筆記



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ファン活中に体験した素晴らしいこと

今日は、私がシンイと同じくらい大好きな「指輪物語」の前段の話にあたる
「ホビットの冒険」の2作目の映画公開日です。
それにあたり、ちょっとに書いていた文を記事でアップしようと思います。
シンイのお話じゃなくて、すみません!

が、どうか私の自己満足自慢話にお付き合いくださいませ。

私は10年前くらいからいわゆる二次・ファン活をしていまして、
その中で素晴らしい体験をいっぱいしました。
これからの人生にあんまりいいことがなくても、あの時や今、
楽しかったからもういいや、そう思う時があります(笑)
その中から一つ。


忘れられない出来事があります。

深夜に仕事をしていて、携帯がなりました。
私は深夜に携帯には通常出ません、っていうか出たことがありませんでした。

知らない番号です。

なおさら出るわけがありません。
なのにその時は、何がどうしてか、電話に出たんです。
今でも、あの時なぜ電話に出たのかわかりません。
虫が知らせたのか。

深夜ですからこちらも警戒して「はい」としか言わなかったのですが、
相手は一緒に二次活動をしていた友人でした。
その時彼女はアメリカにいるはずでした。映画のファンイベントに参加するために。

彼女は言いました。

「今、ジョン・ノーブル(俳優)が横にいるの。
日本のあなたのファンに電話で話してあげて、
って言ったらいいよって言ってくれたから、電話したの」

そして、私の大好きなデネソール役(まあまあ重要な役ですよ!)を演じた俳優が、
電話で話しかけてきました。
(今CSとかで放映中の「フリンジ」というドラマに出てらっしゃいます)

私は英語が喋れないので、言えたのは「hello.I'm your huge fan...」
くらいで、あとは相手が、デネソールが好きなの?とか、僕の演技よかった?
とかできるだけ簡単な言葉(友人は、私が英語がしゃべれないというのも
相手に説明してくれていました)でとても優しく話してくれました。

私はyesとか短い返事を繰り返すか、メタメタで意味が通じてるのかも
わからない英語で必死に話すだけでしたが、この方がファンという大きなくくりでなく、
私という一人のファンとコミュニケートしようとしてくれているのはすごく感じました。
一言二言、ではなく、ほとんど言葉の通じない私と5分ほども話してくれてました。

深夜の自分の机の前で、1対1で大好きな俳優と電話で話している。
夢を見ているような気持ちでした。

海外のSFコンペティションなどのファンイベントは、俳優さんを呼んでのトークイベントが
必ずあるのですが、その俳優さん達、日本なんかと違ってSPなしで、
会場内をうろうろしてて、ファンが呼び止めると、気さくに話をしてくれたりします。
友人はそれを呼び止めて、頼んでくれたのでした。

もちろん、彼女は電話を持っていませんでしたから、周囲の人に頼んで、
国際電話をかけられる携帯を借りて、かけてくれたのです。

もう十年くらい前の話ですが、今でも思い出すと、心が熱くなるような体験でした。

地道に二次活・ファン活をしていると、
こういう夢のような出来事が降ってくることがあるんですよね。
映画公開記念に、思い出話し、したくなっちゃって。

お付き合いくださり、読んでくださった方、ありがとうございました!



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by kkkaaat | 2014-02-28 16:59 | 雑記 | Comments(13)

【シンイ二次】火、狩人7


車の中は、重苦しい沈黙に満たされていた。

「ねえ、別に話とか、してもいいの…よ?」

後部座席のウンスが恐る恐る口を開いたが、
誰ひとりとして口を開くものはいなかった。

「っていうか、あのね、結局あなたたち、あそこで何をしていて、
こんなことになったのかしら」

横のチェ・ヨンに顔を向けて、ウンスが話しかけるが、
隊長(テジャン)と皆に呼ばれるその男は、じっと前方を見ていて、
微動だにせず、ウンスの言葉を無視している。
ウンスは少々むっとして、声のボリュームを上げた。

「ねえ、警察に突き出そうってんじゃないのよ。
その、わたしの手術の件もあるから、おおごとにするつもりはないの。
わかるでしょ? でもね、ここまで協力させておいて、だんまりは
ないと思わない? でしょ? 事情くらい話してもいいでしょう」

そこまで一気にまくし立てるウンスに、チャン・ビンが穏やかに
呼びかける。

「…ウンス」

バックミラー越しに目が合うと、チャン・ビンは短く言った。

「よく見ろ、ウンス。皆さん」

怯えているんだ。
チャン・ビンが静かにそう言うと、チョナの左側にじっと座っている
トクマンと呼ばれている男が、何をと気色ばんで、
運転席と助手席の間からチャン・ビンに向かって身を乗り出した。

「怯えてなどおらぬ」

そう言うと、助手席のテマンの肩をつかんで、なあ、
と同意を求める。テマンはドアの窓に子どものように顔を貼り付けて、
外の景色をむさぼるように見つめている。
トクマンの言うこともろくに耳に入らぬようで、生返事をする。
助勢がえられぬので、トクマンは一人でチャン・ビンに向かって、

「ウダルチのテジャン、プジャンに向かって無礼を働くと許さ」

と抗議の声をあげかけたところで、チャン・ビンがため息をついて、
強くアクセルを踏んで、エンジンをふかしてハンドルを揺らす。
エンジンに伝わる振動とエンジン音が、急に大きくなって、
ウオンウオン、と唸るような音が二度あがる。

「うおっ!」

威勢良く前に出していた身体を、反射で座席まで引いて、
トクマンはアームレフトに両手でしがみついた。
チャン・ビンはそれをちらりと振り返って、満足そうに微かに笑った。

よく見ると、チョナの右側に座っているヒゲ男は平静を装っているが、
すでに片手をアームレストにかけていて、指に力が入って赤くなっている。
落ち着いて見える、真ん中のチョナも、よく見ると膝の上で両手の
こぶしをぎゅっと握って耐えている。
ウンスが後ろから覗きこむと、目をつむって、
何やら経のようなものを小声でぶつぶつと一心に唱え続けている。

「あら」

あらららら、とウンスはようやく気がついて、
横のチェ・ヨンにも目を向けた。彼だけは平然とした顔を保っている。

とその時、こめかみを一筋汗が流れ落ちていくのに、ウンスは気づいた。
よく見れば、横顔の口元も妙にこわばっていて、ごくたまに、
ぴくり、ぴくりと痙攣のように震えている。

「なんで? え、なんで?」

そうつぶやきながら、もう一度、ルームミラー越しにチャン・ビンを見ると、
だろ? というように目が動いたので、ウンスはわかりました、
とうなずいた。

大の男たちがそろいもそろって密かに怯えているのがおかしくて、
ウンスは思わず笑いをかみ殺した。
なぜ車なんかがそんなに怖いのかわからないが、
ウンスは気の毒にさえなってきて、ごそごそとポケットを探った。

ウンスがこめかみに手を伸ばすと、チェ・ヨンはびくりと肩を引いた。
それから照れ隠しなのか、ウンスを軽く睨む。

「ただのハンカチよ。汗をかいているから」 

ウンスがなだめるように言うと、チェ・ヨンは、はっと気づいて、
気まずそうに、手の甲で汗をぬぐった。
汗をぬぐったあとの肌が白く筋になって、浅黒いと思った肌は、
泥だか埃だかで汚れているのだとウンスはその時に気づいた。
そう気づいてから一同を見回すと、皆が身にまとっている衣装は
それは見事なもので、観光地などで着ることのできるそれらしい
ものとは少々出来が違う。
なのに、そこらを転げ回ったように薄ぼんやりと汚れ湿っている。

ウンスはチェ・ヨンの汚れをハンカチで拭ってやろうと、
もう一度手を伸ばしたが、チェ・ヨンはゆっくりとその手をつかむと、
無言で押し戻した。
ウンスは、そのかたくなさに肩をすくめる。

ハンカチをポケットに戻すと、横たわっている女性の脈をとった。
そらされていたチェ・ヨンの視線が、ウンスなのか女性なのか、
そちらの方向にようやく戻される。

「ねえ」

ウンスは下を向いたまま、チェ・ヨンに話しかけた。
チェ・ヨンは今度は顔をそらさずに、そのまま顔を向けて、
女性を診察するウンスの様子を見張っている。

「いい加減、なんの撮影だったか教えてよ。そんなに汚れて。
一日中だったの? KBS? それともSBSのドラマ?」

こちらを見ている気配はあるのに、答えはない。
ウンスはそのまま、質問をつづける。

「とにかく、この人の怪我が何で切られたかだけは教えてよ。
今後の治療に関係することなんだから」

ウンスがそう言うと、テジャン医仙殿に答えよ、と前の席の
中央から細い声がした。
チョナと呼ばれる青年が、経を唱えるのと一時やめて、
チェ・ヨンに命じてくれたのだ。ありがと、とささやくと、
チョナは青ざめた顔で小さくうなずいた。
ウンスがチェ・ヨンを見上げると、小さなため息の後に、
ようやく説明がはじまった。

