筆記



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次の更新日&アンケート所感

おーい、みんな集まれ~! トクマンが声をかけると、それぞれにくつろいでいたウダルチたちはぞろぞろと柱の前に集まった。

「よーし、皆集まったな! プジャンより話があるそうだ」

トクマンが一歩下がると、チュンソクがうなずいて前に出る。

「まず、更新の日程について、一つ皆に知らせておく。
このぶろぐとやらの管理者は、明朝より、きゃんぷとやらに出立する。
よって週はじめ、ヨン…4の日までは更新はない」

イェ! とウダルチたちは背筋を伸ばしてうなずく。
きゃんぷってなんだ? とチュモが横のエジに尋ねると、遠征し天幕を張るか小屋に泊まり、野営をするらしい、と答える。

「なんだ、戦か!?」

とチュモは少しばかり声の大きさを間違えて、チュンソクにじろりと睨まれる。
戦ではないらしいぞ、遊びらしい、と聞いてチュモが、野営が遊びとは酔狂な…とつぶやくはたで、チュンソクが続ける。

「さらに、6の日、別名水曜日までは日毎に所用が入っておるため、次の更新を確約できるのは7の日となる」

イェ! またウダルチがさらに声を大きくして、いっせいに答える。

「できるだけ早期の戻りを心がけるとは言われているが、この管理者身体脆弱にしておつむのほうも、少々あれだ…。いくつものことを同時にはできるかどうか…?」

はあ、と深くため息をつきながら、チュンソクは顔を残念そうにうつむける。

「それでも、筆頭の目次のぺーじとやらで、今日は何があったかにがあった、ということはつぶやく予定らしく、それにて更新のめども立つだろう」

ぐっと顔を上げてチュンソクが言うと、もっとも大きい声で、ウダルチたちは、イェ! と答えた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・すみません、くだらないお遊びにおつきあいくださり、ありがとうございます。
つまりは来週月曜までは確実に更新がなく、場合によっては一週間ほど更新がないかもというお知らせでした。ここのところ、わりと毎日更新しているので、すわまた行方不明かっ!? と思われぬよう、お知らせしておきます。

話変わりますが、アンケートご協力ありがとうございます!
現在200名以上の方に投票いただいています。
引き続き集計中ですが、2013年組が25%もいらして、2013~2014年にDVD視聴組も合わせると半数を超えます。
三年間近くシンイにハマり続けているってすごくないですか?
かくいう私もそのひとりではあるのですが。
昨年はまったという方も1/4ほどいらして、まだまだ熱い時期の方もいらっしゃる!

ちなみに私は、はっきりとは覚えていないのですが、2013年9月に光TVの有料視聴の一話目無料を見て、
ヨンのビジュアルがどストライク。
有料視聴するか迷って、これから面白くなるのかな?? と調べようとネットであらすじと二次創作を検索。
うちからリンクを貼らせていただいているりえさんとこのお話を読んで「あ、こ・れ・は・おもしろいわ!! この二次ならドラマ絶対におもしろいわっ!」と光TVで全話一括購入し、一気見という流れだったと思います。
アンケートでもものすごく少数派な二次創作先行組の一人です。

そのせいもあって、ドラマのラストの衝撃たるやっ(笑)
そこではじめて「あっ、りえさんとこのはじまりは、こ、これだったのかっ!!!」だからの二次なのかああああ、と気づかされ。
最後の方めちゃくちゃハマって夢にもヨンとウンスを見るような状態だったので、続きの二次創作がなかったら、屍のような状態になったかもしれません。

皆様のきっかけも、それぞれ違っておもしろいです!
お出かけから戻ったら、集計して、まとめて記事にさせていただきますね。
それまでに、まだ未投票の方、ぜひぽちっとお願いします。

また、メッセージを添えてくださる方が思いのほか多く、かじりつくように読んでます。
温かいお言葉、ありがとうございますm(_ _)m
では、また来週~!





by kkkaaat | 2016-03-31 23:19 | お知らせ | Comments(12)

ウンスノート 3枚目 ―百年前ノ壱ー

「3枚目」

キ・チョルの手を逃れて(判読不可)に入ると、一度現代のソウルの町に出られた。
連れ去られた直後なら大喜びだったと思う。
でもあの時は、一刻も早く戻ることしか考えられなかった。氷功を受けたあの人のために、病院へ走り、医療用具をかき集めて、全速力で(塗りつぶし)に戻った。なのに。
何がいけなかったんだろう、どうすればよかったんだろう。
もとの時間に戻るためには、何が必要だったのか、今はわからない。

(塗りつぶし)をくぐって十五日が過ぎてしまった。
しばらく(塗りつぶし)の前で、もう一度くぐることができないか待ってみたけれど、かすかに時折光るだけで、通ることができず、悔しくてたまらなかった。
あの人を思うと、気ばかりが焦る。

このあたりは、広く戦地になっている。
合戦場はないけれど、元軍が進軍する道筋になり、その際に焼き討ちや略奪が行われているみたい。
幸運と言っていいのか、私が丘を逃げ降りた際には、元軍は数日前に通り過ぎた後だったようだった。
空腹に耐えかねて丘を下りて、人家を探してみた。丘を降り、ふもとを通る街道沿いに、15分ほど歩いたところから東に行ったところに集落を見つけた。

様子をうかがうと、無理な徴収を受けて怪我人が出ていた。
敵でもないのに斬るなんて、というより子どもを斬るなんて、非道すぎる。
見かねて、治療を申し出たのだけれど、言葉があまり通じなくて怪しまれる。
言葉もろくに通じないここでめったなことはできないと思った。
今、私は死ぬわけにはいかないから。

でも立ち去れなかった。
「医師として、生涯かけて、人類への奉仕の為に捧げる。」
私とて誓った身。チャン先生が私にしてくれたことを考えたら、立ち去るわけにいかなかった。
あの人が私の肩をつかんで「ご自分をもっと大事にしてください」と叫ぶように言うのが見えたような気がする。

なんとか医者であることを伝えようと、地面に棒きれで「医生」と書いてみたけれど反応ははかばかしくなかった。どうやら字を読めるらしい僧装の男性が皆に説明しているようだったけれど、目つきが変わったのは母親だけ。

ふと思い出して、イチかバチかで「学子華佗」と書いてやった。
どうしても見捨てては行けないと思ったから。
あの人、なんでそのような思慮のないことをなさるのです、って怒るだろうなと思う。

