筆記



【シンイ二次】蜃楼 11(エピローグ)


「余計なことを言わないでいただきたい」

ウンスの肘のあたりをしっかりと握ってぐいぐいと引っ張り、
チェ・ヨンは無言のまま城門近くまで大股で歩き、
ひとの気配のないところまで来ると、腕を離し、
くるりと向き直ってそう言った。

「ちょっと、痛かったわよ」

そう下から睨みつけるようにチェ・ヨンの顔を斜めに見ながら、
ウンスは口を尖らせて、腕を大げさにさすってみせる。

「いつから」

言いかけて、先ほどのことを思い出して、チェ・ヨンは言葉に詰まり、
振り払うように頭を左右に振った。
気を取り直してなんとか言葉を続ける。

「いつからご覧に」

いつからかなあ、とウンスはチェ・ヨンから顔を背け、
目を空中に泳がせて、腕を組む。
わざとらしく、顎に指を当てたり、にやついて見せるのを、
からかわれているとわかって、チェ・ヨンは、ああもう、と悪態をつく。

「トクマン! いやもうちょっと前からかな。
ウダルチなくして俺の命もまたなかったろう、ってとこかな」

ウンスはチェ・ヨンの重々しい口調を真似して、ぶつぶつと続ける。
チュンソク、と万感の思いを込めて名を呼んだところを真似された
ところで、チェ・ヨンはしびれを切らして遮った。

「もう、よろしい!」

もういいです、黙ってください、わかりました、と早口でチェ・ヨンが
言うと、ウンスはチェ・ヨンを肘でつつきながら、
皆嬉しそうだったわよ、とにやついた声で言う。

「まったく、あなたと言う人は」

チェ・ヨンはそう高ぶった声で言うと、自分をなだめるように、
大きく一つ息を吐いた。

それからごしごしと、自分の顔に浮かんでしまったさまざまな表情を
洗い落とそうとでも言うように、両手で顔をこする。
しばらくじっと顔を覆っていたが、両肘のあたりに、
ウンスの手が触れるのを感じると、ようやくその手をゆっくりと外す。

目の前に、ウンスが自分を見上げるように、いた。

「おかえりなさい」

そう言われて、チェ・ヨンは言葉の意を計りかねて、一瞬途方にくれたように、
顔の前の手のひら越しにウンスをじっと見つめた。
チェ・ヨンの手が胸元までゆっくりと降りていく。
ウンスは自分の手をそっと持ち上げて、チェ・ヨンの頬に指先だけで触れた。
チェ・ヨンはその指先を見つめ、ふい、とウンスの顔に視線を戻す。
目を軽くつむるとうつむき、自らを笑うように首を振った。
下がり始めていた手をウンスの手に添えて、それから握る。

「ただいま、帰りました」

チェ・ヨンは、いつも家に戻り馬から降りると浮かべる微笑みを、
ゆっくりと口元に立ちのぼらせた。





※この後に、少しだけ、おまけがあります。
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by kkkaaat | 2014-04-24 14:24 | 蜃楼【シンイ二次】
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二次小説。いまのところシンイとか。
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