「刀で斬りつけられた傷です。剣の刃で引き切られたのではなく、
剣先でえぐるような形で斬られました」

だから傷口が深いのね、とウンスがひとりごちる。
撮影用の模造刀なのかしら、それにしては傷口がきれいだけど、
と尋ねられて、チェ・ヨンは言葉に詰まる。

「おっしゃっていることの意味がよくわからないが」

だから、何で切ったのか正確に知りたいのよ、とウンスが
苛立ちを抑えて言うと、チェ・ヨンはますますわからない、
というように眉をしかめる。

「ですから、敵方の剣です」

ウンスの眉間に、この微妙な噛み合わなさに不穏なものを感じるように、
徐々に皺が寄っていく。

「あのね、剣がドラマ上の味方ものものだろうが、敵のものだろうが、
どうでもいいの。わたしが知りたいのは、純粋に医療的な目的なの。
おわかり? どういった形状の刃で斬られたかによって、経過が
変わってくるの。だから知りたいの。ドューユーアンダスタン?」

そう言ってウンスは、こんこんと眠る女性を見る。
チェ・ヨンは、首を振って、はあ、とため息をつくと、

「あなたの言うことはわけがわからない。
敵の剣など、手元にないのですから、見せようがありませぬ。
強いて言うなら、この者の持つ剣と似たものです」

おい、チュンソク剣を出せ、とチェ・ヨンが言うと、
前の座席のチュンソクと呼ばれたヒゲ男は、
アームレストを握り締めていた指を、
それでも素早く外して、自分の剣を鞘ごと差し出した。

「ほら、これです」

ぐい、と前に横一文字に差し出された剣を、ウンスは口を尖らせながら
最初からこうすればよかったのよ、と言いながら受け取った。
鞘から抜こうとして、扱いかねて、手を天井にぶつける。

「あいてててて」

手を振りながら顔をしかめるウンスを見て、チェ・ヨンは呆れたように
ため息をついた。

「お貸しください」

そういうとウンスの手から剣を取ると、狭い車内であるのに、
すらりと剣を抜いた。

「おおっ、うまいわね」

大げさに手を叩かれて、チェ・ヨンはなんなんだ、というように、
眉をしかめて顔をそむける。それからウンスの目の前に剣をかかげる。
ウンスは剣を受け取ると、うつむいて刃のあたりを慎重に指でさわってから、
険しい顔になって、顔を上げて、ねえちょっと、と斜め前に座った
チュンソクと呼ばれたヒゲの男の肩を叩く。
チュンソクは、え? と戸惑った顔で、振り返った。

「これ、本物の剣じゃないの。さっき、この人も」

ウンスが、この人と言ってチェ・ヨンを指さすと、チュンソクはぎょっとしたように、
目を開いてチェ・ヨンではなく、ウンスの顔を見た。

「この人の剣も、本物だったわ。ねえねえねえ、危ないじゃないの!
なんなのよもう、撮影では本物を使うの? だからこんな大怪我するんだわ。
絶対だめよ、そんなの! 危険だわ。ねえ、組合ある? 訴えるべきよ!」

まくし立てられて、チュンソクはその勢いに動きを止めて固まっていたが、
ウンスが、ねえ、聞いてるの! と詰め寄ると、はい、聞いております、
となんとか答える。

「に、偽物の剣では、チョナをお守りすることが、か、かないませんので」

チュンソクがそう答えると、ウンスは、ああもう、と苛立ちをあらわにして、
ドン、と車の内壁を拳で叩いて、また、いてててて、と手をぶらぶらとさせる。
言葉数も、見せる表情もあまりにも目まぐるしく、チェ・ヨンはウンスのことを
思わずに凝視している。
気づくと、チョナとトクマンも、振り返って恐れるようにウンスを見ている。

「ちょっとあなたたち、その役者根性は認めるけど、ものごとには
げ・ん・ど、というものがあるの! 何? そんなに素晴らしい監督?
有名な人? わたしに言わせたら俳優をこんな目に合わせて―」

ウンス、と低く呼ばれて、ウンスは言葉を詰まらせて、
何ですか! と少し怒ったように、返答する。
チャン・ビンは何も言わずに、目で外を示した。
何ですかもう! そう言いながらウンスが窓の外を見ると、

「あ」

ついたぞ、と車内の皆を見回しながら、チャン・ビンはそう告げた。




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by kkkaaat | 2014-02-19 22:46 | 火、狩人【シンイ二次】 | Comments(17)

【シンイ二次】白花 4

皆様、こんばんは。
まだバレンタインデーですよね?
ちょっと白花その後で、のその後です。

そんなに生々しくないと思うのですが、ちょっとこちらに乗せてるのより直接的
なので、パスブログの方にアップさせていただきました。
結局続いちゃってるので、白花でタイトル統一します。
久しぶりのヨンとウンスの甘い夜を楽しんでいただければこれ幸い。

白花 4


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by kkkaaat | 2014-02-14 23:33 | 短編【シンイ二次】 | Comments(24)

【シンイ二次】白花 3

白花のおまけです。なんということはない、二人の宿屋の情景。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「そこに」

チェ・ヨンはウンスの口のあたりを手で示す。
ウンスが匙を握ったまま、頭を横に傾けると、チェ・ヨンは自分の口の端に
触れて、ここについております、と小声で言った。
うなずいて、ウンスが反対側の口の横を袖でぐいと拭うのを見て、
チェ・ヨンが違います、反対です、ともう一度自分の反対側の口の端に触れながら
顔をしかめて懐から布を取り出してウンスに渡す。
ウンスはそれを受け取って、ようやく飯の粒がついた口の端と頬を
きちんと拭うことができた。

にっこりと笑って、これでいいかしら、と言うウンスにチェ・ヨンは
顔を横に向けながら思わず笑う。
それからおかわりをすすめる。

「いくらわたしでも、そんなには食べられないわ」

顔の前で手を振って、それと同時に首もぶんぶんと振って、
ウンスが断ると、チェ・ヨンはそれでは、と残りの飯を全部自分の椀に
よそって、珍しくがつがつとかきこむように食べる。

「あ、行儀が悪い」

ウンスがからかうように言うと、参月分ですから、とチェ・ヨンは
ごくりと喉を動かしながら言って、それから、

「それに、あなたほどではない」

と付け加えた。
ウンスは足を投げ出して、腹をさすっているところで、
足を子どものように投げ出している。

「あなたが腹をさすっているのを見るのは…久しぶりだ」

そう言われて、ウンスは少し申し訳なさそうな、苦笑いを浮かべて、
もう一度遠慮がちに腹を撫でた。
チェ・ヨンは綺麗に飯粒をさらうと、汁を飲みほし、皿に一つ二つ残った
肴を箸でつまむと、それもきれいにたいらげた。

「それで」

ことり、とチェ・ヨンが箸を置いた。
ゆっくりと、膳を自分の脇に寄せて、身体の前に空きを作ると、
あぐらの膝に手を置く。
深く息を吸う。
それから、黙ったまま組んだ脚と脚の間に、頭を深く下げた。

「この度は命をお救いいただいたこと、かたじけなく御礼申し上げる」

ウンスはチェ・ヨンのあらたまった態度にひどく慌てた。
だらりと伸ばしていた足を身体の下に折りこんで、
姿勢を正しながら、え、え? と声を出す。
それから身体の前で激しく手を振って、チェ・ヨンの肩を押して
姿勢を戻させようとするが、その身体は痩せたとはいえ固く、
ぴくりとも動かなかった。

「ね、ちょっと。そんな。やだ、水くさいじゃない。ねえ」

ちょっとテマンが何を話したか知らないけどやめてよ、ね、
夫婦なんだから、助けあい、助けあい!
とウンスがぐいぐいと両肩を押し戻そうとしていると、
チェ・ヨンは急に身体を起こして、ウンスの左右の手首を、
それぞれ自分の手でつかんで止めた。
それからその手を、静かに自分の前に下ろす。
ウンスは自然と、チェ・ヨンと額を付き合わせるような格好になった。

「夫婦とて、命を救われれば、礼を言う。当たり前のことです」

チェ・ヨンはそう言って、静かにもう一度頭を下げた。
ウンスははにかんだように笑いながら、チェ・ヨンのつむじを見て、
それから、こくりとうなずき返したが、赤くなった頬で、
そんなあらたまって言われると照れるわ、とつぶやいた。