一人、父親によく似た顔の男が怒った口調でつっかかってきたが、母親が取りすがって何かを言うと黙り、その母親が私に診てもらうというようなことを騒ぎ立てると、子どもと父親を守るように立っていた人たちがどいてくれた。
ひどい刀傷で、出血がひどかったが、子どもの方は額と肩で、見た目より傷は深くなく、消毒と縫合で特に問題なかった。父親の方は、被さってかばった際に大腿部の動脈を傷つけられており、かなりの大手術となったけれど、非常に体力のある人物で、それが幸いして一命は取り留めた。
術後、汚染手術となったためセファゾリンを投与。
あの人のために持ってきてすべてが、とても役に立っている…。

その後、治療にあたり、その親子の家に寝泊りを許された。
村から(塗りつぶし)のある山が見えるので、一度弱い発光らしきものを確認して急ぎ丘を上がったが、出たばかりのときと同じで、弱く光るだけで抜けることはできず、見ているうちに消えてしまったので、村へと戻った。
食事、寝床が確保できたのは、本当にありがたいけれど、正直とほうにくれている。
いったいここで、私はどうすればいいんだろうか?







「これっ、あの、ソウルの病院にあらわれて姿を消しってって…」

ウンスの母親が、前に身を乗り出して男性に先ほどの紙を差し出す。
男性は受け取らずに、ため息をつきながらうなずく。

「まあ、そのように読もうと思えば読めるのですよね。
しかし意味不明な記述が多いのも確かです」

とにかく、もっと読んでみよう、と母親の手をそっと押さえると、父親が次の紙を手にとった。



by kkkaaat | 2016-03-30 21:38 | ウンスノート【シンイ二次】 | Comments(14)

あなたはいつシンイと出会いましたか?


by kkkaaat | 2016-03-30 14:12 | 雑記 | Comments(17)

【シンイ二次】緑いづる12 ―荷馬車に揺られて―

「イムジャ、またこのような…」

ヨンは眉をひそめて小声でつぶやくと、馬を寄せて身を乗り出し、荷馬車の穀物袋によりかかり、布にくるまれた赤ん坊を胸に、うとうとと目をつむっているウンスの乱れてソッパジの見えているチマのすそをなおしてやる。
色褪せた紺色の上下はひどく粗末なものだったが、夫を持つ女の着るもので、ヨンはそれを来ているウンスが目に入るたびに、そこはかとなく緩む口元をそのたびにぐっと締め直していた。

ヨンもまた、商人のような薄れた藍の着物を緩く身にまとっていた。
チュンソクはつぎのあちこちにあったった茶の上下に笠をかぶり、のんびりと馬に揺られている。
荷馬車を御するために前に座ったテマンは生成りの衣をまとって、農夫がどこかに荷を運んでいるとしか見えなかった。

開京からは遠ざかる、海へと向かう細道を、四人は安穏として進んでいた。
馬の並足が心地よいのか、チュンソクがふああと大きなあくびをして、はっと気づいてごまかすように口を狭め、ヨンに話しかける。

「だいぶ、雲が出てきたようですが」

ヨンはそう言われて、顔を空に向ける。
次の宿までもちそうにないな、とつぶやいて、具合のいい木を見つけたら天幕を張るぞ、とチュンソクとテマンに向かって言った。
二人は、間延びした声で、あーい、と答える。

「ど、どうですかねえ、ど、どっちかの方には行ったと思いますか?」

テマンがたずなで緩く馬の背を打ちながら、ヨンにたずねる。
ヨンは軽くうなずいて、テマンを見る。

「こっちには襲撃がない。追っ手がかかっている気配もない」

どちらかが相手をしているだろうよ、そのための囮だ、とヨンが言うと、チュンソクもうなずく。

「いやあ、まさか二手もおとりをだすとは思いませんでした。トクマンのやつ、自分たちがおとりのおとりだとは思ってないだろうなあ」

チュンソクがそう言うと、テマンが少し怒ったように言う。

「い、いくらなんでもトクマンがテジャンじゃ、相手も騙されませんよ。
背格好が似てたって、あんなのどこからどう見てもテジャンじゃない」

それを聞いて、チュンソクとヨンが声をあげて笑う。
ウンスはその笑い声で、目をこすりながら身体を起こした。

「なあに、おもしろい話?」

ヨンがすぐに馬を寄せる。
たいした話ではありません、と言ったヨンの顔が兵営にいたときよりよほど明るくて、ウンスは思わず顔がほころぶ。

「あれ?」

頬にぽつりとした感触があって、ウンスがふいと顔を上に向ける。
間隔をあけて、ヨンが、次のテマンが、最後にチュンソクが上を向き、四人で空を向く。

「降ってきましたねえ」

とチュンソクは言って、馬から身を乗り出し、荷馬車に積んである天幕布を横から引きずりだして、ウンスの近くへと寄せる。
まだたいして濡れもしませんが広げて頭の上に、と言うと、ウンスはすぐに巻いてある織物の端をほどいて、一枚の布にしようとするが、赤ん坊を抱き座ったまましようとすると、意外に重さがあってうまくいかない。
立ち上がろうとして、荷馬車の揺れに尻餅をついたのを見て、ヨンが慌てて近づくと、

「チュホンを頼む」

とたずなをチュンソクに投げ、あぶみからそのまま荷台に飛びうつる。
それを見て、ウンスは安心したように座り直し、ヨンが天幕のはしを広げて自分の上に広げるのを待った。
ヨンはウンスにそれをかぶせると、赤ん坊を抱いてふさがったその手を見て、顔を上げる。

「俺はこっちで雨よけになるが、いいか」

テマンが振り返り、よさそうな木を探しながら進みます、と声を投げる。

「馬は引きますのでお任せを」

と雨を気遣いウンスとヨンを見ていたチュンソクが、ほっとしたように応えた。
ヨンはうなずいて、ウンスの横に身を寄せて座りこむと、腕を少し上げて自分とウンスにかかる天幕を支える。
大丈夫よ、頭に乗っけてればいいんだから、とウンスが言うので、少し力を抜いて二人の顔にかかるくらいに下ろすと、荷馬車の後ろに続くわだちとチュホンの馬体が視界になった。

「おいっ、プジャン」

テマンが前から呼ぶと、チュンソクとチュホンが、荷馬車の前へと消える。
何か前で話している声がするが、特に大事ではないようで、ヨンとウンスは黙ったまま遠ざかっていく景色を眺めていた。
馬の足音と車輪の回る音がしばらく続いた後、ヨンが口を開く。

