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筆記



2014年 09月 25日 ( 1 )


【シンイ二次】北斗七星5


「よいのか」

王の肩が緩やかに下りる。
はい、と短く答えたチェ・ヨンの声は、いつもと変わりない。

「引き受けてくれるのか」

思わず王が聞き返すと、チェ・ヨンは少しだけ目をそらし、
玉座の足元にどさりと腰を下ろした。
チェ・ヨンでなくては許されぬ行為だ。

「実を言えば、チョナ」

腰を下ろしてから、顔を上げて王を見上げながら、チェ・ヨンは
言い辛そうに口にする。

「もとより、お引き受けするつもりでした」

王の目が、二度三度と瞬きをする。
チェ・ヨンは手のひらで膝を落ち着かなげに、擦った後、
こぶしを軽く握りしめる。

「ウンスが」

チェ・ヨンがそう言ったのと、王が合点がいったように、ああ、
と声を出したのには、ほとんど差がなかった。
そう、ウンスです、とチェ・ヨンが苦笑すると、王もまた小さな笑みをこぼす。
チェ・ヨンはあらためて言い直す。

「ウンスは、嬉しい、と言いました。目を潤ませて、嬉しい、と」

わかりますかこうやって、とチェ・ヨンが口元の前で両手を合わせる
ウンスのよくやる仕草を大雑把に真似ると、王は微笑みながらうなずく。
はあ、とチェ・ヨンは明るく息を吐いた。

「俺はウンスに子を授けることがかないませんでした。
まだ望みが途絶えたわけではない、ウンスは申しておりましたが。
本人は、あまり口にはしませぬが、自分のせいだと思うておるようです。
毒で二度も瀕死の目にあっておりますゆえ」

身体にも障りが残っておるようだと、とチェ・ヨンが淡々と述べると、
そうか、と王は、静かに答えた。

「ですから、この話を聞いたときに、大それたことという恐ろしさは
もちろんこと、ウンスがもしや妬みの心で苦しむのではないか、
とそれが気がかりでした」

いらぬ心配だったわけですが、とチェ・ヨンが大きく一つ肩を揺らして、
笑ってみせると、王も口の端を上げてにやりと笑った。

「それが、嬉しいと。子を育てることができる、
崔家に子どもをもたらすことができる、と」

笑ってそう言って、とそこで言葉をと切らせて、
チェ・ヨンは王からわずかに顔を背けて口ごもった。
しばしの沈黙の後、チェ・ヨンがことさら明るい声で言う。

「あの方には、かないませぬ」

あの方か、王は懐かしい呼び方を耳にして口の中で繰り返した。
それから、と続けて、チェ・ヨンは真顔に戻る。
これは長い年月で初めてウンスの口から出た話なのですが、と前おいて言う。

「王妃様が攫われたときに、自分が開京を出ていなければと、
心に思い置いていたようです。その咎(とが)のつぐないにはならないだろうが、
せめてお役にたてるなら、という思いがあるようで」

そう言うとチェ・ヨンは、すっくと立ち上がり、
すっかりくつろいだ様子で座っている王の前に膝をつき、頭を下げる。
突然のことに、王は居住まいを正す暇もなかった。

「その思いは俺も同じ。于達赤隊長としてのつとめを果たせなかった」

そう言ったチェ・ヨンの声は、思いのほか激しく、
王はわずかに戸惑いを見せながら、座り直した。

「こたびのお役目、命にかけて務めさせていただきます。
大事な御子をお預かりするというのではない、ウンスと二人、
我が子として」

口が一度、固く結ばれる。
チェ・ヨンは真っ直ぐに王の目を見つめた。

「我が子として」

チェ・ヨンはいま一度、気圧す声で繰り返した。

「育て、お守りいたします」

王は、ごくゆっくりとうなずき、
口が声には出さずに、頼む、と形作った。
しばらくの間、王とチェ・ヨンは互いに見入り、動きを止めていた。

それから、これでやっと申し上げることができる、
とチェ・ヨンはまっすぐに王を見つめたまま、立ち上がった。

「チョナ――おめでとうございます」

目の前で、そう言うチェ・ヨンの目に浮かぶ、率直な喜びを受けて
王の口元に浮かんだ笑みは、心なしか寂しみをにじませているようにも思えた。



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by kkkaaat | 2014-09-25 19:17 | 北斗七星【シンイ二次】

二次小説。いまのところシンイとか。
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