チェ・ヨン少し顔を上げて、黙ってしばらく考えこんでから、口を開いた。

「あなたはあいかわらず…俺のことばかりだ。自分のことは、二の次で」

眼の奥まで突き通るようなチェ・ヨンの強いまなざしが、
ウンスの目の底を見つめる。

「俺が心配しても、気にもとめぬ」

そう言いながら、苦しげに目が細くなった。
急に口が抑えられぬようにひしゃげて、それを隠すように
ウンスに近づいてかぶさるように重なった。
何度か吸い付いて、一瞬途切れた瞬間に、震えるような息が
チェ・ヨンの口からもれる。
それから、チェ・ヨンの顔がうつむいて、ウンスからゆっくりと
離れようとした。

それを追いかけてウンスの顔が前に倒れ、チェ・ヨンの額に
ウンスの額が押し付けられる。
近すぎて目は見えないが、チェ・ヨンからはウンスの口元が
優しく微笑むのだけが見えた。

「ちゃんと、気にしてるわ」

すごーく気にしてる、本当よ、心配させてごめんね、
とウンスが握られたままの手首をひねって、指先だけで、
チェ・ヨンの手首を撫でた。

「それでも無理をするから、たちが悪い」

チェ・ヨンが小さなため息と同時にそう言うと、
私のお守りは大変よって言ったじゃない、
とウンスが口を尖らせるのが見えた。

あなたのようなお人は、小さくして懐にでも入れておければ
少しは安堵できるでしょうに、とつぶやいて、チェ・ヨンは目を閉じて、
擦るように額を押し当て、鼻ずらをウンスにすりよせる。

「うん?」

ウンスがチェ・ヨンのしぐさに、なあにと尋ねるように、小さく声を出す。
目をつぶったままのチェ・ヨンの唇がウンスの頬をかすめる。
手首をつかんでいた手が緩んで、外れた手がそのまま、ウンスの頬を
包みこんだ。
うつむいていたはずの顔がすくい上げるように、ウンスの唇をとらえる。
頬に当たった指先が燃えるように熱い。

「やっかいだ」

チェ・ヨンがかすれた声でつぶやく。
頬に当てられた手が小さなウンスの顔をやすやすと自分の思う方へと傾けて
唇が深く重なる角度にする。
残りの手がウンスの手首からするりと逃げ出すと、そのまま腰へと
巻きついて、チェ・ヨンのもとへ強く引き寄せる。

「まったく、やっかいです」

持て余しちまう、とチェ・ヨンは胸の息を一気に吐き出しながら、そう言った。
わたしのこと? とウンスが尋ねると、いや、と答えながら首を振る。
いや、そうではなくて、とだけ言って、チェ・ヨンはそれ以上
説明をしようとはしなかった。

ただウンスを急に抱き上げると、床に運び、

「腹が満ちたら、今度は女です」

チェ・ヨンは悪びた言葉とは裏腹に、ひどく真剣な口調でそう言って、
ウンスを横たえたのだった。





ここで終わったら、ひ、ひんしゅく…?
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by kkkaaat | 2014-02-13 20:00 | 短編【シンイ二次】 | Comments(48)

【シンイ二次】火、狩人6


「ま、ま、任せてください、もし、こ、こいつが
少しでもおかしなことをしたら、俺がくく首をかっきってやります」

助手席の上にしゃがんで、運転席のチャン・ビンに向かって短刀を
かまえているのは、テマンと呼ばれてどこからともなく現れた
革鎧の青年である。
かちゃりとシートベルトをしめたチャン・ビンは、ハンドルに両手をかけて、
横でナイフを自分に向けている青年を見て、深いため息をついた。

「いや、テマン。無礼なまねはよすのだ」

大きめのシルバーのワンボックスカーの二列目の座席の中央に、
ヒゲ男と背の高い男に挟まれて、頭一つ分へこんで座っている、
小柄な男が静かな声で止める。
その小柄な男が彼らの中でもっとも地位が高いのは、
他の者たちが彼を守るように動いている様子から推測できた。

このような怪しげ輿(こし)だか、馬車だか見当もつかぬ代物に、
乗るわけにはいかぬ、と言い張る周囲の言い分を振り切って、
このものたちの世話になるよりほかに方法はなかろう、
と皆に告げたのは、この小柄な男だった。
悲痛な面持ちでスライドドアから中に足を踏み入れようとするのを、
チェ・ヨンはすばやく腕で止めると、俺が先に、と短く告げて、
明らかに強ばった形相でステップに足をかける。

「お待ちを!」
「俺が先に!」

ヒゲ男とテマンが同時に声を上げる。
いや、俺がまず危険がないのを確認する、としごく静かな声で、
チェ・ヨンが言っうのを、まるで死地に赴くのを見送るかのように、
二人が固唾を飲んで見つめている。
ウンスは呆れて腰に手を当てて、早くしてよ、演技はもういいから!
と声をかけて、三人にぎろりと睨まれた。
これじゃあこの女性が消耗してしまうわ! とウンスがぶち切れて、
ヒステリックに騒ぎ始めた頃にようやく、チェ・ヨンから皆に
車に乗ってよいという許しが出た、その時だった。

「トクマン! こちらへ来い。場所を変える」

そこでチェ・ヨンがまた別の名前を呼んだので、
ウンスとチャン・ビンはぎょっと目をむく。
すると、公園のシンボルである石像のあたりから、
もう一人今度は背の高い青年が現れる。

「ねえちょっとこれで最後でしょうね、これ以上は無理、定員オーバー!
第一、撮影が終わったんならもう帰ったっていいんだから!」

とウンスが念を押すと、チェ・ヨンは
これで最後だ、と辺りを油断なく見回しながら答えた。

それからも、ハンドルのある席は、運転をするものが
乗るのだと説明して先頭に居座ろうとするテマンをどかしたり、
誰がどこに座るか等々、揉めに揉めたが、それも、
この小柄な男が自分の位置を決めると、その周囲を守るように
他の者が着席して、なんとかドアをしめることができたのは
つい先ほどのことだった。

「ここ天界では我らはよそもの。こちらにおられる女人は
天の医術で我が妻を助けてくださった恩人であるぞ。
この男も先ほどから、この女人…」

ウンスはその言葉を聞きながら、フラットにした三列目の端に
膝をついて、うん、うん、そう恩人よ、わかってるじゃない、
と力強く同意のうなずきを続けている。
真ん中には、先ほど手術が終わってこんこんと眠っている女人の
姿があった。彼女を挟んでウンスとは反対側にチェ・ヨンがやはり
天井に頭をつっかえさせながらわざとらしくうなずくウンスを
むっとした顔で眺めている。

そこまで言葉をつむいで、小柄な男は言葉をと切らせた。

「女人、ではなかったな、ユ・ウンス殿と名乗られておったか。
いやそのような呼び方では足りぬ、…医仙殿とお呼びしよう」

小柄な男が肩ごしにそう言うと、ウンスは、わたしのこと? 
と自分の鼻を指差して、それから、えっ医仙? 大げさじゃない?
と思わず照れた声を出した。

「そこの男も医仙殿を助け、天の医術の手業(てわざ)を
持っているよう見受けた。あたら粗末に扱うでない」

そう言われると、助手席のテマンと小柄な男の両側の男は、

「はい、チョナ!」

と声をそろえて、いっせいに頭を下げる。

「ねえわかった? このチョナくんの言ってること聞こえた?」

とウンスが女性を挟んだ向かいのチェ・ヨンに言う。
“チョナ(殿下)”とはたぶん役名なのだろうが、
とにかくこのチョナの言うことであれば、
皆が指示に従うということだけはウンスにもわかってきた。


「チョナ…くん? だと…?」

チェ・ヨンはウンスに目をすえる。口からもれた言葉に、
微かに呆然とした響きがある。
チョナって王様だっけ、それとも皇太子、まあどっちでもいいけど、
とウンスは肩をすくめている。

「ウンス、動かすぞ」

チャン・ビンがそう言ったので、ウンスに何かを言おうとした
チェ・ヨンの言葉は打ち切られる。
ウンスは横たえられた女性が動かないように手を添えた。

「ほら、チェ・ヨン、チェ・ヨンさんって呼べばいいのかしら。
しっかり支えててよね。身体が横転したら傷口が開いちゃうから」

ウンスが、つっかかるようにそう言うと、チェ・ヨンは
ちらりとウンスを睨むように見たが、黙ったまま、ウンスと
同じように手を添えた。

そしてチャン・ビンがキーを回し、唸るようなエンジン音が響いた瞬間。

「何をする!」

テマンの短刀が、目にも止まらぬ速さでチャン・ビンの喉もとに
突きつけられた。

「チョナをお守りしろ!」

チェ・ヨンの鋭い声に、チョナと呼ばれている男の両脇の二人は、
この狭い車内で脇の剣を抜いたが、どこに剣を向けていいのかわからず、
車内中のあちらこちらに夢中で目を向けている。
チェ・ヨンは用心深くゆっくりと剣を抜き、フラットシートや天井に、
恐る恐る手を触れて、その振動を感じてびくりと手を引っこめた。