「俺がいたらぬばかりに、めんどうをかけます」

なにが、とウンスが首をかしげる。
本気でわからないようで、ヨンの顔を覗きこむ。
ヨンは、ウンスの丸くなった目に、思わず少し笑いながら答えた。

「このような荷馬車で旅をするはめになりました」

とヨンが言うと、ウンスはなーんだ、と言いながら肩でヨンをとんと押した。
ぶつかられて、ヨンは何を、というように顔を向ける。

「あいかわらず、なんでも背負いこむのね」

と顔を横にしてヨンに微笑みかける。
赤みが目立たぬよう結った髪からほつれた数本が、頬にかかる。
第一もともとは私のせいじゃないの、とウンスがふざけたように眉をしかめて言うと、でも、とヨンはあらがってなにかを言おうとするが、ウンスは指でそっとヨンの口元を押さえる。
ね、私、いますごく楽しいのよ、と指を離しながらそう言うと、ヨンはなぜというように目に力を入れる。

「箱馬車じゃ息がつまるわ。たくさんの護衛もそう」

たくさんの兵に囲まれて、そりゃ立派なお屋敷だったし、手伝いもたくさんいて身体は休まったけど、でもね、と一度言葉を切って、そのために戻ってきたわけじゃないわ、とウンスが言う。
見て、とウンスは顔を戻して上げ、ゆっくりと遠ざかっていく樹々や道や土埃に顔を向ける。
ほら見て、とうながされて、ヨンもウンスから顔を戻す。

「こんなふうに、のびのびとするの、戻ってから初めてじゃない?」

ミョンソンも寝ててくれてるし、と言うとヨンはウンスの腕の中のミョンソンに目を落とし、それから顔を上げてまたウンスを見た。

「護衛なんかたくさんいなくたって、あなたがいてくれれば安心できるの。
だからいまはすごくリラックスしてる…とても気持ちよくくつろいでるって意味よ」

それから、ウンスはほんの少し口を尖らせる。

「同じ屋敷で寝泊りはしてたけど、会えるのは夜だけ」

だから、私、こうしてずっとあなたと一緒にいられて、いますごく楽しいの、とウンスが微笑むと、ヨンはあらがう言葉がなくなって、ただウンスの目を見つめる。

天幕を支える手がほんの少し引き下ろされて、二人の口元までがゆるやかに隠れた。
ヨンは身体をそっとウンスに向けて傾かせ、ひっそりと止まる。
幕の中に生まれたわずかな暗がりの中で二人の唇が重なって、馬車が石に乗り上げてガタンと揺れても離れようとはしなかった。
ヨンはしばらくの間、おとなしく口づけるだけで抑えていた。
が、長く幕をつかんでいた手の片方だけを外して、ウンスの肩の後ろの穀物袋に置き、口づけが深くなるよう位置を変えたころ。

しばらくの前から馬の足音も車輪の音も消えているのに気づいた。

「どうした」

なにごとか。
剣呑な気配はなかったので気づくのが遅れたと舌打つような気持ちで、ヨンは鋭くたずねる。
荷馬車の前方から、決まり悪げな声が答える。

「あ、あの、具合のよい樹木が見つかりましたゆえ、馬車を停めさせました」

チュンソクがそう答えると、

「お、俺はそのまま次にい、いい木が見つかるまで、すすす進もうってちゃんと言いました!」

とテマンが声をかぶせる。
しかし、雨も徐々に強くなってくるし、次にまたよい場所が見つかるとは限らぬだろうが、とチュンソクがテマンに言うのが聞こえると、ヨンは、深々とため息をつき、身体を起こす。

「チュンソク、正しい判断だ。急いで天幕を張るぞ」

立ち上がってそう告げた後、ヨンはもう一度誰にも聞かれぬよう嘆息した。




by kkkaaat | 2016-03-29 20:51 | 緑いづる【シンイ二次】 | Comments(18)

【シンイ二次】緑いづる11 ―身代わり―


「おーい、テホグン! こっちの道でいいのかあ?」

外で、エジが尋ねる声がする。
いつもより、少しばかり高いテホグンの声が、右手に折れる太い方の道だ、と答えているのが聞こえた。
チュモはもう何度目になるか、箱馬車の窓の布簾を持ち上げて、外をのぞく。
自分の乗る箱馬車を取り囲むように進む、三十ほどの騎馬が見える。
初夏の緑の濃い街道を、のんびりと揺られていると、いつもなら眠気が襲ってきそうなものだが、赤の着物の下に隠した剣の柄を握り締めているチュモはわずかに緊張しているのか、眠くなる暇もなかった。

「おーら、のぞくなって言っただろう!」

窓の横に馬を寄せたトクマンが、馬車の外から手をつつこうとする。
チュモはひょいと手を引っこめてそれを避けた。

「はいはい、テホグン殿。仰せの通りにいたしますよ」

位階はトクマンの方が上だが、于達赤で長く同僚として過ごしてきたので、いまだその仲は気安いものだった。
なんだその口の聞き方は、大護軍に向かって失礼であるぞ、とトクマンが言う。

「当の本人が言ってちゃ世話ねえや」

と小声で言い返すと、耳ざとく聞きつけたトクマンが馬車をドンと蹴った。
チュモは、自分の身体にまとわりつく、やけに柔らかい絹地をつまんで、そのへなへなとした感触に困惑してぽとりと落とす。

大護軍にこの赤い着物を見せられ、お前にはユ夫人の身代わりをして、囮になってもらうと言われたときは、しばらく木偶人形のように動けなくなった。
俺が、医仙?

――ユ夫人はこのような真っ赤で雅やかな衣など身につけていらっしゃらなかったではないですか!

