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筆記



【シンイ二次】金銀花5



瞼を通しても痛いような朝の光で目が覚める。
薄目を開けて、手でそれを遮ると、声がした。
横ではすでに身支度をすませかけたチェ・ヨンが立っていた。

「目が覚めましたか」

ウンスはあまりに光が目にしみて、大きく目を開くことができないでいた。

「わたしどうしたのかしら、祝宴に出てたのは覚えてるんだけど…」

典医寺近くに用意していただいた、あなたと俺の部屋です、
とチェ・ヨンは当然のことのように言った。
一通りことが落ち着くまでは、皇宮にいらしていただきたいのです、と短く説明したが、
行き場のないウンスには是非もなかったので、ただ一度こくりとうなずいた。

「最悪だわ、なんにも覚えてない。わたしおかしなことしなかった?」

ウンスが尋ねると、チェ・ヨンが、長外套をはおりながら吟じてみせる。

「阿誰扶馬上、不省下楼時」
(誰が馬に乗せてくれたのか、どうやって建物から出たのかもわからない)

それはなんなの、とウンスが問うと、李白です、とひどく真面目な顔でそう言って、
チェ・ヨンはつかつかとウンスの傍らに歩み寄る。
李白ならわたしだって名前は知ってるけど、知りたいのは意味の方、と思いながら
ウンスは起き上がろうとして、つっ、と額を押さえた。
正真正銘の二日酔いだ。

チェ・ヨンは寝台の横にしゃがむと、ウンスと目を合わせる。
誰かに水と薬を持ってこさせます、と言うと、額を押さえた手の甲に軽く指で触れた。
その指がためらうように止まる。

「明日より平壌に参ることになりそうです」

明日、とウンスは言って、その一言にこめられたとがめるような調子を後悔する。

「どのくらいになるの?」

頭痛をこらえてなんとか身体をうつぶせにする。
寝台の上で頬杖をついて、ウンスは尋ねる。
身体の前で長い指を組み、しゃがんだままでチェ・ヨンが言った。

「行きに三日、帰りに三日。あとは平壌での用件次第です。十日ばかりかと」

王の護衛をしてまいります、と言いながら立ち上がり、
これからその算段です、今日は早く戻りたいが、と口篭る。

「わかったわ、待ってます」

小さく敬礼をすると、チェ・ヨンは黙ってしばらくウンスを見つめていた。
それから、つぶやくように、今一度隊長と呼んでください、前のように、と言った。

「待ってます、テジャン」

ウンスが微笑みながらそう言うと、チェ・ヨンは、ふ、と微かな笑いを浮かべ、
ウンスの唇を手の甲でなぞると、振り切るように、では、と言いながら剣を腰にさし、
部屋を出て行った。
大股の足音が、遠ざかっていく。

チェ・ヨンの仕草に息を飲んでいたウンスは、はあ、と息を吐いた。
それからごろんと転がって天井を仰いで、いたた、とまた頭を押さえる。
うっすらと吐き気もすることに気づいた。

「はあ、自業自得よ、ウンス」

ウンスはそう独り言を言って、ため息をついてから目をつぶった。





煎じた薬を飲んでしばらくすると、頭痛はほとんどなくなった。
やることがなくなって、自然と足は典医寺へと向かう。
高麗に連れてこられての一年近く、ウンスは多くの時間をここで過ごしたのだ。

門をくぐると、ウンスのことを聞かされていたのであろう、医員たちは不審がらず、
すい、と頭を下げて深くお辞お儀をする。
少しだけ笑みを浮かべてぺこりと挨拶をして、ウンスは遠慮がちに歩き出した。

診療のための寝台が並んだ部屋では、入口に背を向けて、
髪を胡風に結った若い典医らしき男が何かの道具を並べていた。
査閲のための部屋では、今もいくつもの容器が並んでいる。
白い衣で身体を覆った女官が、器の蓋を狭く開けては何かを注いでいる。
ウンスは自分でもわからぬ何かを探すように、一つずつ部屋を覗いていった。

