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筆記



【シンイ二次】火、狩人1

※この話は、ドラマ「シンイ」の登場人物をお借りし、展開のアイデアは別ドラマ「屋根部屋の○リンス」からお借りしています。現代ものパラレルです。ドラマの続きではなく、ドラマの一話目のあたりから、ストーリーを変えて話が始まります。主人公はチェ・ヨンとウンスです。こんなはじまりですが、ラブコメの予定です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「テジャン!」

そう呼ばれて男は、足で踏みつけた身体から、
剣を引き抜きながら顔を上げた。
呼ばわった髭の男よりも、まだ若い。
だのに、テジャン(隊長)と呼ばれていて、
周りの揃いの鎧を身につけた数人の男達は、
その男のことを頼るように見つめている。

口元に髭を蓄えていないので、まだ三十にもなっていないのだろう。
肩ほどの髪を後ろで無造作にくくり、長い前髪を額帯で上げている。
テジャンと呼ばれるのが当然と、本人も思っているのが見て取れる。
よほどの手練だろう、引き抜いた剣をひとふりすると、
刃先には血曇り一つない。

「乙は、どうした」

低く暗い声で、その男は尋ねた。
声を張り上げたわけでもないのに、辺りはその声で、しん、とした。

「乙のうち七名、戻りません。丘下から、登ってくる人影が数十名」

ちっ、と男が舌打ちをして、
すぐそばの岩影に佇む二人の人影に目をやる。

小柄な男が一人、すらりとした女人が一人。
小柄な男は雨避けの被り物をきつく身体に巻きつけて、
ただ一人、テジャンと呼ばれた男をじっと見つめている。

「チルサルにやられたと――」

髭の男が続けると、テジャンと呼ばれた男は空を仰ぐ。
空に沸き上がった雲から、不思議な赤い雷光が、
何度も光っているというのに音がしない。

「なんなんだ」

天帝がお怒りか。ならばどちらにか、と空を睨む。
赤く染まった雲が渦を巻き、丘のさらに上へと集まっている。
男は辺りを見回した。
麒麟の鎧をつけた兵が八名、岩影の二人、侍従らしき文官が数名。
部が悪い、と言わざるを得ない。

「どっ、どうにかしろ! チョナをお守りするのだ!」

雨避けから、紫の派手な衣が覗く年嵩の文官が、上擦った声で繰り返す。
男は、その男を無視して、髪の長い身体のがっしりした男に近づいた。

「あの大木の方へチョ・イルシン殿をお連れして逃げろ」

チョ・イルシンと呼ばれた文臣がぎょっとしたように、男を見た。
そう言ってから、男はほんの一瞬間を置いた。
そうして、髪を長く下ろした男の耳元に顔を寄せる。

「お前は、このようなことで、命を落とすには惜しい男だ。
時間を稼いだあとは、死力を尽くして遁走しろ」

はい、と髪の長い男はその双眸に光をみなぎらせて、
強くうなずいた。
男は、チョ・イルシンにつかつかと歩み寄る。

「ウダルチ四名とともに、臣の方々はお逃げください」

囮にしようというのか、と震える声が抗うように言った。

「奴らの狙いは、お二方です。共にいれば巻き添えをくう」

男がそう言うと、急に文官たちは押し黙った。
チョナをお守りせねば、と誰かが弱々しく言うと、
男は、あなたがたがいても足でまといだ、と切り捨てる。

「こちらへ」

髪の長い男が、誘うと、文官たちは戸惑いを顔に残したまま、
チョナどうかご無事でと小声で言っておずおずと走り出す。
男は、岩影に走り寄る。

「こちらへ」

岩陰の男と女を、丘の上へと誘いながら残った三名の兵と登りだす。
あのものたちは、と小柄な男が尋ねると、男は事も無げに答える。

「囮としました。幾名かでもあちらを追ってくれればよいが」

小柄な男は、一瞬痛ましげに顔をしかめたが、すぐに前を向いて
必死に男についていく。女はひと言も口を聞かずに、ただ、
足早に丘を登った。
なぜだろう、男は鳥肌が立つような不思議な感覚をおぼえていた。
空気が何かを含んだように、ぴりぴりと肌を刺す。
この先に、この先に活路がある、何かがそう告げている。