あまりに艶やかな赤にうろたえて、そう言い募ると、大護軍は、権門の子女が着るような高価な衣でとにかく目立てばよいのだ、とぞんざいに言う。せめて空色か何かであれば、と考えて、いやどちらにしろ女の着物ではないか、と諦めた。

ため息をついて、うつむくと鬘の髪の毛が前にたれてくる。
チャンオッ(頭を覆うマント状のもの)をかぶるから、鬘はいらないと言い張ったが、皆して、いや敵はどこで見ているかわからない、用心の上にも用心が必要だとはやし立て、大護軍までが少し面白そうな顔をして、かぶっておけ、と言われたのだ。

「うあああ」
自分の女姿がどのように見えるのかを思い浮かべて、たまらずに呻いて大の字になって馬車の中に寝そべると、エジが外から布簾をわずかに持ち上げて中をのぞき見して、くくくと笑う。

「おい、高貴な女人はそんなことはしないぞ」

エジもさほど背が高くなく、チュモよりむしろ痩せぎすでウンスに背格好では一番似ていたのだが、顔の右側に刀傷があるからと難を逃れたらしい。
顔なんか隠して馬車に乗るんだから、あいつでよかったじゃないか、とチュモは口には出さずに頭の中で文句を言った。

「おいおい、奥方殿、もうお疲れですか」

外から大護軍の衣を借りたトクマンがからかうように声をかける。
大護軍の身代わりに選ばれたときには、有頂天になって鼻を高くしていたトクマンだが、お前が一番背が高いからそうしたまでだ、と大護軍に尻を蹴られていた。

「テホグン、何か見られてますよねえ」

チュモが大の字から身体を起こして、ため息をつきながら小声で尋ねると、トクマンが顔は馬車に向けず前を向いたまま、答える。

「さっきから尾根沿いに時折人影が見えている、後をつけてるんだろうな」

でも、二人か三人だ、数はいねえな、とトクマンの横に馬を並べて、タムが気の抜けた声で言う。
早く襲ってくりゃあいいのに、と光る頭を手で撫でながら、物足りなそうに言うのを、ちらとトクマンが眉をひそめて見る。

「あれか、多少の探りは入れてはいたが、手勢を連れて襲撃するほどの数はまだ送りこんでなかったか」

そう言われて、いや、夫人が戻られてふた月あまりもあったからなあ、とトクマンはかすかに首をかしげる。

「おまえも征東行省の役人連中が、コリョの選軍にゃ仙女だか妖魔がついて勝たせてるって噂してたのは知ってるだろう? 
あいつら領地も地位も失って大失態だからな。
仙女を捕まえりゃ、また勝てると思ってるふしがある」

断事官は四年前にユ夫人にじかに会ってその手業も見てやがるしなあ、とトクマンが言うと、ありゃ人外の美貌と色香だから妖魔と言われてもしかたあるまい、とエジがつぶやく。

「そんなこと、テホグンに聞かれたらぶっ飛ばされるぞ」

とトクマンがいもしないヨンを警戒するようにあたりを見回す。
タムが、いや見た目は傾国の麗人かもしれんが、思いのほか気やすい方だぞ、と庇うように言う。

「だからテホグンの気が休まらんのじゃないか」

自分が大護軍のはずのトクマンが、すっかり気を緩ませてそんな風に言った。

すっかり話に夢中な馬車の外の男たちをよそに、まさか大護軍たちの方を嗅ぎつけたんじゃないといいが、チュモは細く開いた窓から、もう一度尾根へと目を凝らしながらつぶやいた。





チュモの懸念はいみじくも当たっていた。
その頃、もう一つの箱馬車を、五十人余りの男が取り囲む。
大きな街道を迂回して進む一行は、川沿いの細い道で待ち伏せに合ったのだ。
黒塗りの笠を目深にかぶり、柿茶の地味な着物をまとっているが、手に剣を構えるその様子は、商人にも農夫にも見えない。

「替え玉に引っかかると思ったか!」

小柄だが目の血走った男が、口から泡を飛ばしてがなる。
目立たぬようにと考えたのか、小ぶりの箱馬車に、四人の護衛が馬で付き従っているのみだった。
兵を見ると無言のまま、一人が馬を降りて槍を構え、一人が弓を、年かさの護衛二人が剣を構える。

「おとなしく医仙を渡せば、悪いようにはせぬ。楽に死なせて――」

馬上でそう告げはじめた男の舌をひゅうと矢が射抜くと、

「あ、まだ話の途中だった? ごめん、ごめん」

と少年のような護衛がぺろりと舌を出した。
射抜かれた男が馬からどうっと落ちるのと、兵がいっせいに斬りかかるのが同時だった。
剣の二人は馬の上から二、三人に切りつけたが、馬脚を攻められてすぐに馬から降りて戦いだす。
たちまちのうちに乱戦になる。

護衛たちは、箱馬車を囲むように戦いはじめたが、多勢に無勢、馬車の扉ががら空きになった。
大柄な髭だらけの男が、

「逃げ切れると思ったか!」

と言いながら扉を大きく開け放ち、狭い箱馬車に乗りこむ。
あっちは男が化けているのはお見通しなんだよ、さあ来てもらおうか、と下卑た声で言うと、馬車の隅で震えている女の赤みがかった髪をつかんだ。
その髪がずるりと抜けて、男は目をありえないほど大きく見開いた。

「あら、残念ね。こっちも男なの」

振り向いたハヤンは、嘲るように笑いながら、男に向かって刀身の長い剣をなめらかに差し出す。
白光りする刃は、やすやすとその身体に埋まった。
口の聞けなくなった身体からずるりと刃を抜くと、ハヤンは血しぶきで汚れた薄桃の着物を指でつまんで、チッと舌打ちをする。

「これ気に入ってたのにさあ」

立ち上がって凄みのある太い声でそうつぶやいているハヤンに、元兵と槍を合わせながらちょうど扉の前に立ったジホが中を覗きこんで怒鳴る。

「早く出てきておまえも戦えよ! 一人頭十人だぞ!」

思ってたより人数多いんだから、さぼるんじゃねえぞ、と言いながら、ジホは後ろから斬りかかる兵の顎を槍の柄で砕くと、その反動で前につき出して刺し通す。
その奥で、久しぶりの戦いにふうふうと息を荒くしているマンボ姐が見えた。
剣を受け止めて押し合いになり苦戦しているようだった。

「ちょっとこっちを手伝っとくれ、だれか」

と叫んだその背後から元兵が斬りかかるのが、箱馬車の高い位置から見下ろすハヤンには見えた。

「あっぶなーいっ!」

ハヤンが叫ぶのと、シウルが死体に突き刺さった矢を駆け抜けながら引っこぬき、弓につがえずにその兵の首に投じるのが同時だった。
見事に首を貫かれた男は、剣を振り上げた形のまま、動きが止まる。
マンボ姐の後ろで、息の根のとまった男が静かに膝を折り崩れ落ちるのを見て、ハヤンはほっと息を吐く。
シウルは、見たかいまの! と叫びながら駆け抜け、また素早く一人射抜く。

「礼は後で言うよ」

ようやく目の前の男を切り伏せたマンボ姐が、シウルの背中に言葉を投げた。
気づけばほとんど兵は切り倒され、最後に一対一でそれぞれ斬り結びはじめた男たちを横目に、マンボ姐は剣を地面に杖がわりに立てて、はあはあと息をきらせている。

