなかったようで、考え込んでいる。

「ゆえに、あなたは心配しなくてよいのです」

チェ・ヨンは穏やかにそう言うと、さ、冷めてしまう、と箸を取った。
ウンスはわかったわ、とうなずいて、また箸を取って食べはじめたが、
その目はまた自分も椀を持ち上げたチェ・ヨンの様子を、
うかがっていた。



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by kkkaaat | 2014-01-08 19:47 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(52)

二次小説。いまのところシンイとか。
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