「ちょ、ちょっとお、あ、危ない、あぶなっ!」

ウンスが前の席のトクマンと呼ばれた男の剣先がふらふらと動くのから
身体をそらす。
さすがのチャン・ビンも、喉の柔らかい皮膚にくいこむ金属の感触に
目を見開いて、息を呑んだ。
なんとかキーを指先だけで回して、エンジンを切ったが、
音がやんでも、テマンの手はチャン・ビンの前から動こうとしない。

「皆のもの、剣をおさめよ、落ち着くのだ」

二人の護衛の背中でぎゅうぎゅうと押されて小さくなった男が、
押しつぶされたような声でなんとかそれだけ言った。
しかしテマンは手を引こうとはしない。

「お、恐れながらチョナ! こ、こいつが、て、手を捻ったら、
この馬車が急にま、ま、魔物のような唸りを、上げ出しました!」

テマンが、チャン・ビンを睨みつけたまま、そう言い返す。
チョナと呼ばれる男がもう一度口を開きかけたとき、チャン・ビンが
ゆっくりと顔をテマンに向ける。

「いいか、きみ、よく話を聞いてほしい。
この馬車は、私の、まじないで動いている」

チャン・ビンは噛んで含めるような言い方で、話し出す。
テマンは油断のない目つきでチャン・ビンに目をすえている。
ウンスはまじないと聞いて驚いて、ぽかんと口を開けた。

「この車…馬車を動かせるのは私だけだ。
まじないを知っているのは私だけだから。
きみが私になにかすればこの馬車は操れなくなって、
暴れて止められなくなる」

ゆっくりと低い声で話すチャン・ビンの言葉を聞いて、
“チョナ”の両脇の二人は、頭越しに目を合わせて、
やはりとうなずきあう。

「危険な目にあうのは、きみたちだ。
その“チョナ”を守りたいのならなおさら、運転中…まじないをしている
私に手を触れてはならない。私の言っていることがわかるか」

テマンの顔から攻撃的な表情がみるみるうちに失せ、
チェ・ヨンの方を何度もうかがうように見る。
チェ・ヨンが自分の剣を鞘におさめながらうなずくと、
テマンは渋々短刀をチャン・ビンに向けるのはやめたが、
それでもしっかりとそれを手に握っている。
“チョナ”を守る二人も、チェ・ヨンが目を合わせて無言でうなずくと、
剣をしまう。

「ま、まじないって…」

何もそこまでなりきらなくても、とウンスはつぶやくと、ははっ、
と笑いともため息ともつかぬ息を吐いた。
とにかく、邪魔だけはしないでくれ、本当に危ないから、
とチャン・ビンは念を押すと、いいか、唸り声を上げるが害はない、
と後ろを振り向いて、他の者たちにも向かって言う。

「飼いならされた、いい魔物だ。心配はない」

大真面目な顔でチャン・ビンがそう言うと、他の者たちはごくりと
喉を鳴らして、こくり、とうなずく。
ウンスはその様子に、思わず吹き出しそうになったが、
笑うな、と目顔で言うチャン・ビンの視線にあって、
何とか笑いを飲みこんだ。

「それじゃあ、出発するぞ」

チャン・ビンはようやく、車のキーを回すことができた。



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by kkkaaat | 2014-02-11 22:09 | 火、狩人【シンイ二次】 | Comments(32)

【シンイ二次】白花 2

「はな…み」

ウンスは、きょとんとした顔でそう口にして、
それから思わず周囲に視線を巡らせる。
まだどの蕾も固い季節で、紅梅でさえもきつく閉じている。
場所によっては名残の雪が、吹き寄せられてまだ凍っているのだ。

「えーと、何かのなぞなぞとか?」

ウンスがそう、自分の顎に人差し指を当て首を傾げると、
チェ・ヨンは思わずに口をほころばせて、首を振る。
来ていただければわかります、それだけ言うと、小さな上り下りのある
ぬかるみを、器用に手綱を操りながら抜けていく。
気をつけて、と頭を大きな手で押さえられて下げると、
チェ・ヨンは潅木の枝を腕で持ち上げて、
二人にかからないようにしならせる。

「もうすぐ?」

馬上でかがみながらウンスが言うと、チェ・ヨンは困ったように考え込んだ。
疲れましたか、と尋ねられて、ウンスは全然疲れてないけど、
あとどのくらいかなあと思って、と答える。

「日が暮れるころには着きます」

チェ・ヨンの言葉に思わず顔を振り返らせる。
暗くなってから? と言うと、そうです、とチェ・ヨンは言う。
わけがわからない。

「ねえ、ちょっと聞くけど」

ウンスは泥で蹄が滑るのを踏ん張るために揺れる馬の背で、
チェ・ヨンが落ちぬよう腰に回してくれた腕に
ぎゅっと手でつかまりながらしゃべり続ける。

「花見っていうのは、高麗では何か別の意味があるってことは
ないわよね? 花を、見る。あ、花っていうのはね―」

チェ・ヨンはウンスの腹に当たっている手のひらを、ぽんぽん、
と二度動かして、大丈夫です、あなたが思っている花見です、
と微笑みながら言った。

ところどころに溶け残った砂埃で黒ずんだ雪だまりが点在する
広い草地を抜けると、まだ葉をつけぬ墨絵のような木立が続く。
木立の入口ではまだ微かに残っていた空の黄赤が、
紫色に変わり色を失った頃に、唐突に黒々とした水の広がりが
目の前に現れた。

「着きました」

チェ・ヨンは律儀にそう告げて、馬から降りる。
手を貸してもらって馬の背から滑り降りる間にも、
ウンスの顔は湖上の方を向いたままだった。
地面に脚がつくとそのままチェ・ヨンの手を離れて、
水の際まで十数歩を引き寄せられるように進む。
馬は軽くなった身体を喜ぶようにいななくと、
そのまま湖岸の草を食みはじめる。

「よかった、凍っておらぬ」

チェ・ヨンは、安堵したように誰に聞かせるでもなくそうつぶやく。
湖面が凍っていないか、わずかにだが心配していたのだ。
だから、ウンスにもあまり詳しい話をしなかった。
ウンスの背中を追って、その後ろに立つ。

ウンスは肩ごしに、チェ・ヨンを振り返る。
その目のきらめきと開いた口元を見ただけで、ウンスの歓びが
伝わってきて、チェ・ヨンは深い満足を覚えた。

湖岸から離れて湖の中央に見える六本の木に、
けぶるように白い花がびっしりと咲いている。
日が暮れて、墨を流したような湖面からそのまま生えているように
見える六本の木は、柳だろうか、花の重みで枝先がたわんで、
水面の近くまで垂れ下がっている。

寒さで腕を擦りながらも、言葉を失って眺め続けるウンスを、
チェ・ヨンは黙って後ろから腕の中に入れて、
風よけとなった。

「あれは、何の花なの」

あたりからまったく陽の光がなくなると、
静まり返った湖面の濃藍と花の白の美しさは妖しいほどで、
ウンスは声がそれを壊してしまうのを恐れるように
小声でチェ・ヨンに尋ねた。

「見ていてください」

チェ・ヨンはウンスから離れると、地面をきょろきょろと見回しながら
歩き、足元の石を拾い上げる。
それから水際に近づくと、大きく振りかぶってそれを、
水面に鋭く投げた。
石は水を切って、二、三度跳ねたが、白花の木に届く前に水に沈んだ。

小さく舌打ちをして、チェ・ヨンはまた石を拾うと、
もう一度力いっぱいに投げる。
その滑らかな平べったい石は、八度ほど水の上を跳んで、
水上の木の幹に斧を入れたような乾いた音を響かせた。

その途端に。
ざっという羽音とともに、白い花がぱっと一瞬にして空に舞い上がった。
樹上の夜空を一面の白い小花が埋め尽くし、それから、
渦を巻くようにして天へと立ちのぼる。
ここに来てからずっと声を潜めていたウンスが、思わず、