「あら、これでおしまい?」

と三人目をやすやすと仕留めたハヤンが見回すと、すでに岩に腰掛けたマンボ兄が額の汗を拭っている。

「俺があらかたやっちまったよ」

とうそぶくのを、いや俺だ俺だと、ジホとシウルが戦いながら反論した。
お前らまだまだやってんのか、修行が足りねえよ、と言われて、師父が稽古をつけてくれないんじゃないか、と決着のついたジホが言い返すと、マンボ兄は聞こえぬふりで目をそらす。

「ヨンたちは、無事に行けているといいんだがねえ」

マンボ姐がようやく整ってきた息でそう言うと、こっちを本命だって追いかけてきたんだから、あっちは平気だろうさ、と兄が答えたところで、ようやく最後の一人をシウルが倒した。

「お前ら、しゃべってないで、手伝えよな! ほんと薄情なやつらだな」

なげくシウルの横でジホが、なんだまだ戦ってたのか、気付かなかったと、とぼける。

「じゃあこれで、あたしらはお役目を果たした、ってことね。
そんじゃあ、ヨンを追っかけるわよ!」

ぐったりと座りこんだシウルの横で、息ひとつ切らしていないハヤンが、元気よく手を振り上げてそう言った。






by kkkaaat | 2016-03-28 20:37 | 緑いづる【シンイ二次】 | Comments(18)

ウンスノート 2枚目―コリョの歯科衛生について覚書―


「これは紙が違うようですね」

とウンスの父親が言うと、さっきのはボールペンだったけど、これは筆書きよ、と付け加える。
男性は、最初に申し上げましたが、本当にさまざまな形のものが混在しておるんですよ、と繰り返す。

「こちらの紙は高麗時代のものであると、調査の結果わかっています。しかし書かれているのはハングルです。まあ、古紙当時の墨を使用して、年代測定詐欺を働くといのは、よくある手ではあるのですが、ならばなぜ存在しなかったハングルで書くのかというね…」

まあ、いいでしょう、と男性が勝手に話をまとめる。
わかりました、とつぶやいて、ウンスの父と母は、その一枚の紙を読み始めた。




「2枚目」


コリョの歯科衛生について覚書。
歯を磨く習慣はなく、しかし砂糖・はちみつ等の糖類を使用した菓子類は、宮中、貴族階級においてはやや日常的、中人階級においても正月等祭日には、口に入るものとなっている。
歯磨きの習慣は基本的にはないが、チョナ、ワンビは象牙の柄、馬毛を使用した歯ブラシを所持し、歯磨きを行われていたのには驚いた。
その他の人は歯ブラシでなく木の枝や草などで多少口の中を掃除する程度で、歯の衛生状況はあまりよい状態とは言えない。

上記の状況を受け、ウダルチ、ムガクシに歯磨き粉を配布してみた。
貝殻や卵の殻からとった石灰と陶土と酢を混ぜ、シナモンで香りをつけ、練り上げたもの。
「口の中がすっきりいたします」とトクマンさんが褒めてくれた。トルベさんは少し使ったあとに、ムガクシの子に歯が白くなったと褒められて、気に入った様子。
もちろんムガクシの女の子たちは興味津々だった。
好反応。

使用方法の講習を実施。
麻の縄を指に巻きつけ、歯磨き粉をつけて口の中をこするブラッシング指導をしている途中に、テジャンがあらわれる。私がトクマンさんの奥歯に指を入れているのを見て、そういうことをするなと注意を受けた。
保健衛生の重要性を理解していない様子。

その後、テジャンの部屋で昨日の傷の消毒、縫合を行う。
最後の粘着包帯を使ってしまったが、この人のために残っていてよかったと思う。
続けて、テジャンにも歯磨き粉とブラッシングの指導を行う。
俺はいらないと、取り付く島もなく断って立ち去ろうとしたので、パートナーになると約束したこと、あなたに協力するから、私にも協力する約束でしょ、と詰め寄ると、もごもごと何か言っていたが渋々座った。

まず私が指に麻縄を巻いて、口を開くように言ったら、目を丸くしていた。
黙ってじーっと見ていたら、観念して少しだけ口を開けたので、擦り方を指導した。
なかなか大きくは開口しようとしなかったが、無理やり指で広げているうちに、急に腕をつかまれて、あなたは天界でもこのようにしていたのか、と怖い顔で聞かれた。
歯医者ではないから、歯科指導なんてしてなかったわ、と答えると、なんだかほっとした様子だった。
最後は観念したのか、少しリラックスしておとなしく指導を受けた。
虫歯はなし、歯茎の状態も良好。

最後にうがい、今後のブラッシングの継続について促すと、了解し、今後ウダルチには自分から実施を命令するので、指導の必要はないと言ってくれた。
歯磨きの重要性を理解してくれたようで、嬉しい。






by kkkaaat | 2016-03-27 20:05 | ウンスノート【シンイ二次】 | Comments(12)

【シンイ二次】緑いづる10 ―夜の訪問者―


夜の闇に乗じて、扉が叩かれたのは、于達赤たちに話がなされてから十日ほど、もう緑も深い5月の半ばを過ぎてからだった。
控えめに叩かれるその音に、ウンスが目を開けたときには、ヨンはすでに身体を起こし、隣の寝台から滑るように降りていた。

「だれかしら」

ウンスがつぶやくと、休んでいてください、と言いかけて、ヨンは少し考えこむ。

「いや、あなたもお会いしたいでしょう」

と言い直し、その言葉に起き上がったウンスの腕を取り、夜着の上から羽織りを着せかける。
身体を冷やさぬように、と言い渡しながら、ヨンがウンスの腕をさする。
ウンスは、暗がりの中でヨンのほのかに光る目を見上げながら微笑んで、それから上着の前をかきあわせる。

「こちらにいらしてください」

そう言われて、ウンスは入口扉の前の広い土間のある部屋より一段入った、板敷の部屋の境目で影に身を潜めるようにして待った。
ヨンはあまり警戒もしていないふうで、ぞんざいに扉を開けたが、いつもの習いで戸口の横に身を寄せて身体を守ることだけは忘れなかった。