「テジャンっ」

子どものような顔の、一人だけ別の革鎧を身につけた青年が、
樹上から飛び降りながら悲鳴のような声をあげた。
追っ手だ。
丘の下からわらわらと、数十名、いやそれ以上か。
舌打ちする余裕もなく、一行はひたすらに丘を登る。

山陰を回り込むと、大きな岩壁が見えた。
なぜだかわからぬが、そこへと皆が引き寄せられるように走った。
びゅうびゅうと向かい風が吹き、木の葉が舞い上がっているというのに、
足が止まらない。

「あれは…?」

初めて、女人が口を開いた。
細いが気丈そうな声が、戸惑いで震えている。
男以外の者の足が、一時止まった。

「天門が、開いている」

小柄な男が、驚きを秘めて、そう呟いた。
天門、と問い返したのは誰の声だったか。

「華陀が現れ、消えたという天穴なのか」

男の顔は驚き一つ表していなかったが、
それでも声に微かに畏怖が混じる。
仏像の足元に祠のように組まれた岩の庵の中が、
青白く光ながら渦巻いている。
あまりの驚きに、警戒が一瞬おろそかになった。

「テジャン!」

小柄な男が高い声で、叫ぶ。
丘の下からの追っ手とは違う、黒の装束に深く傘をかぶった
三十名近くの剣手が、岩壁の横から影のように走り出た。
テジャンと呼ばれた男は、一歩ずつにひと振りずつの剣花を散らし、
瞬く間に数人を斬り倒して、小柄の男のそばまで駆け寄ると、
腕を掴んで、髭の男の方へと放り投げるように押し出した。

それから、それよりも二歩ほど遠い女人が、男に手を伸ばした。
男はそれを掴まずに女人の背後の一人へと剣を突き刺し。

(あと、二人。)

もう一人の腕を切り落として、返す刀でその首元へと突き立てようと
して、間に合わぬ、と目を見開いた。
七殺(チルサル)の手の者らしき男が、
女人の首に刃を当てて引き斬るのと、
男の剣が殺者の首を貫くのが同時だった。

(この男が命汚ければ、間に合ったものを―)

男はきつく歯を食いしばる。
剣を引き戻しながら、倒れ込んでくる女人を腕に抱きとめ、
男はそのまま走り出した。

「天穴へ」

腕に抱えている女人の首傷から、鮮やかな赤が流れ落ちる。
滴るそれを、小柄な男は、走りながら凝視している。
小柄な男の目が、恐怖とは別の絶望で、黒々と曇った。
丘下から、さらに追っ手が加わるのが見える。

「入るのですか」

若い背の高い男が、また一人斬り捨てながら、叫んだ。
追っ手と天穴とを交互に見比べている。

「行くんだ」

テジャンと呼ばれた男は、確信を持って、そう命じた。
髭の男が小柄な男の腕を掴んだまま、迷いもなく走り込み、
姿が消えた。
続いて背の高い男が意を決したように飛びこむ。

革鎧の青年が、光の横で、髪を揺らしながら男を待っている。
男はちらと剣を構える青年に目をやってうなずくと、
腕に女人を抱いたまま、その中へと駆け込んだ。
青年は、男の姿が消えるのを確かめて、跳ねるように天穴へと身を投げる。

追っ手が岩壁を回って見たものは、そこに渦巻く青い竜巻のような渦と、
誰もいない草地の上を吹き抜けていく、寒々しい風の痕だけであった。



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by kkkaaat | 2014-01-21 19:41 | 火、狩人【シンイ二次】
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二次小説。いまのところシンイとか。
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