「ああっ」

と声を上げる。
チェ・ヨンはそれを聞いて、振り向いて、ウンスの様子を目にすると
嬉しそうに笑いを浮かべた。

「白鷺(しらさぎ)です」

チェ・ヨンは歩み寄りながら、問われる前に答える。

湖上の小さな島の上に、大柳が六本ほど自生していて、
この季節になると、そこにこぶしほどのごく小さな白鷺が渡ってくる。
夏には明るい黄緑色になるはずだが、今はまだ濃い緑色の新芽を
枝先につけている柳に、ぽつぽつと白い模様が現れる。
そして白鷺は次々に渡ってきて、柳はまたたくまに枝先がたわんで
水面に触れるほど真っ白に埋め尽くされる。その様子を湖岸から見ると、
まるで木の一面に白い花が咲いたように見えるのだ。

「父について双城総管府に三度参りました。その折、この近くの集落に
何夜か宿を借りまして。その時にこの湖を知りました」

初めて酔いつぶれたのも、その時です、とチェ・ヨンが懐かしそうに言う。
馬から厚手の毛織りを下ろすと、自分の身体に巻きつけて地面に腰を下ろし、
ウンスを膝の間にまねく。
膝と膝の間にすっぽりと座ったウンスを自分ごと毛織りでしっかりと巻くと、
空に風に散る雪のように舞っている鳥たちを見上げる。

「酒宴に呼ばれまして」

話の続きをうながすウンスの手に、チェ・ヨンは指を絡めて
ウンスの腹に当て温める。

柳に鳥の花が咲いた最初の新月の晩が、春の酒宴だという。
この花を見ながら、酒を酌み交わし、夏の終わりまで続く長い農作業の
はじまりとする。

「酒を飲んだことはありましたが、飲み騒いだのは初めてでした。
すっかり酔っ払って、この湖に入って泳ごうとしたらしい」

白鷺たちは夏の終わりまで湖にとどまるけれど、
柳の根元に巣を作りそこで卵を抱くので、酒宴が終わって一週間もすると、
柳に白い花が咲いたようなその光景は終わってしまう。

「だから、言わなかったのね」

見れるかわからなかったから、ウンスはそう言いながら、
一羽、また一羽と柳にとまって花になっていく小さな白い鷺を
見つめていた。

「はい」

チェ・ヨンのいらえは短いが、多くのものを含んでいた。
ウンスの首に口を当てて、温かい息を吹きかけているので、
チェ・ヨンの顔は見えない。
ウンスは自分の指に絡んだチェ・ヨンの指を、きゅうと握る。

「わたし、こんな綺麗なもの、見たことない」

ウンスがそうささやくと、チェ・ヨンは嬉しそうにウンスを
抱く腕に力をこめた。
花だけではありません、後で集落に行って宿を取りますから、
酒も飯も腹がくちくになるほど、とチェ・ヨンが言うと、
ウンスは、本当に、とひどく弾んだ声をだした。

「でも、もうしばらくはこうしておりましょう」

チェ・ヨンがそう言うと、ウンスはうなずいて、
二人はただ寄り添い、一つの大きな石のようになって
その白花を眺め続けていた。



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by kkkaaat | 2014-02-09 03:17 | 短編【シンイ二次】 | Comments(50)

【シンイ二次】白花 1

さて「蜃楼」が切りのいいところまで進んだところで、ちょっと寄り道です。
ヨンとウンスのその後を描くはずのこのブログ、「火、狩人」ではまだ知り合い
レベルでもなく、「蜃楼」にいたっては、汗臭いか酒臭い男しか登場せず。
これは、由々しき問題です(主に私にとって)。
冬のこの乾燥しがちな時期に、こんなかさかさモード(なのに脂浮きしてる
混合肌モード?)ではならぬ、というチョナの王命があったとかなかったとかで、
颶風のエピローグ直後、開京へと向かうヨンとウンスの姿のごくごく短い話でも
差し込んで、潤い成分補充をはかりたいと思います。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・



白花 前編


「ねえ、どこに向かっているの」

ウンスは馬上で身体をひねって、自分の後ろのチェ・ヨンに顔を向ける。
チェ・ヨンはその目をじっと見て、それから黙って微笑むだけで、
何も言わないので、ウンスは、ねえ、と頭を後ろの胸に預けて寄りかかる。

「まっすぐ帰らなくていいの」

しばらく揺られたあと、またウンスは首をひねってチェ・ヨンを見上げる。
今度はチェ・ヨンは少しだけ口を開いた。

「テマンを平壌につかいに出しましたから、
俺たちが開京に向かうことは伝わります。ご安心ください」

そうじゃなくて、仕事をほっぽらかして天門にいたんでしょう、
一刻も早く戻ったほうがいいと思うんだけど、とウンスが
わずかにうつむくと、少しだけ肩から前に流れた髪に触れるほど
チェ・ヨンはウンスに顔を寄せる。
目をつむってその髪の匂いを吸い込みながら、チェ・ヨンは
ぼそぼそとしゃべる。

「すでに長く不在の身、一日や二日長引いたとてどうということは」

そう言ってから、チェ・ヨンは吸い寄せられるようにウンスの肩に
かかった髪に顔を埋めて、手綱を握っている手を片手にかえて、
空いた手をウンスの腹に回して引き寄せる。
そうしてあと数寸近くなったウンスの首に、髪を鼻先でかきわける
ようにして、唇を押し付けた。

ウンスはくすぐったそうに首を傾げたが、何も言わずにチェ・ヨンの
胸に身体を預ける。首に触れてただ離れるはずだったチェ・ヨンの唇は
吸い寄せられるように戻り、上向いたあごの稜線をたどって、
ウンスの薄紅色の口元に覆いかぶさる。

拍子を取るように引かれていた手綱が緩んで、馬は数歩進んでその場で
脚を止めた。馬は呆れたように、ぶるる、と鼻を鳴らす。

二人の荒れ乾いた唇が互いをついばみあって、ゆっくりと滑らかに
溶け合うようになる頃には、馬は背中で行われていることに飽き飽きして、
そこいらの草を食(は)みはじめていた。

「はあっ」

チェ・ヨンの唇がようやく解放したときには、ウンスの息は少し上がって
いて、頬と耳と鼻の先が赤く染まっていた。
なんだか泣き出しそうな笑顔を浮かべて、見上げるウンスの腰に手をかけると
チェ・ヨンはひょいと持ち上げて、ウンスの向きを変えてしまう。
馬の首から肩のなだらかな傾斜に沿った鞍は、かすかにチェ・ヨンに向かって
傾いていて、ウンスはチェ・ヨンの身体へと滑り降りる。

そのまま再開された口づけは、先ほどよりも熱がこもっていて、
チェ・ヨンは片手に残していた手綱さえも放してしまって、
ただ抱き寄せるだけでない目的に、空いた手を使い始める。

「これではいっこうに目的の場所につけぬ」

チェ・ヨンはウンスの胸の合わせに忍び込ませた手をもぞつかせながら、
本当に困ったふうにつぶやいた。ウンスは現代のリップクリームでも
塗ったように濡れている唇をわななかせて、チェ・ヨンの手が動く
たびに、微かに身体を震わせている。

「いっそ一度降りて…」

熱のこもった息でチェ・ヨンがそうつぶやいていると、
彼の脚の下の身体が抗議するように急に動き出す。

うわ、とウンスが声を上げて、チェ・ヨンはその身体を急いで支えると、
だらりと垂れた手綱を手繰り寄せて、馬を止めた。
馬はその先の柔らかそうな草を食べることを阻まれて、
不満そうに何度か首を振る。
ふう、とチェ・ヨンが息を吐くと、ウンスと目が合う。

「いい加減にせよ、と言っておるようです」

チェ・ヨンが肩をすくめて言うと、ウンスも一瞬ぺろりと舌を出して、
気恥ずかしそうに笑った。

「ね、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」

またひょいと持ち上げられて、前を向かされたウンスは、
後ろのチェ・ヨンを肘でちょいとつつきながら探りを入れる。
避けると見えた木立にそのまま踏み入らせ、
チェ・ヨンは獣道のようなところに馬を進ませていた。

「何をですか」

とぼけているのか、それとも少しばかり疲れているのか、
判断のつかない声でチェ・ヨンは言う。

「目的地よ」

ウンスが身体を揺すると、チェ・ヨンは考え込む。
それから、いいでしょう、と言うと言葉を口にした。

「湖です」

そこで何をするの、泳ぐの、とウンスが大真面目で尋ねると、
チェ・ヨンは凍るような冷たさですよ、溺れたくなくば、
決して泳いではなりませぬ、と笑いながら言う。
じゃあ何を、と重ねるウンスに、チェ・ヨンは困った人だ、
とでも言うように柔らかいため息をついて、言った。

「花見です。花見にあなたをお連れする」



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by kkkaaat | 2014-02-08 02:25 | 短編【シンイ二次】 | Comments(35)

