筆記



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【シンイ二次】蜃楼(おまけ)



「話が…あります」

チェ・ヨンはウンスの前までにじり寄ってあぐらをかくと、
うつむいて、ふうと息を吐いた
何をどう話そうか迷うように、一度上を向いて、またうつむく。
無意識のうちにウンスの両手をつかんで、考え込みながら撫でさすっている。

屋敷に戻るまで、チェ・ヨンは何か考え込む様子で、
部屋に上がるとウンスを座らせて、自分もその前に腰を下ろした。

「ね、どしたの?」

ウンスが落ち着きのないチェ・ヨンに笑いそうになりながら、
うつむいた顔を下からのぞきこんで、そう言った。

「ええと」

何から話そうか迷うように、チェ・ヨンは目をすがめる。
ひどく真面目な深い眼差しでウンスを見たかと思うと、
急にそわそわと目をそらしてしまう。

「いい話、悪い話?」

ウンスが聞き出したくて水を向ける。
チェ・ヨンは落ち着きなく、ウンスの親指の付け根を揉んでいる。
尋ねられてチェ・ヨンは、手を止めて、

「どちらとも」

と首をかしげる。
じゃあ、どっちかと言うと悪い方の話題から、いい方の話題にいく感じで
話してみて、とウンスは空いた方の手で、
低いところから高い方へと手を斜めに動かして言う。
ドキドキしないですむから、とウンスが説明すると、
チェ・ヨンは、ふむ、と笑って、言葉を探す。

「本日より、大護軍職に復帰することに」

それ知ってる、とウンスが口を尖らせて言うと、
そんなところからご覧になっていたのか、とチェ・ヨンがあ然として口を開ける。

「あのあと、話し込んでて帰りそびれちゃったんで
ついでに様子が知りたくて、兵舎の周りをうろついてたら、たまたま、よ。
たまたま! 立ち聞きしたのは悪かったってば!
それにいつかテホグンに戻るだろうな、って予想してたし」

ウンスは顔の前でおざなりに両手のひらを合わせると、
身体を揺すって話の続きをうながした。
チェ・ヨンは、気を取り直して続けた。

「加えて」

言葉と言葉の間が、一瞬だけあいたが、チェ・ヨンはよどみなく続ける。

「二度と辞めませぬ。チョナにそう申し上げた」

すまなそうに、チェ・ヨンはウンスと目を合わせた。
ウンスはごくわずかにだが、口元を歪めて、薄い唇を噛んだ。
静かなため息がウンスの喉からもれる。
うん、とウンスは深々とうなずいた。

「高麗を、あなたが残ってくださったこの国を、守り抜こうと思います」

チェ・ヨンがぎゅう、とウンスの手を痛いほど握り締めると、
ウンスはもう一度、ただ、うなずいた。
それで、と続けて、チェ・ヨンは落ち着きなく小さく膝を揺すった。

「さっきから、何よ」

とウンスがじれたように、握られた手を上下に揺すぶる。
だんだんいい話題になるんでしょう? と笑われて、
チェ・ヨンが膝を止めて、ウンスを見た。

「子を」

とそこだけ急に声が大きくなって、チェ・ヨンは自分でも慌てたように、
声音を低めて、続けた。

「子を作りましょう」

あらまあ、とウンスは言って、手のひらを口に当てて微笑んだ。

「突然、どうしたの」

別にできないようにしているわけじゃないから、あとは運だけど、
急にどうして、と尋ねると、チェ・ヨンが答える。

「ようやくあなた一人ではなくて、この場所を守る覚悟が定まりましたゆえ」

子が欲しゅうなりました、とウンスの柔らかくうながすような表情に、
チェ・ヨンも肩の力を抜いて穏やかにそう言った。
あなたは神医だから、どうしたら子をなせるのか、その方法もよくご存知でしょう、
ぜんぶ試しましょう、とチェ・ヨンが大真面目に膝を叩きながら言う。
ウンスは、少し困ったように笑いながら、肩をすくめた。