新月の雲の多い夜は暗かったが、それでも戸口の中に落ちた影よりはわずかに明るく、そこに墨染の外套をまとった人影がいくつか、開いた扉の隙間から、ウンスにも見えた。
ヨンが低く何かを言うと、その人影が順に中に入ってくる。
全部で五人のそれが入り切ると、ヨンは扉から外に半身を出し、あたりをうかがいながら、そっと閉める。

「もう、出てきてかまいません」

ヨンはウンスにそう言うと、すべての窓に鎧戸が降りているかを一瞥し、それからそっと一本だけ灯心に火をつけた。
ウンスが姿をあらわし、小股でヨンの背中に隠れるよう場所を移すと、その五人はいっせいに外套の雨よけを跳ね上げる。
ウンスの両手が驚きのあまり、口元をおおう。
そのおおったすき間から、弾むような歓声が漏れて、すぐにウンスは前に駆け出した。

「ジホ、シウル、ハヤン!……姐さん!」

先頭で入ってきたマンボの妹に、若い娘のようにウンスは抱きついた。厳しい顔をしていたマンボ姐は、途端に姪っ子でも抱いたかのように破顔する。

「よく帰ってきたねえ。ほんとうによく帰ってきたねえ」

しみじみと言いながら、ウンスの頭を撫でると、ぎゅうと抱く腕に力をこめる。それから、ヨンを見て、

「なんだ、うらやましいのかい」

とからかうように言った。
ヨンはからかわれたにもかかわらず、マンボ姐の目が潤んでいるのを見て、少しうつむいて笑みをもらした。マンボ兄も、歳の分涙もろくなったのか、小さく鼻をすすりあげる。
ジホは背が伸びて、ヨンやハヤンと同じくらいの丈になっていて顔つきも大人びていたが、シウルは未だに小柄で、相変わらず背負った弓が大きく見える。

「まったくもう、ご無沙汰じゃないの! たまにはケギョンに顔を見せなさいよ」

ねえねえ、真白の着物は目立つからダメってこんな格好までしてここに来たのよ、ちょっとは感謝しなさいよね、とヨンにむかってハヤンがまくし立てる。
ハヤンは外套の下に着た、マンボたちと似たような古びた着物をヨンに見せつける。

「感謝する」

低い声でヨンがそう言うと、ハヤンはふふんと鼻で笑い、それからウンスに向き直る。
懐かしく意外な顔ぶれに、ウンスは目に涙をいっぱいにためて、皆の顔をじゅんぐりに見ている。

「ねえねえ、ちょっと、ヨンとあんたの間に赤ちゃんが産まれたんですってね!?
んもう、あたし驚いちゃったのなんのって。四年も離れててどうやって子作りしたっていうの?
天の医術じゃあそんなこともできるっていうの?」

ウンスが口を開いて説明をしようと声を出しかけたのをさえぎって、ハヤンが続ける。

「あらまあ、話なんか後でいいから、とにかく赤ちゃんを見ましょうよ。顔を見りゃヨンの子かどうかなんてすぐにわかるわ。あたしはそのために来たんだから」

と言うと、シウルが、違うだろっ、医仙と赤子を助ける加勢に来たんじゃないか、と抗議する。
あら、そんなのどっちだっていいじゃない、まず赤ちゃんを見なきゃ、とハヤンはウンスの前に立ち、どこ? と顔を覗きこむ。

「あ、えっと、こっちです」

ウンスは気圧されて、寝室へと五人をいざなった。
暗がりの中を、手裏房はつまづくこともなく、こともなげに足を運ぶ。
寝台の横に来ると、ウンスは小さな声で皆に告げる。

「ごめんなさいね、今は寝ているの」

そう言って、そーっと抱き上げる。
月もない暗い部屋の中で、ウンスのまわりを五人が足音もなく囲む。
ヨンがそっと、おぼろげに燃える灯心を頭上に持ち上げると、ウンスとその腕の赤子が照らし出された。

「ああら、まあ」

マンボ姐の声がまた湿っぽくなる。
こいつぁ、とマンボ兄が言ったきり、赤子の顔に見惚れる。

「あんたの小さいときに、そっくりじゃないか」

振り返って背後に立つヨンに、マンボ姐がそう言うと、ヨンはこくりと無言のままうなずく。

「かっわいいなあ」

シウルがそう言うと、ジホがいや美人っていうんだこういうのは、と言い返す。
そして、絶え間なくしゃべり続けていたハヤンの声が止まったのに気づいた皆が顔を上げて、そして驚く。
その目からぽたぽたと、言葉の代わりに涙が、次々と溢れているのだ。

「ちょっと、ちょっと、まあ、あんたが娘を持つなんてねえ」

ハヤンが感極まったように、言葉を絞り出す。
そして皆が自分を見ているのに気がついて、照れくさそうに袖で涙を拭く。

「ほらあたしたち、同門じゃあないけど、しょっちゅう一緒に鍛錬をしてたじゃない」

それを聞いて、ああ、俺は稽古つけんのが面倒で、よくこいつをチフ兄のとこに行かしてたからなあ、とジホとシウルに見つめられて、マンボ兄が肩をすくめる。
今じゃ信じられないだろうけど、よく笑う性根のまっすぐな子でね、手合わせで怪我をすると後で水くんできて冷やしてくれてね、とハヤンが語る。

「だからかしら、あたし自分が、あんたの姉のような気持ちでいるのよ」

ハヤンの言葉に、ジホとシウルが声をそろえて、兄だろっ、とつっこむ。
どっちでもいいじゃない、と言いながら、ヨンに顔を向ける。

「あんた、よかったわね。ほんとに、よかったわね」

そう言った後に、ウンスに顔を向ける。

「あんたも、よくぞ連れ帰ったわ。
ほんとはね、ヨンの子はあたしが産んであげるはずだったんだけどねえ」

今度はジホとシウルだけでなく、マンボ兄妹もそろって、産めねえだろ、とつっこむ。
ウンスは、笑いをかみ殺しているヨンと目を合わせて、くすくすと笑った。

「皆、はるばる来てくれたこと、すごく、感謝している」

めったに聞けない言葉に、五人はくすぐったそうに目線をそらす。

「二日後には、出発をする」
それを聞いて、一気に五人の顔から柔らかい表情が引っ込む。
ウンスは静かに赤ん坊を寝台に戻した。

「まかしときな」

眠る赤ん坊をに視線を落とした後、ジホがヨンの目を見つめて、小声で答える。
ほかの四人もにんまりと笑ってみせた。





by kkkaaat | 2016-03-26 19:49 | 緑いづる【シンイ二次】 | Comments(15)