【シンイ二次】蜃楼 8


「この高麗の国を守護するものとして、おのれの力不足で投げ出せる、
その程度の覚悟で務められると思っていた。それが甘い」

チェ・ヨンはそう言って、息をつめた。

手で首筋を撫でながら、王は、そうか、
と同意ともそうでないともわからぬ声で、投げ出すように軽く言う。
チェ・ヨンは王の意をはかりかねて、下げていた視線をふいと上げた。

「俺はまだ、やれることがありますか」
 
ふうむ、と王は相槌を打つ。
答えはしない。
チェ・ヨンはしばらく黙って王のいらえを待っていたが、
何も言わずに、あるかないかの笑いを口元に張り付かせて
黙っている王に痺れを切らしたように、はあっ、と荒いため息を
ついて、視線を宙にさまよわせた。

「どうなんです」

次に王を見た目は、探るようではなく、迫るようにまっすぐだった。
突然、王が立ち上がる。
チェ・ヨンがその動きを目で追うと、王は今度はにっこりと笑って、

「ウダルチの兵士チェ・ヨン、世の護衛をせよ」

と言って、歩き始めた。





「いかがでしょうか、こちらは」

と王は尋ねる。
文官武官が追いすがるのをすべて散らしてチェ・ヨンのみを
従えて王が向かったのは、禁軍兵営に面した迎賓館の一角の、
小部屋だった。
元、明からの使者の侍従などのための控えめな広さの部屋だ。

扉の前の巨体の二人の衛兵の間を通って中に入ると、
節約をむねとして華美さを減じた皇宮に比べると、
部屋の内装は幾分華やかだった。

「不自由だな」

王が部屋に歩み入っても、無反応だった徳興君が、
その後ろのヨンを見ると、毛氈の上の座椅子に寝そべるようにもたれたまま、
自由に歩き回ることもできぬ、
と気だるげに布の巻かれた先のない手を持ち上げてみせた。

ヨンは王の前にこそ立たなかったものの、その横に控えて、
油断なく徳興君に目を据えている。
しかし徳興君が、左の口角を引きつったように上げるほかには、
特にだらりと身体の力を抜いているのを見て、
わずかに剣にかけている手の緊張を緩める。

不自由だとも、不自由以外になにがあるのだ私に、と王の叔父は
酒やけした声でつぶやくように言った。

「何をやっても、うまくいかぬ。
どう知恵を絞っても、しまいにはこうして、もとの囚われの身だ」

なに一つ変えられぬ、

そう言って、徳興君はゆっくりと瞼を閉じてしまった。
考えてみれば、元からこの高麗へと遣わされていたあの半年程のみが、
叔父にとって息を潜めぬ暮らしのできたわずかな期間だったのだ、
と王は思い、いつものように、言い訳にはならぬが、と無言で付け加えた。

ヨンは、双城総管府で手を斬って落として以来、
この男と会ってはいなかった。
冬をまたいで春の始まろうというほどの間に見ぬうちに、
徳興君は最後に見た時にはわずかに残っていた目の光を失って、
妙に青黒いような顔色で、ひどく酒臭い。

「なに一つ変えられぬ、ですか」

王がそうつぶやくと、チェ・ヨンと徳興君が同時に、
王の顔を見つめる。
友にでも話しかけるように王はほがらかな口調で言う。

「叔父上、あなたはご自分では覚えていらっしゃらないが、
一度このチェ・ヨンをお殺しになった。ご存知ですか」

徳興君は、何を、と半笑いを浮かべながら王を見る。
聞いてはおられぬか、と王は真面目な顔で言う。
徳興君は知らぬのをつくろうように、
にやにやとうすら笑いを浮かべていたが、
しばらくすると「では、あのユ・ウンスは」とつぶやくと、
その顔から微笑が消えて、みるみるうちに理解の色が広がった。

「それでは…、しかし、どうやって…」

かすかに震える声で、徳興君は王に問うと言うよりは、
自問自答するかのようにひとりごちる。

「ユ・ウンスがこのチェ・ヨンに知らせねば、
あの席で手を落とされる前に、この」

王はチェ・ヨンを指でさしながら、徳興君の前の椅子に腰掛ける。
チェ・ヨンもまたそれに合わせて場所を変えた。

「チェ・ヨンは毒に倒されていたのですよ」

それは、まことか、とほとんど聞き取れぬ声で徳興君が
言うのにかぶせるように、王は愉快そうに続ける。

「世には到底成し遂げられぬことです。このチェ・ヨンを殺すなど」

王が心底感嘆したように言うと、チェ・ヨンは後ろで
苦虫を噛み潰したような顔をして、横を向いた。
徳興君は、自嘲の笑みを頬に張り付かせたまま、
顔を強ばらせた。

「あなたは、変えられぬ、とおっしゃった。
しかし、ユ・ウンスは変えたのです」

あの女がたまたま運がよかった、それだけのこと、
と吐き捨てるように徳興君が言うと、王は首をかしげた。

「果たしてそうでしょうか。
叔父上は、多くのものを捨てても、このチェ・ヨンの命を取ろうとする
執念をお持ちでした。そのお気持ちが、この者の力を上回った。
それは本当のことなのですよ」

王は首を回して、チェ・ヨンを見て、また顔を戻す。

「その叔父上のご覚悟を、ユ・ウンスの覚悟が上回った。
そういうことではないでしょうか」

ふん、と徳興君が苛立って鼻を鳴らす。
慰めにもなりませぬか、と王は静かに言う。

「食えもせぬ、幻の食いもののようなものだ。
飲めぬ水が地平に揺らめいていたとて、喉の渇きは癒せぬ」

そうでしょうか、あなたは成したのに、と王は目をうつむかせた。
しばらくの間、叔父と甥の間に沈黙が降りる。
こうして向かい合うと、血のつながりはさほど濃くもないのに、
その顔にはどこかしら似通ったところがあった。

「慶昌君が存命で在位なさっておれば、
世も叔父上のようになったかもしれませぬな」

しかし世はそうならなかった、
と王は徳興君に言うのではなく、独り言のようにそう言った。
世は叔父上のようにはならぬ、と王はおのれに言い聞かせる
ように繰り返した。

チェ・ヨンはじっと、王の後ろ姿に目を据えている。
徳興君は王の話に心動かされた様子もなく、
怨嗟と哀れっぽさの入り混じった顔で
王の後ろのチェ・ヨンにひたと目を据えている。
どうでもよい話をしました、と王が顔を上げて、徳興君に言う。

「叔父上、あなたは北京にお行きください。
そして二度と高麗の土を踏むことのないように。
次にお戻りになったときは、命を取らざるをえません」

殺さないのか、と徳興君がさして嬉しくもなさそうな、
それでいて、命意地汚い嬉しさをにじませてそう言った。
どうしてかいつも、あなたを殺す気にはなれぬのですよ、
と王は苦笑いを浮かべてそう言った。

「叔父上、昔玉座より大事なものがおありか、
と尋ねたこと、覚えていらっしゃいますか」

そんなことがあったか、と徳興君が言う。

「そのとき叔父上は、自分が一番大事だとおっしゃいました。
ですから、その一番大事なものを守るため、
二度と高麗の土を踏まないでいただきたい」

王はひどく柔らかい口調でそう言った。
しかし、徳興君からしか見えないその目は、
ぎらついて、ただならぬ決意に満ちていた。

「あなたがこの約定を破られたときには、
あなたの一番大事なお命をちょうだいすることになる」

世は一番大事な、高麗を守らねばならぬゆえ、
王はそう言って徳興君をじっと見つめた。



「チョナ、あなたは甘い」

牢から離れ、長和殿に向かい歩き始めるとすぐに
チェ・ヨンがそう言った。あいつを生かしておくとは、と続ける。
ほう、まったく礼儀知らずの臣下だな、たかが于達赤の兵卒が、
と王が面白そうに言う。
チェ・ヨンは立ち止まると、ならば言い直します、
と言いながら同じように立ち止まった王に向き直る。

「チョナ、恐れながら申し上げます」

王は後ろで身体の後ろに手を回し、
顔だけをチェ・ヨンに向けて、見上げている。

「あなたは甘っちょろい」

王はチェ・ヨンをじっと見つめていたが、我慢できずに吹き出した。
拳を口に当てて、くくく、と笑っている王を、
チェ・ヨンはくすりともせずに、真面目な顔で見つめている。
世はいろいろな者に様々なことを言われてきたが、
面と向かってそのように言われたのはさすがに初めてであるぞ、
と王は笑いながらチェ・ヨンに言った。