「天界でも、子作りの方法はさほどこっちと変わりないのよね。
わたし専門医じゃないし。
まあ高度医療で作る方法もあるけど、それは設備的に無理だし…」

ウンスがそうぺらぺらとしゃべっていると、チェ・ヨンは自分のわかる部分だけを
聞きつけて、顔を明るくする。

「今まで通りでよいのなら、いくらでも」

チェ・ヨンは一人納得したようで、うなずきながら呟いている。
ウンスはそんなチェ・ヨンの姿を、呆れたように笑って、それから、

彼のどんな願いもかないますように、
と淡く祈った。




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by kkkaaat | 2014-04-24 14:31 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(32)

【シンイ二次】蜃楼 11(エピローグ)


「余計なことを言わないでいただきたい」

ウンスの肘のあたりをしっかりと握ってぐいぐいと引っ張り、
チェ・ヨンは無言のまま城門近くまで大股で歩き、
ひとの気配のないところまで来ると、腕を離し、
くるりと向き直ってそう言った。

「ちょっと、痛かったわよ」

そう下から睨みつけるようにチェ・ヨンの顔を斜めに見ながら、
ウンスは口を尖らせて、腕を大げさにさすってみせる。

「いつから」

言いかけて、先ほどのことを思い出して、チェ・ヨンは言葉に詰まり、
振り払うように頭を左右に振った。
気を取り直してなんとか言葉を続ける。

「いつからご覧に」

いつからかなあ、とウンスはチェ・ヨンから顔を背け、
目を空中に泳がせて、腕を組む。
わざとらしく、顎に指を当てたり、にやついて見せるのを、
からかわれているとわかって、チェ・ヨンは、ああもう、と悪態をつく。

「トクマン! いやもうちょっと前からかな。
ウダルチなくして俺の命もまたなかったろう、ってとこかな」

ウンスはチェ・ヨンの重々しい口調を真似して、ぶつぶつと続ける。
チュンソク、と万感の思いを込めて名を呼んだところを真似された
ところで、チェ・ヨンはしびれを切らして遮った。

「もう、よろしい!」

もういいです、黙ってください、わかりました、と早口でチェ・ヨンが
言うと、ウンスはチェ・ヨンを肘でつつきながら、
皆嬉しそうだったわよ、とにやついた声で言う。

「まったく、あなたと言う人は」

チェ・ヨンはそう高ぶった声で言うと、自分をなだめるように、
大きく一つ息を吐いた。

それからごしごしと、自分の顔に浮かんでしまったさまざまな表情を
洗い落とそうとでも言うように、両手で顔をこする。
しばらくじっと顔を覆っていたが、両肘のあたりに、
ウンスの手が触れるのを感じると、ようやくその手をゆっくりと外す。

目の前に、ウンスが自分を見上げるように、いた。

「おかえりなさい」

そう言われて、チェ・ヨンは言葉の意を計りかねて、一瞬途方にくれたように、
顔の前の手のひら越しにウンスをじっと見つめた。
チェ・ヨンの手が胸元までゆっくりと降りていく。
ウンスは自分の手をそっと持ち上げて、チェ・ヨンの頬に指先だけで触れた。
チェ・ヨンはその指先を見つめ、ふい、とウンスの顔に視線を戻す。
目を軽くつむるとうつむき、自らを笑うように首を振った。
下がり始めていた手をウンスの手に添えて、それから握る。

「ただいま、帰りました」

チェ・ヨンは、いつも家に戻り馬から降りると浮かべる微笑みを、
ゆっくりと口元に立ちのぼらせた。





※この後に、少しだけ、おまけがあります。
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by kkkaaat | 2014-04-24 14:24 | 蜃楼【シンイ二次】 | Comments(6)

二次小説。いまのところシンイとか。
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