【シンイ二次】緑いづる9 ―チュンソクのお悩み相談―


話が終わり、部屋からぞろぞろと皆が出て行く中で、チュンソクは後ろから腕をつかまれて、驚いて振り返った。
じっと黙ったまま、チュンソクの顔を見つめた後、ヨンは

「話がある」

と重く聞き取りづらい声で言って、手を離す。
はっ、と返答すると、チュンソクは自分だけ残って、丁寧に扉を閉めた。
自分で呼び止めたというのに、ヨンは何かうわの空で、チュンソクに椅子をすすめると、自分も向かい合って腰を下ろす。
さて、とチュンソクが口を開こうとしたとたんに、ヨンは跳ね上がるように立ち、見世物の虎のように部屋を二、三度行ったりきたりした。

「あ、あの」

呆気にとられたチュンソクが、話しかけようとすると、ヨンが突然目の前に仁王立ちになる。

「テホ…グン?」

何か話そうと、口を何度も開くのだが、また閉じてしまうのを、チュンソクは自分も釣られて口を開け閉めしながら待っている。あの大きな目で射抜かれるように見られて、チュンソクはまるで虎に睨まれた山羊のように身動きがとれなかった。

あげくの果てに、急に腕をつかんで引きずるように立たせると、いや、やはりいい、と手を振って出て行かせようとする。

「ちょっ、ちょっとお待ちを」

肩をつかんで押し出そうとするヨンの胸に両手をつっぱり、チュンソクは足を踏ん張って押しとどめる。
ヨンはそれ以上無理に力を入れず、はあ、と長々とため息をつくと、ゆっくりと肩から手を外す。

「お待ちを、テホグン。何か内密に話さねばならぬことがあるから、私をお残しになったのでは?」

んん、と喉の奥で咳払いをして、ヨンはチュンソクから顔を背ける。

「ご安心ください、このチュンソク、口が固いことでは、少しばかり自信がございます」

チュンソクはちょっとばかり胸を張る。
この計画、それぞれの連携がかなめかと、そのためには秘密があってはなりませぬ、細かなことでもぜひこの中郎将チュンソクには、胸を開いてお話くださいませ――
そうチュンソクが朗々と述べたところで、ヨンの口がわずかに動いた。

「子を産んだ女人は」

ぼそりと吐かれた言葉をチュンソクは聞き取ろうと、一歩前に出て、耳を前に出す。

「赤子を産んだ女人について、お前に尋ねたいことが」

それと計画とどのような関係があるのだろう、と思いながらチュンソクは、ぐっとうなずく。

「いや、やはりよい!」

とても言えぬといった様子で、顔の上半分に手を当てたヨンの前で、チュンソクはト、ト、と一歩つんのめる。
いやテホグン、ここは言いましょうよ、ここでやめるのはいかがかと、とチュンソクが二の腕をつかむと、ヨンは怒ったような顔でその手を振り払い、むすりとした表情のままもう一度椅子に座った。
チュンソクももう一度向かい合って腰を下ろす。

「して、赤子を産んだおなごについて、私の答えられることでございましたら、なんなりと」

ユ夫人の体調なども、これからの計画にはかかわりの深いことでございますから、とチュンソクが言うと、ヨンは、は、と笑いとも呆れたともとれるように息を吐く。
それから顔を上げ、思い切った様子で話し出す。

「チュンソク…お前は、子をなしたあと、いつごろから妻と同衾した」

チュンソクの首がかくりと斜めにかたむく。
ええと、と口が声を出したが、チュンソクは質問の意図をはかりかねて、言葉につまる。

「それは、計画とどのような関係が……?」

まばたきを忘れたまま、ヨンの顔を見ながらチュンソクがおずおずと尋ねると、関係などありはせぬ、と斜め下に視線をそらしたまま、ヨンが低い声で答えた。
チュンソクは、ようやくヨンの聞きたい内容に思い当たって、首をまっすぐに戻す。

「は……はっはあ、なるほどお!」

思わず笑ってしまう頬を抑えながら、そう答えると、何がなるほどだ、とヨンがチュンソクを睨みつける。
いつもなら怖気づくその目つきを事も無げに流し、いやいやいやいや、とチュンソクは両手で膝を打つ。

「テホグンも、男ですなあ」

思わずそう言うと、俺のことはどうでもよい、質問に答えろ、と恫喝のように言う。
わかりました、このチュンソク、テホグンのためでしたらお答えしましょう、と言うと、咳払いをひとつして答える。

「私の場合はですね、赤子が産まれてひと月後に遠征に参りましたが、テホグンにお気遣いいただきまして、半年の後に開京への連絡員として一時帰京させていただきました」

まっ、その折にということになりますかな、とチュンソクが前で手をこすり合わせながら答えると、半年か、とヨンがつぶやく。
なんの抑揚もなく出たその言葉の裏に、かすかな落胆があったように聞こえて、チュンソクはいやいや、と付け加える。

「ひと月後にはすでにという者もおりますが、赤子の世話で母親というものは忙しく、疲れておりますゆえ、無理強いは禁物かと。まあ参月ほども待てばよろしいのでは、と思うのですが」

もっともらしくチュンソクが説明すると、ヨンはふいと顔をあげる。
それから、チュンソクにむかって不思議そうに尋ねた。

「おまえはなぜ、そのように詳しいのだ」

どこでそんなことを知る、と言われて、チュンソクはうなずきながら笑った。

「都を離れ、妻と共寝することもかないませぬ。
妻子のいる男同士で飲むときには、そのような開け広げな話でもして憂さを晴らします。
あさましいことですが…」

笑いながらそう言うチュンソクの目が、わずかに人恋しそうに細まる。
テホグンと酒を酌み交わすおりには、どうしても戦や武芸にかかわる話が多くていけませんな、ぜひ今度はテホグンも我ら嫁御のおる男たちの酒盛りにおいでください、とチュンソクがそれをごまかすように言うと、

「俺は房事は話さんぞ」

とヨンは、ふっと笑って、そう言った。
それから口元の笑みを残したまま、真面目な顔でチュンソクに言う。

「帰京までもうすぐだ。無事に戻るぞ」

はい、と答えたチュンソクに、こうしたことはお前にしか聞けぬ、これからも頼むぞ、とヨンが横を向いて付け加えると、チュンソクはいっそう力強く、はい、ともう一度答えた。





by kkkaaat | 2016-03-25 21:36 | 緑いづる【シンイ二次】 | Comments(17)