「ですから」

俺がお守りいたします、とチェ・ヨンはきっぱりと言った。
王は笑うのをやめて、チェ・ヨンの顔を挑むように見た。

「双城総管府で叔父上を斬って捨てることもできぬ男がか」

と王が言うと、チェ・ヨンは、はあ、と大きくため息をつく。
それが俺の甘さです、とチェ・ヨンは言った。
治りはせぬ、と付け加える。

見もせぬことで平静を失い、
女一人のことで抜け殻になるこの性根、
治らぬとしても、周りの力を借りればなんとか
あなた一人はお守りできるでしょう。
チェ・ヨンはまっすぐに王を見つめてそう言った。

「覚悟ができたか大護軍チェ・ヨン、よき心がけであるぞ」

王はそう言うと、うむ、と一人うなずいて、歩き出し、
チェ・ヨンもまた並んで歩き出した。



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by kkkaaat | 2014-02-06 23:01 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(35)

【シンイ二次】蜃楼 7


「テマン、よせ」

背後に立つテマンを振り返りもせずに、チェ・ヨンは鋭く言った。
テマンは、濡れた目でチュンソクを睨みつけていた。
左手にはすでに短剣が握られていて、利き腕が懐に入っている。

「別に殺そうってんじゃありません。痛めつけるだけです」

テマンがそう言うと、いいからよせ、とチェ・ヨンは少しばかり
呆れたように言って、手を軽く振り上げる。
それでもおさまらない様子のテマンが一歩ずいと前に出ると、
トクマンをはじめ、数名の于達赤が飛び出してチュンソクとテマンの
間に壁を作った。

「身の程をわきまえないことを、申し上げました」

チュンソクは、目の前で起こっていることはそっちのけで、
ただ、ひたすらに分不相応でありました、
俺がこのようなことをあなたに言う資格など、
と拳を握りしめてわびの言葉を止められないでいた。

覚悟を決めて闘い言ってみたものの、
いざチェ・ヨンにこうして一矢を射当てると、
おのれが思っていたよりも、強い衝撃を受けたようで。

「思い上がりもはなはだしいっ」

そう言うなり、頭を抱えて、地面に膝をついてしまった。
自分の周りで、自分とは関係なしに進む出来事を、チェ・ヨンは呆然と
眺めていたが、鼻を人差し指でかくと、くくっ、とかすかに笑った。
それに気づいたテマンが顔を向けると、チェ・ヨンはそのふくれっ面が
目に入って、余計におかしくなって、肩を揺らして笑いだした。
チュンソクも気づいて、自分を責めるのをよして、チェ・ヨンに目をやる。

チェ・ヨンは握った拳を口元に当てて、
皆を見回して身体を揺らして笑いをこらえていた。

「テホグン…」

チュンソクがそう呼ぶなと言われたことも忘れて、
力が抜けたような情けない声で、そうつぶやくと、

「ああ、悪い、悪かったな」

そう言いながらチェ・ヨンは、手をついて身体を起こし立ち上がった。
両手のひらを腰の後ろに当てて、少しうつむいて、ふうと息を吐く。
それからそのままの姿勢でしばらく動きを止めて、
じっとしているので、テマンもチュンソクも、他の于達赤隊員たちも、
固唾を飲んで、動きを止めている。

チェ・ヨンが顔を上げるのにつられるように、他の者たちの顔が上を向く。
はあ、とチェ・ヨンが腹の底からもう一度息を吐き出すと、
周りの者たちからも、何とはなしに息が漏れる。

「チュンソク」

はいっ、とチュンソクが弾かれたように返答する。
いや、隊長(テジャン)だったな、と聞こえぬほど小さく呟いて、
チェ・ヨンは言葉を続ける。

「すまない。迷惑をかけた」

お前の言うのはもっともだ、とチェ・ヨンが言うと、
いえっ、と肩をすくめるようにして、チュンソクが恐縮する。

「これより、チョナに謁見を申し入れる」

しばしの沈黙が流れた後、チェ・ヨンは咳払いをする。
テジャン、とチェ・ヨンは力強く、チュンソクを呼んだ。
チュンソクの顔が、くいと上がり、チェ・ヨンを見つめた。

「テジャン、ただいまより、長和殿に参るゆえ、
任務を少しばかり離れる許可をいただきたい」

チェ・ヨンはそう言って、ゆるく頭を下げた。

「はっ、いえ、あの」

チュンソクは泣き笑いのような顔をして、うまく返答できずに口ごもったあと、
許可する、と言ってうつむいた顔を上げた。
チェ・ヨンはその声を聞いて身体を動かしかけて、
周囲の于達赤隊員たちに目を留めて、歩みをと切らせる。

何かを言おうと口を開きかけたが、一つうなずくと、そのまま立ち去った。





「ウダルチ、イルビョン(于達赤隊一等兵)、チェヨン参りました」

そう言って、チェ・ヨンは頭を下げる。
すいと身体を起こすと、こちらを見つめる王と目があった。

「ずいぶんと、突然であるな。
こちらもいろいろと忙くしておるゆえ、急にというのは困る」

それにしては、すぐにお取次いただきましたが、とチェ・ヨンが言い返すと、
ああ、ドチには大護軍ならまだしも、いち兵卒に取次を頼まれたら
もう少しもったいぶれ、と言うておかねばならぬな、と王はこともなげに言った。
チェ・ヨンは、視線を落として少しだけ笑う。

「して、何の用だ」

王がうながすと、チェ・ヨンはしばらくの間、
口をつぐんだまま、じっと王の目を見つめた。
王は落ち着き払って、その視線を受け止めていた。

「王のお考えを、うかがいたく」

チェ・ヨンがそう言うと、王は何についてか、と平然と問い返す。
王の問い返しをそのまま打ち返すように、チェ・ヨンは言った。

「俺について、です」

そう言ってから、チェ・ヨンはかすかに目をすがめる。
知りたいのだ、とでも言うように。

「どこぞの兵卒について語るほど、世は暇ではないぞ」

口の端を持ち上げて、王がからかうようにそう言ったが、
チェ・ヨンはにやともせずに、まっすぐ王を見つめている。

「于達赤の兵卒となり、つくづく思いました」

王も顔から笑いを取り払って、黙ってチェ・ヨンを見ている。

「以前の俺は、甘かったのです」

チェ・ヨンは何かを噛み締めるようにゆっくりとそうつぶやく。

「徳興君に殺されたという油断のことか、
それとも、妻の行方を探して職を辞そうとしたことか」

王が尋ねると、チェ・ヨンはしっかりと首を振った。
いいえ、そのどちらもただおのれの力不足であっただけのこと、
そう言うと、チェ・ヨンは王と目を合わせる。

「この高麗の国を守護するものとして、おのれの力不足で投げ出せる、
その程度の覚悟で務められると思っていた」

―それが甘い、
とチェ・ヨンはそう言って、視線を落とした。



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by kkkaaat | 2014-02-05 00:13 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(37)

【シンイ二次】火、狩人5



「何をしているんですかっ!」

救急車から降りてきた救急隊員が、びっくりしたように大声を出した。
当たり前だ。救急車を降りてみると、目の前で倒れた女性とその傷口に
なにやらしている二人組。
そして…、怪しい、いや、ふざけた格好の男が三人。

ウンスとチャン・ビンはちらりと目を上げたが、
そのまま視線を患者である女人に戻した。
血管の縫合はすんだが、それでもまだ危うい綱渡りをしていることには
変わりなく。

「あの、いま、手が離せなくて! 
ちょっとこっちへ来てもらえませんか」

マスクをしたまま、もごもごと救急隊員へ、顔も向けずにどうにか伝える。
はあ? と救急隊員は大きなマスクの影で眉をひそめる。

「どういうことなんですか? 患者はその女性ですか」

電話をくれたのはあなたですか、と二人の救急隊員のうちの一人が、
ウンスを目指してかけよろうとしたときだった。
その二人をさえぎるように、チェ・ヨンとヒゲ男が
すばやく剣を抜き、かまえる。
救急車の回転灯が刀身に反射して、赤い光を放つ。
救急隊員は、勢いよくのけぞって、一人は尻もちをついた。

「なっ、なんだね君たちは」

さすがに場慣れした救急隊員だけあって、後ろには引かずにそう尋ねる。
チェ・ヨンはまっすぐに二人に目を据えて動かさず、
もう一人ヒゲ男の方は、一瞬小柄な男と女人に目を配り、
すぐにまた目を前へ戻した。

「お前らこそ、何者だ」

ヒゲ男が、落ち着いた声で問い返す。

「はああ? 救急車呼んだの、おたくらでしょう。
なんだそれは、模造刀かね。時代劇みたいな格好して。
それで怪我をしたのか」

救急隊員が、呆れた声でそう返答するが、言葉の意味がわからず、
チェ・ヨンとヒゲ男の二人は怪訝な表情で表情で視線を交わし合う。
あの赤き光はなんでしょうか、燃えるように閃いておりますが、
とヒゲ男が救急隊員を無視して、チェ・ヨンに問いかける。
チェ・ヨンは、皆目わからぬ、とぼそりと言いながらも、二人から目を離さない。