懐かしいこの皇宮で、もっとも懐かしいとも思えるこの場所で、
知った顔は誰ひとりいない。

その事実が、ウンスに、最後に典医寺で見た光景を思い出させた。
手が冷たくなる。震えそうになる身体を抑えて、息を深く吸い、吐いた。
大丈夫、わたしは生きている。

最後に、ウンスは典医寺の奥にある、よく手入れされた薬草院に脚を踏み入れる。
中庭では摘み取った薬草や果実が乾かすために広げられている。

「あの」

ウンスは、連翹(レンギョウ)の花を干している、優しそうな目の年嵩の
藁茶の衣の医員に声をかける。

「トギさんは、いらっしゃいますか」

男は顔をあげて、ウンスに気づくと、医仙様でございますか、失礼いたしました
と深く頭を下げて立ち上がった。

「なんでございましょうか」
「あの、トギさんを探しているんです」

はあ、トギ殿ですか、と男が答えたので、ウンスはほっと息をつく。
けれど戻ってきた答えは期待したものとは違った。

「トギ殿は、二年ほど前になりますか、皇宮を下がられました。
ずいぶんとお引き止めがあったようなのですが…」

なぜ、と問いが口から出かけて、答えはわかっているような気がして、やめた。
どちらへ、と問いを変えると男は、よく存じ上げませんがご自分の薬草畑を
お持ちであると聞いておりました、そちらへ隠遁なさったのではないでしょうか、
と丁寧に答えた。

「ほかに御用があれば、お申し付けを」

男はウンスが黙ってしまうと、ゆったりとした口調でそう言った。
今度こそ本当に、やることがなくなってしまったウンスは、ふと思いついて男に頼んだ。



衛士や医員たちが居住まいを正す仕草に気づいて、ウンスは顔を上げた。
薬草院の門をくぐって、魯国公主とチェ尚宮、その後ろに武女子が二人付き従って
入ってくるところだった。

「王妃さま」

籠を足元に下ろして、急いでお辞儀をする。
それから顔を上げて、ウンスが親しげに小さく手を振ると、
王妃はなんとも嬉しそうに控えめな笑みを顔に浮かべた。

「何をしておいでですか」

ゆっくりと歩み寄ってウンスの前に立ち、籠に目をやると王妃は尋ねた。
ウンスは籠を持ち上げて、中に入った花を摘んで手に乗せる。

「薬になる花を摘んでいるんです」

これです、と支えの冊に絡んで咲いている花を指差す。
すいかずらと言って、熱を下げる薬になるんです、と説明する。

「それから煮出したものでうがいをすれば歯茎の腫れにもききますし、
お風呂に入れれば、美容にもばっちり」

これで入浴剤を作って売ろうかと思うんですよ、今度王妃様にもさしあげますね、
とウンスは摘んだ花の匂いを嗅ぎながら言った。

花がふたいろあるようだけれど、と王妃は気づいて不思議そうにウンスに尋ねた。
絡まり合って茂るつるに、薄い黄色と、乳白色の花がついている。

「一つの枝に、二つの色の花が咲くんです。だからすいかずらは、金銀花とも言うんです」

この一年、過去の世界で学んだ漢方の知識を、ウンスは少しばかり得意げに語る。
うなずきながら聞いていた王妃が、ふふ、と笑みをもらした。

「まるで今の高麗をあらわしたような花ですね」

と言うと? とウンスは、王妃に尋ねた。
王妃はその白く細い指で、黄色の花を指差して、それからおもむろに白い花を指差す。

「金はチョナ、そしてこちらの銀はチェ・ヨン」

一つの幹に二つの花が咲いて、成り立っております、と王妃は言って、
すいかずらをじっと見つめる。
それから目を上げて、ウンスと目を合わせた。

「明日、王と大護軍は平壌へとご出立なされます」

お戻りになったばかりで心苦しいのですが、こたびのことにはテホグンが必要なのです、
と王妃はウンスの目を見たまま続けた。
できるだけ早くお戻りになるとチョナも言っておられました、
と王妃はすまなそうに目を伏せる。

ウンスは明るい声で、この花はですね、と王妃に話しかける。
王妃は、ウンスの声の励ますような響きに顔を上げた。

「とてもよく働いてくれる、素晴らしい花なんですよ。
役に立ちます」

そう言いながらウンスは右手に黄色、左手に白の花をつまむと、
顔の前に掲げて、指先でその二つをくるくると回した。
ウンスのそのしぐさが可愛らしくて、王妃はようやく、ふうわりと笑った。



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by kkkaaat | 2013-10-31 20:44 | 金銀花【シンイ二次】
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二次小説。いまのところシンイとか。
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