【シンイ二次】緑いづる8 ―元ウダルチの密談―


どこへいくんだ、と昼の兵食を目当てに食堂へと向かう流れとは反対に歩くチュモは武官仲間から声をかけられる。

「テホグンのとこに、呼ばれてる」

チュモがそう後ろ向きに歩きながら答えると、何かまた絞られるんだろうと、やじが飛んだ。
何か命じられるのだろうとは思って扉を叩き、

「馬軍第二伍隊、キョウィ、チュモ参じました」

と言いながら大護軍の小屋に入る。
ウンスがつかのますごした大護軍の部屋は、寝台も端に寄せられ、チュンソク、テマン、トクマン、さらにタム、エジといった于達赤から取り立てられた兵が顔をそろえて、椅子、寝台、菰を敷いた床と思い思いに輪のようになって座っていた。
ヨンだけが、壁によりかかり、腕を組んでうつむいている。
チュモは少し驚いて、顔つきを引きしめ、お辞儀をしながら急いで空いている場所に座りこむ。

「開京より玉簡を拝受いたしました」

そろったのを見てとって、チュンソクは低められた声で、そう皆に言った。
ヨンはこくとうなずいて、腕を解き、壁から身を起こして話し出す。

「顔ぶれで見当はついているだろうが、医仙についての話だ」

ヨンが切り出すと、皆の顔がわずかに上がり、それからいっせいにうなずく。
禁じたその口から医仙の名前が出たことで、かすかに緊張が走った。

「あの方が戻られてひと月半、都に知らせ、チョナもコリョの内に医仙を置くことを了承された」

顔を見合いながら、男達の口元にうっすらと笑みが浮かぶ。
ヨンだけは表情を変えずに、話を進める。

「都が知ったということは、元にも知らせがいった、ということだ」

とヨンが続けると、多武(タム)が口を挟んだ。
躰つきのよい于達赤の中にあっても、一回り高く厚い身体に僧兵上がりの剃髪が目立つ異様で、車座の中でも一人場所をとっている。
横に座った小柄なチュモとは頭ひとつ分違う上、顔の大きさも小さな皿と大きな盆ほどに差があった。

「しかしテホグン、この選軍の兵士たちは信用のおけるやつばかりです。ようく口止めもしましたし、特に元側に動きも見られねえし」

気づかれていねえんじゃ、とそう言ったタムの言葉に、ヨンが短くため息をつく。
一人でお戻りならば、そうできるよう備えてもきたんだが…と額に手を当てて、大きく嘆息する。

あの髪色、あのお姿…あのふるまいではな、とつぶやく。
車座から、ああ、ともううともつかない、声にならない同意が上がる。

今のところ、何も言ってはこないが、必ずやその存在をつかんでいると思っていたほうがいい、とヨンが言うと、皆は今度は力強くうなずいた。

「大事なのは、居所をつかませぬこと、素性を市井に溶けこませ、行方をくらませることだ」

この四年の間にも医仙がどこそこにあらわれて天の医術を見せただのといった噂がいくたびも流れたろう、とヨンが言うと、物資を届ける部隊やら商人やらが、開京にあらわれただとか、西京に姿を見せただとか、いろいろと言ってきました、とトクマンが言う。
こたびもその類だと収めきれば、あとは知らぬ存ぜぬで突っぱねる、とヨンが言うと、チュモが腕を組み首をかしげる。

「でももう、あちらさんが気づいて密偵でもうろつかせているなら、ユ夫人を開京にうつせばどうしたってつけられます」

そう言ったところを、トクマンに後ろから頭をはたかれる。

「テホグンにお考えがあるから、俺たちが呼ばれたに決まってるだろう!」

ね、そうですよね? とニヤついた顔でトクマンが言うと、ヨンはうなずいて皆に告げる。

「開京より加勢が到着したら、すぐに作戦を決行する」

そう言ってから、チュモに顔を向けて、くっと笑った。

「チュモ、お前には重要な役目を担ってもらう」

え、俺ですか!? チュモは大きな声でそう言って、目を丸くして自分を見る皆を見回した。




by kkkaaat | 2016-03-24 21:46 | 緑いづる【シンイ二次】 | Comments(14)

ウンスノート 1枚目 ―はじまりー


二人は、戸惑ったように顔を見合わせた。
テーブルをはさんで座っている薄いグレーのスーツ姿の男性が、目の前の大きめのダンボール箱くらいはありそうな行李を二人にむかって押しやる。

「たしかに私はユ・ウンスの父親ですが…」

そう言いながら、またちらと隣りに腰掛けている妻を見て、男性へと視線を戻す。
その男性は、スーツの上着を脱ぎシャツの袖をまくりあげて、夏のような暑さの中をここまでやってきた汗を、きれいにアイロンのかかったハンカチで拭いながらしゃべる。
そこの磨り減った靴は、よく磨かれてはいるが、くたびれている。

「電話でもお話しましたように、一冊の手帳がもとになっていると思われる束、またそれ以外ににも、書付が二百あまりもあります。続いている部分もあるようなのですが、順番はばらばらで、紛失している部分や、時期の特定できぬものがほとんどで」

ハングルで書かれたものもあれば、漢文で書かれたものもあり、英語で書きつけられた部分もあります。一人の人間が書いたようにも見えますし、何人かの手によるものとも、と言いながら前に置かれた水を、男性は一気に飲み干す。
博物館側では、手帳の束と思われるものは後世混入されたものであるとして、この遺物自体あまり真剣に取り扱われてこなかったようですが、と男性は前置く。

「まあ、とにかく、ちょっと見てやってください」

そう言って、行李の蓋を開けると、乾いた埃の匂いに混じって、鼻の奥に薬めいたすっとした花の香りがしたような気がした。

父親は、一番上の一枚をそっと手に取って、読み始めた。





「1枚目」

この手帳に何を書こう。
紙もペンのインクもかぎられている。
皇宮にいたときに見た紙に書いてあった(汚れ)を、ここにも書きうつしておくべきなの? 
でもそれは、私が見てきたこととは違う。
でも私が書かなかったらだれがそれを書くんだろう? 
何を、どう書けば、自分と未来のあの人のためになるの?
今はまったくのノープラン。
だけど、とにかく(判読不可)を記録してみよう。
それから、(判読不可)とすごした日々の中で、残しておいたら役に立ちそうなことも、書き残してみよう。







by kkkaaat | 2016-03-23 20:00 | ウンスノート【シンイ二次】 | Comments(17)

二次小説。いまのところシンイとか。
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