「あの馬車、馬がおらぬのに動いておりました。
何かこの者、まじないのたぐいを使うやからではないかと」

ヒゲ男が、救急車を指さして言う。
ウンスが、ちょっと、その人たち通して、助けに来たのよ、
と手を動かしながら言うが、二人は道を開けない。

「まことに不思議な馬車である。妖術のたぐいか」

二人の後ろの小柄な男がそうつぶやくと、
チェ・ヨンの剣を持つ手に、ぎゅうと力がこもる。
ヒゲ男も、くん、と顎を引く。

「あああっ!」

救急隊員の一人が、大きな声を上げて、
前でかまえるチェ・ヨンとヒゲ男が、はっ、とかまえなおす。
声を上げた救急隊員は、今までは強ばった顔で、
なんとかウンスたちのところまでたどり着こうとしていたが、
棒立ちになったあと、急に怒りだした。

「わかりましたよ。これ」

テレビの番組でしょ、と救急隊員の一人が言う。
もう一人も、ははーん、と途端にうなずいた。

「カメラはどこですか。こんなふざけた真似をするのは
どこの局だ、ああ!?」

怒り出した一人を尻目に、もう一人はヘルメットの位置を直したり、
白衣のしわを伸ばしたりしはじめる。
キョロキョロと、辺りを見回して、落ち着きなく視線をさまよわせながら、
救急隊員は抗議の声を上げ始めた。

「こういうのはね、問題ですよ、大問題です。責任者はどこですか。
いたずらじゃすまないんですよ! まったく、嘆かわしい!!」

テレビなら何をしてもいいと思ってるのか、だから俺はテレビが
嫌いなんだ、とぶつぶつと文句を言い続ける救急隊員に、
あの、違うんです、ちょっと話を、とウンスが途切れ途切れに
話そうとするが手を止められない。
しかたなしにウンスの横でチャン・ビンが立ち上がった。
その途端、後ろに目でもついているのか、チェ・ヨンがすばやく呼ぶ。

「テマン」

途端に、どこからか人が降ってきて、チャン・ビンの前をふさぐ。
続けていただくように、と言葉だけは丁寧だが、その実質は脅しだ。
そのテマンと呼ばれた身軽な青年は、どこからか短刀を取り出して、
チャン・ビンの前でちらつかせる。
チャン・ビンはそのテマンという青年をじっと見つめた。

「な、な、なんだ」

テマンは口を尖らせて、そう言った。
いや、何でもないが、とチャン・ビンは答えると、ため息を一つついて、
すぐにしゃがみこみ、ウンスの作業の補助に戻る。

救急隊員は何度かウンスたちに近づこうとしたが、チェ・ヨンとチュンソクに
威嚇されて近づけないままだった。
身なりを気にしていた方は、少し感心したような声で、それにしても
なかなかよくできてますね、などと言っている。
剣に手を伸ばそうとして、どん、と踏み込んだチュンソクに
睨みつけられても、いやあ、役者さんはかっこいいなあ、
あれあなたのこと、見たことありますよ、なんのドラマだったかなあ、
などと勘違いしている。

「ちょっとね、おたくら、こんなことしてただじゃすまないですよ。
どこの局かなんて、すぐにわかるんですからね。
いたずらの通報は、罰金ですよ!」

終始腹を立てている一人は、腕を振り立ててかんかんに怒っていたが
時間の無駄だ、と吐き捨てると、救急車の乗り込んでしまった。
もう一人はその後も少しだけいたが、オンエア決まったら、
教えてくださいよ、と病院名を告げると、車に戻る。

「ねえ、ちょっと! 戻って、戻ってよお!」

ようやく傷口の縫合を終えて、よろよろと立ちあがったウンスが
叫んだときは、すでに救急車の赤い光は遠く小さくなってしまっていた。

「終わったのか」

チェ・ヨンがつかつかと歩み寄ると、その頭のてっぺんからつま先まで
をじろじろと眺めて、ウンスは前に立ちはだかった。

「ちょっとお、あなた何、これ泥? ん、血だらけじゃない!
患者に近づかないでちょうだい。感染症の危険度が増すわ。
まあ屋外で手術してる時点で危ないんだけど。
っていうかもうどうしてこんなことしてるのよ、わたし!」

チェ・ヨンは、チャン・ビンが様子を見ている女人に
ウンスの肩ごしに目をやって、終わったんだな、と念を押す。
ウンスは手袋やマスクを外して袋に入れながら、うなずく。

「ええ、終わりましたよ、ご満足? こんな場所でこんな大きな
手術させて、ああもう、こんなに緊張したの、久しぶりよ。
ストレスはね、身体に悪いのよ! 第一、こんな場所で手術される、
この人の身にもなりなさいよ」

まくしたてるウンスに、憮然として言葉を挟めないでいるチェ・ヨンの
横に、小柄な男が歩み出て、口を開いた。

「天の医員殿、まことに感謝する。これでワ…あの女人は、助かったのだな」

ウンスは、幾分表情をやわらげて、顔を小柄な男に向ける。
やれることはやりましたが、これから感染症を予防する処置をとらなくて
てはなりません、薬は持ち合わせがないので、と言うと、
男の顔がまたかすかに曇る。

とにかく、これから病院に搬送しないと、もう一回救急車呼んで
来てくれるかしら、とつぶやきながら、自分のバッグに近づこうと
ウンスが歩き出したところを、後ろから腕をつかまれた。
振り返ると、チェ・ヨンが肘のあたりをぎゅっと握っている。
なによ、っと睨みつけると、チェ・ヨンはわずかな間の後に、言った。

「俺からも、礼を言う」

突然チェ・ヨンがそう言ったので、ウンスは驚いて眉をしかめて、
それから腕を揺すって、チェ・ヨンの手を振りほどく。

「別にお礼なんて、いいのよ。やるべきことをしただけ」

それからチェ・ヨンにくるりと背を向けると、
電話を探してバッグをかきまわす。
その肩にそっと置かれた手があった。

「ウンス、もう一度救急に電話をするのは、
賢明とは言えないかもしれないぞ」

だって、患者をあのままにはしておけないし、とスマホを持った手首を
チャン・ビンが握った。
ウンスが、どうして、と言うようにチャン・ビンの顔を見上げた。

「私も法律にはあまり詳しくないので、はっきりしたことは言えないが、
この手術、たぶん問題になる」

そりゃ問題になるでしょうよ、こんな屋外の設備もないところで、
頚動脈の縫合だなんて、緊急性が高かったらしょうがなかったですけど、
でもやっぱりまずいでしょうね。裁判になったら勝てないし。
それにこの馬鹿たちが、救急車も追い返しちゃってますしねえ。
なによ、睨んだって怖くないんだから。これがうちの病院にばれたら、
わたしの出世の話だって白紙になるでしょうし、そうしたら独立の話も―

ウンスの声は尻つぼみに小さくなり、顔色がみるみるうちに悪くなる。

「チャン・ビン先輩、これまずいかも…どうしよう」

手を口で覆って、動揺した様子のウンスを、おかしな格好の男たちも
不安そうな目でじっと見て、それから困ったように視線を飛び交わす。

「今見たところ、患者の様態は思ったよりも安定している。
年齢も若いし、もともとの体力があるのだろう」

うん、うん、とうなずくウンスに、チャン・ビンが続ける。

「まず、事務所に運び、そこで休ませて、様子を見よう。
私の病院から薬、点滴や必要機材を運ぶ」

うん、うん、と来て、ウンスの頭が止まる。
ゆっくりとウンスの首が傾げられる。

「事務、所?」

聞き間違いであってくれ、と願うような小さな声でウンスが言う。
チャン・ビンはゆっくりとうなずいた。

「事務所ってまさか、わたしの、じゃないですよね?」

問い直すと、チャン・ビンが、いや君のだ、と静かに答える。
あそこなら、広さもある程度あるし、確かレストベッドももあったな、
彼女を休ませるのに最適だ、私のマンションはワンルームで無理だろう、
そう冷静に説明するチャン・ビンの顔を、ウンスはポカンと口を開けて見ている。
というわけで、君の家に、患者を運ぶぞ、とチャン・ビンが
ウンスの両肩を、ぽん、と元気づけるように叩いた。

「えっ、ええー!?」

夜空に今日二度目のウンスの絶叫が、響き渡った。



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by kkkaaat | 2014-02-04 01:49 | 火、狩人【シンイ二次】 | Comments(25)

二次小説。いまのところシンイとか。
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